よしなごと徒然草: まつしたヒロのブログ 

自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

アフリカに広がる5S・KAIZEN~日本が忘れた有効性伝搬~

2012年06月25日 | 健康医療サービスイノベーション

日刊工業新聞に拙論「アフリカに広がる5S・改善~日本が忘れた有効性伝搬~」を寄稿しました。 

昨年、スリランカ、そして今年2-3月にコンゴ民主共和国を訪れて5S-KAIZEN-TQMの技術指導、フィールド調査をしました。その時に得た知見などをまとめています。

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5S-KAIZEN-TQM spread to Asia and Africa: From Japan to Global Health Services




Stunning Africa
 Amazing sceneries have been spreading out in the African continent. 5S-KAIZEN-TQM (Total Quality Management) originating in the Japanese industry is proliferating rapidly even to the hinterland of Africa. But it is the field of health services not in manufacturing. This movement has covered 46 countries in Africa, impacting on directly or indirectly the human life of 420 million people, accounting almost half of the population of 820 million.

 Through 2011 to 2012 I had the opportunities to visit Sri Lanka and the Democratic Republic of the Congo to provide consultancy on 5S-KAIZEN-TQM based on the requests from JICA and National Center of Global Health and Medicine. Consequently I have found many stimulating phenomena involved in the movement while teaching the method to many people.

Participation and Excitement
 5S means such basic intervention as set, sort, shine, standardize, and sustain. KAIZEN is “make something better” or improvement. Some may say that 5S-KAIZEN is outdated here in Japan. But I would say that KAIZEN-5S bears universality beyond the country boarders and industrial sectors. 

 I tell you why. The systemic changes brought about by the movement have gained enthusiastic support from the minister down to the staff members at hospitals and clinics in countryside. African people have invented "5S-KAIZEN dance" and "5S-KAIZEN song" to encourage themselves to carry on this movement. Here a question is raised. Why are African people so enthusiastic about doing "5S-KAIZEN"? There are three reasons.

(1) Participation 
 Like other disciplines, management ethos has been excluded in the gate keeping forefront of health services. Even stealing medicine or equipment is not rare in African countries. But this approach has the effect of changing passive to proactive mind-set. 

 In particular, everyone can do the first 5Ss or sort, set and shine easily and assure the outcomes. In this sense the participation in 5S-Kaizen sets the easy but stead start line to begin management in Africa.

(2) Intrinsic Reward System
 Most of the management methodologies and methods if any currently practiced in African countries have come from the West which exploited the continent for years. In those practices they try to give reward for individuals and organizations based on meritocracy. 

 They plan in advance the acted-out results of individuals and organizations that should be achieved. When those are achieved, the incentive value including monetary or subsidies, are to be awarded. For those who are sick and tired of such ways, emotional welling up from the inner sense of fulfillment and a sense of accomplishment mean intrinsic reward. 5S-KAIZEN brings about intrinsic reward. 

(3) Cycle of Solidarity
 BA, a Japanese word, means a place or field of associated with human activities. What supports and integrates such BA as workplace and community is the collective sense of solidarity. When such sense of solidarity is enhanced through planning, doing, checking and doing actions based on 5S-KAIZEN, people can assure and even enrich solidarity at BA. 

 Thus 5S-KAIZEN realizes solidarity in any BA of human activity. This kind of approach is attracting attention from those who practice action-research methodology in soft systems methodologies.

Service co-creation of the Public Sphere
 The emergence of innovation, by and large, has shifted its central field from production per se, to the process of production, finally to services field. Whatever emerges, however, it depends on the consciousness of people concerned. 

 The fact 5S-KAIZEN-TQM, originating in the Japanese production industry, transcended to Sri Lanka and then to African countries and manifested social impact in such countries suggests that the movement is evident innovation. 5S-KAIZEN-TQM has been accepted and shared by so many Asian and African people as effective methodologies in work environment improvement, change management and health policy.

 The aforesaid findings would be meaningful particularly when it comes to the issues relating with global contribution of health services management. 5S-KAIZEN-TQM plays salient roles not only in market where product and money are exchanged, but also in public sphere where services are co-created by grass-root people especially in health services.

 For decades Japan has been picking various western management methodologies including reengineering, CRM, pay-for-performance, balanced score card to name just a few. But do they feel happiness in their jobs? Are they really intrinsically motivated? Are they full of sense of achievement? If not, the Japanese may have benefit from looking at the lessons from its counterparts in Asia and Africa.


仏語圏アフリカ保健分野支援ネットワーク拡大セミナーで講演とパネル

2012年03月20日 | 健康医療サービスイノベーション

アフリカのコンゴ民主共和国から帰国してからほどなく、倉敷中央病院(岡山県倉敷市)から近畿中央病院(兵庫県尼崎市)へと関西方面を回って招待講演をこなしてきました。

これらの招待講演と相前後して、しまなみ海道を尾道から今治まで自転車で走ってきました。

3月は、グローバルとローカルな活動のミックスです。さて、3月のグローバル活動の節目として、3 月 31 日(土)13:00-17:00 オープンセミナー「仏語圏アフリカ保健分野支援ネットワーク拡大セミナー」(国立国際医療研究センターと国際協力機構(JICA) の共催)で講演とパネルします。

私のテーマは、「アフリカの保健分野支援における政府・国連・企業間の相乗効果を持つ協働的パートナーシップ- 社会的企業としての国際保健医療協力事業モデルの観点から 」というもので、話題提供の後、パネル・ディスカッションとなります。

ポスター詳細案内

グローバル・ヘルス、知識創造、保健分野の国際協働、ソーシャル・シェアリング、サービス・イノベーション、アントレプレナーシップ、国際社会起業、貧困、人権、国際貢献、保健リソースの最適配分、Base of Pyramid、国際保健バリューチェーン、インクルージョンなどのキーワードにピンとくる方、参加してみてはいかがでしょうか?

参加費無料、希望者は、飲み会あり。私は、飲み会モチ参加です。


助産アート X デザイン X 想像力 X 起業家精神

2011年11月22日 | 健康医療サービスイノベーション

(「ペリネイタルケア」2011年12月号)

「ペリネイタルケア」という専門誌から御依頼に応じて、「病院経営の視点から考える 成功する院内助産を始めよう!」を書きました。

助産所をソーシャル・ビジネスシステム、健康サービス・システムとしてとらえ、そこにちょっと新しいイノベーションのためのフレーミングを構想してみます。

つまり、イノベーションのためのフレーミングは、

「助産アート X デザイン X 想像力 X 起業家精神」

です。

このまま、現在の出生数が低迷状態が続くと、少子高齢化はますます進み、やがて日本人の人口は激減してゆきます。それにともない国力は、残念ながら長期的に衰退してゆきます。

そんな暗い衰退過程の鳥羽口に立ちながらも、赤ちゃんの産声に囲まれて明るく活躍する助産師の方々。

さて、Smart CityやCreative Cityのコンセプトが最近話題によく上がります。たしかに、創造都市は、いろいろなものごとを創造しますが、そもそも、人間の創造=出産を持続的にやりやすくする必要があります。妊婦がたらい回しにされて出産ができないような都市は、スマートでもなければクリエーティブでもありません。まったく。

赤ちゃんを生んで育てやすくする環境をうまくデザインして都市に埋め込む必要があります。助産というアートないしはテクネを、自由な想像力でデザインしてインプリメントしてゆく。

だれが?当事者の助産師が、です。

助産師の方々が、「助産アート X デザイン X 想像力 X 起業家精神」のフレーミングで発想・行動することを体得すれば、①創造都市の創りこみに貢献できる=社会イノベーション。②自由でクリエイティブな生き方ができるようになる=自分イノベーション。

ちなみに、「自分イノベーション」とは昨年まで農工大MOTにいた林志向さんの新著のタイトルです。

たとえば、院内助産=イントレプレナー。独立起業=アントレプレナー。地域の医療機関のみならず、保育園、クッキングスクール、オーガニックフード、エンライトメント、セラピーなど、異業種と新結合を図る起業スタイル=トランスプレナー(松下の造語)です。

方向性としては、助産→社会イノベーション、Smart City、Creative Cityですね。


助産師の方々との語らい

2011年11月20日 | 健康医療サービスイノベーション

(講演のあと神奈川県助産師会の皆さん、美魔女群団?と)

夏は海外が多かったのですが、秋から冬にかけては大学での仕事に加え、国内、とくに関西方面での仕事が多く、行ったり来たりしています。ここ数年、面白いことに助産師の方々の集まりに呼ばれることが多くなってきています。

もともと健康・医療システムの中でも「ケアすること」への関心が強く、著作物も看護関係が多く、また社会イノベーション、アントレプレナーシップ支援もしているので「助産師の起業」というテーマには相性がいいのでしょうか。

11月の初めには神奈川県助産師会で「助産師のマネジメント力-勤務助産師も起業家になれる-」、先週は日本助産師会の大阪支部で「起業家の視点でとらえる助産所経営」について講演をしてきました。

私の講演は、よくあるような新しい知見や方法論を一方方向で伝えるというものではなく、参加者の方々とわいわいやりながら新しい知識をいっしょにわかち合ったり、高め合ったりすることになるべく多くの時間を使います。

さて、講演後の質疑応答では、皆さんの問題意識の強さと高さがひしひしと伝わってきます。また、講演が終わってからも主催者の方々と続きの議論に延々と花が咲きました。

問題は:

①そもそも少子高齢化現象が進む中で出産件数の減少が続いていて、また出産も病院でなされることが多いため、「出産市場」がシュリンクしている。出産市場のシュリンクは長期的には人口衰退に直結するので国力が低下してゆく。

②助産師のヒューマンサービス「技術」はいわゆる暗黙知に属することが多く、標準化、形式知化がうまくなされていない。ゆえに助産技術の共有化は「すりあわせ」によって現場レベルに沈着することが多い。

③助産師の起業(助産所の独立起業、院内助産施設)に際しては起業経営やマネジメント・サイエンスの応用があまりなされていない。

④非営利型のビジネスとして助産師の活動を発展させてゆくノウハウが体系化されたり共有化されていない。

⑤助産師の高齢化に伴って助産所の廃業があいついでいる。②で指摘した、助産技術が誰にも継承されないまま消滅してゆくのは社会的な損失である。また、廃業を未然に防ぎ、助産所事業を他の助産師に事業継承(サクセッション)させてゆくための手法が未開発。

       ***

では、どう問題解決するのか?ということで会長、理事の方々、参加者の方々と議論、議論。ちょっとメモしておきます。

上に整理したような助産師の①起業、②事業成長、③事業継承のビジネスサイクル全般をサポートする仕組みが今の日本にはまったくない。そのような仕組みを助産師会や地域で活動するアントレプレナー助産師と連携して作ることが大切だ。NPO(LLP,LLCあるいは非営利型株式会社のようなもの)を創って①②③のノウハウを共有して会員をサポート(ウェブ共有、研修、コンサル、政策提言)してしてゆく。

ついでといったらなんだが、そのようなネットワーク組織をベースにして臍帯血を保存するシステムとリンクさせてゆけば、親子が罹患するであろう、そして将来において発達した治療技術をもって治療可能になるであろう「未来のリスク」をヘッジすることにもなる。

 


アジア・アフリカ知識共創

2011年09月19日 | 健康医療サービスイノベーション

夏は、ポートランド(米国オレゴン州)、トルコ共和国、スリランカというように、あわただしく回ってきました。スリランカから帰国して一息ついています。

さて、行く先々でいろいろな方々と知り合いますが、facebookのお陰で、お互いの仕事、関心、バックグラウンドなどがすぐ共有できるので、人間関係の共有や構築が楽になったかのように見えます。

しかし、深い関係となると、やはり同じものをいっしょに食べて、語らって「場」そのものを共有したり共創することが大事です。(大好物のカレーなどを大量に摂取したため体重が増えてしまいました)

スリランカの旅では、国際協力機構(JICA)の企画・アレンジのもと、Benin、Burkina Faso、Congo、Madagascar、Mali、Morocco、Niger、Senegalなどの病院長、健康医療関係のpublic servantの方々、日本人学識経験者、専門家の方々とともに、5S-Kaizen-TQMをテーマにして実施事例をオンサイトで見て回りました。そして、アフリカからの参加者に対して5S-Kaizen-TQMについてのトレーニングを行うという画期的なものでした。

このプログラムは、「アジア・アフリカ知識共創プログラム(AAKCP)」(資料1資料2資料3)という枠組みでデザインされているので、Co-creation共創サービス志向が強いものでした。協力研究員として参加しましたが、実態は「共創」研究員みたいなもので、ワイワイガヤガヤが根っから好きな自分としては、とても楽しいものでした。関係者の方々にお礼を申し上げます。

多くのものごとを学ぶことができました。というか、学びは、学んだモノゴトに自分なりの価値を付け加えてアウトプットしてはじめて実現できます。今後、いろいろな方面へここで得たインプットをアウトプットしてゆきたいと思います。いろいろな方々を共有、共創できれば、さらによいでしょう。

アウトプットの機会は今週から始まります。今中から後半にかけて、北里大学病院で二日に渡り2連ちゃんの招待講演をこなして、来週は松本の長野県看護協会で「チーム医療とサービス・イノベーション」についてお話します。


Global Healthの新展開

2011年08月22日 | 健康医療サービスイノベーション

トルコから帰国してすぐに日本医科大学にてグローバル・ヘルスの視点からemerging countriesの医療システムを"5S-KAIZEN-TQM"アプローチで高めてゆこう、というディスカッションに参加した。

インターナショナルヘルスのサークルではグローバルヘルスへと概念転換が進行中だ。

以下は、日本国際保健医療学会/国際保健用語集より。

<以下貼付け>

保健医療問題が国境を越えて拡がる事が多くなってきた。発展途上国、工業国にかかわらず国際保健医療の問題が発生して健康格差が生じている。これらの問題の実態を明らかにして解決方法を探り対策を講じる必要性が増している。

今までインターナショナルヘルスが一般に使用されてきたが、地球規模の問題は国境の概念を超えるので用語にもグローバルヘルスが導入、使用され始めている。交通運輸の革命的発展がこれらの進行を促進している。国際政治の世界的展開にも関わりグローバルヘルス問題はますます関心を集める様になっている。

地球環境問題の影響の拡がりも大きな要因である。世界の保健医療問題を世界規模で対応するのは国連の世界保健機関(WHO)であるが、各国共に関心が増大しODA, 財団などNGOも積極的に乗り出している。グローバルヘルスで対象となる分野は極めて広いが、従来からの懸案として挙がっているのは感染症、母子保健、栄養不足問題などインターナショナルヘルスと同様であるが、難民の保健問題、糖尿病など栄養異常問題、生殖医学、生命倫理などを取り入れる立場もある。感染症問題ではエイズ結核マラリア(ATM)が三大感染症として大きく取り上げられているが、その他にも生命に大きく関わる下痢症、呼吸器感染症などに支援がなされている。

ワクチンで予防できる感染症は世界規模で対策が進められていて天然痘の根絶成功いらいポリオ、麻疹などに進展が期待されている。インフルエンザ、SARSなども地球規模(Global)の対策が必須である。如何にして対応するかが国際的な競争の中で研究、実行されている。

<以上張り付け>

たしかに、上の文章のようにGlobal healthは医学、疫学の視点から議論されることが多かった。しかし昨今は、health services systemの視点が不可欠となってきている。さらには医学、疫学上のインベンションの成果を広範に社会に普及させてポジティブ・インパクトを高めるためには、医療サービスのインフラたる医療システムの適正化が問われつつある。

医学、疫学マターが中心ならば上図のインタラクション層の一方の当事者である医師のチームがあたるだろう。ところが、医療システムを相手にするとなると、医療組織、プラットフォーム、健康基盤が問題となってくる。つまり、health research, health services, system science, health policy, social sciencesなどの広範はアプローチが必要となってくる。

"5S-KAIZEN-TQM"は日本ではモノつくりの製造業を中心に1960年代から1980年代まで規格大量擦り合わせ型モノツクリ・カルチャーがピークを迎えた時代に花咲いた手法だが、以下のような視点の加味が必要だと思う。

①モノではなくサービスにおいて展開するときには、product-dominant-logicからserice-dominant-logicへと転換させることが必要になるだろう。医療サービスは「サービス」なのだから。

②アメリカのように医療サービスを市場原理に過度の力点をおいて構成するのには無理がある。公・共の原理をいかに盛り込んでゆくのか。そのバランスが問われる。

③経営システムにはグローバルに普遍的な側面もあるが、国や地域に応じた多様な側面もある。すべてを一元的な収斂論に整理することはできないだろう。

④途上国の社会を支える医療システムを適切に進化させてゆくのは、社会イノベーション(social innovatin)。日本は市場化の側面が強調されがちだが、途上国では事情が異なっている。

医療システムは病院(hospital)だけが中心ではないが、途上国では病院が中心的存在だ。病院は労働集約的な組織である。モノツクリでは主要な対象はモノ(product)だが、医療サービスでは、いわずもがなのコト(service)。

医療サービスは人に始まり、人で終わる。すなわち、人的資源管理(human resources management)や組織行動(organizational behavior)の活性化がカギとなる。またそれらに依拠したツールが要請されるだろう。

以上を十分に包摂したフロントラインを支えるバックヤード・システムの高度化、適切化は途上国においても重要な課題である。

いずれにせよ、各論が大切だ。


原発事故後の官邸・国会の怠慢に満身の怒りを表明、児玉東大教授の国会証言

2011年07月29日 | 健康医療サービスイノベーション

今、仕事でアメリカのPortlandに来ていますが、日本を離れたときと相前後して重要極まりない証言が国会でなされました。

このブログの1カテゴリーの「健康医療サービスイノベーション」では、放射線物質、放射線の健康被害について3.11以来、日本のマスコミが伝えないマイノリティ情報を整理、分析してきています。

TwitterなどのSNSで拡散されている模様ですが、ことの重要さに鑑みて当ブログでも貼付けておきます。その映像はこちら

http://www.youtube.com/watch?v=O9sTLQSZfwo&feature=youtu.be

「原発事故後の官邸・国会の怠慢に満身の怒りを表明、児玉東大教授の国会証言。昨夜(7/29 AM1:00)ではアクセス数400が、今朝(AM9:30) 2万アクセスを越えた衝撃映像」


 


福島第一原発から漏れた放射能の広がり

2011年06月21日 | 健康医療サービスイノベーション

<早川由紀夫の火山ブログより>

政府や地方自治体が、放射線による包括的な汚染状況をほとんど公開していません。そんななか、群馬大学の「早川由紀夫の火山ブログ」さん(Twitterアカウント:HayakawaYukio)が、有用な情報を独自に調査、公開しています。

研究者としては学術的な研究成果は学会経由で公開というのが一般的です。しかし研究成果をブログやホームページを通して公開してもらうと、一気にその「恩恵」は一般化します。

放射線被ばくを最低限のレベルにとどめることは、健康状態にポジティブな影響を与えます。とすれば、この種の市民・研究者からのボランタリーな情報共有は健康医療サービスイノベーションの草の根版です。この情報をうまく活用すれば、「恩恵」となることでしょう。

しかしながら、その「恩恵」の受けとめ方は実に様々です。詳細は、上記ブログのコメントなどをご覧ください。


ニューエイジ・ムーブメント、原発事故、医療管理学

2011年06月07日 | 健康医療サービスイノベーション

せんだって、健康医療サービスイノベーションのからみで、日本医科大学の医療管理学教室教授の長谷川敏彦先生と逢った。そのときのディスカッションをちょっとメモしておく。

熱い議論を繰返していると、会話のなかに1970~1980年のニューエイジ(new age)の芳香がする用語がポンポンと。フリッチョフ・カプラ「タオ自然学」、ケンウィルバー「意識のスペクトル」、スタニスラフ・グロフ「自己発見の冒険」、「個を越えるパラダイム」、フランシスコ・ヴァレラ「知恵の樹 — 生きている世界はどのようにして生まれるのか」などは、1970~80年代に読まれたニューエイジの古典といったところか。

こういう文脈のノリで健康医療を議論するはとても刺激的だ。

医師として長谷川先生はハーバード大学公衆衛生大学院に留学中、かなり自由に知的探検をしていたとのこと。神学部にも出入りしながら、医療人類学のクラインマン(資料123)に師事したのを皮切りに、フリッチョフ・カプラ(の公式サイト)、ケンウィルバースタニスラフ・グロフフランシスコ・ヴァレラ、サンフランシスコ禅センターの片桐老師など、当時のニューエイジと言われていた思想家、科学者、実践者を総なめにインタビューして、ユリイカ、理想などの雑誌を舞台に日本に紹介していた。

このような多様な分野のニューエイジャーと実際に逢い、英語で議論をして、日本語の文章にして世に出すというのは異文化間コミュニケーションの実践。一言でいえば、グローバルリテラシーがないけばできないことだ。

 ニューエイジを生きてきた人々には、ある種の共通する雰囲気がある。やわらかい、権威をかさに威張らない、他者を受容する、関係性のなかでモノゴトを見て行動するなど。とかく大学のようなところでは、本当は権威がないのに自分では権威があると思いこんでいて威張りたがる人が多い。こういのは苦手だ。

     ◇    ◇    ◇

さて、長谷川先生の研究領域は、社会医学系の医療管理学というもの。「医学人類学の齊したもの」(長谷川敏彦、理想1985)のなかで、医療マネジメントに関係することろなどピックアップしておくと:

「現代西洋医学では、感染症を、19世紀末のコッホ理論にもとづいて、病原体=臨床症=感染症という直線的因果関係において一次元的に捉えてきた。このように疾病を実態的、機械論的に捉える疾患概念=特定病因論は、近代社会の感染性疫病の克服という輝かしい歴史的成果に助けられ、現代西洋医学一般の疾病観の主流をなしてきた」

「感染症を知らない狩猟民族の立場から、近代社会の感染症を分析すれば、その原因は、病原体なのではなく、都市への人口集中、労働、生活環境の変化、つまりI・イリイチのいうごとく、近代社会そのものがが感染症の原因と断定してもあながち誤りとはいえないだろう」(下線松下)

「生態学的システム論は、感染症における病原体の重要性を否定するものではない。病原体=感染症と捉える短絡的特定病因論に対し、その他の人口動態、文化、社会、環境などの要因を含めて、それらの関係性の中で感染症を捉えようとする、いわば全体論的視点(holistic perspective)なのだ」

「社会の側から見れば、この社会的関係性の名に外化した反復された問いの過程こそ、医学社会学でいう病気の役割(sick roll)に他ならない。そして治癒者(healer)が選びとられ、治癒者-被治癒者(healer-healee relationship)関係が取り結ばれた時、病気の役割は、さらに病者の役割(patient roll)に役割転換(role shift)する」

クラインマンを敷衍して:

「自らの身体への、そして社会の網の目への外化された問いを透かして、病気の身体的、文化的意味を探り続けることが医療の過程であるとするなら、その問いと答え、すなわち交通(comminication)と、その方法すなわち媒体(media)にその鍵が潜んでいるように思われる」

     ◇    ◇    ◇

医療崩壊・・・・。暗い言葉だ。そして感染症のみならず、病因としての原発事故による放射性物質が、撒き散らされ、放射線の低線量、長期内部被ばくというやっかいな重荷を背負ってしまった日本。原発を内部化してきた現代社会の仕組みそのものが、疾患の原因づくりにいそしんできたという構図がある。皮肉にも。

原発からやってくる電気は、人の生活や産業を支えて人々を幸福にするはずだった。でも原発事故によって幸福になる人はまずいないだろう。

医療管理と原発による健康被害。そんな時代のなかで、ニューエイジ思想が生きてくるのではないだろうか。いやがおうにも3.11を境に、新しい時代に突入してしまった日本。

社会の網の目の中で、関係性を紡いで、いっしょに生きてゆき、お互いが癒し、癒され、ヒーラーとしてケアをやりとりする社会。超高齢化社会、少生多死社会のなかは、医療管理のパラダイムさえもが、シフトしなければいけない。

日本は、経済成長という点ではピークアウトしているが、超高齢化社会、少生多死社会化という点では超先進国。ニューエージの遺産でもあるhuman potential development、transpersonal psychology、spiritualityが健康医療サービスの次元で、あたらしいヘルスケア・サービスモデルを体現すべきは、実は、日本なのかもしれない。ここの日本の先進性がある。(・・と言い聞かせて頑張ろう)


食料安全基準大幅改悪と民主主義

2011年06月04日 | 健康医療サービスイノベーション

放射線を発する物質を含む食物を人間に摂取させないようにする食料安全基準が大幅に甘くなってしまった。まさかの時、平常時を問わず、国民の安全を守るためのものが規準である。

科学的な知見を集大成し、国際的な学会の知見などを動員して長期間にわたって実行されてきた安全基準。

ところが原発事故を境にして大幅に規準が甘くなった。暫定基準値というものだ。

上図のようにその甘さは海外の国々と比較すると異常だ。いったいなんのための規準なのか?

3.11以前の正しい規準をあてはめると、膨大な量の食料がアウトになってしまう。それでは生産者も困るし、損害賠償も巨額になる。食料需給が狂い、安全食料の価格が上がってしまう。この国をガバナンスする為政者にとってそれは都合のよいことではない。

だから、規準を大幅に甘くして暫定規準を作りなおした。暫定規準とはウソの規準である。

危機管理、安全管理の大前提として、「人は過ちをおかすもの」という命題がある。基準管理においても、「人は過ちをおかすもの」という命題が当てはまるのである。この命題は実におそろしい。なぜなら、今回明らかになりつつあることは、「人は過ちをおかすもの」と知りながら、正々堂々と政府が間違いを確信的に侵しているのだから。危機管理、安全管理、基準管理、総崩れなのだ。

何年かして、疾患、健康被害が発症しても、「因果関係はかならずしも明確でない」ということにして、ウヤムヤにして逃げ切るのだろう。

そしてウソの規準を作って汚染された食物を国民に食べさせる、ということになった。国民の健康を守ることを放棄したのだ。

「民」を中心として、「民」が「主」の体制を民主主義体制という。あきらかに反民主主義的な行いだ。民主主義の衣を着たフィクシャスな体制は、それを守ろうとしているのだが、実は、崩壊の途上にあるのである。