語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】吉野弘を読む(4) ~耐え続けて、とつぜん、花ひらく~

2015年05月03日 | 詩歌
 事務は 少しの誤りも停滞もなく 塵もたまらず ひそかに進行しつづけた。

 三十年。

 永年勤続表彰式の席上。

 雇主の長々しい賛辞を受けていた 従業員の中の一人が 蒼白な顔で 突然叫んだ。

 --諸君
    魂のはなしをしましょう
    魂のはなしを!
    なんという長い間
    ぼくらは 魂のはなしをしなかったんだろう--

 同僚たちの困惑の足下に どっとばかり 彼は倒れた。
つめたい汗をふいて。
 
 発狂。
 花ひらく。

 --又しても 同じ夢。

 *

 <ここで描かれているものは、ごく平凡で律儀なサラリーマンであり、秘められていた人間的なもの、つまり魂のはなしに、疎外されていた自己のありかが単純にかたどられている。そのはなしを従業員として持ちだすことが同時に発狂のしるしであり、しかし、それこそが「花ひらく」生命の美しさであるというスリリングで強迫的な「同じ夢」は、吉野弘における外部の問題と内部の問題の相関を、実に端的に示している>【清岡卓行「吉野弘の詩」(『吉野弘詩集』(思潮社、1968)所収】

□吉野弘「burst 花ひらく」(『消息』(私家版、1957)所収)
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