ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

要の意思

2011-06-23 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
ワキ「老いると…」白い髭を撫でつけ「説教が好きになりまして…」と近付き「あなた…」スッと座り、立て膝つき「池田さん、といいましたね」と、スッと掌で指し示した。
池田「…」
ワキ「私では、あのような白龍は舞えません」
池田「舞は心、己の心を舞ったまで」
ワキ「それが、人に感動を与える」
池田「能の講釈に来られたのですか?」一瞬目を細めた。
ワキ「いい目をしていらっしゃる。澄んだ目の奥に、野心が光っている」
池田「白龍にも、そういう野心があっていい、そう思ったまでです」
ワキ「若い感性が羨ましい。久しぶりに、この老いぼれ…震えました。歳を取ると保守的になり、型を破るのが怖くなる。我が身可愛さに伸ばせる手も…」己の手のシワを繁々と見つめ、ふぅと笑い「シワも、伸びなくなります」と、手をゆっくり握って、開いた。
池田「…」そのシワだらけの手をチラッと見て、次の言葉を待っていたら、
トン…ッ「!?」不意に、掌で胸を突かれ、
能子「あ…」その“衝撃”に驚き、ソッと顔を横に向け、その手を見た。
ワキ「ようやく、天女の顔を拝む事が出来ました」と微笑み「辛い思いをさせて、申し訳ありませんでした」と天女に頭を下げた。
能子「いえ…悪いのは、私です。春日の神様に、申し訳が立ちません」
ワキ「神は、天女の舞に、大層お喜び遊ばしました。ただ…」
能子「ただ…」
ワキ「舞に、迷いがある」初老の細い目が、天女の心を見透かした。
能子「…」ドキッと心臓が強く脈打って、心を裸にされたようで…恥ずかしくなった。
ワキ「今のあなたには、要石が定まってない」
能子「要石(かなめいし)…?」
ワキ「目には見えない石で、心には映ってしまう意思。揺らげば弱く、定めれば強くなる」
能子「…」その時、義隆の目には、その要石が映るんだ、と思った。
“能子ねぇちゃんって…時々、遠くへ行っちゃうね”
地に足が付かず、すぐ浮いてしまう私の心が見えてる…と分かって、また…涙が溢れてきた。
池田さんの胸に置かれた掌に、そっと手を添えて「どうすれば、定まりましょうか?」と、すがるようにワキを見つめた。


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