よしなごと徒然草: まつしたヒロのブログ 

自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

Entrepreneurship@Cornell

2008年02月28日 | ビジネス&社会起業
母校のコーネル大学で起業をテーマとした集まりがある。Entrepreneurship@Cornell というもの。ハーバードやコーネルなどアイビーリーグではこのところ、起業が大変な盛り上がりを見せている。

その盛り上がり方は日本の大学の起業シーンとだいぶ違う。日本では学生がビジネスプランを書き、発表して、外部のVCがそれらを評価して投資をするというスタイルが一般的。コーネル大学では、学生がここぞというビジネスプランを発表すると、学生によってのみ運営されるファンドが投資をするという仕組みだ。

ビジネススクールにやってくる学生は、ビジネススクールでの経験を自分への投資というふうに考える。そんなポートフォリオでは、自分への投資のついでに、いいビジネスプランがあれば、そっちのほうにも出資するという具合だ。大学としてもいろいろなグラッド・スクールが協力しあって、起業のためのスキルをカリキュラムとして提供している。

大学コミュニティーのリソースをふんだんに活用させて、営利、非営利を問わず、多様なビジネスを創出しながら、学生から起業家、リーダーを輩出してゆく。成果を出した起業家を大学に呼び、レクチャーをさせて起業ノウハウを還流させる。

いわば、ベンチャー生成・エコ・システムだ。インダストリーの知を自己組織化してゆくリサーチ・ユニバーシティのひとつの方向がよく出ている。従来型のTLOの弱い機能は、商業化だ。コーネルはさらに一皮むけて The Cornell Center for Technology Enterprise and Commercialization (CCTEC)を自己組織化して商業化にも熱心に取り組んでいる。

日本でもVCなどで投資実務を積んだ経験者が大学にもどり、学生から資金を集め、キャンパスから生まれるビジネスプランに投資をするファンドを創ったら面白い。ひとつの大学でムリならば、東京6大学ファンドとかMOTファンドというように複数のキャンパスをたばねてゆくのもいいだろう。


2008 Social Enterprise Conference

2008年02月20日 | ビジネス&社会起業
今年も、社会起業をテーマとする最大級のカンファレンスがハーバード大学で開かれる。3月2日(日)開催とのこと。関係者によると1000人以上の来場者が見込まれている。

それほど社会起業に関する関心が高まっていて、社会起業を知的サークルでも盛り上げていこうという機運が浸透しつつある。スローガンは4つの言葉。

想像
イノベーション
変化
進歩

これらの標語は、ベンチャービジネスやベンチャーキャピタルがかかげても、違和感はない。

だから、すごいのだ。

さてSocial Enterprise Conferenceの常連さんの友人とちょっとした議論になった。テーマは起業するときの器について。営利か非営利か、つまり、株式会社でやるか、NGO/NPOでやるか、といった内容。

大事なのは、はじめから営利/非営利といった二項対立ので考えるのではなく、事業内容(ビジネス)を構想してゆこう。

大量の資金が必要で、M&AやIPOなどのイグジットをアプリオリに予定することができて、そのビジネスモデルの中核を形成する技術を活用することで発生するであろうキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出した株価に対して、投資家がセクシーさ感じるくらいのビジネスプランが作れれば、営利スタイルの株式会社で起業すればいい。

非営利スタイルのNGO/NPOはどんな場合か?

公共的なリソースをフル活用しなければいけない。社会的になかなか活用されていない公共財を活用する。ステークホルダを株主にだけ限定したくない。株式会社が経営することができない事業ドメイン。配当ができない、したくない。CSRの文脈で大手企業がスポンサーとして支援してくれそうなビジネス。

内閣府NPOホームページでは、非営利ビジネスを以下のように区分している。

1 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
2 社会教育の推進を図る活動
3 まちづくりの推進を図る活動
4 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
5 環境の保全を図る活動
6 災害救助活動
7 地域安全活動
8 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
9 国際協力の活動
10 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
11 子どもの健全育成を図る活動
12 情報化社会の発展を図る活動
13 科学技術の振興を図る活動
14 経済活動の活性化を図る活動
15 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
16 消費者の保護を図る活動
17 前各号の掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動

忘れてはいけないことは、営利であれ非営利であれ、成果に対する責任とその成果である利益である。非営利組織は、株主に対して配当をしないという点で非営利だが、健全な運営と成長のためには、利益が必要である。絶対に。この点を忘れるとNPO,NGOは空中分解することになる。


社会起業家が運営する知的障害をもつ方々のための農園

2008年02月18日 | ビジネス&社会起業
知人の横尾常夫さんは、いちよう会という独自の社会貢献活動を行っている。本業は社会保険労務士だが、本人いわく、社会貢献活動のほうの比重が増えているそうだ。

いちよう会は、船橋市立船橋特別支援学校の「おやじの会」の有志が中心になって、平成16年9月に設立された非営利組織だ。知的な障害をもつ方々のために、小規模福祉作業所の「はみんぐばあど」を開所し、職員4名で運営している。

いちよう会には現在、通所者10人以上の利用者がいる。皆で心を込めて育てたとても美味しいと評判の「菌床栽培しいたけ」と「減農薬野菜」を市内のスーパーに納品したり、自分たちの農園で直売も行っている。

ともすれば孤立しがちな障害を持つ成人の方々とその家族への積極的なケアや支援を農園やシイタケ栽培などを通して行うというのは、地域社会にとってイノベーションである。ショッピングセンターのイオンもこの活動を応援しており、いろいろな物品が無償でいちよう会に寄付している。(イオンもいいことするね)

さて、ニューパラダイムの起業論は、2つのバージョンに分かれなければならない。ひとつめは、従来型=株式会社の起業。ふたつめは、株式会社(その類も含めて)以外の非営利組織の企業。

MBAやMOTの文脈からイノベーションを構想すると、どうしても営利企業が主体となるイノベーションになる。たしかに、お金を儲けるという利潤動機は、人と組織の大きな構成要素だ。資本主義は、株式会社の活動のために、そして株式会社の営みによって成り立っている。だから、資本主義のプレーヤーたる起業家の出番がある。

米国や韓国と比べて日本は起業家の輩出がマッタリしていることは、評論家が指摘しているとうりだ。もっともっと、この国には資本主義の担い手である起業家が出てくる必要があると言われている。そのとおりだ。

株式会社という制度は、本当に使い勝手のいい道具だ。なにしろ、お金の調達、株主に対する配当、経営と資本の分離などはもちろんのこと、IPOやM&Aなどを臨機応変に活用することで、株式会社がおこなう事業を、発展させたり承継させたり、他のビジネスとシナジー効果を生む出すために合併させたりすることができる。またこのようなことをやりやすくするために、会社法も大きく改訂されてきている。

しかし、株式会社だけが起業家のフィールドではない。起業家にとって、非営利組織も立派なフィールドだ。いちよう会のように、株式会社ではなくボランティアや非営利組織を通しても社会的なイノベーションを起こすことができる。横尾さんは、社会起業家(Social Entrepreneurs)だ。



産学連携の医療イノベーションとMOT

2008年02月07日 | 健康医療サービスイノベーション
医療機関は医療に関わる技術、サービス、マーケティング、HRM、ロジスティックス、リスクマネジメントなどの複合体である。医療機関が生み出す成果は、これらの複合体がアウトプットする医療サービスであり、その医療サービスの質を上げるためにさまざまな新機軸や革新が生まれている。

医療サービスは医療に関わる多様なテクノロジーの組織化のプロセスとアウトカムによって実現される。診療チームや病院といった組織、そして病病連携や病診連携といったネットワークによって組織化された医療機関、そして医療サービスの消費者である患者が医療イノベーションの受益者である。

さて、医療イノベーションは医療の質の向上を支持し、その反面、医療イノベーションは医療コストを上昇させる要因でもある。よって、医療のイノベーションはマネジメントを必要とする。

医療機関をとりまく環境には実に多様なイノベーションがあるが、それらをざっくりと供給側と需要側とに分けると、

・新規創薬や医療機器におけるイノベーション(サプライ・サイド)
・医療機関における新規の手術手法、治療方法、看護技術などのイノベーション(デマンド・サイド)

サプライとデマンドの両サイドが、すりあわせを行えばイノベーションが起こるという単純な話ではない。すりあわせを仲介する、あるいは連結するエージェントとしての高度な学術レベルとコーディネーション能力に秀でた研究者の存在が欠かせない。

医療の現場でイノベーションが巻き起こる前提には、秀逸なテクノロジーのシーズを保有するサプライサイドと、それらを活用する潜在的ニーズを持つ医療機関のデマンドサイド、そして両者をカップリングさせるエージェント的な研究者の存在がある。これらのプレーヤーの関係は不即不離で、各自の利害が一致するテーマを中心として、医療産学複合体が形成されることとなる。

たとえば、ブリストルマイヤーズ・スクイブのコンバテック事業部(サプライサイド)は、新規製品の開発段階とPMS段階で傘下に病院を運営する大学医学部の研究者(エージェント)と密連携して、褥創を治療する近代ドレッシング材を商品化してきている。開発され上市される商品の治療における有効性を証明するために、研究者は企業をスポンサーとして学術的な調査を行い論文として発表する。 そして、CGFなどの近代褥創ドレッシング材は日本全国の病院(デマンドサイド)で活用され大いに臨床的な成果をあげるに至っている。

内科、外科、整形外科、精神科などのプラクティスにおいて、この種の医療イノベーション事例は山のようにある。それと同時に、献金癒着、贈収賄、モラルハザードに終始する「好ましくない」医療産学官複合体の事例も山のようになる。いや、日本においては、後者のほうが多かったのではなかろうか?

さて、究明すべきテーマがいくつか浮上する。

・医療産学共複合体がアウトプットする「好ましい」医療イノベーションの事例研究
・医療産学複合体がアウトプットする「好ましくない」医療イノベーションの事例研究
・以上の差異を説明する要因に関する分析
・好ましい医療イノベーションが発生させることに寄与するそれぞれのプレーヤーの行動様式を抽出する
・それらをプログラム化して、あるべき医療産学複合体にフィードバックする

いずれも医療サービスをMOTという観点から分析、提案することとなる。明日の日本の医療を構想するときにはぜひとも必要なアプローチだと思われるが、さて。