薬丸岳著『悪党』(2009年7月31日角川書店発行)を読んだ。
姉をレイプ事件で殺害された過去を持つ私立探偵の佐伯は、被害者家族の依頼人から、加害者の出所後の行方調査などの依頼をこなしながら、かつて姉を殺害した3人の元少年の行方を探していた。
2012年フジTV系「金曜プレステージ」で、2019年WOWOW「連続ドラマW」でTV化。主演はそれぞれ、滝沢秀明、東出昌大。
佐伯修一:『ホープ探偵事務所』調査員。29歳。中学生の時に、姉・ゆかりがレイプされ殺害された。警察官になったが、4年前、パトロール中にレイプの現行犯に遭遇し、姉の事件への怒りから犯人の口に拳銃を突っ込んで懲戒免職。自暴自棄になっていた時に、木暮にスカウトされた。
木暮正人:ホープ探偵事務所所長。12年前まで埼玉県警勤務。所員は佐伯と事務員の染谷のみ。
田所健二:ゆかりをレイプ、殺害した3人の少年の内の1人。現在、人気ラーメン店を経営。
寺田正志:同少年の内の1人。現在はアダルトDVDショップで働く。
榎木和也:同少年グループの主犯格で、懲役10年となった。
はるか:キャバクラ嬢。本名は伊藤冬美。佐伯が協力を依頼。
柏木俊之:埼玉県警の刑事。修一と警察学校の同期。
第一章 悪党
細谷博文:11年前に息子・健太を殺した坂上が、出所後に更生し、赦すに値するかどうかを調査依頼。
坂上洋一:高校2年生の時に細谷健太を暴行・殺害し、少年院へ。現在は振込詐欺グループのリーダー。
遠藤りさ:坂上の恋人。介護ヘルパー。
佐伯は坂上の更生をどう判断し、報告したのか? その結果、細谷博文は?
第二章 復讐
早見剛:19歳。3歳の時に当時21歳の実母・前畑美代子にネグレクトされ、1歳の弟・智也は死亡。懲役3年となった美代子を探してほしいと依頼。
幸せな状況にある美代子に対し、早見剛はどうするのか?
第三章 形見
松原弥生:34歳。余命が少ない母親の願いで、懲役12年で、現在出所している弟・文彦を探してほしいと依頼。
松原文彦:弥生の弟。18歳の時に婦女暴行殺人犯として逮捕され、仮釈放時、母と姉に身元引受人を拒否される。
なぜ母は文彦に会いたいと願ったか? そして母の形見を引き継いだ姉は弟に対し……。
第四章 盲目
町村幸雄:妹・優子が金を貢いでいた男の正体を突き止めてほしいと依頼。
町村優子:幸雄の妹。勤めていた信用金庫から4500万円を横領し、逮捕され服役。
沢村祐二:優子が交際していた男。本名は山本次郎。
山本次郎の正体は、実は?
第五章 慟哭
鈴本茂樹:刑事事件の加害者の弁護人を数多く務めてきた弁護士。自分が被害者遺族となって信念が揺らぎ、かつて自分が弁護した少年が更生しているかどうかの調査を依頼。
久保田篤史:12年前に強姦事件で逮捕。鈴本の弁護によって懲役2年の判決を受けた。
久保田は更生……。鈴木はかって榎本和也の弁護も担当していたし、木暮の……。
第六章 帰郷
冬美は暴行を受け…。
初出:「野性時代」2007年11月号~2009年3月号に飛び飛びに掲載。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
悪党、被害者家族、加害者家族のそれぞれ立場が良く描けていて、心が詰まる場面も多い。
悪党の出所後、悪党のままで惨めな境遇にある者、悪事で羽振りが良いが実は更生したい、しかし諦めている者、心の中は解らないが幸せな生活を営んでいる者、助力を得られなかった親族に恨みを持つ者など、さまざまな地獄模様がある。
メモ
「事件を起こした張本人は塀の中に入って守られます。…だけど、私たち(家族)はその憎悪や糾弾を一身に浴びるのです。ただ家族というだけで。私たちは無一文になって人目を避けるようにして逃げ回る毎日でした。…」(p112)
娘を殺された父は、修一に言った。「いつでも笑っていいんだぞ。いや、笑えるようにならなきゃいけないんだぞ。おれたちは絶対に不幸になっちゃいけないんだ」(p238)