和田秀樹著「富裕層が日本をダメにした! 『金持ちの嘘』に騙されるな」宝島社新書、2009年6月発行を読んだ。
宣伝文句はこうだ。
金持ち、勝ち組、既得権者ばかりが得をする詭弁と、それを後押しする大マスコミ。「常識」として社会に蔓延し日本をダメにする“嘘八百”の虚実を指摘する。
市場原理主義の弊害や、話題づくりに専念するマスコミあり方に対して、多少強引で我田引水な点もあるが、痛烈で大分は的確な批判がなされている。しかし、多くの個別項目への批判の中から著者の考え方は浮かび上がるのだが、個別事項の批判が羅列し、望ましい社会のあり方、仕組みが見えてこない。
以下、ランダムに選んだ項目をいくつか挙げる。
二枚舌で進めた小泉・竹中ラインの経済政策
アメリカではするべき規制はきちんとやっていて、例えばタクシーの台数制限は厳しい。小泉政権は単純に規制は悪として、タクシー台数規制を撤廃し、台数が増えすぎてドライバーの収入減など問題山積になった。
善悪二元論で世論を誘導するマスメディアの罪
政治資金の虚偽記載と、それより明らかに悪質な贈収賄や、賞味期限表示偽装と農薬混入での食中毒事件などを同じような事件として扱う。
マスコミは原則的に金持ちサイド
日本の新聞社では、新卒で入った社員が10年後には年収1000万円になる。テレビのキャスターがいくら貧乏人の味方のような顔をしても毎日100万円入るのだ。
貧富の差が大きいほうが社会は活性化するのか
累進課税を強化した差が小さい社会の方が全員頑張る。社長になれば100億円と言われても全員は頑張らない。
累進税率が強化されると経済が悪くなる?
1974年の所得税の最高税率は75%で、住民税とあわせると93%で、経済成長率は9.1%だった。1989年には各々50%、65%で、成長率3.8%だ。
目次
第1章 金持ちの嘘が日本人を蝕む(経営側の一方的な論理が通った製造業の派遣解禁;自信を失うと外国のイデオロギーを従順に受け入れる日本人 ほか)
第2章 金持ちの嘘で日本経済が沈む(規制緩和と民営化は本当に経済を上昇させるか;国民が総中流化したほうが経済はよくなる ほか)
第3章 金持ちの嘘で日本がダメになる(福祉ばかりすると経済が伸びない?;ゆとり教育が目指すのはアメリカ型社会 ほか)
第4章 金持ちの嘘にだまされないために(嘘を嘘と見抜くための「メディアリテラシー」;金持ちの嘘に対抗するための選択肢 ほか)
和田秀樹は1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業、米国カールメニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医、国際医療福祉大学大学院教授。2004年正論新風賞受賞。映画監督した「受験のシンデレラ」がモナコ国際映画祭グランプリ。「まじめの崩壊」など著者多数。
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読めば)
マスコミに踊らされるなという警句は納得できるが、経済に関しては見事なまでの保守ぶりだ。高額所得者はとくに高い税金を負担し、高福祉で安定成長の大きな政府の北欧形社会が本当に日本で実現できるのだろうか。セイフティネットをしっかり張った上で、規制を無くし、市場原理主義の競争社会をつくる小さな政府が、私には理想と思える。もちろんリターンマッチ可能な仕組みなど補正手段は必要なのだが。
国民の知的レベルを上げることが繁栄につながるという趣旨の主張にもあいまいさがある。私は経済的観点からは、飛びぬけた才能を発掘、育成するよりも、国民の知的レベルの底上げこそが重要だと思う。