![](http://reflexions.typepad.com/photos/uncategorized/2007/05/08/abegglen1_2.gif)
シコシコと4月から開講する新講座=人的資源論(HRM)のコースを作っている。ふと、ある人のことを思い出した。
日本国内のHRMというと、だいたい年功賃金、長期雇用、企業内組合といった高度成長期を支えた、いわゆる3種の神器がよく言及される。じつはそれを言い出した張本人とは知り合いだった。ジェームズ・アベグレン(James C. Abegglen)さんという。
マネジメント、MBA、MOT、まっとうな経営コンサルティング関係の人ならば知らなければモグリだろう。
Hayから独立して、会社経営でシノぎはじめた最初の2年間は、アベグレンさんが経営していた千葉市幕張新都心のインキュベーション・センターJBCに入っていたので、よく彼と雑談をしたものだ。高校生のころ、親父の本棚にあった彼の本をチラチラ読んだことがあったので、そんな話をすると、アベグレンさんはとても喜んでくれた。アベグレンさんの奥さんのアベグレン裕子さんにもお世話になった。
「アベグレンさん、『逃亡者』のデビット・ジャンセンに似てますよね」
といささか古いネタでヨイショすると、
「おお、昔はよくそういわれてね」
![](http://images.amazon.com/images/G/01/dvd/aplus/fugitive/fugitive5-hi.jpg)
たしかに経験カーブもシブイが、アベグレンさんはダンディでシブい人だった。なんとなく憂いを秘めた哲学的な表情で、"By and large.."なんていつもの口癖で話し始めると、もうたまらなかった。
ある日、昔話になり、はじめて彼は"Iwo-jima"を口にした。そう、アベグレンさんは初めて日本にやってきたのは硫黄島を攻撃する部隊の一員としてだったのだ。その後、彼は原爆の破壊力調査のために広島も訪れたという。
「僕の親戚も、硫黄島あたりの島でアメリカから日本を守るために戦ってましたよ。父は海軍航空隊で無線技師をしていましたが、アメリカと戦う前に戦争が終わって生き残りましてね。でもあの二発の原爆は断じて許しませんよ、はっきり言わせてもらいますが。一般市民を無差別に殺戮した人道上の罪ですよ。しかし、因果なものですね」
「・・・・・」
それやこれやで、見かけるとよくコーヒーを飲みながら戦争、戦後日本について雑談したものだ。金谷にある別荘にも招待されたが、忙しすぎてとうとう一回も行けなかったのが心残りだ。
でも時には軽い話にも花が咲いた。
「年功賃金、長期雇用、企業内組合って、アベグレンさんが言い過ぎたので、その後日本の経営学者や実務家は洗脳されたように、そのように思い込んじゃったんですよ。なにか根拠はあったんですか?」
とカマをかけると、アベグレンさんは、ニヤッとして、
「15人くらいの日本人経営者にインタビューしてだいたい分かったんだよ。観察ってやつだね。あれはいいフレーズだったね」と言っていた。
Hayの不出来なOBとしては、経営ジャーゴンに溢れる議論は大得意。アベグレンさんも熱い議論によく付き合ってくれた。
Lifetime commitment, Seniority-based wages, Periodic hiring, In-company training, Enterprise unionなどなど。これらすべてアベグレンさんが定義して海外の日本研究者のみならず、日本人経営者も当時まだそれほどいなかった経営研究者も彼の言説にすっかり飲み込まれちゃったのだ。
そんなアベグレンさんが世を去って2年だ。日本的経営をごく初期に定義し、その後、偉大なPath dependencyを内外の経営研究者、実務家のコミュニティに図らずもセットしてしまったこの不思議な日本分析者について、いささかのコメントを教室ですることになる。
これも因果か。不思議といえば不思議だ。
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