よしなごと徒然草: まつしたヒロのブログ 

自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

SugarCRMプラットフォーム上で生み出される楽市楽座的サービス・イノベーション

2006年12月25日 | オープンソース物語
ときとして面白い出来事は、またべつの面白い出来事に繋がってゆくものだ。最近の出来事でいうと、それは、日本スケーリックスと技術提携をしたという話だ。Scalixは,Ajaxを活用しMicrosoft Outlookライクなユーザー・インタフェースを実現したWebメール・ソフト。ドラッグ&ドロップでメールをフォルダに移動させたり,マウス操作でスケジュールを設定したりできる。SugarCRMというプラットフォームにうまく乗れば、Scalixは、ヒューマンレイヤに対して面白いサービスを実現してくれるだろう。

形式的なプレスリリースはさておき、ここではもうちょっと今回のイシューの構造的な背景について考えてみたい。

業務アプリ領域のオープンソース化運動の特徴のひとつがコマーシャル・オープンソースによるデュアル(セパレート)・ライセンスの動向である。デュアル(セパレート)・ライセンスはSugarCRMが嚆矢であり、その後、続々と業務アプリ領域ではコマーシャル・オープンソース・モデルを採用するベンダが参入してきている。Scalixと提携している日本スケーリックスもそのひとつである。

2003年くらいまでは基盤、言語、ミドルウェアという階層がオープンソース化の波に洗われてきたが、それ以降は業務アプリ領域がコマーシャル・オープンソース化してきている。そして、汎用性が強く強大なコミュニティの支持を受ける業務アプリは文字通り、プラットフォームを志向することになる。

無償で提供されるコミュニティ・エディション、有償で提供されるコマーシャル・エディションともに目的合理的なSOAに準じてプラットフォーム化すれば、その場の上にさまざまなテクノロジーが乗り、多様なサービスが生み出されることになる。これはサービス・オリエンテッドなアーキテクチャを志向するプラットフォームの必然だ。

問題は、多様なサービスの生み出しかただ。このあたりのテーマは、コマーシャル・オープンソースにおけるMOT(Management of Technology)という視点から鳥瞰すると面白い。新しいテクノロジーを活用するサービスがコミュニティ内で独自に創られることもあれば、コミュニティ外のリソースとの組み合わせによって創造されることもある。Scalixとの技術提携は後者よりだ。「後者より」という微妙な表現を使ったのにはワケがある。実は、英語(もはや世界に近似)コミュニティでは、SugarとScalixのコミュニティ・エディション同士の連携がホットトピックになって久しく、その活発な動きが、有償版(コマーシャル・エディション)に転移・循環したという側面があるからだ。このようにコマーシャル・オープンソースにおいては、コミュニティがMOTの起点でさえある。

これらのサービスが生み出されるのは、コミュニティ・エディションとコマーシャル・エディションが入れ子構造のように連携・循環した同時多発的なチェーンリンクドな開発モデルからだ。いずれにせよ、ソフトウェアというプロダクト・イノベーションとソフトウェアが実現するサービス・イノベーションが行き交うオープンな「場」づくりは、おもしろいモノ(What)コト(How)づくりである。さしずめ、SuagrCRMはおもしろいモノゴトが行き交うプラットフォーム楽市楽座みたいなものだ。

今回の提携は、このような視点に立って見てみると、コマーシャル・オープンソースのひとつの必然であると言ってよいだろう。


第2回MOT協議会シンポジウム

2006年12月18日 | 技術経営MOT
ケアブレインズが企画運営事務局を担当する『MOT人材がもたらすイノベーション~第二回MOTシンポジウム~』が大手町の日経ホールにて開催された。かねてからイノベーションはケアブレインズのビジネスにとっても重要戦略であるが、こうして産学連携スキームの中でイノベーションの教育、研究にあたる専門職大学院のサポートも間接的なイノベーションとの関わり方だ。

プログラムの概要は以下の通り。(敬称略)

■基調講演 『本格研究と技術経営』
独立行政法人 産業技術総合研究所理事長 吉川弘之 

■パネルデイスカッション
○モデレーター
古川 勇二 MOT協議会会長 東京農工大学 大学院技術経営研究科長
○パネラー
日産自動車株式会社 副会長 伊佐山建志
三菱電機株式会社 常務執行役 開発本部長 久間 和生
東成エレクトロビーム株式会社 代表取締役社長 上野 保
日本経済新聞社 編集委員 中村 雅美
など。

さすがに日本の産業の行く末を論じる重量級のテーマでもあり、議論は昨年に比べ盛り上がった。講演する側ではなく、また受講する側でもなく、企画・運営・プロモートする立場からからのコメントを多少。

シンポジウムの成果とはいったいなにか?シンポという場で設定され、議論され、問題解決の方向が示され得る知的コンテンツの品位の高さと、コンテキスト=文脈の切実さ、知的せめぎあいから生まれる洞察の幅とを掛け合わせて生じる積によって決まる。この積が、経験価値として参加者の問題解決行動そしてアウトプットに接続されることが成果となるだろう。その意味でシンポジウムの成果とは参加者が生み出す成果に依存する。




順天堂大学のふたつの病院と問題公的病院をめぐる参与的実地体験

2006年12月17日 | 講演放浪記
御茶ノ水にある順天堂大学付属順天堂医院に講演に呼ばれ5時間ほど雑談のような講演をさせてもらった。表向きはバランススコア・カードがテーマだが、本題以外のなんでもお話になってOKという主催者の言葉に甘えさせていただいた。

昨年、僕の母親が伊豆長岡にある順天堂大学付属静岡病院で大変お世話になり、まさに命拾いをさせていただいただけに、因縁めいたものを感じるしだい。因縁めいた雑談とは、こんな話だ。

昨年夏、母は心筋梗塞のため伊東市民病院に救急車で搬送されて入院した。しかし、僕は3回目の訪問時に、この公的病院で提供された医療サービスの中身に関して甚大な疑問を持ったのでカルテ、看護記録の全文コピーを、個人情報保護法に立脚して請求したのである。その疑問ないしは仮説とは、「主治医がしかるべき検査結果について、医師として適切な判断を下すことを怠った可能性が強い」というものだった。この仮説を検証するためには、カルテと看護記録の閲覧が必要だったのだ。

よって、カルテと看護記録を査読するために、昨年春に医療界で施行されたばかりの「個人情報保護法」に準拠して、伊東市民病院に対してカルテと看護記録の全文コピーと閲覧を請求したのである。

伊東市民病院の医事課長は、僕に対して個人情報保護法にもとずくカルテ、看護記録の開示には患者本人のサインと捺印が必要なので、それらを提出してくれと言ってきた。バカを言うな!意識不明の患者が、サインしてはんこを押せるのか?患者家族の代理を証明するものとして運転免許証を確認するということで、しぶしぶOKがでた。

伊東市民病院の事務長は僕にコピー代、1枚10円を支払ってくれと言ってきた。この病院が作成した個人情報保護遵守に関するガイドラインを説明する文書には「コピー代を請求させていただきます」なんてどこにもかかれていない。よって、却下。コピー代は当然病院側のコスト負担となった。

実はカルテを査読する前の時点で、僕は状況証拠のみで、検査結果を主治医はキチンと読み取ることができずに、重大な判断ミスがあったことを突き止めていた。そのドクターもしぶしぶながらそれを暗黙的に認めた。しかし状況証拠とそれにもとずく会話だけでは客観的なエビデンスにはならない。明示的なハードな証拠としてのカルテと看護記録が必要だったのだ。

また、患者の家族である僕に心筋梗塞に関するいくばくかのクリティカルパスの知識があったので、応戦できたのだ。なにも言わなければ、そしてなにも知らなければ、まず間違いなく100%、ウヤムヤにされていたことだろう。そして、この具体的なケースをベースに、当然の類推として、伊東市民病院では医療過誤として立証できたであろう数多くのケースを、不適切な対応と情報操作でなかったことにしてきたであろうという印象を持ったことも、敢えてここに付記しておかなければならないだろう。

ともあれ、そんな無責任主治医、ダメ病院に母をまかせることは断じてできない。このような経緯で、意識不明に陥っている母を、つてをたどって、順天堂静岡病院からドクターヘリコプターをチャーターしていただき、順天堂静岡病院のCCUに運び込んだのだ。

そして順天堂静岡病院で母は、無意識の状態が経過した約2週間後、山本平医師執刀のもと心臓外科バイパス術を受けた。順天堂静岡病院では、患者の心臓の状態を動的に映した映像をCD-Rに入れて渡してくれた。山本平医師は母のように糖尿病を併発している患者に心臓外科バイパス術を施す場合のリスクを、過去学会で発表された論文を引用して詳しく説明してくれた。インフォームド・コンセントは丁寧、かつ徹底していた。

その後母は何回かクリティカルな状態を克服しながらも回復して退院した。看護部の土屋看護部長以下、看護スタッフによるケアリングも安心、安楽を提供するものであり、看護の立場からのインフォームド・コンセントも確実なものであった。

母親に対して5時間にも及ぶ心臓外科バイパス術を実施していただいた山本平医師は、長岡に赴任する前には御茶ノ水の本院にいて、何人かの師長さんや主任さんが、山本医師のことを問わず語りに語ってくれた。懐かしさ、感謝の気持ちで一杯だ。

昨年夏、静岡県内のこれら2つの医療機関において患者の家族という視点ならびに医療サービスの消費者という赤裸々な参与的な実地体験から学んだもの、得た教訓は大きなものではあった。それやこれやで、患者の家族の立場に身を置くことによって切実にわかった視点を切り口に延々5時間、上記の経緯を含めお話した次第。