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自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

「福島大学原発災害支援フォーラム」について

2011年05月09日 | 健康医療サービスイノベーション

学校教育法第83条によると、大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的としている。原発事故とそれにともなう放射性物質の環境への拡散は、社会科学、自然科学、人文のあらゆる領域に新たな研究領域を提供しつつある。

事故現場の福島第一原発に最も近い福島大学は、その意味でこの新しい事象に接近するための「最先端」にいる。この状況下では、福島大学にこそ、あらゆるバイアス、誘導、操作から距離を置く「学の独立」が求められることになる。

「学の独立」を担保する主体は多様だ。教育・研究サービスのユーザである学生を筆頭に、国立大学法人の経営主体、各大学院、学部、付属教育・研究機関、学生組織、各教員、地域住民など大学の学の独立を担保するステークホルダーは多様だ。

原発事故と放射線物質拡散被害のただ中において、「学の独立」が不十分であるという状況を懸念する教員を中心とするステークホルダが、福島大学原発災害支援フォーラムを立ち上げた。


<以下貼り付け>

 

提言 「福島大学および県は、低線量被曝リスクについて慎重な立場を

(2011.4.27)

  


【はじめに】

福島第一原子力発電所の爆発事故により、大量の放射性物質が環境中にまき散らされました。私は、実際に「被曝」をしている当事者として、この身に降りかかるリスクについてできるだけ冷静に論じたいと思います。



【低線量被曝リスクについての既存見解】

ここで問題とするのは、積算で100mSv以下のいわゆる「低線量被曝」です。たとえば福島市では、事故から一ヶ月間の積算放射線量はおよそ3.5mSvであり、4月27日現在でも毎時1.5μSvを超えているので、人によっては今後一年間で10mSv程度の被曝量に達するケースもあるかもしれません。もちろんこれは外部被曝だけの値であり、内部被曝については別途考慮する必要があります。


現在のところ、低線量被曝の健康被害(たとえば晩発性のガン)についての見解は、世界的にみても一致しているわけではありません。大きくわけると、以下のような3つの立場が存在しています。なお、【 】内はそれを支持する主な機関です。 

ある量以下の被曝はまったく無害とする立場

【フランス医学・科学アカデミー】


被曝量が下がればリスクは減るものの、どんな低線量でもリスクはゼロではないとする立場

【アメリカ科学アカデミー, 原子放射線の影響に関する国連科学委員会, 国際放射線防護委員会(ICRP)】


低線量だからといって、必ずしもリスクは小さくならないとする立場

【欧州放射線リスク委員会(ECRR)】



これ以外にも、低線量被曝はむしろ人体に有益であることを強調する立場がありますが、これは①に含めて話を進めます。 

①から③のうち、どの立場が正しいのかはわかりません。ただ、控えめにいっても、②の立場が少数派ということはありません。このように未だ不十分な科学的知見のなか、少なくともいえるのは、②や③の立場があることを無視して①の立場のみを強調する態度は科学的ではない、ということです。


そもそも、なぜこのようにいろいろな立場が存在しているのでしょうか。その理由のひとつは、これまでの実証研究では100mSv以下の被曝が健康被害をもたらすという有意な結果が得られていない、ということにあると思われます。


その真偽のほどはわかりませんが、仮にそうだとしましょう。では、我々被曝者は、今後の実証的研究結果を待たなくてはならないのでしょうか? 低線量被曝と健康被害の因果関係が実証されるまで暫定的に安全とみなすのであれば、それは、犠牲者が出るまでは放っておくということを意味します。我々は誰しも、「サンプル」にされない権利を有しているはずです。


したがって、低線量被曝のリスクはゼロでないとの前提に立っておくことが、現時点では望ましい態度であると思われます。



【福島県および福島大学へのお願い】

福島県では、放射線被曝に対する県民の不安を取り除くため、県外の複数の専門家を、放射線健康リスク管理アドバイザーとして招聘しました。これらのアドバイザーは、低線量被曝の健康被害については無視できるという考えを持っており、実質的には先述の①の立場に相当すると思われます。


福島大学においても、公式ホームページの学長メッセージを読みますと、福島大学構内の放射線レベルであれば安全であると断言しております。また、県の放射線健康リスク管理アドバイザーを招いた講演会などを通じ、構内がいかに安全であるかを印象づけることに力を注いでいます。


しかし、低線量被曝リスクについては、先述したような②や③の立場が少なからず存在しているので、こういった「情報操作」は公正ではありません。したがって、次のことを要求します。


★県は、②ならびに③の立場の専門家もあわせてアドバイザーとして招聘すべきである。

  

★県および福島大学は、②や③の観点から低線量被曝のリスクが必ずしもゼロであると断言できないことを認識し、低線量被曝を防ぐための具体策(マスクや線量計の配布など)を講じるべきである。



【不確実性の評価】

低線量被曝のリスクがゼロでないとすれば、それはどれくらいと見積もられるのか。国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に従えばガンで死ぬリスクは1Svあたり0.05程度ですが、これが真実か否かは誰にも分かりません。実際の数値はもっと小さいかもしれませんが、逆にもっと大きいかもしれません。欧州放射線リスク委員会(ECRR)は、ICRPは内部被曝の影響を過小評価していると批判しています。


また、仮に0.05というリスク(たとえば10mSvの被曝なら1万人あたり5人がガンで亡くなる)が正しい値であるとしても、そのリスクの大きさを軽く受け止めるか深刻に受け止めるかを判断するのは、被曝する当事者です。


当事者に対して「そんな小さな確率は無視してよい」と簡単に片付ける態度は、もはや論外です。 


【最後に】

人々を不安にさせるような情報を与えないことは、短期的な利益をもたらすかもしれません。

しかしながら、そのことは、ずっと後になってから取り返しのつかない損失をもたらすかもしれません。


人を守り、人を作るのは五十年の計です。


目先の利益に拘らず、先々を見据えて人を守るのが行政の役割であり、先々を見据えて人を作るのが大学の役割であると信じています。

  

(文責:石田 葉月)


<以上貼り付け>


①の立場のみを強調する立場の代表は、3月20日より福島県知事の要請で、放射線健康リスク管理アドバイザーとして現地の被ばく医療に従事している山下俊一氏だろう。氏の主張は長崎大山下俊一教授語録に詳しい。

原発事故にともない拡散されている放射性物質による健康被害などを巡るリスク言説は、政・産・学・行・報複合体サイドに属する、属さないの立場の相違により全く異なる。この言説の相違は根が深い構造から生じているので、一気に収斂させることはできないだろう。

そのような状況下で、敢えて「人々を不安にさせるような情報を与えないことは、短期的な利益をもたらすかもしれません。しかしながら、そのことは、ずっと後になってから取り返しのつかない損失をもたらすかもしれません」として声をあげた福島大学原発災害支援フォーラムは意義深いものだと思う。

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