辻村深月著『噛みあわない会話と、ある過去について』(2018年6月12日講談社発行)を読んだ
何気なく話した日常の会話が、まったく気づかなかったのだが、相手にとっては厳しい刃物となっていて、大人になってからその事実を突きつけられるという薄気味悪い短編4編。
「講談社BOOK倶楽部」に「本屋大賞受賞後第一作!」との宣伝がある。
「ナベちゃんのヨメ」
大学時代、コーラス部で女子部員と仲が良く、女子の中でも違和感がなかった“男をかんじさせない男友達”ナベちゃん。女子に近かったが、男子としては遠くに思われてしまった。卒業して7年、その彼が結婚するという。「ナベちゃんの嫁がヤバいらしい――という噂が立つ。」。そして、部活仲間が集まった席で紹介されたナベちゃんの婚約者は、ふるまいも発言も、どこかズレていた。戸惑う私たちに追い打ちをかけたのは、ナベちゃんと婚約者の信じがたい頼み事で――?
「(ナベちゃんのことを女たちは、)仲のいい男友達、でも本当は恋愛がしたいということを知ってた、私はそれから目を背けてただけ」
「パッとしない子」
美術教師の美穂は、国民的アイドルグループの一員として有名人になった高輪佑(たすく)をかって教えていたことがある。佑がTV番組の収録で美穂の働く小学校を訪れる。事務員の前野に「その頃から輝いていました?」と聞かれて、美穂の記憶では「あの子、ぱっとしない子だったんだよね」と答える。ただ一つ、「運動会の入場門をまっ黒に塗ったらだめですか」と聞いてきた彼に、美穂は「いいよ」と答え、彼が笑顔になったのを覚えていた。久しぶりの再会で、佑は美穂にもっと話たいという。そして、その話は……。
「ママ・母」
27歳の私は、最初に赴任した小学校で親しくなったスミちゃん(住吉亜美)から引越しの手伝いを頼まれた。アルバムを見ながらスミちゃんの昔話を聞いていると、保護者会で出会った真面目で一生懸命な竜之介くんのお母さんの話になる。お母さんは「子どもにはちゃんと親は親、子どもは子ども、という考え方を早い段階からわからせてきました。……」と、自分は絶対正しいとばかり他の保護者のことを批判する。
スミちゃんは、その子育てが正解かどうかは、成長した子どもが大人になってから親の子育てを肯定できるかどうかで判断できると話はじめ、スミちゃんの母親の話に代わっていって……。不快な違和感が忍び寄り、不思議な現象が起きる。
「早穂とゆかり」
県内情報誌のライターをしている湯本早穂(さほ)は、塾を経営しカリスマ教育者としてTVのコメンテーターでもある小学校の同級生・日比野ゆかりに取材することになる。
メガネで暗く、運動神経もなく、友達もいなかったゆかりは子ども時代を秘密にしていると早穂は感じていた。たいして気にもしないでゆかりをいじめていた早穂と、そのことをしっかりと根に持っていたゆかり。ゆかりの復讐がじっくりと徹底的に始まる。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
静かに、当たり前だと思って日常を過ごしていたのに、突然昔の事実が持ち込まれ、徐々に陰険な復讐にさらされる。悪意と違和感、後味の悪い不気味さ満載。
楽しむために小説を読む私には、この類の話は落ち着かない。
私は悪口は言わないようにしているが、冗談で人をからかったことはあるし、そんなこと、しょっちゅうあるような気もする。また、過去たいして考えもせずふと口にしたことで、他の人を傷つけたことがこれまでの人生で何度もあったのだろう。大した意味もない軽い言葉が、相手に大きな傷を負わせた可能性はある。
でも、この話のように、私は相手から強い悪意を感じたことはない。私はそんなことあまり気にしない性なのかもしれないが。
この小説の中で、いじめられたと感じた相手側の言い分が、一方的な見方だと読み取れる部分もあり、あまりにっも強い悪意を相手に浴びせる態度にも、反感を持ってしまった。
著者自身が昔いじめられていたのではないかと推察しているが、その恨みを小説を書くことで晴らしている気もする。しかし、一方的ではなく、物事の両面を感じさせるように書かれているのは、さすが小説家。