hiyamizu's blog

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柚月裕子『ミカエルの鼓動』を読む

2022年02月13日 | 読書2

 

柚月裕子著『ミカエルの鼓動』(2021年10月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

文藝春秋BOOKSの作品紹介

この者は、神か、悪魔か――。
気鋭の著者が、医療の在り方、命の意味を問う感動巨編。

大学病院で、手術支援ロボット「ミカエル」を推進する心臓外科医・西條。そこへ、ドイツ帰りの天才医師・真木が現れ、西條の目の前で「ミカエル」を用いない手術を、とてつもない速さで完遂する。
あるとき、難病の少年の治療方針をめぐって、二人は対立。
「ミカエル」を用いた最先端医療か、従来の術式による開胸手術か。
そんな中、西條を慕っていた若手医師が、自らの命を絶った。
大学病院の闇を暴こうとする記者は、「ミカエルは人を救う天使じゃない。偽物だ」と西條に迫る。
天才心臓外科医の正義と葛藤を描く。

 

プロローグは、誰かが北海道・旭岳で遭難し、雪に倒れ、以下の独白で終る。

死ねない。まだ死ねない。やつが見つけたものを探し出すまで、死ぬわけにはいかない。歯をくいしばり、腕に力を込めた。

エピローグにこの場面は続く。

 

 

西條泰己(さいじょう・やすみ):北海道中央(北中)大学病院の循環器第二外科科長で病院長補佐。手術支援ロボット「ミカエル」での手術の第一人者で、その普及を使命と考えている。手術助手は医師3年目の星野。妻は美咲、義母は寛子

真木(まき):11年前に突然ドイツへ渡り、従来の開胸手術での優れた技術を示し、天才外科医と評される。曽我部に招かれて北中大病院の循環器第一外科科長に就任。

曾我部(そがべ):北中大病院の病院長。63歳。後継者として西條を盛り立ててロボット支援下手術を推進。コンサルタントに雨宮を招き、北中大病院を全国屈指の医療機関にしようとする。秘書役は関口

雨宮香澄(あめみや・かすみ):引き抜かれて北中大病院の経営戦略担当病院長補佐に。

白石航(しらいし・わたる):先天性の房室中隔欠損症の再手術のために北中大病院に転院。12歳の少年。

黒沢(くろさわ):ミカエルの黒い噂を追うフリーライター。

布施:広総大の心臓外科医で西條の弟子とも言える。38歳で自死。手術ミスが原因と噂される。

ミカエル像:病院中庭の温室に設置されている天使像。1mほどの高さで背中に羽が生え、右手に剣、左手に天秤を持つ。

 

初出:「週刊文春」2020年1月2日・9日号~2021年1月28日号

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

西條は第一人者として自負があるミカエル主体での病院拡大を信じ、妨げとなる真木に対抗しようとする。その時に、ミカエル不具合の噂と患者第一の医の倫理が彼を悩ませる。
天才的外科医だが、完全無欠の善人でもなく、何が何でもライバルを打ち倒す問答無用の男でもないという設定が良い。柚月裕子さんの小説にも良く登場する上司やルール無視の乱暴男ほどの魅力はないが、なんとか道を見つけてバランスをとっていく西條と一緒に読者も悩める。

 

心臓外科という最先端手術の詳細な描写が丁寧に描かれる。少年の手術シーンは20頁も続く。人によっては飛ばし読みするだろうが、臨場感があり私には面白かった。巻末の謝辞には6名もの医者の名前が続く。さすが、力作家の柚月裕子が初めて挑んだ医療小説だ、力こぶが見える。

 

細かいことだが、ひっかかる点もある。不具合の噂があったら、自他ともに第一人者なら普段からいろいろ注文を付けているミカエルのメーカーに問いただすのではないだろうか。また、私なら試験的にミカエルをいろいろな条件下で動かしてみて、自分でも何か起きないか、試行してみる。まあこれは矮小な研究者根性の者だけかもしれないが。

 

 

柚月裕子 経歴&既読本リスト

 

コメント
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