朝倉かすみ著『田村はまだか』(光文社文庫あ53-1、2010年11月20日発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
深夜のバー。小学校のクラス会三次会。男女五人が、大雪で列車が遅れてクラス会に間に合わなかった同級生「田村」を待つ。各人の脳裏に浮かぶのは、過去に触れ合った印象深き人物たちのこと。それにつけても田村はまだか。来いよ、田村。そしてラストには怒涛の感動が待ち受ける。’09年、第30回吉川英治文学新人賞受賞作。傑作短編「おまえ、井上鏡子だろう」を特別収録。
札幌ススキノのスナック「チャオ!」で田村を待つ5名の同級生の会話。全6話の連作短編集と追加の短編。
第一話、第二話は、「田村はまだか」、第三話は「それにつけても田村はまだか」で終る。
小学校の同級生
エビス、班長:伊吹祥子。離婚したて。
加持千夏:ちなっちゃん。いいちこを飲む。男子校の保健室の先生。昨年離婚。
コルレオーネ:マーロンブランドの矮小版。坪田隼雄。生命保険会社営業所長。童貞
永田一太:腕白男、営業。
池内暁:化粧品等の卸会社の営業。
田村久志:「チャオ!」でのクラス会に遅れている。現在豆腐屋のあるじ。女房は中村理香で、こども二人。
中村理香:小6の時、問題児。
花輪春彦:札幌ススキノのスナック「チャオ!」のマスター。46歳。一昨年離婚、退社し開店。
二瓶正克:池内暁の指導係。42歳。
石田康夫:池内暁の上司。
キッド:島村裕樹。千夏34歳の時の高校1年の生徒。
(特別収録作品)
おまえ、井上鏡子だろう
小野垣ハジメは小学校のクラス会があった居酒屋を出て来て、酔っぱらった女に出合う。通りすぎてから、同じ中学だった井上鏡子だと気付く。彼女は親友の山田真人と同じクラスだった。
単行本は2008年光文社刊。短編「おまえ、井上鏡子だろう」は2008年柏艪社のアンソロジーより。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
クラス会の3次会で田村を待ちながら、訳ありの5人が語り合う芝居を観ているような構成と、互いの関係が微妙で、会話内容が面白い。
ベケットの「ゴドーを待ちながら」は不条理劇で「意味わかんない!」そうだが、この作品での各人の会話は意味深で、小学校の時の話と、現在の男女間の関係が絡まり、複雑だ。
これだけ待たれて、ようやく登場の田村の魅力と、なぜ皆が待っているのかが、いまひとつ伝わらない。
小6の田村が中村理香に言った。
「どうせ死ぬから、今、生きてるんじゃないのか」……
「どうせ小便するからって、おまえ、水、のまないか? どうせうんこになるからって、おまえ、もの、くわないか? …」……
「でも、今は生きてるんだ」……
おれは、今、ここにいる。それでいいんじゃないか、という。
‥‥
「好きだよ」
妻は離婚届を出して夫に言った。
「お友だちとミドリ同盟をつくってたのよ」……
「だんなが定年になったら別れましょうね、って同盟」……
たしかに、離婚届けの罫線の色はみどりだ。