hiyamizu's blog

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リチャード・プライス「聖者は口を閉ざす」を読む

2009年01月12日 | 読書2
リチャード・プライス著 , 白石朗訳「聖者は口を閉ざす」(原題:Samaritan)、2008年3月、文藝春秋発行を読んだ。

表紙の裏の要旨は以下だ。

レイは故郷に戻ってきた。TV脚本家としての名声を捨て、生まれ育った団地の町に貢献するために。貧困と荒廃に覆われた町のハイスクールで、レイは講師をはじめる。少しずつ生徒たちとの交流も深まってきた頃―何者かが彼の頭を殴打し、瀕死の重傷を負わせた。
だがレイは警察に犯人の名を明かさない。
捜査を担当することになった刑事ネリーズは、レイの幼なじみだった。献身的に町のために尽くしてきたレイは何を隠しているのか?ネリーズの捜査が、レイに関わった人びとそれぞれの物語を引き出してゆく…それはひとつひとつが悲しく、あるいは暖かく、そして何より彼らにとってかけがえのない物語だ。
その果てに明かされる真相。善行をなそうとした男を見舞った悲劇の理由。
スティーブン・キング、エルモア・レナードら、小説巧者たちが絶賛の声を惜しまない感動の大作。痛ましい現実に満ちた世界のなかで、しかし希望の光が最後に灯される。




善行がもたらす、癒しと傷。とくに、自分の弱さのための善行と、愛にもとづく善行の境目はあいまいだが、その影響は大きく異なる。

子供のころに過ごした荒れ果てた団地に戻り、今も住む人達と交流するうちに、昔の出来事を思い出しながら、その裏の事情を始めて知る。
事件の起こる前と後が交互に語られる。そして、それらの中で、昔の出来事がはさまる。たいした混乱もなく読めるのは、著者の力量だろう。



著者のリチャード・プライスは、24歳で「ワンダラーズ」を書いて大成功の作家デビューを果たし、10年たらずで4作を書いた。しかし、壁にぶちあたった彼はシナリオ作家に転換してトップクラスになる。さらに10年ぶりに長編第5作「クロッカーズ」、6年後に「フリーダムランド」、そして本書でも、ニュージャージの低所得者向けの郊外団地を舞台とする小説を書いた。
書く力がある作家であることは間違いない。



私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読めば)

貧富の差が米国ほどあからさまでなく、慈善の文化もささやかな日本に住む私には、だまされるとわかっていても頼まれたら断れないレイにはイライラいして、ついていけない。
なにより、犯人は誰かという疑問も558ページも読みすすめるうちに、どうでも良くなってくる。
それにしても、サイドストーリーをこれほどまで積み重ね、濃厚な話をつむぎだす著者のプライス氏には敬意を表する。外国にはどうしてこうエネルギッシュな作家が多いのだろうか。日本では数少ない宮部みゆきさんや、高村薫さんは肉食?

しかし、対岸にニューヨークを見るスラムの様子、変化、そこに住む人達の絶望と達観はよく書けていて、読み続けていると、その中にすっぽり入ってしまったように感じる。



コメント
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