ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

命と、糧と、家紋

2011-11-10 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
依然、うな垂れたままの能子さんに「その苦しみの半分を持ちます。もう半分は自分で負担して下さい。自分で苦しみから抜け出せないと、いつまでも壇ノ浦から抜けられません」
能子「ふ…」しがみ付いていた手から力が抜けて、
与一「落ち着いた?」のかと思い、濡れた髪を掻き分け、顔を探った。濡れた頬は柔らかく、冷たかった。薬指に彼女のまつ毛が触れて、目を閉じているが分かった「能子さん…?」
親指の付け根辺りに掛かる吐息はさらに小さくて消えそうで…堪らなくなって、彼女の、その命の灯火を胸に引き寄せ、口から魂に生命を吹き込んだ。結婚してから、ずっと拒まれて続けていた事を、不意に成し遂げてしまって「…つい、すみません」
能子「うぅ…ん…」今度は、小さく、小さく横に頭を振った。
与一「失った命の代わりに、命を育んでは頂けませんか。女性にしか出来ない事なんですよ」
能子「や…」っぱり…その命の重さに耐えられない「…怖い」のか、
与一「怖いのは皆同じです。誰もが、その恐怖と戦い、命と向き合っている」
能子「…ごめんなさい」
与一「能子さん…」どうしても…ダメか「なら、これで…」懐を探って、櫛を取り出し「俺に、男として」源氏としての贖罪ではなく「あなたと、糧を守らせて下さい」
能子「糧?」
与一「生きる力です。その代わり、支えて下さい。この目では、一人で生きるに…難しい」
能子「与一…」櫛と一緒に、俺の手を握ってくれた「ありがと…」って、でも、
与一「それじゃ、答えになってませんよ」苦笑した。
能子「…意地悪」
与一「お互い様です」と言って返して、櫛を渡した。
能子「つやつや…」櫛は艶やかで、手触りが滑らか「気持ちい」やっと笑った「菊と、蝶…」
半月形の櫛の部分 ツゲには椿染めを残し、持ち手の漆施された部分に夜に浮かぶ金色の菊、那須家の菊一文字紋と、蝶、彼女の平家蝶紋を銀であしらい、キラキラ「光って、きれい」
与一「二人の家紋を、モチーフにしました。どうです?重盛様の櫛に負けてないでしょ」
能子「…使ってみないと分からないわ」ほら、素直じゃない、いつもの能子さんだ。
与一「じゃ、ずっと使って、確かめて下さい」
能子「はい」結局、素直になる。そういう所も、能子さんだ。じゃ…、
与一「ここで、一つ…普通の女性になる覚悟を決めて下さい、作戦は、執行中です」
能子「作戦…?」


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。