hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

白川優子『「国境なき医師団」看護師が出会った人々』を読む

2022年07月23日 | 読書2

 

白川優子著『紛争地のポートレート「国境なき医師団」看護師が出会った人々』(2022年4月30日集英社発行)を読んだ。

 

「国境なき医師団(MSF)」看護師として、18回も紛争地・災害地へ赴き医療活動をしてきた著者は、ずっと語りたいと思ってきた圧倒的な暴力の中での「紛争地の人間愛」、「活動中の暮らし」、「MSFの仲間たちの素顔」などのエピソードを描いている。

 

白川さんは、あまりにも悲惨、無慈悲な戦場に絶望し、怒り、戦争そのものを失くさなくてはと、ジャーナリストになろうとしたことがあった。派遣先で、空爆で両足が無茶苦茶になり、ふさぎ込んで心を閉ざしていた高校生の少女がいた。白川さんは毎日話しかけたが、帰国日が迫ってきた。

私はもう帰国してしまうけど、あなたのことを忘れたくない。日本でもあなたの顔をずってみていたいから、だから一緒に写真を撮りたいのだと伝えた。すると、シャッターを切る時、ついに彼女が笑った(口絵の写真)。看護師として現場に戻ってきてよかった、看護師という職業の素晴らしさに改めて気づいた瞬間だった。

 

MSFは一般市民も兵士も同様に患者として受け入れる。シリアの反政府軍兵士、反政府地域の市民の患者が多い病院の中に、政府軍の負傷兵モハメドが収容された。彼には付き添う家族、知人がいなかった。壁を伝いようやく歩いていくモハメドのそばに付き添い、支える人は、他人の家族だった。やがて、相部屋で(戦争の被害者同士の)両軍の兵士が談笑する姿が見られるようになった。最も自然な形で国際人道法を守っていた。

 

フランスのボルドー空港の傍にMSFの物流センターがあり、テント、薬品、医療機器、生活物資など2万点があり、すべて通関手続き済で、24時間以内に送り出すことができる。

 

MSFの活動資金にうち公的資金は10%以下に抑えていて、94%は民間からの寄付だ。日本の寄付者も2020年度は43万人に増えた。
MSF職員は世界で4万5千人。医療従事者と非医療従事者の割合はほぼ半分。8%が海外派遣スタッフ、9%が事務局、83%が現地採用スタッフ。

 

 

初出:集英社ウェブイミダス『「国境なき医師団」看護師が出会った人々』

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

危険で過酷で、劣悪な環境の紛争地へ飛び込み、無念の想いに打ちのめされながら、明るさ、優しさを失わないか弱げに見える白川さん。その彼女が見た、悲惨な患者たち、疲労困憊の仲間たちの言動は、人間の底力、逞しさを我々に知らしめ、無益な戦争を繰り返す世にあっても、希望の光を与えてくれる。

 

 

白川優子(しらかわ・ゆうこ)          

1973年、埼玉県出身。坂戸鶴ヶ島医師会立看護専門学校卒。Australian Catholic Unibersity(看護科)卒。

日本で7年、オーストラリアで4年の看護師経験を積み、2010年36歳で「国境なき医師団」に参加。

イエメン、シリア、イラク、南スーダン、パレスチナ(ガザ地区)、アフガニスタンなど、紛争地や被災地に派遣。

2018年以降はMSF日本事務所・採用担当。

2021年9月時点で10ヵ国、18回の派遣経験。

著書に『紛争地の看護師』」。

 

最後に、国境なき医師団の宣伝を。

「国境なき医師団・白川優子が語る - 【公式】国境なき医師団日本」

 

 

以下は、私のメモ

 

ニカーブは両目の部分は小窓のような隙間があるが、あとは真っ黒な布を頭にかぶる。ブルカはその両目の部分が細かい網目状になっていて全身を黒い布で覆い隠す。

 

 

かってのパレスチナ贔屓をいまだに引きずっている私の、ブログ『紛争地の看護師』(白川優子著)から引用。

帰国時のテルアビブの空港の出国審査は残酷だった。パレスチナ支援関係者への嫌がらせだった。真っ裸にされ、渡航した国での接触した人の詳細、連絡先をしつこく質問された。部屋の外には荷物が散乱し、家族へのお土産の包装紙は破られ、財布内のレシート1枚まで取り出されていた。
しかし、白川さんは書いている。

「私が受けた嫌がらせと屈辱は、パレスチナ人がうけているものの比にならない。だけどこの時は、ここまでしなくてはならないほど追い込まれてしまったユダヤ人にたいする同情の涙も混じっていた。」
ただただイスラエルの暴虐に怒るだけの私に比べ、白川さんのやさしさにはあきれ果てるしかない。過酷な紛争地へ飛び込む勇敢な心と、敵を思いやる優しい心は同居できるのだ。

 

第七章 世界一巨大な監獄で考えたこと ─パレスチナ&イスラエル編─
「2014年、激しい空爆が51日間続いた。現在一ヶ月に1、2回の頻度で起こる単発の空爆は」話題にもあがらない。
「広大な農場も水道のシステムを破壊されたために荒廃している。工場も同様だ。電気の供給が機能せず、ガザでは電気をイスラエルから買わなくてはならないという屈辱的な仕組みが出来上がってしまった。……
屈辱感、従属感を与え続けるのもイスラエルの政策なのだろう」

国際連合パレスチナ難民救済事業機関が無料で小中学校教育を提供し、教育レベルは高い。ガザには大学だけでも8つあるが、卒業したとたんに行き場がなくなってしまう。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする