上野正彦著『死体は語る』(文春文庫、う12-1、2001年10月10日文藝春秋発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
偽装殺人、他殺を装った自殺…。どんなに誤魔化そうとしても、もの言わぬ死体は、背後に潜む人間の憎しみや苦悩を雄弁に語りだす。浅沼稲次郎刺殺事件、日航機羽田沖墜落事故等の現場に立会い、変死体を扱って三十余年の元監察医が綴る、ミステリアスな事件の数数。ドラマ化もされた法医学入門の大ベストセラー。解説・夏樹静子
解剖5千体、検死2万体以上を行った元東京都監察医務院院長の上野さんが初めて書いた本。この本が65万部とベストセラーとなり、上野さんは同様な本を数冊出版し、TVにも多く出演した。
著者はよく「死体を検死したり、解剖して気持ち悪くないですか」と聞かれるが、即座に「生きている人の方が恐ろしい」と答えるという。
生きている人の言葉には嘘がある。
しかし、もの言わぬ死体は決して嘘を言わない、
丹念に研死をし、解剖することによって、なぜ死に至ったかを、死体は自らが語ってくれる。
死体は嘘をつかない。その声をしっかり聴くのが監察医だという。
東京23区の年間死亡数は6万人ほど。(1999年)
内17%(約1万人)が医師にかからず急病死、自殺、他殺、事故死した不自然死で監察医の検死対象。内、行政解剖が必要だったのはそのうちの24.7%(2500人)。
老衰死、病死は「民間医師」が「死亡診断書」を発行。
医師が変死体と判断した場合は、警察の「検視官」あるいは「監察医」が検案し、特定できなければ「行政解剖」
他殺判定の場合は、裁判所の許可により「法医学者」が「司法解剖」
ただし、監察医制度が正常に機能している地域は、東京、大阪、神戸のみ。
著者は、もの言わず死んだ人に人権を守るためにも監察医制度を全国的制度にすべきと訴える。
初出:1989年9月時事通信社刊
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
検死・解剖の重要性を説くことがこの本の主な目的のようで、いろいろな事件が引用されているが、事件そのものについてはほんの概要にとどまっている。この後の本のように、事件を調査していく過程での驚きの展開といった面白みは少ない。
単行本が1989年発行であり、技術が古く、例えば血液型判定で親子鑑定が行われていて、DNAの話はまったく出てこない。
上野正彦(うえの・まさひこ)
1929年、茨城県生まれ。医学博士。元東京都監察医務院院長。
1954年、東邦医科大学卒業後、日本大学医学部法医学教室に入る。
1959年、東京都監察医務院監察医
1984年、同院長、30年間で2万件以上の研死、5千体以上の解剖、300件以上の再鑑定を行った。
1989年、退官後法医学評論家、本書『死体は語る』が65万部のベストセラー
その他、『監察医の涙』『神がいない死体 平成と昭和の切ない違い』