hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

南杏子『いのちの十字路』を読む

2023年06月03日 | 読書2

 

南杏子著いのちの十字路』(2023年4月5日幻冬舎発行)を読んだ。

 

幻冬舎の紹介文

次は、絶対に同じ後悔をしない。
明日からも、患者さんのために生きる。
悩んでばかりで、自信が持てない、訪問診療所の新米医師・野呂聖二。
コロナ禍、在宅介護の現場で奮闘する彼は、ヤングケアラーの過去を封印していた。
吉永小百合主演映画『いのちの停車場』原作続編!
老老介護、ヤングケアラー、8050問題……
介護の現場で奮闘する若き医師とその仲間たち。


愛おしい人を、最後まで愛おしく思って生きられるように――。

医師国家試験に合格し、野呂は金沢のまほろば診療所に戻ってきた。娘の手を借りず一人で人生を全うしたい母。母の介護と仕事の両立に苦しむ一人息子。末期癌の技能実習生。妻の認知症を受け入れられない夫。体が不自由な母の世話をする中二女子。……それぞれの家庭の事情に寄り添おうとするけれど、不甲斐ない思いをするばかりの野呂には、介護していた祖母を最後に“見放してしまった”という後悔があった。

 

前作「命の停車場」で、医師国家試験に2回失敗し、尊敬する白石医師と共に金沢の訪問診療所でドライバー雑用係のアルバイトをしていた野呂聖二。この本では、その後の再チャレンジで医師国家試験に合格し、新米医師としてそのまほろば診療所に戻って来た新人医師・野呂が主人公だ。

 

6章の連作短編集。

 

野呂聖二:27歳で医師国家試験に合格し2年の研修医経験後、まほろば診療所へ戻ってきた。

仙川徹:まほろば診療所院長。67歳。

白石沙和子:加賀大学医学部特任教授で、附属病院で緊急医療の陣頭指揮中。診療所には時々やってくる。65歳。

星野麻世:看護師。29歳。

玉置亮子:事務。40歳

 

第一章 水引の母

一人暮らしの水引アーティストの大元露子85歳はコロナ禍で教室も開けず、意欲をなくすが、長女の美沙子との同居を拒否。オンライン教室開催で元気になるが、「隠れた処方」で……。

 

第二章 ゴリの家

母・岩間七栄が認知症で、一日50回も電話してくるし、生活も昼夜逆転していて、宅配便ドライバーの一人息子・哲也は仕事にならない。しかし、一方では介護サービスの申し込みには踏み切れないし、施設はどこも満員。哲也は、水槽で石の上でじっとしているゴリを飼っている。哲也はナイフを持って母を追いかける警察沙汰を起こし、結局、母は特養に入れることになった。ゴリ押しの疑惑が?

 

第三章 シャチョウの笑顔

インドネシアからの技能実習生が末期の胃がんと診断された。彼は帰国しないと言うが、家族に会わなくて良いのか? 訪ねて来た恋人のためなのか? 彼は、トラジャの地では「人は死ぬために生きている」と言う。 謎は死後にでた新聞記事で明らかになった。

 

第四章 正月の待ち人

大腸がんでストーマ(人口肛門)を日常的に使っている(オストメイト)福田信彦は、認知症の妻の美雪の介護に懸命だった。 「妻は出張が多い私のために家を守ってくれました。妻のことは私が責任を持って最後まで看ます」 「妻の介護なんてものは、つらくも何ともない」。 それでも時にイライラしてしまう。共倒れを防ぐために……。

 

第五章 レトルトカレーの頃

40歳でシングルマザーになり、43歳で脳梗塞により左半身麻痺になった中村久仁子には、陽菜と蓮の子供がいた。頼んだヘルパーは母親の食事は作るが、子供たちの分は制度上、作ることができない。ヤングケアラーの陽菜は「困っていることは何もありません。家族の世話をするのは当たり前だし…」と、かっての野呂のように答えた。

 

第六章 バカンスの夢路

脳梗塞を起こした祖母を介護していた母が、兄が死んで心を病み、介護は医学部6年生で国家試験を控えた聖二の肩にかかった。

パーキンソン病の松浪茂次と、心不全を抱える志乃の夫妻、老々介護の行く末は……。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

登場人物は類型的で、話もニュースなどでよく聞く内容に留まっているので、文学作品としての出来栄えは「三つ星」だろう。しかし、読んでみれば、訪問介護する現場の実情はひしひしと身に迫る。ニュースで知る深さではない。

 

介護する人のやらなければという心と、満足に介護できず、自分自身がやりたいことができないジレンマ。介護人の心身の健康、気分転換が大切なことを実感できる。

 

 

南杏子(みなみ・きょうこ)の略歴と既読本リスト

 

 

以下、メモ

 

「歯医者さんに歯を抜いてもらうとき、麻酔を使ったことはありませんか? モルヒネで癌のくるしさを取らないというのは、麻酔なしで抜歯するようなものですよ」

 

「明日ありと思う心の仇桜 夜半(よわ)に嵐の吹かぬものかは」

 

腹水は、癌に侵された患部から水分が漏れ出して大量に溜まる。特殊な針を刺して水を外に出すことはできるが、またすぐに溜まってしまう。こうなると、余命は幾ばくもない。

 

ヤングケアラーは自覚がないことが最大の問題。誰かにとって“いい子”でも、自分にとって“いい子”かどうか、考えなきゃ。

 

「蓮の台(うてな)の半座を分かつ」 極楽浄土に生まれ変わった人が座る蓮華(れんげ)の座を二人で分け合う。すなわち、夫婦が死んでからも、なかむつまじくする。

 

「湯涌なる 山ふところの 小春日に 眼閉ぢ死なむと きみのいふなり」 夢二が恋人の彦乃と湯涌温泉で過ごした日々を詠んだもので、こんな幸せな日はもう二度と来ないのではないかしら。ならばいっそこのまま死んでしまいたい。

 

 

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