上野千鶴子著『こんな世の中に誰がした? ごめんなさいと言わなくてもすむ社会を手渡すために』(2024年1月30日光文社発行)を読んだ。
序章より
この三〇年間で、結婚してもよいしなくてもよい、子どもを産んでもよい産まなくてもよい、フルタイムで働いてもパートタイムで働いてもよい、と女性の生き方は多様化しましたが、そのいっぽうで格差が拡大し、低所得のシングル女性が増えています。彼女たちは努力が足りなかったわけでも人生の選択を誤ったわけでもありません。わたしたちは一歩間違えれば貧困に陥るような、危うい社会を生きています。
この本では、女の人生を「仕事」「結婚」「教育」「老後」の四つのステージにわけて、何が起きて、その結果、女たちの人生はどうなるのか、これからどこへ向かうのかを解説しています。
私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)
いつもにも増して明快な論理で、わかりやすい。細かい点で「そうかな?」と思う点はあっても大方は納得。喧嘩腰の論争も控えめであり、読みやすい。
上野さんが、過去戦ってきた構造的な女性差別問題から、近年取り組んでいる介護問題を端的に解説し、変革してきたこと、現在の課題をわかりやすく、説得力をもって主張している。
上野さんの最新作で、簡潔、概略版ながら代表作だと思う。
以下、私のメモ
「仕事」
- 日本の15歳~64歳の女性の就業率は 74.3%(OECD平均は65.8%)
正社員でも給与水準は男性の77.6%。女性の半数以上が非正規で、約6割は年収200万円未満 - 非正規労働者は、男性は65歳以上が最も多く、女性は45歳~54歳の中高年女性が最も多い
- 1990年に881万人だった非正規雇用者は2016年に2千万人を超えた
- 2010年の30代男性の結婚確率は正規雇用者で 69.3%、非正規で24.4%
- 男女雇用機会均等法が成立し、企業はこの影響を最小限にするために、「コース別人事管理制度」を導入し、女性は一部の総合職と大多数の女性の一般職に分断した。結局、均等法は男並みに働きたいという少数の女性に門戸を開いただけだった。
均等法で評価できるのは、1997年の改正で事業主にセクハラ防止と対応を義務化したこと。
「結婚」
- 50歳時の未婚割合は、70年代には男女とも5%を切っていた。2020年には、男性が 28.3%、女性が17.8%
20代の独身男性の4割近くが、これまでの恋人の数もデート人数も0
男の初婚年齢の平均は31歳で、30代男性の既婚率と年収はきれいに相関している。 - 貧しい二人が支え合う結婚は増えていない
「教育」
- 2019年の調査で、算数・数学の平均点は、小学4年はともに593点、中学2年生は男子595点、女子593点とほぼ男女差はなかった。女子に数学の苦手意識が高まるのは後天的な理由からでしょう
「老後」
- 有料老人ホームは、売買するのが所有権ではなく居住権で、資産が残らないので子どもが反対することがある
- 介護保険制度はホームヘルパー資格制度を作って、介護を家族でなく、有資格のプロが行うことにした。家族のなかに第三者の目が入ることになり、虐待などを防げるようになった。
- そろそろ死ぬと思えば、別れと感謝は死ぬ前になんどでも言っておけばよい。一人で死んでも、家族への連絡はあとからでも十分だ。
- 70年代には日本はOECD諸国にうちトップとボトムの所得格差がスウェーデンに次いで下から2番目に小さい国だったが、ネオリベ改革により2010年代に入って、アメリカに次いで大きく社会になった。
「これからのフェミニズム」 略