hiyamizu's blog

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ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』を読む

2023年06月05日 | 読書2

 

ディーリア・オーエンズ著、友廣純訳『ザリガニの鳴くところ』(2020年3月15日早川書房発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

全米500万部突破、感動と驚異のベストセラー

ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。

 

【2021年本屋大賞 翻訳小説部門第1位!】全世界1500万部突破! 2019年・2020年アメリカで一番売れた小説。

原書名:WHERE THE CRAWDADS SING。 2022年同名で映画化されている。

 

作品の舞台・カイアの生きる湿地は架空の村なのだが、ヴァージニア州とカロライナ州をまたぐ海沿いの湿地ディズマル湿地がモデルとみられる。
タイトルの「ザリガニが鳴くところ」というのは、湿地の特に奥まった、生き物たちが自然のままで生きている、隠れるに適した場所を指す。

 

物語は、まだ人種差別があからさまだった1969年、米国南部の湿地で金持ちの息子で人気者のチェイスの死体が発見されるところから始まる。すぐに村人の疑惑の目は、貧乏白人が暮らす湿地に住み、野蛮な“湿地の少女”と呼ばれるカイアに向けられる。

カイア一家は、父親の暴力から逃れて、母親が家を去り、上の兄と二人の姉が去った。父とすぐ上の兄・ジョディと末っ子のカイアだけが残された。ジョディもひどく殴られて去り、さいごに父が行方不明となり、7歳の彼女は湿地のボロ小屋に一人置き去りにされた。学校にも通えず、たった一人で未開の湿地に生きてきた。味方は、燃料店を営むジャンピン・メイベル黒人夫婦と、親切に読み書きを教えてくれたジョディの親友のテイトだけだった。

 

話は、殺人の捜査が行われる1969年と、カイアの成長譚1952年以降が交互に語られる。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

本作品は、チェイスを殺したのは誰かというフーダニットのミステリーであり、湿地に一人で住む少女・カイアの成長譚である。しかし、私には何より、濃密な緑の湿地、ひっそりと息づく無数の命といった米国南部の自然を野生動物学者が描いた作品に思えた。

 

読む進めるうちに、たった一人でなんとか未開の湿地で暮らすカイアの身になって読んでいる自分に気付く。湿地の厚みのある自然と、鳥など多くの動物たちがカイアを守り、支え、育んできて、その中でカイアが少女から、大人の女性になっていく。

 

これだけ誉めておいて三つ星にしたのは、500頁を越える大部であることが原因。70歳の著者の処女作がどうしてこんなに大部なのか? 面白く読めるのだが、くたびれて、根気が続かない。

 

 

ディーリア・オーエンズ Delis Owens

ジョージア州出身の動物学者、小説家。ジョージア大学で動物学の学士号を、カリフォルニア大学デイヴィス校で動物行動学の博士号を取得。ボツワナのカラハリ砂漠でフィールドワークを行ない、その経験を記したノンフィクション『カラハリ──アフリカ最後の野生に暮らす』(マーク・オーエンズとの共著、1984年)(早川書房刊)が世界的ベストセラーとなる。現在はアイダホ州に住み、グリズリーやオオカミ、湿地の保全活動を行っている。70歳で執筆した本作が初めての小説である。

 

友廣純(ともひろ・じゅん)

立教大学大学院文学研究科博士課程中退。英米文学翻訳家。

訳書は、A・G・リドルの『タイタン・プロジェクト』『人類再生戦線』『第二進化』、マシュー・グイン『解剖迷宮』、ワイリー・キャッシュ『約束の道』など。

 

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