語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】村上昭夫「鴉」

2015年05月27日 | 詩歌
 あの声は寂寥を食べて生きていたのだ
 誰でも一度は鴉だったことがあるのだ

 人が死ぬと鴉が一羽何処かで死ぬのだと
 隣の部屋の老人が言った
 あたかも七十年を生きてきた
 その秘奥を始めてうちあけるように

 鴉の食べる食物を何時か見た
 道に捨てられているけだものの腑を
 川を流れてゆく
 腑のような血のかたまりを

 だがそれ等のすべては
 人が己を他のいきもの達と区別する
 高い知性や進歩する科学と
 なんの変わりもないものなのだ

 鴉はそれを食べて生きてきたのだ
 誰でも一度は鴉だったことがあるのだ

□村上昭夫「鴉」(『動物哀歌』、1967【第18回H氏賞】)
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 【参考】
【詩歌】村上昭夫「荒野とポプラ」
【詩歌】村上昭夫「シリウスが見える」
【詩歌】村上昭夫「賢治の星」 ~ふたごの星~



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