hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

内田洋子『ジーノの家』を読む

2018年12月03日 | 読書2

 

内田洋子著『ジーノの家 イタリア10景』(文春文庫う30-1、2013年3月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

ミラノの真ん中に存在するという知られざる暗黒街。海沿いの山の上にある小さな家の家主ジーノの人生模様。貴婦人の如き古式帆船に魅いられた男達――イタリア在住30余年の著者が、名もなき人々の暮しに息づく生の輝きを鮮やかに描き、日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞を史上初のダブル受賞した傑作。解説・松田哲夫

 

イタリア在住30年余の著者が生活に密着した出来事を語る10編のエッセイ。著者の身近に起こった話なのに、予想外の展開に驚かされることも多い。舞台は主に北部イタリアだが、登場人物には南部イタリア出身者も多く、個性的な市井の人々が登場する。

 

著者は「あとがき」でこう書いている。

(イタリアは)とにかく、歩けば問題に当たるようなところである。……問題の数だけ私は打ちのめされたが、起き上がってみるとその数と同じ分の得難い知人と経験が手元に残った。

 

「黒いミラノ」

犯罪組織が拠点とし、警察も容易に踏み込めない黒いミラノと呼ばれる一帯に著者はどうしても行ってみたくなる。知り合った警官を自宅に招待し、もてなし、頼みこみ、策を授かる。犬を連れて地域にある獣医師を訪ねるのだ。内田さんの探検は始まり、そして、……。

 

「リグリアで北斎に会う」

「ホクサイの生まれ変わり」と吹聴する老人を訪ねる。会ってみると美術本などで目にしたことのあるあの北斎そのままの老人だった。

 

「僕とタンゴを踊ってくれたら」

田舎のダンスホールで熱狂的に踊る村人たち。

 

「黒猫クラブ」

夜中の3時半、6階建ての集合住宅の著者の部屋のベルがあわただしく鳴らされる。侵入者と思い警察に電話し、住民が集まるが、なんと●●とわかる。他人に気を許さないミラノで、この騒動を契機として住民が屋上で宴会することとなる。屋上への鍵には「黒猫クラブ」とあった。

 

「ジーノの家」

ミラノから郊外の小さな町へ引越しを考え、見捨てられたカラブリアにある「住み手の個性を生かせる空間」という謳い文句に、「よし、住みこなしてやろうじゃないか」と見に行った。田舎のアルパチーノ風のジーノの家だった。山の上の家と夏だけ栄える浜を舞台とした、ジーノと弟、そして美人で絵心のあるステファニアの哀しい物語。

 

「犬の身代金」

ペット誘拐事件が多発するミラノで、パトリツィアの犬が居なくなった。身代金の相場は500~3000ユーロだという。

 

「サボテンに恋して」

シチリア島のサルヴォは郷土の特産品を日本で売りたいという。オレンジはマフィアに抑えられていて商売できない。鋭い棘とうぶ毛のような棘で加工しがたいサボテンの実には彼らもまだ手を付けていない。イエメンの若い彼はサボテンの実に目をつけたのだ。著者は彼とともにシチリアへ行く。

 

「初めてで最後のコーヒー」

ナポリでは、コーヒーを飲んで、チップにしては多すぎる額を置く人がいる。何杯分かのこのお金は、懐が寂しい人がバールに寄り、コーヒーを飲むための「心づけのコーヒー」だという。

 

「私がポッジに住んだ訳」

ジェノヴァ港からの道はサラセン人がイタリア半島に攻め込んだ道で、教会と祈祷所の間の道はギリギリ車が通れる幅しかなかった。そこがポッジだった。シスターは強引で親切で、……。

 

「船との別れ」

腕の良い兄弟が海から引き揚げられた木製の古式帆船を修理した。買いたいというミラノの退職者に兄弟は言った。

「難しい船だからね、私ら浜の人間にも。素人には無理。…一生働いて手にする退職金や年金をすべて吸い取られるよ、と言ったのですよ。手のかかる女のようなものだからね、木造船は」

修理が完成し、進水式の日、船体には名入れの代わりに黒い線が引かれた。……。

 

 

単行本は2011年2月文藝春秋刊。

 

内田洋子(うちだ・ようこ)
1959年兵庫県神戸市生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒。通信社ウーノアソシエイツUNO Associates Inc.代表。欧州と日本間でマスメディア向け情報を配信。

2011年、本書『ジーノの家―イタリア10景』で日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞を同時受賞

他に『ジャーナリズムとしてのパパラッチ イタリア人の正義感』、『マンマミア 23人のお母さんを通して知るイタリア』、共著に『イタリア人の働き方 国民全員が社長の国』、翻訳書に『パパの電話を待ちながら』など。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

ともかく面白く読める。なにが面白いって、話の種の面白さで読ませる。

著者自身の身の周りでこんなにも破天荒なことが起こるとは。著者の突貫小僧ぶり(古っ)と、周囲の人をたちまち友達にしてしまう魅力がイタリアの地で花開いたのだろう。

 

須賀敦子と並べる批評があったが、比べるのは酷だ。須賀は、数十年前のミラノの出来事を懐かしみ、しみじみと、染みわたる名文で語っている。内田さんにあの深い味わいを求めるのは酷だ。

 

 

コメント
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