深緑野分著『ベルリンは晴れているか』(2018年9月25日筑摩書房発行)を読んだ。
1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れ米ソ英仏の4ヵ国統治下におかれたベルリン。
ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により不審な死を遂げる。
米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、彼の甥に訃報を伝えるべく旅立つ。
しかしなぜか陽気な泥棒を道連れにする羽目になり――ふたりはそれぞれの思惑を胸に、荒廃した街を歩きはじめる。
2019年本屋大賞第3位、直木賞候補。
主人公のアウグステ・ニッケル17歳は、ベルリンのアメリカ軍の兵員食堂で働く少女。両親はすでになく、フレデリカとクリストフのローレンツ夫妻のもとで暮らしていた。音楽家の夫・クリストフが、米軍配給物資の歯磨き粉に混ぜられた毒物で死亡するところから物語は始まる。
連合国により破壊された戦後のベルリンには、ソ連の秘密警察を統括するNKVD(内務人民委員部)(エヌカーヴェーデ)が幅をきかせ、ソ連の他、アメリカなどの占領地区も混在する。さらに、ナチスの残党の「人狼」がテロ行動していると噂されていた。
アウグステはフレデリカ・ローレンツの甥のエーリヒ26歳を探し求め、さまざまな権力がうごめく占領下のベルリンをさまよう。
彼女が肌身離さず持っているのは亡父に買ってもらった英語版のエーリヒ・ケストナーの小説『エーミールと探偵たち』だ。途中から仲間になるのは、ユダヤ人役の俳優として活躍していた泥棒のカフカ、浮浪児のヴェルマ、ハンス、監視役?のNKVDのベスパールイ下級軍曹などだ。
物語は戦後のⅠ~Ⅴに分かれるが、途中各章の幕間に、過去のナチス台頭期、隆盛期、絶頂期、終末期、謎解きが続く。
深緑 野分(ふかみどり のわき)
1983年厚木市生れ。海老名高校卒業。パート書店員から作家に。
2010年短編「オーブランの少女」でミステリーズ!新人賞の佳作入選で作家デビュー。
2013年『オーブランの少女』刊行。
2016年『戦場のコックたち』で直木賞・大藪春彦賞候補
2019年本書『ベルリンは晴れているか』で直木賞・大藪春彦賞候補、本屋大賞第3位
その他、『分かれ道ノストラダムス』『この本を盗む者は』
著者による小ネタ集に本書登場人物の名前の付け方などが解説されている。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
日本人作家が書いた、日本人が登場しない、ベルリンが舞台のミステリというので注目した。「ベルリンは晴れているか」という題名もかっこいいし。
確かに、外国の話、とくに生活に密着した、しかも過去の話を些細な点まで良く調べて書いている。
ところが、主人公がまだ少女であり、ヤングアダルトのファンタジーの雰囲気で、私が求めていたイメージと違う。怪しげな人物ばかりで、謎を引きずったまま進むのだが、ベルリンをあれこれさまよう話も長くて途中飽きが来た。
個人的な好みの問題だが、きらいなファンタジーの幕間にユダヤ人の悲惨な迫害の話が続くのが耐えられない。迫害されたと未だに騒ぎまくるユダヤの人が、イスラエルとしてパレスチナの人をかってのゲットーのように圧迫している。
本編は一人称の現在進行形で語り、幕間は歴史的背景を三人称で語っていくのだが、現在と過去が互い違いに語られる構成は少々ややこしい。