hiyamizu's blog

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加藤秀俊『九十歳のラブレター』を読む

2023年06月01日 | 読書2

加藤秀俊著『九十歳のラブレター』(2021年6月25日新潮社発行)を読んだ。

 

新潮社の紹介

ある朝、あなたは突然逝った――。小学校の同級生であったあなたと結婚して六十余年、戦争体験、戦後間もなくのアメリカでの新婚生活、京都での家作り、世界中への旅、お互いの老化……たくさんの〈人生の物語〉を共有してきたあなたの死で、ぼくの人生は根底から変わってしまった。老碩学が慟哭を抑えて綴る愛惜の賦。

 

 

この本は、戦後日本の代表的な知識人の一人、『社会学』の権威で、『整理学』など何冊ものベストセラーを出してきた加藤秀俊の「ぼく」がすでにこの世界にいない「あなた」に向けて綴った1937年から2019年9月16日までの約80年にわたるラブレターなのだ。

 

2019年9月16日の朝8時、「あなた」を起こしに行った「ぼく」は、既に硬直していた「あなた」を発見した。

 

名門校の港区立青南小学校に入学した「ぼく」と「あなた」は、男子同士の品定めに登場する「あなた」と、級長である「ぼく」をぼんやりと認識しながら話を交わすこともなく卒業した。
「ぼく」は府立六中(新宿高校)から陸軍幼年学校に入学した。「あなた」は勤労動員で旋盤工として働いていた。

 

戦後、現一橋大学生になっていた「ぼく」は井の頭線・下北沢駅のホームで青山学院に通う「あなた」を見かけて、声をかけ、一方的ともいえる交際が始まった。

 

1952年の死者も出た「血のメーデー事件」、全学連の役員を押しつけられていた「ぼく」はデモ隊の先頭に立っていた。武力衝突となり現場から逃げだした「ぼく」は、逃げている「あなた」を見かけた。中学校の英語の教師になっていた「あなた」は日教組の組合員として動員されていたのだ。二人は手をにぎりしめ、有楽町から銀座方面へ走った。

 

「ぼく」はようやく京大の助手に任用されたが1年でハーバード大学のセミナーに参加し、そこで助教授だったキッシンジャーからの推薦で留学することになった。そこで結婚することにして、日本に居た「あなた」が婚姻届けを出し、単身、貨客船でロサンジェルスに渡り、飛行機を乗り継いでボストンまでやってきた。

 

 

本書は書下ろし。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

駅のホームでの約10年ぶりの偶然の再会、過激なデモから逃げる時の偶然の遭遇など、本人達には奇跡でも、読む方は、「はいはい、それで?」という話だ。しかし、貨客船しかない時代に一人で米国東海岸まで行った「あなた」の勇気にはびっくり。

 

選ばれし人の話だが、年老いて二人暮らしになったときの話がほほえましく、参考になる。例えば、認知的な行動があっても、「ニンチだ」と指摘して笑いあったり、介護は大変というより楽しいことと思ったり、二人同時に死ねたらいいのにねと言いあったりする。

 

 

加藤秀俊(かとう・ひでとし)

1930年、東京渋谷生まれ。社会学博士。
一橋大学卒業。京都大学、スタンフォード大学、ハワイ大学、学習院大学などで教鞭をとる。
その後、国際交流基金日本語国際センター所長、日本育英会会長などをつとめる。また梅棹忠夫、小松左京らと「未来学研究会」を結成し、大阪万博のブレーンともなった。
『加藤秀俊著作集(全12巻)』『アメリカの小さな町から』『暮しの思想』『メディアの発生 聖と俗をむすぶもの』『わが師わが友』など著書多数
訳書にリースマン『孤独な群衆』、ウォルフェンスタイン&ライツ『映画の心理学』(加藤隆江との共訳)などがある。

 

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