母校のコーネル大学が推進している
Entrepreneurship@Cornellからイベント案内が届く。今度のセメスターから、起業家養成・輩出を全学部、全大学院、すべてのプロフェッショナル・スクールを横断的に組織するプログラムに改組したということ。
知り合いから、Entrepreneurship@Cornellが拡大される予定との話は聞いていたが、Grad Schoolのみならず、全学部までこのプログラムを拡げるというのは並大抵のことではない。
起業家精神は、たしかに米国の知的コミュニティ、知識階層においてリスペクトされる価値観ではある。しかし一方で、ギリシア・ローマの古より連綿と継承される古典的教養主義を尊重する勢力からは、アントレプレナーシップの全学展開には反対の声が上がったそうだ。議論、ディベートを積み重ね、今回の全学展開となったという。
このプログラムに関与する教授陣は、なるほど全学部に及んでいる。
College of Agriculture and Life Sciences
College of Architecture, Art, and Planning
College of Arts and Sciences
College of Engineering
School of Hotel Administration
College of Human Ecology
School of Industrial and Labor Relations
Graduate School
Cornell Law School
Johnson Graduate School of Management
Weill Cornell Medical College (New York City)
Weill Cornell Medical College (Doha, Qatar)
Weill Cornell Graduate School of Medical Sciences (New York City)
College of Veterinary Medicine
これらの領域で、学生が在学中、卒後を問わず企業の内外で起業する。保健福祉、地域開発、教育などのソーシアル分野で企業する。いわゆる株式会社起業でも、NPO/NGOの社会的起業でも、起業することがイノベーションの創出に直結する。経験産業としての大学のひとつのパフォーマンスは卒業する学生のイノベーション創出の程度で計測されるので、大学としてもディシプリンを問わず、全学部までアントレプレナーシップ教育を拡大するというのはプラグマティックな選択である。
もちろん、学生側のニーズとしても起業はキャリアの一大選択肢として明確に意識されているからだ。教育的経験産業の大学の場で、経験サービスの供給側と需要側がアントレプレナーシップという学際領域で均衡点を設定するというダイナミックな動きである。
この現実的な選択は州や連邦政府からの予算ばら撒きで行われているものではなく、自立(律)的に大学コミュニティから生まれてきた動きである、ということにも注意がいる。2000年代後半に入って、アイビーリーグ各校やMITは、こぞってアントレプレナーシップ/イノベーション教育を大学院、学部レベルで本気で展開するようになった。いずれ、この動きは全米のいろいろなレベルの大学に伝播してゆくだろう。
日本の大学、大学院の高等教育の再デザインにおいても、アントレプレナーシップ/イノベーションの導入が待たれるところだ。