よしなごと徒然草: まつしたヒロのブログ 

自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

「ものことつくり」のマーケティングとアウトリーチ活動

2012年05月28日 | 技術経営MOT

7月にドイツのシュタインバイス大学の技術経営系大学院のアウトリーチ活動に参加することになりました。この活動に参加するのは僕自身のアウトリーチ活動でもあります。詳細はこちらのサイトです。

7-8月にかけて、東京農工大以外にも日本工業大学MOTや札幌市立大学大学院でレクチャーするので、忙しくなります。

さて、シュタインバイス大学は、knowledge and technology transfer partnerと謳っているように、産学連携スキームの大陸欧州でのプラットフォーム的役割を果たしています。

この一連のプログラムの中で、「ものことつくり」のマーケティングについてファシリテートします。使用言語は英語です。ドイツと日本の学生、社会人が一同に会して約1週間、多摩地域のベンチャーやスタートアップスのフォアフロントでインタビュー、ディスカッションし、戦略提案をまとめるという企画です。

準備は大変ですが、楽しみです。

「ものことつくり」のマーケティングってなんでしょうか?マーケティングといっても、コトラーがいうような4Pだとかのクラシックなフレーミングではありません。むしろ、先端的なものつくり系グローバル企業は、既存のフレーミングを破壊するようなイノベーション志向のマーケティングや技術経営3.0(松下の勝手な造語)を先鋭化させています。

ものつくり企業における新しいマーケティングないしは技術経営3.0とは、一言で言うと、マーケティングの「ものつくり」への浸潤、入り込みです。マーケティングが創るものっていったいなんでしょうか。

答え、意味。そして意味を共有する見込み顧客。

つまり、ものつくりへの意味の埋め込みが本質的に重要になってくる。

iphoneを買う人、プリウスを買う人、facebookを使う人、NPOが提供するソリューションを使う人・・・。多くの消費者はsomething differenetな意味を求めています。消費者なんてよぶよりも、もはや、意味の共有者、もっといえば、意味の共創者っていうほうがあっている。

つまり、ものつくりのプロセスの中に、意味つくりのマーケティングが埋め込まれて実装される、ということです。具体的には、意味志向のマーケティング機能が、製品アーキテテクチャ、デザイン、技術標準化、知財戦略、プラットフォーム戦略、事業戦略の中にシステミックに統合されてゆくという姿です。

アップルは、その意味で極めて先端的ですね。アップルはCPUとOSを垂直的に統合したなんてよく説明されますが、ほんとうに垂直統合させたのは、意味(外形的にはプロダクトデザイン、内面的には利用価値)でしょうね。

垂直統合といえば、最近はビジネス版「失敗の本質」の代名詞のような語感がありますが、これからは垂直統合企業の新しい出番だと思います。今求められているのは、意味を垂直的に統合するプロダクションであり、ビジネスモデリングです。

               ***

ダメものつくり:機能・品質重視→意味つくり失敗→付加価値つくり失敗

これからのものつくり:脱ものつくり、つまり、感性・質感・意味の重視→ものつくりプロセスへのそれらの埋め込み→意味のもの(artifact)への埋め込み、つまり「ものこと」化→新しい付加価値つくり成功

顧客を基点にして、意味を共有し、バリューチェーン内の様々なユニットの価値共創(value co-creation)が本質的に重要になってきています。

従来はバリューチェーンの下流でのマーケティングが主流でしたが、マーケティング機能が上流へと遡及してゆき、「ものつくり」を「ものことつくり」へと変化させていく、そのドライビング・フォースです。換言すれば、マーケティングのリフレーミングです。

               ***

さて、近年、研究、教育以外のはたらきとして特に注目されている大学のアウトリーチ活動ですが、日本の大学ではあまり注目されていないようです。母校のコーネル大学ではアウトリーチを以下のように説明しています。

Outreach programs solve real-world problems by linking people to Cornell's rich resources. Students, faculty, and staff share their expertise and energy with schools, businesses, government, community organizations, individuals, and families.

つまり、

コーネル大学のリソースにみんなを結びつけることによって、現実世界の問題を解決すること。学生、教員、スタッフが、大学、ビジネス、政府、コミュニティ、個人、家庭と専門知識技術とエネルギーをシェアすること。

こう考えればスッキリします。

 


日刊工業新聞「卓見異見」

2012年03月26日 | 技術経営MOT

日刊工業新聞の「卓見異見」 というコラムの連載を来月4月から約半年間やることになりました。

神奈川県知事の黒岩祐治さん、宇宙環境利用プラットフォーム、次世代宇宙システムの開発を手掛けているPDエアロスペース社長の緒川修治さんとかわりばんこに書くリレー方式の連載です。

こういうリレー式のコラム、面白いですね。

さて、日刊工業新聞は、技術経営(Management of Technology)、産業技術(Industrial Technology)の本丸的メディアです。

2-3月は、保健・医療・福祉サービス関係の仕事で内外を飛び回っていましたが、4月以降は、この紙面を借りて、モノコトつくりの文明論にはじまり、技術企業経営論、新産業創発新人類(アントレプレナー、イントレプレナー、トランスプレナー、奇人変人論)まで渉猟したいと思います。

掲載予定日は:

4月16日 (4月6日締切)
5月21日 (5月11日締切)
6月25日 (6月15日締切)
7月30日 (7月20日締切)
8月27日 (8月17日締切)

よろしくお願いいたします。


コンゴ民主共和国の惨状と資本主義

2012年02月20日 | 技術経営MOT

公用でコンゴ民主共和国へ行ってきます。行く案件は、国際協力機構と国立国際医療研究センターがらみのプロジェクトです。

このビデオは必見です。

コンゴの危機~知られざる真実~ 

このビデオに簡潔にまとめられているように、120年以上、コンゴという国は、コンゴの人々が自治、政治、経済のありようを決めたことがなく、すべて異国、外国、国内の私権によって簒奪、搾取されていた経緯があります。

なぜか?その理由の大きな一つが資源です。象牙、金、ダイヤモンド、ゴムに始まり、銅、コバルト、ウラニウムなどの豊富な埋蔵資源のためです。ざっと歴史を振り返りましょう。

          ***

1885-1908: レオポルド2世などによる領地の個人所有と搾取

1908-1960: 西洋列強による植民地支配と簒奪

1961:コンゴ人改革派リーダーの暗殺

1965-1997:ディクテーターシップによる抑圧、搾取、簒奪

1996-2002:ルワンダ、ウガンダなどの隣接外国でのジェノサイドとその悪影響など。

          ***

日本を含め、現代の先進国の技術経営はコンゴ由来の資源(natural resources)なしでは成り立たない状況です。自動車、エレクトロニクス、航空機、携帯電話、パソコン、そして原子力発電の核燃料・・・。

コンゴ由来の資源がなかったら、私たちの生活は成り立ちません。

さて、バリューチェーン(価値の連鎖)という観点でみると、資本主義国としての日本は、これらの資源を輸入して、R&Dを経て、資源を加工して、設計、製品化し、マーケティングして市場に投入するというフェーズに特徴があります。コンゴは、そのバリューチェーンの起点です。

バリューチェーンの起点から終点までを一括して、運営しているもの。それが近代資本主義。バリューチェーンの終点近くでも、現下の資本主義はガタガタしていますが、起点では、無残な簒奪、収奪、搾取のオンパレードです。それも1世紀以上の永きに渡って。

さて、資本主義のありかたについては、日経BPの連載などでいろいろ書いてきました。

で最近のリアル論壇では、「資本主義以降の世界」(中谷巌)がイケていると思います。この人(懺悔の人きどり)の前作は、ちょっと?でしたが、今回の本は、真摯な筆致で、ずいぶん、書きづらいことを大胆に描いています。見直しましたね。

で、この本で著者が描いている視点でコンゴを見ると、バリューチェーンの起点としてのコンゴは、まごうかたなきフロンティアだったということ。①西洋人が環境破壊をやりまくって好き放題に収奪してきた「自然フロンティア」、②西洋列強が植民地化して収奪してきた「地理的フロンティア」。

もちろん、西洋列強に支配、簒奪される寸でのところで、近代化を苦労して成し遂げて、西洋列強を跳ね返した明治国家としての日本の世界史的に特異な位置づけには健全なプライドを持つべきです。自虐史観はダメです。

その西洋列強の跳ね返し方(日露戦争、大東亜戦争)が、西洋列強(米国)の逆鱗に触れたので、日本は広島、長崎で原爆を落とされたということです。その原爆の組成物質もコンゴ(当時はベルギーの領地)から採れたものでした。そして、福島第一原発事故により、日本に降り注いでいる放射性物質の少なくない割合も、もとはといえば、コンゴ由来の「資源」です。

コトはかくも複雑です。その複雑なシステムの、非常に重要な一端がコンゴです。このあたりの事情を見てこようと思います。

見るだけではなく、状況のKAIZENに具体的に貢献することが、今回の仕事ですが。


アメリカからトルコ共和国へ

2011年08月13日 | 技術経営MOT

このところ、忙しかったのでブログの更新もままならず。

Portlandで開かれたPICMET2011という国際会議で一本発表してから帰国し、その足で夜に名古屋へ移動。翌日、中部大学のサマーマネジメントプログラムで講演をやってから自宅に一旦帰り、身支度を整え3時間仮眠をとってから、また成田へ。

そして、成田からドバイ経由でイスタンブールに飛び、アンカラへ。東京農工大学イノベーション推進機構の教職員海外セミナーで、アンカラ大学とイスタンブール大学を訪問してワークショップ、学術交流開始記念式典、ランチョンなどに参加。

大学発のイノベーションを推進するためには、大学のステークホルダである学生、職員、教員がバラバラではなくチームを組んで、グローバライゼーションの当事者として変革の発火点にならなければならない、というこのプログラムの主旨はストライクゾーンのど真ん中。

このワークショップ(実践のための具体論=手法)が優れもので、実践志向のイノベーション教育にぴったりの内容。その骨子は、イノベーション推進機構の中心メンバーがスタンフォード大学が提供しているプログラムに参加してローカライズしたものだ。

農工大博士課程学生と職員、教員、アンカラ大学の学生、教員がマッシュアップし、チームを作って、具体的なイノベーションのネタづくりをする。大ざっぱに言えば、グループワーク・ベースでアイディア・ジェネレートして、発表、内省、シナジー効果の昂揚を図るというもの。

技術をベースにしたイノベーション&アントレプレナーシップの実践型教育プログラムはこんな感じでデザインXインプリメントしてきた。

で、今回得た着想は:

学期15回の授業のうち、戦略、マーケティング、ファイナンス、オペレーションのテクニカルな内容を講義、ディスカッションしたあとで、このサタンフォード/農工大仕様のワークショップを展開してゆけば、かなり高度なイノベーション実現のためのビジネスプラン創発のプラットフォームになるだろう。

結論、技術イノベーション志向のアントレプレナー養成コースに十分使えるということ。

イノベーション&アントレプレナーシップの実践教育プログラムづくりをしている自分としては喉から手が出るくらい欲しかったものなので、今後詳細を検討して導入したい。

アンカラ大学とイスタンブール大学との連携・交流アグリーメント、シンポジウムは大変格調高いものだった。今後に期待。

農学系D学生が多かったが、来年以降は工学系の学生や専門職大学院学生にまで参加が拡がればよいだろう。

◇    ◇    ◇

ロードス島からトルコをまじかに見たことはあったものの、実際トルコの地を踏んだのは初めてだった。

実は、今回の参加に合わせて、歴史、宗教、経済、インテリジェンスなどの課題をもってゆき、それぞれ、いろいろな発見があったので、それらは別の媒体や機会などで紹介する予定。

ここでは写真などをほんの少々。

<イスタンブール大学>

<ボスポラス海峡>

<参加したD学生>

<トルコ・コーヒー>

これから1週間かけてたまった仕事や原稿を消化して、札幌市立大学での講義と夏の北海道に備える。


アントレプレナーシップとベンチャー企業経営@日本工業大学技術経営研究科

2011年07月05日 | 技術経営MOT

‎7月23日から日本工業大学技術経営研究科@神保町の夏学期にて、「アントレプレナーシップとベンチャー企業経営」全15回の集中ワークショップ開きます。

以前開発した理工系人材向け起業家育成コースや、コーネル大学の起業家支援メソッドをふんだんに取り入れた内容です。

どうも日本の技術者は、タテ割り組織に囲い込まれて自由闊達なクリエイティビティを存分に発揮できていない。多様性、相互作用、創造的破壊の諸相に晒されていないとイノベーションは創発しない。こんなことを前専攻長の佐久間陽一郎さんと議論して、このコースをやることになったのです。

このような問題意識もあり、この講座では、拡大アントレプレナー人材の養成、涵養に力を入れています。

①イントレプレナー

サラリーを得る組織内(企業、公的研究機関、大学など)でリソースを組み換え、新しい価値を創出する人材。

②トランスプレナー

各種コミュニティをベースに組織横断的に様々なリソースを橋渡しして、新しい価値を創出する人材。

③アントレプレナー

独立して自らリスクを取り、新しい価値を創出する人材。

このコースからは、五十嵐博一さん 顯寛さん資料1資料2)などの起業家が輩出しており、今年もどのくらいエッジが立った奇人変人が集うか楽しみですね。ケースメソッドを用いるコマは高木さんに担当頂きます。

(神保町での古書渉猟も楽しみです)


原発過酷事故、その「失敗の本質」を問う

2011年05月18日 | 技術経営MOT

このところ、ブログでは放射性物質、放射能によってもたらされる健康被害について内外の情報を分析してきました。

日経ITProの連載では、福島第一原発事故の失敗の本質について書きました。東電はもちろん日経グループから見れば有力スポンサーです。したがって、東電をめぐる構造的な問題を正面から批判するような記事や論説はまず出ません。

そんななかで、よくぞデスクは出してくれました。経営に活かすインテリジェンス~第22講:原発過酷事故、その「失敗の本質」を問う~

(閲覧できると思いますが、もしかしたら無料登録が必要かもしれません)山莉秋山莉奈


復旧・復古ではなく復興には起業家精神で

2011年04月02日 | 技術経営MOT

平成21年度、ベンチャービジネス戦略論が経済産業省のモデル講座として採択され、起業家教育ベストプラクティス事例集」に紹介されました。

震災からの復興は、旧いものの復活や復古=「復旧」ではありません。旧いものを破壊して、というよりはむしろ、旧いものが破壊されて、新しいものを創造せざるを得ない状況です。このような歴史の特異点では、社会のあらゆるセクターでアントレプレナーシップが求められます。新しい時代のデザイナーとでも言ってよいでしょう。

東京農工大技術経営研究科技術マネジメントリスク専攻は、工学府産業技術専攻と改組された関係上、2011年度、松下が担当する授業はマーケティング概論、技術経営企業論、技術経営概論(分担)となります。

客員教授をやっている日本工業大学技術経営研究科ではひきつづき、「アントレプレナーシップとベンチャー企業の経営」の講座を担当します。(夏学期)


福島第一原発で起こっていること、今後

2011年03月29日 | 技術経営MOT

福島第一原発に関するマスコミ報道はどれも断片的です。また判で押したように似たような論調ばかりです。まるで大本営発表を彷彿とさせます。マスコミに登場する学者さん(多くは原発産官学の直接・間接の利害関係者)の言説は、どれも似たようなもの。断定を避け、状況の保守的な説明に終始するだけです。

このような解説では現在進行中のリスクの全体像がまるで見えてきません。無策無為を繰り返す政権に愛想をつかし、アメリカの直接的危機管理介入さえもが進行しています。

こんな中、ネットの中に大局的かつ真摯な情報がちらばっています。

孫崎 さんはTwitterでこういっています。「日本次第に米国直接支配下。官邸は連絡調整会議。支持をうけるは細野首相補佐官。防衛省に災害用「日米共同調整所」、指揮は在日米軍のクラウ副司令官。冗談に官邸に米軍座ったらと言ったが実質もうそうなった。災害に専念するといった菅首相、仕事なくなりましたね。米国首相誰でもいい。挨拶に来る位」

さて、ここから本論。リスクマネジメントは、事前と事後に大別することができます。事前のリスクマネジメントとは一大事が発生する前の準備のことです。具体的には、リスクの洗い出し、評価、優先順位づけ、リスクマネジメント目標設定、リスクマネジメントプログラムの策定などが含まれます。原発事故の初動では、これらすべてが大津波という「想定外」事象でひっくり返ってしまいました。 

現時点で過去を振り返って、評論家の「たられば~」の連呼となります。ちょっとウンザリです。

事後、つまり危機発生後のリスクマネジメントが危機管理(クライシス・マネジメント)です。危機対応組織の構築と迅速な運用、情報集約・管理、復旧・対応活動などが含まれます。ここでは、これら危機的事象に対する人間の行動が問われます。人と組織の行動が、危機をうまく管理できないと人災の側面が強くなります。

現在進行中のことなので、ここをハッキリ言うのは本当に難しい。為政者でもハッキリ言わず、ボヤかしています。自分の言に過剰なリスクマネジメントをしてしまうのです。どうやら原発産官学共同体(機能体ではない、共同体)には、保身というリスクマネジメントは上手なのだか、大きなリスクをとって問題解決にあたるリーダーシップをとるリーダーがいないようです。

言う、と行う、はもちろん違いますが、「言う」のみに注目してみましょう。だれがどのように現在進行中の危機を客観的に説明しているのか?だれが、原発という技術のタバとマネジメントの経験、知識をフル回転させて、まとまったソリューション(問題解決)を提言しているのか?

そんな中で、マッキンゼー、ボスコンなどの戦略コンサル在籍経験者はいうに及ばず、技術経営、リスクマネジメント関係者も注目しているのが大前研一さんの以下のビデオ。(黒川清さんのブログでも紹介されていますね。)

(1)放映日:3月13日 (

(2)放映日:3月19日 

(3)放映日:3月27日  

(4)未定。

インサイトフルです。ぜひご覧ください。