hiyamizu's blog

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上野正彦『監察医の涙』を読む

2010年11月30日 | 読書2
上野正彦著『監察医の涙』2010年6月、ポプラ社発行、を読んだ。

2万体を検死した法医学の権威・上野正彦医師が、退官後、愛と生と死のドラマを書き下ろした。

上野さんは言う。
死んでいる人を扱っているという感覚ではなく、普通の医者が患者さんを診る感覚だった。話さない死体と向かいあって、丹念に身体を見ていけば、私はこういう状況で死んだんですと語りだす。


「夫の献身愛」
ある仲の良い夫婦の妻が脳梗塞で倒れ、寝たきりとなる。夫は会社を辞め、誰にも世話にならずに、何から何まで、妻の世話をする。数年経った頃から、夫はもう限界となり二人で死のうかと悩み始めた。
夫はついに決断し、妻を殺し、そして自分も死のうとする。たまたま様子を見に来た近所の人が、風呂場で死んでいた妻と、大量の睡眠薬を飲んだ夫を発見する。
助かった夫は「私が妻を殺しました」と言う。しかし、監察医が妻の手首の強く握られた痕を見つける。それは両手首を持って、強く妻を引き上げようとした痕だった。
問い詰められた夫は語る。溺れる妻の手首を必死に引き上げようしたのですが、妻は「あなた、もういいです」と言って、唯一動かせる右手で私の手をふりほどいたのです。


「信者」

オームの信者が弁護士一家を殺害した事件で、彼らは現場に指紋を残してしまったことに気がついた。オームの外科医が彼らの指先の皮膚をむき、筋肉だけにする手術をし、指紋を消し、元には戻らないようにした。しかし、有名大学をトップで出たこの医者も、捜査では手のひらの文様(掌紋)も使うことを知らなかった。

「お世話になりました」
東京都で昭和51年から3年間、16,500人の変死があったなかで、60歳以上の自殺者は994人(6%)だった。そううち、63%が家族と同居する老人だ。家族と同居する老人1万人のうち5.5人が自殺していることになる。一人暮らしの老人の1.6倍の自殺率になる。
老人の遺書には、ただ一言「みなさん、大変お世話になりました」と書かれているものばかりだ。冷たく疎外されているにもかかわらず。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)

新書版190ページほどで、大きな活字なので、簡単に読める。なにしろ、死体の話であり、その多くは事件であるので残酷な状況も多い。しかし、著者の目は温かく、一方では悲惨な状況の中で、必死の愛の話も多く、心を打つ。死は人間の究極のドラマなのだ。

感動の話に興ざめなので控えていたのですが、追加します。
風呂で溺れる人を助けるには、引き上げるより、風呂の栓を抜くのが簡単です。



上野正彦
1929年、茨城県生まれ。医学博士。元東京都監察医務院院長。
1954年、東邦医科大学卒業後、日本大学医学部法医学教室に入る。
1959年、東京都監察医務院監察医
1984年、同院長
1989年、退官後法医学評論家
『死体は語る』は大ベストセラー




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