よしなごと徒然草: まつしたヒロのブログ 

自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

世界中に張り巡らされた根茎と化すウォール街占拠運動

2012年06月07日 | 恐慌実況中継

季刊誌「人間会議」に寄稿しました。詳細はこちらから。

<以下貼り付け>

「ウォールストリートを占拠せよ」(Occupy Wall Street:以下、OWS運動)ではソーシャルメディアが多用されたことが知られている。OWS運動は、社会システムのやぶれ、ねじれのようなものだ。筆者はOWS運動を、変幻自在に「空間」に根を張りめぐらせる複雑なリボゾーム(根茎)のようなものに見立てている。そこでは、さまざまな「差異」が既存の社会システムに意義を唱え、反対・反抗のメッセージを拡散している。

4つの反抗は米国の根幹を問う

当初は、実に様々な反対・反抗のメッセージが乱舞していたが、運動の過程を経て、それらの反抗のメッセージは、大別して4つに集約されてきている。

大量失業問題無策に対する反抗
米国の統計では失業率は9パーセントと言われている。しかし、非正規労働者で十分な賃金を得ることができない「アンダー・エンプロイメント」を含めると17パーセントという高い数値となっている。特に若者の失業問題は深刻だ。労働市場から排除されている人々が多すぎるのである。これらの背景から、オバマ政権は、失業問題に対して有効な政策をとっていないという批判が噴出した。

格差に対する反抗
富裕層上位1パーセントが全米所得の20パーセントを占めている。そして資産規模では上位10パーセントに属する人々が全米の資産の90パーセントを占めるという強烈な所得格差、資産格差がやり玉にあがっている。「99%の私たち」というスローガンには、「1パーセントのアメリカ人が占有する富に対して99パーセントのアメリカ人は排除されている」という問題意識が顕れている。もはや、この圧倒的な格差を容認すべきではない、という反抗である。

民主主義の換骨奪胎に対する反抗
さらに進んで、この格差を放置しているアメリカの民主主義はどうなっているのか、という疑問がある。圧倒的多数の持たざる「民」のために民主主義はあるはずなのに、まったくそうなっていない現状に対する反抗である。

強欲・金融資本主義への反抗
先に上げた3つの反抗は、行きつくところ現行の体制のバックボーンである資本主義のあり方に向かっている。99パーセントの人間が直接関与している実物経済を活性化させるより、むしろ、それに寄生して利益を収奪する強欲・金融資本主義が諸悪の根源というのである。その象徴としての「ウォールストリート」がやり玉に挙がっているという構図だ。

これら4つの理由が結合すると、明確な体制への反抗となる。すなわち、米国流のフリーマーケット(自由市場)によって、「自由」を享受できるのは、わずか1パーセントの富裕層である。特に実物経済にレバレッジを掛けて欲しいまま儲けて、破綻すれば、税金によって救済される大手投資銀行の存在に、人々は、強欲・金融資本主義の米国国家との結託を見てとった。それらの結託はアメリカの国是であるはずの民主主義の根本を否定するものなのだと。OWS運動は、現下米国の、市場主義、資本主義、民主主義のありかたに対する先鋭な反抗なのである。

<以上貼り付け>


世界同時株安

2012年05月31日 | 恐慌実況中継

本ブログでは、2008年から、「恐慌実況中継」とブッソウなコラムを書いてきました。すでに世界恐慌への緩やかな過程に入っていると言う見たてで綴ってきました。

日経BP社日経ITProでやっている「経営に活かすインテリジェンス」という私の連載コラムから引用しておきます。(この連載は会員向けのプレミアム・コラムで、小手先のビジネステクニックや、ノウハウ、スキルには飽き足らないという奇特な読者の方々のために、教養系リテラシーやインテリジェンスについて書いています)

第26講:強欲金融資本主義の断末魔と自由の暴走

(↑会員になると無料で読めるそうです)

<以下引用>

増幅して繰り返される歴史

 今回の欧州危機では対象がギリシャであり、米国を中心とした多数の金融機関がギリシャ破綻による債務不履行を保証するためのCDSや合成CDOを抱き合わせ販売している。「PIIGS」と呼ばれる財政基盤が脆弱なEU加盟国(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)に共通する問題でもある。

 2008年の時点で、CDSの欠陥が露呈していたわけだが、実はその後もCDSは多用されていている。その最大の理由は、CDSは金融リスクマネジメント上、必要な金融派生商品であると市場関係者が判断したからだ。破綻リスクをプロテクトするCDSを強く規制することはなかった。

 欧州の金融を安定化させるはずの欧州金融安定機構でさえもが、CDSを活用している。欧州金融安定化機構が発行する債券が暴落する時が、すなわち、ユーロ液状化が現実に近づく時となる。ここでもCDSや合成CDOのカラクリが事を複雑にしている。

 もともとは国家財政を粉飾してEUに加盟したギリシャの為政者に問題があったのは事実。しかし、財政危機に陥ったギリシャが膨大な額の国債を発行して資金を調達できたのは、CDSの保証があったからである。

 融資、投資をする金融機関、ヘッジファンドなどは、ギリシャが債務不履行に陥った時の安全パイとしてCDSを買うことにより、リスクヘッジをしてきたのである。ゆえに当事者たちにとっては、単純にCDS=悪玉ではない。

 ちなみに、ヘッジファンドとは、私募によって機関投資家や富裕層から私的に巨額の資金を集め、金融派生商品などを活用した手法で運用するファンドの総称である。租税回避地に登記されることが多く、法人ではないので、さまざまな金融規制の対象外である。SEC(米証券取引委員会)などの当局に帳簿を厳格にチェックされることもないので、競争相手や規制当局に手の内を見られることが少ない。

 話を戻そう。CDSを買った機関投資家にとって、ギリシャ国債が債務不履行になれば保険金が入ってくる。つまり、彼らにとってギリシャが債務不履行になってくれた方が得になる。

 一方、CDSを売却した企業からすれば、債務不履行が発生した場合に保険金を支払わなければならない。ところが、手元にそんな巨額の資金はない。ないカネは払えない。したがって、CDSを売った者にとっては、債務不履行は何としてでも避けたいところだ。

 このような事情があるので、ギリシャ国債を債務不履行にさせずにCDSの決済を回避したい勢力は、自主的な債務減免に持っていこうとする。債券を保有している投資家から見れば、「自主的」に債券を帳消しにさせられるわけなので、たまらない話だ。

<以上引用>

もとより、世界金融恐慌は、進行しているという見方にたって、表面的な経済事象の裏側の事象を追ってきましたが、どうやら、マズい方向にコトが進んでいます。しかも着実に・・・。

やはり震源地はギリシャです。ギリシャはこれまで大きな財政赤字をつくることで経済を発展させ、5人に1人以上が公務員のギリシア国民は豊かな生活を享受してきました。でもUEに加盟した時は粉飾・ウソの財務諸表を仕立て上げてインチキをしました。

ギリシア人は、膨大な借金を自力で返済できなくなり、年金カット、リストラ、失業で国民は苦しい生活を強いられました。その結果、『もうこんな状態は耐えられない』として借金の返済を拒むという「やらずボッタクリ」を主張する政党が5月に行われた総選挙で一躍飛躍しました。

よくないシナリオは:

①6月の再選挙で反財政緊縮派が政権を取る→②財政カットの内容が大幅に見直される。→③財政再建を前提に資金供給してきたECB(欧州中央銀行)、IMF(国際通貨基金)などからの資金提供が止まる。→④全面的なデフォルトが発生。→⑤ギリシャ国内で預金封鎖。→⑥連鎖して欧州(スペイン、イタリアを中心)で金融危機勃発→⑦日本を含め世界に波及、連鎖。

がさネタや素人の観測に頼らず、公開されているデータを活用して、恐慌の進展度合いをウオッチする指標が少なくとも4つあります。(1)長期国債金利、(2)国債に設定されているCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)レート、(3)金融機関向けに設定されているCDSのレートと、(4)金価格です。

よくないシナリオの大儲けをたくらむ国際投機筋がいるいっぽうで、ドフォルトにともなうCDSの決済資金ショートが現実味を帯び始めています。

その動かぬ根拠として、スペインのサンタンデール銀行やイタリアのウニクレディトなどの欧州の金融機関向けのCDSが立て続けに上昇しています。1金融機関がドフォルトするだけでも、その破壊的威力はリーマンショックを凌ぐことになります。

3金融機関がデフォルトすると、一気に金融恐慌が表面化することになります。5月末金価格はgあたり4100円と低いレンジで推移していますが、金価格の暴騰は、以上のシナリオを織り込めば、現実化してゆくことでしょう。

 


米国債デフォルト:緊急レポート

2011年07月31日 | 恐慌実況中継

Oregon州のPortlandでブログを書いています。

Stanford University, Portland State University, The Portland University, Washington University,Cornellなどの気鋭の社会科学系研究者とプライベートなミーティングをしました。資本主義の未来について議論する集まりですが「米国債のデフォルト」について話題が集中しました。

①ジョージソロスがファンドをやめたこと、②事実上の金の売買の停止宣言の織り込み化。これら2つがなにを意味するのか?

 米国では7月15日に施工された金融規制法「ドッド・フランク法」によって、金の売買が規制される環境が整いつつあります。この法案は未認証取引業者ディーラーを対象にして、金などのデリバティブ商品の売買を停止するというものです。市場のセンチメントは、当局がその可能性を否定はするものの、米国の連邦債務上限の引き上げに合意に至らないこと、そして今回合意に至っても抜本的な解決策はないとのこと(つまり米国債デフォルト)を織り込みつつあります。

このフォーラムでは、デフォルトは100%あり得るという見解を示す研究者が多かったです。ジョージソロスはこの未曾有の事態に顧客と自己のポジションを守るために、早々にファンドを閉じて、顧客へのリターンを確定させました。当然、金融の大混乱(ペーパーマネー価値の暴落)を見越した行動です。

このような動きを実に正直に反映して、金の価格がこのところ高騰しています。(マネーは嘘をつきますが、Goldのほうが長期的には正直です)だから、米国政府(いずれ日本もそうなるだろう)はペーパーマネーから実物(金、銀、プラチナなどが代表格)へマネーがシフトするのを必死になって防ぐことになるでしょう。

米国は計画倒産に備えて着々と手を打っています。抜け目ないユダヤ系知識人は、シビアな政策分析の結果、そっと資産防衛に走っています。「おれはこうやっている」「こっちのほうがいいよ」、そんな本音の意見交換ができただけでもPortlandへやってきた価値があろうかというものです。

 

今や、米国の政策分析系の研究者は米国債のデフォルトについて、まずまちがいなくあり得る、問題はその時期、ということでほぼ見解が一致しています。日本のマスコミもチラホラこの問題を扱い始めていますが、まだまだ本気度が低いです。(地震、原発、なでしこetc...がニュースの中心で、ある意味目くらまし)

このような時にどう対処したらよいのか?それについては「恐慌実況中継」の中で繰り返し書いてきたので、時間のある方は過去のエントリーに目を通してください。(損はしないと思います)


いよいよ米国債デフォルト

2011年06月17日 | 恐慌実況中継

2011~2012年は本当にひどいことが連続して起こる。津波とFUKUSHIMA原発事故と未曾有の放射線物質の環境への大放出。そして現在進行中の恐慌がいよいよ、誰の目にもハッキリしてくる。

市場という信仰の上に構築されてきた原理が崩壊する姿が目の前に現れている。

<以下貼り付け>

◎米国のデフォルトを懸念、対米投資継続の用意ある=中国金融政策委員

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-21602220110608

北京ロイター

中国人民銀行(中央銀行)の李稲葵・金融政策委員は8日、歳出削減をめぐる米議会の折衝が難航していることを受けて、米国がデフォルト(債務不履行)に陥るリスクに対し懸念を表明した。 

歳出削減に向け、一部の米議員では、短期的なデフォルトなら容認できるかもしれないとの見方も広がる中、世界最大の米国債保有者である中国が、米国のデフォルトリスクに対する懸念を鮮明にした格好。

委員は会合の合間に「米国がデフォルトに陥るリスクがある。実際にそうなれば、影響は極めて深刻だ。米国が火遊びを止めることを望む」と発言。「中国政府は、米政府が大局的な見地に立つことを心から希望する」と述べた。

その上でデフォルトになった際には、中国政府は米政府と協議すべきとした。

また李委員は「デフォルトとなれば、ドル安を招く恐れがあるため、デフォルトのリスクを非常に懸念している」と指摘した。

「中国は米国債を売却しないと約束することができる。ただ、米国も対米投資の安全性を保証することで、中国の利益を害しないよう約束しなければならない」と述べ、米国債保有を続ける用意があることを示すとともに、対米投資の安全性を確約するよう米国に促した。

中国が米国債を売却すれば、パニック的な売りを誘い、さらにドルの価値を押し下げることになりかねず、中国は身動きの取れない状況を余儀なくされているとの事情がある。

◎22011年6月5日   田中 宇

今から7月中旬まで1カ月半の時間があるが、米議会は1週間の休会が2回はさまるので、議論できる期間は6月13日からの2週間と、7月6日からの2週間だけだ。共和党が米国債上限引き上げ絶対拒否の姿勢なので、6月中は議論が進まないだろう。8月に入ると長い夏休みなので審議できない。となると、本気の議論が行われるのは7月6日からの2週間だけになる。その間に2大政党間で話が妥結しなければ、米国債デフォルトの可能性が一気に強まる。

今後、米国債がデフォルトするとしたら、それは経済的(市場原理的)な理由からでなく、議会のばかげた論争の結果としての政治的な理由からであり、政治的デフォルトとなる。

CNBCは「米経済指標が、崖から落ちるように悪化している」と書いている。景気が再び悪化したら、米政府は追加の対策が必要になるが、議会で赤字縮小ばかりが論じられる中で追加対策は難しい。QE2の延長も、やりそうもない。米経済は危険さを増している。

財政破綻と金融危機を引き起こすのに「デフォルトした方が良いんだ」と豪語する米共和党は、大間抜けか売国奴である。米マスコミは、それをほとんど指摘しない。 

以上 田中宇のサイト引用  米国債政治デフォルトの危機

<以下貼り付け>

私のコメント

このブログでは2008年から進行中の世界恐慌を描写してきたが、米国債デフォルトのことも口を酸っぱくして予測してきた。

強欲カジノ資本主義総本山総崩れ、米国発恐慌が近い(2008年09月06日

米国債暴落という悪夢は取り繕えず2009年07月11日

アメリカ地方銀行の惨状とゴールド急騰 (2010年12月17日)

欧州の経済メディアは、もっぱら米国債デフォルトの話題でもちきりだ。上記のように中国のメディアもかなり騒いでいる。日本が保有する米国債残高が帳消しになれば、国富はチャラパーになって消失する。

米国債チャラパー、日本国債暴落、株式暴落。あらゆるペーパーマネーが暴落し、紙屑となる。これ世界恐慌。そのかわり、実体のあるコモディティーは高騰してゆく。金はすでに5月末には史上最高のグラム4200円を突破している。

こんな深刻な事態なのになぜ日本人はもっと騒がないのか?汗水たらして一生懸命貯めてきた国富が、米国にだまし、かすめとられて、チャラパー。本当なら反米暴動が起こっても不思議ではない。いやはや。

原発事故によってタレ流しされている放射性物質の件でもそうなのだが、情報が当局とマスメディアによって操作されていて、この種のニュースは積極的に取り上げられずに意図的に操作されているからだ。トホホ。

市場という信仰の上に構築されてきた原理が崩壊する姿が目の前に現れている。いやがおうでも、生きてゆくために、次の原理を作っていかなければならないのだ。そう考えれば、多少とも前向きになれるというものだ。

競争→共生

占有→共有

私権→公共権

地球収奪型技術→地球共生型技術

金融資本主義→社会的共通資本主義



震・天・人・金・物の5重の災厄

2011年04月11日 | 恐慌実況中継

巨大地震の震災、津波(天災)、原発事故(原発政・産・官・学・報の村社会=共同体病=人災)の3つの災厄が日本列島に充満している。しかし、震災、天災、人災にとどまらない。実態は、それらに物災と金災とが加わり、震・天・人・金・物の5重の災厄が進行中である。

 2008年9月の第1週から恐慌プロセスを予見してきた。2009年07月11日 の時点では、米国債暴落のトレンドを指摘して恐慌シナリオが現実味を増してきたことを指摘した。

震災、原発事故は2つのベクトルを日本経済にもたらしている。復興→需要拡大、エネルギー不足→成長率低下、という二つのベクトルだ。復興需要を満たすため高価な石油、鉱物資源などの輸入は増加に向かう。食物やメタルのコモディティーは軒並み価格が高騰している。日本での原発人災のさなか、北アフリカではリビア攻撃に拍車がかかり、石油争奪戦の緒戦という色調となっていている。今後、ますます日本は高い価格のコモディティーを輸入に頼らざるを得なく、インポートインフレが起こってくる。モノの価格の高騰からもたらされる物災だ。

さて東北地方には穀倉地帯、漁場のほか、工業部門の自動車部品、電器、半導体工場などの製造拠点が集積している。これらの修復には時間がかかるので輸出の停滞を余儀なくされる。つまり、貿易黒字が赤字方向に振れてゆく。また資金不足の中での復興需要なので忌み嫌われた国債発行をして財政出動というシナリオに向かわざるを得ない。モノのコストが高騰する反面、ペーパーマネーの価値は暴落中。こうして日本国債の暴落シナリオが一段と近づいてきた。

そして強烈に痛みつつある米国マネー経済。いよいよ日米ほぼ同時国債暴落のカウントダウンが始まった。金(マネー)災だ。

<以下貼り付け>

 米連邦債務、5月16日までに上限到達 米財務長官 

2011/4/5 10:02 日経記事

 【ワシントン=矢沢俊樹】ガイトナー米財務長官は4日、議会指導者らに書簡を送り、米連邦政府の債務残高が5月16日までに米議会が定めた上限に到達するとの見通しを示した。米政府が一時的な債務不履行に陥った場合「より深刻な金融危機をもたらす」と、強い調子で議会に対応を促している。

債務上限法は米政府の債務は14兆3千億ドル(約1201兆円)までと定めており、この上限に達すると国債新規発行ができなくなるなど、予算執行に大幅な支障が生じかねない。同長官は書簡で「議会が上限引き上げに応じる以外の選択肢はない」と強調。ただ、大幅な歳出削減を主張する野党共和党は上限引き上げに反対姿勢を崩しておらず、議会での攻防が続いている。

<以上貼り付け>

米国債が下落すれば、米国にとって米株安、米ドル安、米国債安の悪夢のカードが揃ってしまう。恐慌シナリオがさらに現実味を増すから、最後の砦=米国債は、なんとしても格下げはできない。雪庇(せっぴ)の上の危険な山歩きが続きていたが、その雪庇を踏みぬけて奈落の底にマネー経済は落ちてゆく。

ガイトナー長官は「たとえ短期的もしくは限定的なデフォルト(債務不履行)であっても、向こう数十年にわたって続くような甚大な経済的結果を招くことになる」と言っている。リーマンショックを遥かに凌駕する負のインパクトを世界経済に与えることは必至。その時、日本が買わされ続けてきた米国債はチャラパーとなる。国富の消失だ。これを金災と呼ばずしてなんと言う。

国務長官のクリントンが日本にやってきたが、第7艦隊、ロナルドレーガンを繰り出し、原発事故出口戦略協力、震災対応協力(といっても30億円以上の請求書。米安保過剰請求のそのまた火事場泥棒のような請求書)をカードに、米国債の買い増しの圧力を必死に掛けに掛けた。保護国の日本としては日本国債の暴落圧力が日に日に増す中、暴落必至の米国債も買い増さなければいけないジレンマ。こうして日本経済は(も)メルトダウンしてゆく。

             ◇    ◇    ◇

3.11の教訓は大きい。震・天・人・金・物の5重の災厄をいかに淘(よな)げてゆくべきか、という命題にとって、3.11は終わりの始まり。今年は七赤金星が中宮に回座。金(マネー)は八方ふさがり。断末魔の金融資本主義。阿鼻叫喚の実物経済。そして恐慌。そのはけ口として争いごと、戦争が利用される。

終わりの始まり、から、始まりの始まり。よくないものや劣るものを上手に捨てて、よいものを選ぶ。まさに国家運営、企業経営、個人としての生き方に災いを転じて福となす智慧が問われている。


宇沢弘文東大名誉教授の提言

2011年03月01日 | 恐慌実況中継

宇沢弘文先生(東京大学名誉教授、日本学士院会員)とは昨年ドイツ研究所のカンファレンスで自分の発表をお聴きいただいた後、社会共通資本と医療のあり方をめぐって意見を交換させていただいたことがありました。一社会科学学徒として宇沢弘文先生が著した書物に触れてきたので、とても名誉なことでした。

その宇沢先生が、大変正鵠を得た提言をしています。重要な分析と提言なので全文再掲します。

原文はこちらから。

       ◇   ◇   ◇

菅政権のめざすことと、その背景 

<以下貼り付け>

上編:パックス・アメリカーナの惨めな走狗となって

◆TPP参加が意味するもの

 日本が現在直面している最も深刻な問題は、菅直人首相自ら「平成の開国」と叫んで、積極的に進めているTPP参加に関わるものである。

 TPPは、2006年5月、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国の間で締結された自由貿易協定を広く環太平洋地域全体に適用しようとする。2015年までに工業製品、農産物、金融サービスなどすべての商品について、関税、その他の貿易障壁を実質的に撤廃するだけでなく、医療、公共事業、労働力の自由化まで含めて、究極的な貿易自由化を実現することを主な目標に掲げて、政府間の交渉を進める。これまでオーストラリア、ペルー、米国、ベトナム、つづいてコロンビア、カナダが参加の意向を表明してきた。米国政府は東アジアにおける経済的ヘゲモニーを確保、維持するために、米国の忠実な僕として仕えている日本政府に対してTPPへの参加を強要している。

 貿易自由化の理念は、参加各国が同じ土俵に上って、同じルールにしたがって市場競争を行なうものである。このことが何を意味するのか、米国とベトナムを例にとって、農業に焦点を当てて考えてみよう。

◆ベトナム戦争がもたらしたもの

 ベトナム戦争の全期間を通じて、米国は、歴史上最大規模の自然と社会の破壊、そして人間の殺戮を行なった。米軍がベトナムに投下した爆薬量は、第二次世界大戦中を通じて全世界で使用された量の、じつに3倍を超えている。その上、ダイオキシンを大量に撒布して、森林を破壊し、すべての生物の生存を脅かす枯葉剤作戦を全面的に展開した。戦争が終わってから30年以上経った現在なお、奇形をともなった幼児が毎年数多く生まれている。広島、長崎への原爆投下にも匹敵すべき、人類に対する最悪、最凶の犯罪である。また20%近い森林はダイオキシンに汚染されて、竹以外の植物の生育は難しい。農の営みに不可欠な役割を果たす森林の破壊は深刻な傷跡を残している。

 他方米国は、英国植民地時代から何世紀にも亘って、先住民族の自然、歴史、社会、文化、そしていのちを破壊しつづけた。米国の農業は、先住民族から強奪した土地を利用して、氷河時代に蓄積された地下水を限界まで使って行なわれている。そして米国の都市構造、輸送手段、産業構造は極端な二酸化炭素排出型であって、人類の歴史始まって以来最大の危機である地球温暖化の最大の原因をつくり出してきた。

◆「開国」とは何だったか?

 このような極端な対照を示す米国とベトナムが、農産物の取引について、同じルールで競争することを良しとする考え方ほど、社会正義の感覚に反するものはない。米国とベトナムほど極端ではないが、同じような状況が世界の多くの国々について存在する。このことが、現行の平均関税の格差になって現われている。各国は、それぞれの自然的、歴史的、社会的、文化的諸条件を充分考慮して、社会的安定性と持続的経済発展を求めて、自らの政策的判断に基づいて関税体系を決めているからである。

 関税体系は、それぞれの国の社会的共通資本と私的資本の賦与量の相対的比率に密接な関わりをもち、経済的諸条件、とくに雇用に大きく影響を与えるだけでなく、資本蓄積の具体的な構成、さらに経済成長率にも影響を及ぼし、将来の経済的諸条件に対しても不可逆的な影響を与える。

 菅直人が「平成の開国」と叫ぶとき、「安政の開国」を念頭に置いてのことであろう。1858年井伊直弼によって締結された日米修好通商条約は、治外法権、関税自主権の放棄、片務的最恵国待遇からなる極限的な不平等条約である。

 「安政の開国」の結果、日本の経済、社会は、とくに農村を中心として、致命的なダメージを受けることになった。農村の窮乏、物価騰貴、それにともなう社会不安が、桜田門外の変、明治維新を経て、不平等条約改正への大きな流れを形成していった。しかしその道は厳しく、関税自主権の完全回復は1911年になってようやく実現した。
 その後も、日本の国民の多くには、列強に対する強烈な被害者意識が心の深層に厳しく残っていて、暴虐な軍国主義の台頭を許し、つぎつぎとアジアの隣国を侵略し、無謀な太平洋戦争に突入し、そして敗戦の苦しみを嘗め、挙句の果てにパックス・アメリカーナの惨めな走狗となってしまった。

 菅直人が虚ろな顔をして「平成の開国」と叫ぶとき、日本の首相としてこの歴史をどう考えているのだろうか。

◆自由貿易は人間を破壊する

 自由貿易の命題は、新古典派経済理論の最も基本的な命題である。しかし社会的共通資本を全面的に否定した上で、現実には決して存在し得ない制度的、理論的諸条件を前提としている。生産手段の完全な私有制、生産要素の可塑性、生産活動の瞬時性、全ての人間的営為に関わる外部性の不存在などである。

 この非現実的、反社会的、非倫理的な理論命題が、経済学の歴史を通じて、繰り返し登場して、ときとしては壊滅的な帰結をもたらしてきた。ジョーン・ロビンソンがいみじくも言ったように、自由貿易の命題は支配的な帝国にとって好都合な考え方だからである。十九世紀から二十世紀初頭にかけての英国、二十世紀後半の米国に象徴される。

 その結果、世界の多くの国々で、長い歴史を通じて大事に守られてきた社会的共通資本が広範に亘って破壊されて、図り知れない自然、社会、経済、文化、そして人間の破壊をもたらしてきた。

◆社会的共通資本を守るのが政府の役割

 社会的共通資本は、一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような自然環境や社会的装置を意味する。

 山、森、川、海、水、土、大気などの自然環境、道、橋、鉄道、港、上・下水道、電力・ガス、郵便・通信などの社会的インフラストラクチャー、そして教育、医療、金融、司法、行政、出版、ジャーナリズム、文化などの制度資本から構成される。とくに自然環境は、それぞれの国、地域の人々が長い歴史を通じて、聖なるものとして大事に守って、次の世代に伝えつづけてきたものである。

 社会的共通資本の管理について、一つの重要な点にふれておく必要がある。社会的共通資本の各部門は、重要な関わりをもつ生活者の集まりやそれぞれの分野における職業的専門家集団によって、専門的知見に基づき、職業的規律にしたがって管理、運営されなければならない。

 社会的共通資本の管理、運営は決して、官僚的基準に基づいて行なわれてはならないし、市場的条件によって大きく左右されてもならない。社会的共通資本は、それ自体、あるいはそこから生み出されるサービスが市民の基本的権利の充足にさいして重要な役割を果たすものであって、一人一人の人間にとって、また社会にとっても大切なものだからである。

 政府の経済的機能は、さまざまな社会的共通資本の管理、運営がフィデュシァリー(社会的信託)の原則に忠実に行なわれているかどうかを監理し、それらの間の財政的バランスを保つことができるようにするものである。政府の役割は、統治機構としての国家のそれではなく、日本という国に住んで、生活しているすべての人々が、所得の多寡、居住地の如何に関わらず、人間的尊厳を守り、魂の自立を保ち、市民の基本的権利を充分に享受することができるような制度をつくり、維持するものでなければならない。

◆パックス・アメリカーナと新自由主義、市場原理主義

 第二次世界大戦後、パックス・ルッソ=アメリカーナ、一方ではロシアの力によるロシアのための平和、他方ではアメリカの力によるアメリカのための平和がお互いに厳しい緊張関係を形成しつつ、世界中いたるところで、自然、歴史、社会、文化、そして人間を破壊してきた。

 1945年8月、日本軍の無条件降伏とともに始まったパックス・アメリカーナの根幹には、新自由主義の政治経済的思想が存在する。新自由主義は、企業の自由が最大限に保証されるときにはじめて、一人一人の人間の能力が最大限に発揮され、さまざまな生産要素が効率的に利用できるという一種の信念に基づいて、そのためにすべての資源、生産要素を私有化し、すべてのものを市場を通じて取り引きするような制度をつくるという考え方である。

 水や大気、教育とか医療、また公共的交通機関といった分野については、新しく市場をつくって、自由市場と自由貿易を追求していく。社会的共通資本を根本から否定するものである。


◆国民の志をうち砕くな

 市場原理主義は、この新自由主義を極限にまで推し進めて、儲けるためには、法を犯さない限り、何をやってもいい。法律や制度を「改革」して、儲ける機会を拡げる。そして、パックス・アメリカーナを守るためには武力の行使も辞さない。水素爆弾を使うことすら考えてもいい。ベトナム戦争、イラク侵略に際して取られた考え方である。

 小泉政権の五年半ほどの間に、この市場原理主義が、「改革」の名の下に全面的に導入されて、日本は社会のほとんどすべての分野で格差が拡大し、殺伐とした、陰惨な国になってしまった。この危機的状況の下で、2009年9月歴史的な政権交代が実現した。

 しかし、国民の圧倒的な支持を得て発足した民主党政権は、大多数の国民の期待を無惨に裏切って、パックス・アメリカーナの走狗となって、卑屈なまでに米国の利益のために奉仕している。

 普天間基地問題に始まり、今回のTPP加入問題にいたる一連の政策決定が示す通りである。戦後60有余年に亘って、平和憲法を守り、経済的にも、社会的にも、安定した、ゆたかな国を造るために、大多数の国民が力を尽くしてきた、その志を無惨に打ち砕くだけでなく、東アジアの平和に恒久的な亀裂をもたらしかねない政策決定を行なおうとしている。心からの憤りを覚えるとともに、深い悲しみの思いを禁じ得ない。

下編:社会的共通資本の視点に立って日本の農業を守る

◆農の営みのもつ重い意味

 農の営みは人類の歴史とともに古い。むしろ人類を特徴づけるものとして農の営みが存在するといってもよい。

 農業は、自然と直接的な関わりをもちつつ、自然の摂理にしたがって、自然と共存しながら、人類が生存してゆくために欠くことのできない食料を生産し、衣料、住居を作るために必要な原材料などを供給する機能を果たしてきた。しかも人々が農業に従事するとき、概ね各人それぞれの主体的意志に基づいて、生産計画をたて、実行に移すことができる。

 農業のもつ、この基本的性格は、工業部門での生産過程と極めて対照的なものである。工業部門で生産に従事する人々の大部分は、それぞれ特定の企業組織に属して、その構成員として、企業の経営的な観点からの指示にしたがって、生産に関与する。

 このような状況のもとでは、商品化された労働力と、労働者の人格的主体との間には、厳しい緊張関係が形成されるのが一般的である。資本主義的な分権的市場制度のもとで企業活動が行われるときにも、社会主義的な中央集権的経済計画にしたがって生産が行われるときにも、このようなかたちで形成される自己疎外は、例外的な現象ではなく、広く一般的な性格をもち、現代社会の病理現象を特徴づけるものとなっている。

◆日本列島の豊かさを活かす

 これに反して農業部門では、そこに働く人々が自らのアイデンティティを維持しながら、自然のなかで自由に生きることが可能となる。

 農業部門における資源配分の非効率性を惹き起こす主な要因は、自然的条件の予期せざる変動に基づくものか、投機的な誘因に基づく農産物の市場価格の異常な変動、あるいは政策的要因に基づく生産条件の攪乱である。農業の生産にかかわる内在的要因に基づくものではない。

 さらに、農業における生産活動の特徴として挙げなければならないのは、自然環境の保全に関わるものである。農業部門における生産活動は基本的には、自然的条件に大きな改変を加えることなく行なうことができる。とくに日本農業の場合、水田耕作を主としているため、大きな保水機能をもつとともに、夏季における温度調整に重要な役割を果たしている。さらに日本の水田耕作は、耕作者が絶えず水田に入って撹拌するため、メタンの発生を最小限に止め、地球温暖化の防止という点からも優れた効果をもつ。

 日本は、極めて特異な地理的構造をもつ。とくに河川の急勾配と多雨地域の存在によって、森林の保全が自然環境の維持のために不可欠な要件となっているだけでなく、文化的、社会的な面からも重要な役割を果たしてきた。

 森林を良好なかたちで保全、維持するためには、林業との関わりが重要となる。林業に従事する人々が絶えず森林に入って、作業を続けることによって初めて、森林を良好なかたちで保全してゆくことが可能となる。このことはとくに日本の森林の場合、重要な意味をもつ。林業経営が可能となるような条件が整備されていないときには、森林の保全、維持は極めて困難となる。

◆農こそ人間的な営み

 また、日本は海に囲まれて、豊かな水産資源に恵まれた国である。それはもっぱら、海の生物の多様性について、世界で最も高い国の一つだからである。

 温度差が20度もある暖流と寒流が日本列島を守るように囲んでいて、複雑な海岸線がつくり出す多様な海岸環境が、生物の多様性を持続的に保全している。内湾の奥深くには干潟、岬の突端には磯があり、その間に砂浜、岬と岬の間には礫浜がある。加えて川の流入が海岸の生態系の多様化に貢献している。

 さらに赤道太平洋の西部、琉球諸島からオーストラリア北部にかけての海域は世界で最も海の生物多様性の高いところである。これはもっぱら、琉球諸島の豊かなサンゴ礁の存在による。
 この日本列島の海の生物多様性は、第二次世界大戦後の六十有余年の間に決定的に壊されてしまった。干潟は、半分以上の面積が、埋め立てや浚渫によって失われてしまった。大都市の周辺では、干潟そのものが消滅してしまった所が多い。藻場の沖にある砂堆の消滅は、海砂採取によって破壊的な規模をもって進行してきた。これらの海砂は、コンクリートの骨材として、高速道路や高層建築物の建設に使われ、陸上の自然のエコロジカルな均衡を破壊し、都市を醜悪な姿に変えていった。

 農の営みに重要な役割を果たす自然環境は、人々が生き、人間的な営みを行なうためにも重要な、不可欠な役割を果たす社会的共通資本である。その大切な自然環境をコンクリートの固まりによって無惨に破壊しつくしてしまった。

◆社会的共通資本としての農村

 農業の問題を考察するときには、農の営みが行われる場、そこに働き、生きる人々を総体として捉えて、農村という概念的枠組みのなかで考えを進めなければならない。

 一つの国が、単に経済的な観点からだけでなく、社会的、文化的な観点からも、安定的な発展を遂げるためには、農村の規模が安定的な水準に維持されることが不可欠である。とくに、農村で生れ育った若者の人数が常にある一定以上の水準を保って、都市で生れ育った若者と絶えず接触することによって、すぐれた文化的、人間的条件を作り出すことが肝要である。

 しかし、資本主義的な経済制度のもとでは、工業と農業の間の生産性格差は大きく、市場的な効率性を基準として資源配分がなされるとすれば、農村の規模は年々縮小せざるを得ない。さらに、国際的な観点からの市場原理が適用されることになるとすれば、日本経済は工業部門に特化して、農業の比率は極端に低く、農村は事実上、消滅するという結果になりかねない。

◆農村の最適規模を維持する

 このような状況のもとで、まず要請されることは、農村の規模をある一定の、社会的な観点から望ましい水準に安定的に維持することである。

 政府の役割は、農村における経済的、社会的、文化的、そして自然的環境を整備して、農村での生活を魅力的なものとして、実際に実現される農村の規模が最適水準に維持されるようにすることである。それは単に農業の生産活動のために必要な生産基盤整備だけでなく、快適な生活を営むことのできる住居や学校、病院、さまざまな文化的施設、さらには道、公共的交通機関などという社会的インフラストラクチャーをも含む。つまり、農村を一つの社会的共通資本と考えて、人間的に魅力のある、優れた文化、美しい自然を維持しながら、持続的な発展を続けることができるコモンズを形成するものである。

 しかし、このような経済的、環境的条件を整備するだけでは工業と農業との間の大きな格差を埋めることはできない。何らかのかたちでの所得補助が与えられなければ、この格差を解消することは困難である。差し当たって考えられる手段は、農家に対する所得補助である。それは農家単位当たり一定額の給付のかたちをとるべきで、農家の規模あるいは生産量に無関係でなければならない。

◆コモンズとしての農村を守る

 これまでの日本の農政は、農業を一つの資本主義的な産業として捉えて、農業に従事する人々を単なるホモエコノミクス(一介の経済人)とみなして、効率性のみを追うという偏見にあまりにも大きくとらわれてきた。農の営みという最も本源的な機能を担ってきた人々がもつ、すぐれた人間性とその魅力的な生き方が、日本社会の社会的安定性と文化的水準の維持という視点からこれまで大きな役割を果たしてきたし、またこれからも果たしうることが忘れられてしまっている。

 農業基本法は、一戸一戸の農家を一つの経営単位と考えて、工業部門における事業所ないしは企業と同じような位置付けを与えた。自立経営農家という概念に示されるように、一戸一戸の農家が、それぞれ主体的に生産計画を立て、雇用形態を決め、投資にかんする決定を行ない、その農業所得を基準として行動するという点で、工業部門の一企業と同じような役割を果たすものとされてきた。

 このような意味での一つの独立した経営主体である農家が、工業部門の企業と同じような条件のもとで、市場で競争する。その結果、市場競争に敗れた農家は、第二種兼業農家なり、あるいは他の職種に転換させ、生産効率が高く、工業部門の企業と競争して十分に存立しうる農家を自立経営農家として位置づけようとした。そして農業部門に対して、生産基盤の整備、構造改革、価格維持政策などの多種、多様なかたちでの保護政策を展開してきた。

 しかしこれらの保護政策は工業部門においてなされてきた明示的(explicit)あるいは陰伏的(implicit)な保護政策と比較したとき、その規模、性格において全く比較できないほど小さなものにすぎなかった。その上、農村に生まれ、育った子どもたちを「拉致」して都会で働かせることを日本ほど大々的に強行して、農村の空洞化を招来させた例を私は寡聞にして知らない。

 農業部門における生産活動に関連して、独立した生産、経営主体として捉えるべきものは、農村として、広く社会的、文化的、自然的環境のなかで生きる生活者の集まりとして位置づけるものでなければならない。その上で、日本農業の置かれた苦悩に充ちた状況を超克して、新しい農村を形成する契機を求めることが、日本の農政に求められている。

 しかし現実には、農業生産法人の要件緩和などを通じて一般法人の農業参入を許し、さらに農地所有権解禁に道を開こうとしている。今ここで、TPPに参加することになれば、長い歴史を通じて大切な社会的共通資本として、人々の血と汗によって守られてきたコモンズとしての日本の農村は壊滅的な影響を受けて、事実上、消滅してしまうことになりかねない。

 日本は今、「安政の開国」を迫られたときと同じような危機的状況に置かれていることを私たちは肝に銘じなければならない。

<以上貼り付け>

宇沢弘文先生は若かりしころ、スタンフォード大学のケネス・アロー教授に認められ、1956年に研究助手として渡米しています。その後、スタンフォード大学、カリフォルニア大学で研究活動を行い、1964年シカゴ大学経済学部教授に就任しています。

Econometric Societyの終身Fellowであり、1976年から1977年までEconometric Society会長を勤められています。

渡米しながらも米国の体制に飲み込まれず、経済学という学問を通して一貫して米国の市場原理主義、ないしはその基底をなしてきた新自由主義を正確かつ堂々と批判し、社会共通資本を重視する視座から本質的な提言を繰り返されています。


アメリカ地方銀行の惨状とゴールド急騰

2010年12月17日 | 恐慌実況中継
年の瀬なので経済アウトルック=恐慌実況中継をまとめます。

このところ、米国国内の地方銀行の破綻が強烈な勢いで進行中ですが、日本の大手マスコミはこの重大な動向を全くと言っていいほど報道していません。

エビゾーかカニゾーか知りませんが、あの低俗ニュースの10分の1でもいいので、マスコミは米国の草根経済の報道をすべきなんですが、そうもいかないようです。

さて米国の草根経済過去5年間の実体を雄弁に物語るデータは米国地方銀行の破綻件数です。ざっと、以下のような推移を辿っています。

2006年 0件
2007年 3件
2008年 26件
2009年 140件
2010年 151件(12月17日まで)

米国の地方銀行の破綻件数は激増中です。Failed Bank Listというリストが公開されています。Federal Deposit Insurance Corporation (FDIC)が破綻銀行の処理業務にあたっていて、この組織が、銀行利用者、投資家などステークホルダーのために破綻地方銀行を公開しています。

The Federal Deposit Insurance Corporation (FDIC)は米国政府が経営する企業で、もとはといえば、1933年のGlass-Steagall Actによってできた会社です。銀行が破綻した時の貯金保険を提供して消費者を保護し、銀行が破綻した時のマネジメントを行っています。

Wikipediaにも信頼がおける破綻情報を集約した米国破綻米国地方銀行リストがあります。

このところダウ式平均株価が戻しつつあり、なんとなく米国経済にうっすらと日差しがあたりかけているようなニュースが目につきます。しかし、米国経済の足腰にあたる米国地方銀行の惨状を見れば、ダウ式平均株価の揺り戻しなどは、ほんの表面的な出来事(操作された表面的な事象)でしかないことがわかります。

アメリカの地方銀行は地元の中小企業や家庭の金融を扱っています。とりわけ住宅の購入や投資にともなうローンや商業不動産開発のための融資の要の役割を果たしているのが地方銀行です。

一連の世界的な金融・財政危機と先進国を中心とする景気大幅悪化の「震源地」は米国の住宅バブル崩壊です。だから住宅着工件数、住宅市場指数、購入用住宅ローン申請、借り換え用住宅ローン申請件数にも注目する必要があります。

米国金融破綻シナリオは、サブプライム⇒アルタA⇒プライム⇒商業用不動産投資用貸付、というように破綻の連鎖はまったくもって着実、かつ深刻に進行中です。

破綻が続くと、個人消費や経済に一層の影響を与えること必至です。FDIC会長のSheila Bair氏は、今年2月に、2010年の破綻件数は、商業用不動産投資用貸付の焦げ付きのため、2009年の140件を凌駕するだろうと警告を発していましたが、はやりそうなりました。

したがって瀕死状態にある国=米国が発行する国債の人気が出るわけがありません。ユーロ圏の国々が発行する国債も、不安定要素の塊です。株、国債、債券などありとあらゆるペーパー・マネーの信用が失墜すれば、お金は究極の実物ゴールドに行かざるをえません。



紙幣、株、債券などのペーパーマネーの価値は、その時々の材料に敏感に反応して凹凸はあるものの、長期的には下落傾向が鮮明となります。日本以外の世界は、金に敏感になっています。ゴールドを巡る直近の現象としては以下の3点に注目です。

①チャイナの動向
中国の金輸入量は、2010年1~10月の実績値で209トン。昨年に比べて約5倍に急増しています。それに比べて中国による米国債の買い越し残高は頭打ちです。ところが、日本は相変わらず、買わされ続けています。チャラパーになる米国債など、本当は買ってはいけないのですが、そこは米国寡頭勢力に操作されている日本のイタイところです。

②欧州の財政危機
欧州ではギリシャに端を発した財政危機のあおりで、国債の買い増しを敬遠し、金に逃避する動きが高まっています。国家破綻は、アイルランド、スペイン、ポルトガル、イタリア、フランスと連鎖中です。昔ならば「ドルか金」という選択肢なのですが、ダメドルの今日では、はやり長期的には金でしょう。ドルの下落基調には変わりありませんから。

③東北アジア戦争
11月23日に北朝鮮と韓国の間で砲撃事件が発生。「有事のゴールド買い」で市場が反応し、金は1オンス=1383ドルまで上昇。東北アジアで戦争を始めたい寡頭勢力が蠢動しています。オバマ政権が終息する時と前後して、米国戦争屋の台頭と東北アジアやイスラエル・イランでのドンパチが懸念されます。

                ***

現代の世界恐慌は、静かにでも着実に進行中です。日本のマスコミ(マスゴミ)は正しく報道していません。マスコミが伝えないモノゴトにこそ、真実が隠れています。その恐慌基調に加え、マクロ的、長期的な節目が近づいているようです。それはデフレからインフレへの潮目の変化です。

実物コモディティ=必需品の高騰が2011年半ばから2012年の年央位にはハッキリしてくるでしょう。綿花、砂糖、ゴム、大豆、小麦、コーヒー、トウモロコシなど2010年にものきなみ高騰していますが、今後はますます高騰基調になります。

これらの大半を輸入に頼っている日本は、輸入品から悪性のインフレがもたらされることになるでしょう。これをインポートインフレと命名することにします。たぶん野菜の値段も今後上がるので、260万人の専業農家に対し200万人いる週末家庭菜園ファーマーは今後とも増えるでしょう。

これら実物コモディティの頂点に君臨するゴールドは、乱高下(下値1g=3000円位)を伴いながらも、高騰してゆきます。

金現物が初の1オンス=1200ドル台、ドル安で資金流入

2009年12月02日 | 恐慌実況中継


金現物の値動きに注意していろいろ書いてきたが、今日はまさに歴史的な一日。
このニュースの背景になにを見るのか、が問題だ。

<以下貼り付け>

[ロンドン 1日 ロイター] 
1日の欧州市場で金現物が初めて1オンス=1200ドル台に乗せた。ドル安を背景に投資家の貴金属への関心が高まっている。銀は2008年7月以来となる1オンス=19ドル台をつけた。

 金現物は一時1200.70ドルまで上昇した。1627GMT時点では1200.10ドル。前日のニューヨーク市場終盤では1179.10ドルだった。
 銀は19.12ドル。一時19.17ドルをつけた。前日終盤は18.45ドル。

<以上貼り付け>


心理的な抵抗線だった1オンス=1200ドルを突破して史上初の高値をあっさり更新。27日の東京市場で急速に進んだ円高と株安は、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ首長国の金融不安がきっかけとなった。

ドバイ・ワールドの負債総額は約600億ドル(約5兆円)。債務不履行の懸念が一気に強まり、他の新興国企業の資金繰りにも不安感が一気に広がった。

このドバイショックを受けて、欧州の株価も急落。ユーロや英ポンドが売られた。外国為替市場では、既にドル安が進んでいたが、ユーロまで売られたため、残る主要通貨の円に資金が逃げこんできて円の独歩高となってしまった。

そして、日銀が量的緩和政策の発表。日欧米各国で市場に流動性を供給するための金融政策が次々に打たれている。こうなると、カネ=ペーパーマネーの余剰水膨れとなり、価値の裏付けのあるリアルな実物に投資が集まらざるを得ない。

デフレ進行中との発表をよそに、実物の代表である金実物は高値を更新してゆく。


米造幣局:イーグル金貨の販売を停止-販売88%急増で金在庫急減

2009年11月26日 | 恐慌実況中継


ドル安、株安、米国債券安の3安で、マネーは実物に回帰する。デフレだろうがなんであろうが、コモディティーの対局にある金に信用が集まらざるを得ない状況が下のニュースでまた浮き彫りになった。

ドル安、株安、米国債券安の3安必然的帰結が金の高騰。当然、日本の金市場も連動するので、このところ、2008年の夏の時点で予測したように金相場は上がりっぱなしだ。

今後、金の高騰には歯止めがかからなくなるだろう。
4000円までは軽く上がるだろう。

<以下貼り付け>

11月25日(ブルームバーグ):米造幣局は、金や銀などの貴金属から製造される大半のアメリカンイーグル金貨や銀貨の販売を停止していることを明らかにした。1-10月の販売量が88%急増し、貴金属の在庫が急減したためとしている。

米造幣局がウェブサイトに掲載した文書によると、「金の在庫が市場の需要に十分に対応できるほど確保できれば」販売を再開する予定。イーグル金貨などが販売停止の影響を受けている。流通していない2009年版の金貨についても販売を再開しない方針という。

米造幣局のウェブサイトによると、イーグル金貨の1-10月の販売量は107万オンスと、前年同期の56万8000オンスから急増。同局は、今月に入ってさらに12万4000オンスを販売したことを示唆している。

ドル相場の下落が進み中央銀行が準備資産として金の購入を拡大していることから、ニューヨークの金先物相場は25日の取引終了後に過去最高値を更新した。

<以上貼り付け>

金融庁が金取引を規制するのはいつごろか?注視が必要だ。

ドル崩落=脱アメリカ現象が進行中

2009年10月07日 | 恐慌実況中継
ドル覇権の終焉過程で、一時1オンス=1100ドルを突破して今後、金は高騰してゆくだろう。

<以下貼り付け>

【ニューヨーク時事】6日のニューヨーク商品取引所(COMEX)の金塊先物相場は、原油取引の決済をドル以外の通貨や金塊で行うことが検討されているとの報道をきっかけに急騰した。取引の中心となる12月物は、電子取引で一時1オンス=1045.00ドルまで上伸し、昨年3月17日に記録した取引時間中の史上最高値(1033.90ドル)を約1年7カ月ぶりに塗り替えた。

 12月物は前日終値比21.90ドル高の1039.70ドルで引け、終値としても史上最高値を更新した。

 英紙インディペンデント(電子版)はこの日、湾岸産油国と中国、ロシア、日本、フランスが、石油取引の決済を、円、ユーロなど複数の通貨を組み合わせた「通貨バスケット」や金塊で行うことを秘密裏に協議していたと報道。これは各国当局者により相次いで否定されたものの、基軸通貨としてのドルの存在感低下を反映した動きと受け止められた。 

<以上貼り付け>

石油取引の決済を「金塊」で行うことを協議、とあるが、米通貨当局からみれば、アメリカぬきの共謀。中国、ロシア、日本、フランスからみれば当然の自衛策。

ここまで来ると石油という実物を金塊という実物で決済するという基軸通貨ドルに対する不信を通り越えて、脱アメリカで自分たちのポジションを守ろういうこと。基軸通貨ドルの終焉を明瞭に示す動きだ。

ドル崩落が脱アメリカを呼び、脱アメリカがドル崩落を呼ぶという構造になりつつある。

上のニュースを受け、下記が今日の論評。

Dollar tumbles on report of its demise
Gold price at record high as Independent story sends global markets into a frenzy By Stephen Foley in New York