hiyamizu's blog

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山本文緒『プラナリア』を読む

2023年07月23日 | 読書2

 

山本文緒著『プラナリア』(2000年文藝春秋発行)を読んだ。

乳ガンの手術以来、何をするのもかったるい25歳の春香。この洞窟の出口はどこにある? 死ぬのも面倒くさい春香を描く表題作のほか、働かない女たちに現在を映す恋愛小説集。

 

第124回(2000年)直木賞受賞作品。

 

「プラナリア」

「次に生まれてくる時はプラナリアに。」

乳がんになり右乳を失った春香は飲み会でそう言った。周囲にはもう治ったのだからと言われるが、月1での病院通いや、時々の吐き気があり、仕事する気にならず、大学生の彼氏と遊びまわっている。永瀬さんに誘われて、アルバイトを始めるが、徐々にやる気がなくなり、ある日……。

 

上原春香:25歳。2年前の手術以来、働く気がしない。豹介と永瀬さん以外は、誰に対してもひねくれてしまう。入院で集団生活をする能力がなく、社会不適応者だと知った。アイデンティティーは「乳がん」

豹介:春香の彼氏。大学生。常識的。実家が金持ち。人前で乳がんの話をする春香を「露悪趣味」と批判。

永瀬:26歳 。入院先で春香と知り合う。甘納豆屋の雇われ店長。美人で面倒見が良く春香の憧れの人。

プラナリア:体は扁平、口は腹面中央にある。体長2~3㎝。渓流などに住む。ちょん切っても各部が再生する。

 

「ネイキッド」
熱中して前へ前へと働いていて、夫から「さもしい生き方」と言われて離婚した36歳無職の泉水涼子(イズミン)。急に暇になって、編みぐるみ作りか、漫画喫茶にはまっている。親切な幼馴染の明日香、なついてくれる元部下の小原(チビケン)も怒らせてしまい……。

 

「どこかでないここ」
夫がリストラされ、パート勤めに出た43歳の加藤真穂は四日も家に帰ってこない高校生の娘・日菜が心配だ。20歳になったばかりの息子・周一は「お袋って怒っても全然恐くないよなあ」「…実はあんまり関心ないんだって大人になって分かったよ」という。離れて暮らす母、義父の面倒も見ている。日菜の気持ちがわからない。

 

「囚われ人のジレンマ」

25歳の誕生日、美都は長年付き合ってきた朝丘君に「結婚してもいいよ」と言われた。彼はまだ院生で「囚人のジレンマ」の研究をしている。美都は浮気をし、会社に噂が広まる。さあ結婚か、別れるか。

 

「あいあるあした」

真島はアルバイトの太久郎と二人だけの居酒屋を営む。店の客相手に手相占いをするすみ江は客として現れ、住ところがないというので、真島は自分の家に居候させた。彼女は真島をマジオと呼び、店で働きもせず、出会った客と消えたりする。真島は……。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

久しぶりに再読して、主人公の女性のひねくれぶりに、オイオイと思い、これほどの主人公はいなかったのではと思った。いずれの女性も、めちゃくちゃに働いて、プツンと切れて、働きたくない病にかかってしまったのだが、その心理が賛同はできなくても、そうかもしれないなと思えるように、とてもうまく書けていて、著者・山本文緒さん自身の一面の気持ちではないかとも思えてしまう。

 

いかにもいい人といえる恋人の神経をあえて逆撫でしたり、大切に、甘やかして自分を育てた親に八つ当たりしたり、挙句の果てに憧れの人が親切に紹介してくれたバイトを無断欠席してしまう。そんな賛同できるところが一つもない春香がプラナリアになりたいと願うなど自分勝手は話を、読む人にちゃんと痛々しく、少しは同情できるように描いている山本さんの筆力は最初から素晴らしかったのだ。

 

山本文緒の略歴と既読本リスト

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