絲山秋子著『御社のチャラ男』(2020年1月21日講談社発行)を読んだ。
社内でひそかにチャラ男と呼ばれる三芳部長。彼のまわりの人びとが、それぞれの見方で、彼及び社内の人について語る全16話の連作短篇。
舞台は地方にある料理用オイルを販売する中小企業の「ジョルジュ食品」。社長の親族ということで中途入社したのが三芳道造部長44歳で、陰でチャラ男と呼ばれる。三芳部長は情報収集には熱心だけれど、仕事はしないし、責任もすぐ部下に押し付ける。偉そうに説教を垂れ、意見されたら逆ギレする。一方で日ごろのノリは軽く、外車に乗って高級時計を、いいスーツを着て夜でも襟元にサングラスをぶら下げる。
当社のチャラ男 岡野茂夫(32歳)による
三芳部長は軽いしちょっと変わっているけれど、そんなに悪い人ではない。俺なんかが気がつかない、お客様の誕生日とか創立記念日とか、そういうことをちゃんと押えているので偉いと思う。見栄っ張りだけれど、お洒落が似合うルックスでもある。
わが社のチャラ男 池田かな子(24歳)による
かな子は総務課だが社長秘書兼なんでも屋だ。一昨年の入社歓迎会で二人になった三芳部長はうざすぎた。「ツィターとかは? 裏垢あるんでしょ?」 ほんと無理と思った。
かな子は「次からはもうやりません」とドキドキしながら言うと、チャラ男は「君ってすごいね。笑っちゃうね。てか僕なんか笑うしかないよね」と首筋の血管がぴくぴくした。
休職してしまった伊藤雪菜さんは、「一生懸命なのはわかるけど不器用きわまりない。それで過労とかどうなのと(言わないけれど)思う。心の病とか甘くね? と(言わないけれど)思う。」
弊社のチャラ男 樋口裕紀(24歳)による
売上を達成すれば利益率を言われ、利益率を達成すれば売上が足りないという。遊びじゃないんだぞ言われるが、遊びならもっと真剣にやる。こんなつまらないことが遊びだったら絶対に手を出さない。
社外のチャラ男 一色素子(33歳)による
チャラ男と一時不倫していた一色素子は言う。
チャラ男はいやなやつです。小物だし、キレやすいし、ひとを傷つけるようなことも平気で言う。……あんなに嫌われているのに、もしかしたらチャラ男は全世界、全人類に片思いをしているのかもしれないとすら思えることがあるのです。
以下、略。
初出:2018年5月号~2019年8月号
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読むの?)(最大は五つ星)
題名の「御社のチャラ男」にひかれて読んだ。「御社」という固い言葉と、「チャラ男」とのアンバランス。しかも書いたのが絲山秋子。これじゃ読まずにいられない。
しかし、裏切られた。このため評価が厳しくなった。
チャラ男はあまりチャラチャラしていないし、他の社員もキャラが立っていない。
おまけに、チャラ男が中心でなく、社員のあれやこれやに話が飛ぶので、焦点がない。社長も良くわからない曲者で、万引きをやめられない人、心を病んでいたが復職する人など、バラバラな話になってしまう。
特定の人の視点、語りで成り立つ単一的小説と違う小説もありとは思うのだが、チャラ男に対し、社員のそれぞれが異なる見方を持っているので、余計バラバラな印象になる。
完全に良い人も、完璧な悪人もいないし、会社を多面的に俯瞰するためには複眼の視点も必要なのだろうが、小説はわかりにくくなってしまっている。
カタカナの難しい言葉が好きな人のことを、「石北会計事務所」って呼ぶ。「意識高い系」のこと。
「降る雪や明治は遠くなりにけり」という句を作った中村草田男って、変な名前って思っていたが、親戚の人に「腐った男」と面と向かって言われて、「おおそうかい」と名乗った名前だそうだ。二葉亭四迷を思い出す。