よしなごと徒然草: まつしたヒロのブログ 

自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

サービス・イノベーションの経営学・11

2010年10月29日 | 技術経営MOT


連載11ヶ月目は「サービス・イノベータの時代」です。

看護管理 2010年11月号 (通常号) ( Vol.20 No.12) p1088-1094

健康・医療サービスのイノベーションは、いろいろな階層で創発しますが、キモのひとつのプラットフォーム層のイノベーション創発について3つの事例を交えて論考しています。

後半は、健康・医療サービスにおける、アントレプレナー(起業家)、イントレプレナー(組織内起業家)、トランスプレナー(橋渡し的変革者)の役割などについてです。

11回目の原稿が雑誌の紙面になる頃は、12月分の原稿の〆切と重なっています。さきほど、12月の原稿を書き終えました。


倉敷中央病院の医療サービス・イノベーション

2010年10月26日 | 技術経営MOT
コンサルティングと招待講演で倉敷中央病院を訪問しました。

いつものようにIvy Squareに泊まりました。



9月7日に竣工した新3棟はこのところ医療界でも話題になっており、コンサルティングの仕事のあとで黒瀬正子看護部長のご案内で、好奇心の塊!となって見学させていただきました。

奥の院まで踏み込むことを特別に許可され、ICU看護師長、ドクターの方々などといろいろディスカッションしながら拝見しました。

急性期医療に特化した病棟が竣工することは稀なことです。医療機関は、その時点での最新鋭の医療機器や設備をアレンジするので、竣工したばかりのタワーには加工物レベルのイノベーションが凝縮されるのです。

目につきやすいのは、加工物のイノベーションですが、実は本質的に重要なのは、医療機器、ハードウェアなどの加工物層のイノベーションの背後にある医療サービス・コンセプトです。



さて株式会社などによって製造、販売されるデバイスやドラッグは、上手のようなイノベーション・パイプラインを通過してやっと上市にこぎつけます。

ユーザーとしての病院は最も右に位置して、医療機器や薬品を医療サービスの中で用いることによってイノベーションを普及させる役割を持っています。イノベーションを普及させることによって、デバイスやドラッグメーカーは投資を回収することになります。

デバイスメーカーは、イノベーション普及という目的を合理的に達成するために、イノベーション・パイプラインの右側で、値引き、診療協力、仕様調整などのインセンティブを病院に与えます。ただし、高額なデバイスの導入決定に関与する病院側のステークホルダーはおおまかに言うと、①医師・コメディカル系技師、②経営者の2種類居るので、複雑な営業攻勢が問われます。

①医師は、臨床効果、患者満足効果を計算して合理的にデバイスを選定しようとする。

②病院経営者は、診療報酬を含めROI効果を計算し、最も合理的なデバイスを選択しようとする。

倉敷中央病院には「経営」が存在します。常務理事病院長(医師)の上に理事長(経営担当)、副理事長(経営担当)が位置づけられているので、シビアなROI計算のふるいにかけて選択されています。

急性期医療のコアの部分である手術室、集中治療室、放射線検査部門、臓器別病棟などが集中化されているのが倉敷中央病院の新3棟です。



手術センターは、10室新設で既存部も含めて23室に拡張されました。増築工事完了後は、全32室です。

CDC・AIAおよびHEASガイドラインに沿った根拠に基づく合理性の高い設計がなされています。スペース広く使えるよう、壁面の器材棚をなくし、天井懸垂装置を設置して、壁面からの配線・配管を最小限にしています。

木目調の内装と窓の設置により、医療スタッフの疲労の軽減を考慮しています。



集中医療センター(4階)はICU が12、NCU が14 で、設備水準は国内有数のレベルです。



5階から13 階は病棟で、各階42 床~ 46 床、計404 床あります。5 階から12 階には第2 種感染症対応の病室を各2 室、13 階はさらに重度の感染症に対応する病室を2 室設けています。

チーム医療の機能コンセプトを全面に展開した構造設計には目を見はります。



その具体例として、内科系・外科系の医師ならびに多職種の医療スタッフがコラボしてチーム医療を強力に押し進める「臓器別センター」を導入しています。

従来のように専門によるタテ割りでなく、臓器系から生じるあらゆるキュアニーズをベースにして、すべての臨床に要請される医療リソースをアロケートするという思想が徹底しています。すなわち、医療組織階層の医療チームを「臓器別センター」として再デザインしているのです。

脳・神経センター、呼吸器センターのほか、整形外科、泌尿器科・形成外科・皮膚科の病棟となります。



一泊2万円の個室です。高級ホテルのようなアメニティです。

キュアは臓器別センター化がキーコンセプトですが、ケアは、ホリスティックな全体性や癒し(上田紀行先生の言葉)を重視しています。

看護部から積極的にリクエストを出し、患者さん、家族がくつろげるように障子、和室スペースなどを取り入れました。

ひとつのタワーに、かくも慄然とキュアとケアの機能を支えるハードウェアが顕現している姿に正直、感動します。



ベッドには、ベッドメークしたエイド(看護師ではありません)の名前が手書きされた綺麗なカードがちょこんと乗っています。

ベッドサイドのすぐ近くに広々としたトイレが配置されています。

通常は頭の位置の上のほうのパネルにはボタンや配線などがゴチャゴチャしていますが、大変スッキリしているのが印象的です。



バスタブは、患者さんの動きに配慮してストレスなく入浴できるデザインを凝らしています。

医療機関としてのキュア、ケアのニーズに適確に対応する点でも各所にデザインの精華が凝縮されていますが、病室においては、これらに加えて和風の「おもてなし」のサービスさえも意識している点は、特筆に値すると思います。和風旅館の加賀屋のサービスをベンチマークしたそうです。

非常に高度、かつ洗練れたサービス・イノベーションを意図しています。



一階のカフェスペース。ドトール・コーヒーと協業して倉敷中央病院用の特別ブランドを仕立てて運営してます。ここで事務長の富田秀男さんとしばし歓談。コーヒーをご馳走になりました。  

倉敷中央病院の創設者の大原孫三郎氏は、90年前に、当院を創設するに当たって

  1.設計はすべて治療本位とすること
  2.病院くさくない明朗な病院を作ること
  3.東洋一の立派な病院を作ること 
 
という、三つの根本方針を周知徹底したそうです。

2010年の新タワーにもこれらの精神が脈々と継承されていると思いました。

僕自身が、長年指導させていただいている倉敷中央病院の医療サービス・イノベーションの一部であることがうれしくもあり、また、身が引き締まる思いもします。

安藤誠~釧路湿原のネイチャー起業家~自然の美、そして生き方

2010年10月18日 | ビジネス&社会起業

<安藤誠さん>

友人を招いて寺子屋セミナーを開きます。自然と人間へのケアリング、技術、健康、そして起業。安藤誠さんは、釧路湿原の美しさに魅せられ、釧路湿原の鶴居村で自然とのサステイナブルな関係を維持しつつウィルダネスロッジ・ヒッコリーウィンドを起業しました。

そして現在、とても幅広い素敵な活動をなさっています。クマのプーさん的な風貌で癒しの空気に満ちた人です笑)

大自然のなかの起業は、とてつもない苦労の連続でしたが、ネイチャー起業は健康でなければ成し得ません。そして多くの人々との共感、共鳴をえながら、現在、安藤さんは、「人と自然への役割」を問い続け、映像、音楽、美術、ネイチャー・ガイドとして人と人、そして人と自然の橋渡しの役割をも果たしています。

まさに、ライフスタイル・ベンチャーリングをネーチャーという大舞台で実現している方です。

■講演タイトル:
「安藤誠~釧路湿原のネイチャー起業家~自然の美、そして生き方」

■日時・場所:
2010年11月8日(月)18:00~20:00
於:田町キャンパス・イノベーション・センター

■参加費 無料(懇親会は会費制です。たぶん3000円くらいです)

セミナー詳細と参加申し込みは コチラからお願いします。

『創造するリーダーシップとチーム医療~医療イノベーションの創発~』

2010年10月13日 | No Book, No Life


新刊本を上梓しました。

(社)日本医療経営実践協会(日本医療企画)の依頼で書き下ろした総説的な教科書です。

チーム医療によるイノベーション創発がこの本の中心テーマです。人的資源開発、組織行動マネジメント、リーダーシップ、アントレプレナーシップ、医療社会起業といったテーマを渉猟しています。副題の「医療イノベーションの創発」がこの本の補助線です。

なんとか秋の出版に間にあってホッとしています。。

本書の目次、内容はコチラです。

<以下貼りつけ>

第1章 チーム医療によるイノベーション
 1.日本歴史始まって以来の大変化~大量死時代の到来
 2.慢性疾患の増加
 3.キュアからケアへのシフト~大量死時代の看取り場所
 4.医療サービスの変化トレンド~キュア・ケアの場の大変化
 5.チーム医療化の動向
 6.チームとは何か~チーム医療の定義
 7.チーム医療の今後~内に対する凝縮性と外に対する拡張・拡大性
 8.専門職によるチーム組成~日本的チームの特性
 9.チームの発展
 10.インフォームド・コンセント
 11.チーム医療のマネジメント方法

第2章 未来を創造する力=リーダーシップ
 1.実践力とは何か
 2.リーダーシップとは
 3.リーダーシップとコミュニケーション
 4.リーダーシップ研究の百家争鳴
 5.リーダーシップ発揮の手法~コーチング、内発的動議づけ、エンパワーメント
 6.マネジメントとリーダーシップ
 7.情動的知性と社会的知性
 8.フロー体験のマネジメント
 9.シンクロニシティ創発のリーダーシップ

第3章 イノベーションとリーダーシップ
 1.イノベーションとは
 2.イノベーションのさまざまな理論・モデル
 3.社会イノベーションとは何か
 4.社会イノベーションの普及とスケールアウト
 5.社会事業のモデル
 6.サービスの特性
 7.社会イノベーションとサービスの共創性
 8.医療サービスのイノベーション創発場
 9.イノベーション・パイプライン

第4章 アントレプレナーシップと医療社会起業家
 1.医療・保健・福祉分野におけるアントレプレナーシップとイノベーション
 2.社会起業家とは
 3.医療社会起業家とは
 4.医療社会起業家の特性

<以上貼りつけ>

サービス・イノベーションの経営学・10

2010年10月05日 | 技術経営MOT


連載10ヶ月目は「共生サービス=人と人とが支え合う絆と健康基盤」です。

看護管理 2010年10月号 (通常号) ( Vol.20 No.11) pp1004-1009

一部抜粋してコピペしておきます。

<以下貼りつけ>

企業共同体からなんらかの理由ではじき出された人々の率、つまり完全失業率と自殺率との間には強い相関関係があります(相関係数=0.90)。人事制度、雇用関係の変遷、失業率と自殺率の変化を過去に遡って現在まで見渡してみると、日本の企業社会の共同体性は、着実に希薄化、衰微していることが分かります。

家庭についても一瞥します。小さな共同体の代表である家庭を持つことを選好しない非婚率の上昇、離婚率の上昇は、社会における家族や家庭のありかたが微弱なものになりつつあることを示唆します。家庭の中では、貨幣の支払いを伴わない無償のサービスが中心です。たとえば、家事にいそしむ主婦の仕事には通常、対価としての貨幣は支払われませんが、家事がなければ家庭は存続しえません。

また、ちょっとした「風邪」などでは、家族がいたわり合って暖かい食事を作ってゆっくり休ませるのが、ごくあたり前の家庭でのごくあたり前の風景です。贈与、互恵の精神的紐帯で結ばれる家庭の底力が低下していることと、無縁死、自殺などの現象は無関係ではありえません。

支え合う絆の再構築

上記の動きと連動して、新自由主義的な政策は、小さな政府の推進、公営事業の民営化、規制緩和、競争促進、労働者保護とともに、医療・保健・介護・福祉などの公的サービスを縮小してきました。かつては実体経済にとって潤滑油のような働きをしていたマネー経済が肥大し、グローバル化したマネー経済の市場で、あらゆる商機をうかがって利益を簒奪し、果てしない肥大化の末に政府は不良資産を処理するために巨額のマネーをマネー経済に投入しています。

医療・保健・介護・福祉などの公的サービスの拡大を抑制し、挙句の果てには公的サービスに投入すべき税金や国債で調達したお金までをもマネー経済に投入しています。グローバル金融経済が産み落としたデリバティブをはじめとして私的な金融サービスの暴走により、金融経済、実物経済ともに打撃を受け、さらには政府が税金を配分して行うべき公的サービスの機能不全をもたらしています。

そして昨今の日本には、贈与・互恵に裏打ちされた共同体の生活者同志が精神的な紐帯を保持しながら、支え合う「共」的サービスまでもが、着実に弱くなっているという構図が存在します。「共」的サービスが隅々まで行き渡り、瑞々しい信頼関係が溢れ、たがいにケアし合う社会が維持されているとしたら、自殺や無縁死の問題はここまで大きくはなっていないはずです。

このような状況で、①金融グローバリズムとそれと一体化した政府の暴走、②金融グローバリズム市場での「私」と政府の「公」のせめぎ合い、という二つの動きが立ち現れ、やがては大きな「公」と「私」が「共」を巻き込んで、文字通り共倒れとなるリスク(大恐慌のリスク)が増しつつあります。もし、「公」と「私」がとも倒れになれば、「共」も壊滅的な打撃を被り、贈与・互恵を中心にした「共」的サービスの薄弱化がさらに進むことになります。

市場経済が競争原理をもとに実物経済、マネー経済、そしてそのできもののようなデリバティブといった方向で膨張・拡大してゆくにつけ、どうやら瑞々しい共同体のはたらきを縮小・疎外させてきたようです。

ケインズ的な政策に重きを置く福祉国家では、財政が家庭や共同体の相互扶助や共同体の縮小に応じて市場経済の外側で所得再配分をしていた と説明されますが、もはやマネー経済の暴走の火消しに追われ、返すことができない国債を増発する政府には、まっとうに所得を再配分するだけの力は残ってはいません。

企業、地域、ご近所、家庭などの共同体の「共」の場を元気にし、「共」の場でともに生きてゆくことを共生と言うのならば、新しい時代の課題は、いかに健康基盤たる社会的絆を再構築、涵養する共生サービスを育んでゆくのかということになります。

<以上貼りつけ>

『もし、「公」と「私」がとも倒れになれば、「共」も壊滅的な打撃を被り、贈与・互恵を中心にした「共」的サービスの薄弱化がさらに進むことになります』と書きました。しかし、恐慌による「公」と「私」の共倒れは、短期的には「共」にダメージを与えるでしょうか、やがては、贈与・互恵の場としてのご近所、地域コミュニティ、家庭を始めとする、様々は共的な場が再活性化する契機となるでしょう。

その意味では、恐慌は、共生サービスを復活させる契機なのかもしれません。