金原ひとみ著『クラウドガール』(朝日文庫2020年3月28日朝日出版発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
刹那にリアルを感じる美しい妹・杏と、規律正しく行動する聡明な姉の理有。容姿も性格も対照的な二人は、小説家の母に対しても、まったく異なる感情と記憶を持っていた。姉妹にしか分かりえない濃密な共感と狂おしいほどの反感が招く衝撃のラストとは?
解説を共に芥川賞を受賞した綿矢りさが書いている。
中城杏(なかしろ・あん):16歳の高校生。母似の美人。刹那的。浮気性の晴臣と腐れ縁。
中城理有(りう):20歳の大学生。マレーシアに留学し帰国。無駄のない自分自身に伸びしろのなさを感じ、母や妹に蔑む気持ちと羨む気持ちの両方を抱える。
中城ユリカ:小説家。杏と理有の母。心筋梗塞死亡(自死?)。夫とは6年前に離婚。
晴臣(はるおみ):言い寄ってくる女を切り捨てられない。女優・長岡真理の息子。心臓病で2か月入院したことがある。
広岡:理有が4年前から通う美容院の店主。40歳過ぎで中学生の息子がいる。
奥原光也(こうや):25歳。引きこもり後20歳で大学に入る。叔母(星(せい))が店主の喫茶店勤務。理有と付き合う。
高橋:長く母・ユリカの担当編集者だった。
6年前に両親が離婚、2年前には母が急死し、姉・理有と妹・杏で暮らす。派手な美人の杏は、学校もろくに行かず遊び歩き、何でも姉頼み。実務的で合理的な姉の理有は、母にかわって長らく家事を取り仕切り、地味で、恋愛には臆病。
杏と晴臣の恋愛騒ぎや、理有と光也のオドオドした付き合い、中年の広岡を交えた、姉妹の関係、母を含めた3人の危ういバランスを軸に展開する。
初出:朝日新聞連載。2017年1月朝日出版より単行本刊行
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
作家で変人の母親の愛が得られないことに悩み、トラウマになっている長女・理有、生活面では姉に頼り切りで、好き勝手に恋愛を楽しんでいるはずだが、浮気性の時臣との腐れ縁を断ち切れない杏。特異な家族の中の姉妹の心の葛藤を描き出している。ただし、二女の母親となった金原さんの作品には、デビュー当時の“えぐさ“、不良・反骨ぶりはもはや見受けられない。
登場人物は、作家の娘であり、女優の息子であり、金の苦労知らずで、浮草のハイソな生活であり、その悩みも高等遊民に過ぎない。この項、未だプロレタリアート的感情を引きずった感想になってしまった。
金原ひとみ(かねはら・ひとみ)
1983年、東京生まれ。不登校になり中学、高校にはほとんど通っていない。
2003年、『蛇にピアス』ですばる文学賞受賞
2004年、同作で綿矢りさと共に芥川賞受賞し。翌年集英社の担当編集者と結婚。
2010年、『TRIP TRAP』で織田作之助賞受賞
2012年、パリに移住、『マザーズ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞
2018年、帰国
2020年、『アタラクシア』で渡辺淳一文学賞受賞。
翻訳家の金原瑞人が、娘の金原ひとみが芥川賞を受賞したとき、「私は200冊近い本を出したが、(引きこもりだった)娘は一冊目でその部数を上回ってしまった。」というような趣旨の話を嬉しそうにしていた。
窘める:たしなめる