陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

ロアルド・ダール 「南から来た男」その1.

2006-08-28 22:37:39 | 翻訳
今日からロアルド・ダールの「南から来た男」の翻訳をやっていきます。
原文は
http://www.classicshorts.com/stories/south.html
で読むことができます。

* * *

「南から来た男」

by ロアルド・ダール



 そろそろ六時になろうかという時刻だったので、ビールを一本買って、外に出て、プールサイドのデッキチェアでしばらく夕日でも眺めようと考えた。

 私はバーへ行ってビールを買い、それをぶらさげて外へ出ると、プール目指して庭を歩いていった。

 立派な庭には芝生、ツツジの植え込み、背の高い椰子の木が続き、吹きつける強い風にあおられる椰子の梢の葉は、火でもついたようなパチパチいう音を立てていた。茶色い大きな実が、葉陰にぶらさがっているようすが見える。

 プールの周囲にはデッキチェアがたくさんあって、白いテーブルと、明るい色の巨大な日傘と一緒に置かれている。水着姿になってよく日焼けした男や女が腰を下ろしていた。プールの中には三、四人の娘たちと十数人の若い男が、水をはねかしながら、大声をあげては大きなゴムのボールを投げ合っていた。

 私は立ったままそれを見ていた。娘たちはホテルに滞在しているイギリス人らしい。若い男たちを私は知っているわけではなかったけれど、アメリカふうのアクセントなので、おそらく今朝入港したアメリカ海軍の練習艦の士官候補生ではないかとあたりをつけた。

 黄色い日傘の下、空っぽの椅子が四つしつらえられている場所に私は歩いていって腰を下ろすと、コップにビールを注いで、タバコをくわえたまま、背もたれに身をゆっくりとあずけていった。

 夕日の中、ビールとタバコを手にすわっているのは、大変にいい気分だった。緑の水の中で水をはねかしている人々を、こうやって坐ったまま眺めるのも悪くない。

 アメリカ人の水兵たちは、イギリス人娘たちとうまくやっているようだった。水に潜っては、相手の足を持ち上げて倒すことをしてもいいほどの仲になっているらしい。

 そのとき、小柄で老年にさしかかったぐらいの年代の男が、プールサイドをきびきびと歩いてくるのが目に留まった。染み一つない真っ白いスーツを身にまとい、素早い、軽く弾むような、一足ごとにつま先立ちになるような足取りでこちらに向かってくる。大きなクリーム色のパナマ帽をかぶって、人々や椅子に眼をやりながら、男は弾むようにやってきた。

(この項つづく)