語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【丸谷才一】あいさつは一仕事 ~ゴシップ風に~

2016年02月18日 | ●丸谷才一
(1)長いスピーチを止める法(その一)
 ある女流作家が長いスピーチをしていた。その人の前に出てきた永六輔いわく、
 「おばさん、長いよ」

(2)長いスピーチを止める法(その二)
 ある映画賞の授賞式。主演賞を獲得した俳優がとても長いスピーチをやった。下積み時代から脇役時代を経てやっと主役がきた、これも監督のおかげ、あの監督はこういう人で・・・・。
 話の途中で、森繁久弥が拍手した。まわりもつられて拍手。
 長い長いスピーチは打ち切られてしまった。

(3)会場の喧噪を鎮める法
 会場がワイワイガヤガヤと騒がしい。
 ここで永六輔が登場。
 「ただ今臨時ニュースが入りました。金さんと銀さんは本日正午・・・・」
 みなシーンとなった。永、ひと呼吸おいて続けた。
 「お二人とも元気で昼ご飯を召し上がったそうであります」
 一同、呵々大笑。それで静かになってしまった。
 
(4)引用はひとつ
 引用はひとつにしなさい。
 そう野坂昭如は強調した。婚礼のスピーチなんかに夏目漱石を引用し、教育勅語を引用し、ビートルズの唄まで引用していては、聞くほうは混乱する。
 スピーチの心得その四である。
 ところで、丸谷才一が出席している会で、丸谷の挨拶の本からの引用があった。誰のせりふだなんてことは眼中になかったらしい。
 丸谷のこのシリーズ(挨拶三部作)、挨拶の手本を示しているわけだから、「引用も盗用も一向にかまわない」。

(5)野菜
 三谷幸喜が喜劇人協会から喜劇人大賞を受賞したことがあった。
 挨拶に、ポケットからタマネギを取り出していわく、
 「人を泣かせる野菜はありますが、人を笑わせる野菜はまだ発明されていません」
 これはグルーチョ・マルクスのセリフの引用である。三谷は、ちゃんと、そう断っている。
 グルーチョ・マルクスは、笑わせるセリフを自分でもたくさん作った。たとえば、
 「私に会員資格を与えるクラブには入りたくない」

(6)褒める
 挨拶は、とにかく人を喜ばせるという気持ちで準備すること。
 主賓をちょっとからかう、悪口を一つ入れるなら、十か二十くらい褒める。この場合、褒めるのは一つや二つでは足りない。
 「欠点は・・・・」
 と言いかけて、「多すぎるから止めましょう」で締めくくるのも一つの手。

(7)挨拶も文学
 丸谷才一が菊池寛賞を受賞した理由は次のとおり。
 「小説、批評から挨拶までの広い領域における活動」
 挨拶も文学的業績なのである。
 「そんな文学者は、日本文学史はじまって以来でせう。紫式部も、芭蕉も、夏目漱石も、この種の光栄は持つてゐなかつた。さういふ者が今川聖英さんと高木篤子さんとの結婚式において一言述べる。よほど出来のいい挨拶をしなくちやならないでせう」

□丸谷才一『あいさつは一仕事』(朝日新聞出版、2010)
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