hiyamizu's blog

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川上未映子『夏物語』を読む

2023年06月29日 | 読書2

 

川上未映子著『夏物語』(文春文庫か51-5、2021年8月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

大阪の下町で生まれ小説家を目指し上京した夏子。38歳の頃、自分の子どもに会いたいと思い始める。子どもを産むこと、持つことへの周囲の様々な声。そんな中、精子提供で生まれ、本当の父を探す逢沢と出会い心を寄せていく、生命の意味をめぐる真摯な問いを切ない詩情と泣き笑いの筆致で描く、全世界が認める至高の物語。

 

毎日出版文化賞 芸術部門受賞、 米TIME誌ベスト10/米New York Times必読100冊/米図書館協会ベストフィクション選出!

 

「第一部(2008年夏)」(約200頁)

ともかく東京で出て、ときどき雑文を書いて、月数十万円のバイトでようやく暮らす30歳の夏目夏子は、夫と別れた39歳の姉・巻子と、その娘・11歳の緑子を東京駅で待っていた。高級とは縁のない「シャネル」といスナックのホステスの巻子は、なぜか豊胸手術に固執していた。一方、来年中学生となる緑子は、これもまたなぜか母の巻子に口をきかなくなっていた。(このあたりは、『乳と卵』の続編になっている)

 

「第二部(2016年夏~2019年夏)」(約400頁)

夏子は20歳の頃、小説を書こうと決めて上京し、33歳になる年に小さな文学賞を受賞したが、タウン誌などにエッセイ書くだけだった。1年後、初めて刊行した短編集が6万部を超えるヒットになった。すぐに大手出版社の編集者・仙川涼子が連絡をくれて、励まされた。しかし、長編小説執筆は途中でぴたりと止まったままとなる。

一方、高校の同級生の成瀬君と6年間恋人だったのに性交できなくなって別れた。相手もおらず、結婚する気もないのになぜか「わたしの子どもに会いたい」と思い、精子提供について調べ始める。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

年寄りには辛い長さだが、興味を持って読み終えた。

 

著者は、数人の登場人物、個性的な女性に子供を産むことに関する考えを明快に語らせる。

経済力も実家の支援もあるシングルマザーの作家の遊佐は母性賛歌を謳う。

「子どもを産むまえのわたしは愛のことなど、何も知らなかった。世界の半分が手つかずだった。……何にも替えられない、わたしの人生において、これ以上の出来事はない、存在はない」

 

人工授精で生まれ、性虐待を受けてきた善百合子は、出産を激しく批判する。

「もしあなたが子どもを生んでね、その子どもが生まれてきたことを心の底から後悔したとしたら、あなたはいったいどうするつもりなの」……「どうしてこんな暴力的なことを、みんな笑顔でつづけることができるんだろうって。生まれてきたいなんて一度も思ったこともない存在を、こんな途方もないことに、自分の思いだけで引きずりこむことができるのか、わたしはそれがわからないだけなんだよ」

 

独身の編集者・仙川涼子は、出産なんてそこいらじゅうの女性がやっていることより、あなたはなんとしても小説を書くべきだと迫る。

 

夏子は語る。

「わたしがしようとしていることは、とりかえしのつかないことなのかもしれません。どうなるかもわかりません。でも、わたしは」……「忘れるよりも、間違うことを選ぼうと思います」(p631)

 

上野千鶴子の書評では、「人が人をこの世にあらしめる、この目の眩むような、神をも怖れぬふるまいを、女たちはやってのける。「何もこわくない」と。」(是非、一読ください)

 

私は単純だから、こう考える。

子供は、親が勝手に産んだことを許せない場合もあるだろう。しかし、だからと言って、生まれてなければ許すも許さないもないし、生まれてしまえば、けしからぬと言ってもせん無い話だし、……。

要するに、子どもは「授かり物」だと思う。

参考:私のブログ「女性は母として生まれるが、男性は親になって初めて幼児の可愛さを知る」

このブログ、2006年7月だ。改めて読んで、「女性は母性」とか、単純で、17年間進歩の跡が見られない。

 

 

川上未映子の略歴と既読本リスト 

 

メモ

「父が生きているあいだに本当のことを知って、そのうえで、それでも僕は父に、僕の父はあなたなんだと――僕は父に、そう言いたかったです」(p620)

 

「お金を入れたざるを天井から吊るしているような昔ながらの八百屋があって」(p588)

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