ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~父の位牌と焼香と~

2012-08-09 | 散華の如く~天下出世の蝶~
私が尾張に嫁いでひと月と経たぬ明くる日、
信長「親父が…?」
三河松平、駿河今川を迎え撃つために築城した末森城で倒れたという知らせが入った。
帰蝶「そ、そんな…義父上様はまだ、お若くいらっしゃるのに…」
今川氏と交戦中に流行病にかかり、織田信秀 死去。享年四十。
余りにも早い父の死を、
信長「口外するな」
周辺が落ち着くまで、信秀様の死を隠した。
情勢の安定を見計らい、しめやかに葬儀が執り行われるはずだったが、
ざわ…、
家臣たちからどよめきが起こった。
帰蝶「ま…」
お召替えもせず、髪は茶せんしばりに突き立て、腰の三五縄(注連縄)、長柄大刀を持って、
ツカツカ…と位牌の前に立ったと思ったら、
くはッ、抹香と掴んで、
バッ、仏前へ投げ掛け、無言で出て行った。
家臣らはヒソヒソと「なんと恐れ多い…あれでは、織田家も終わりじゃな」等と囁いていた。
そんな囁きに、
私は、ギューッと数珠を握って、ギリギリ…と珠と珠がこすれる音を鳴らした。
悔しかった。
“なぁ。信長…父上様がお好きか?”
息子が、父の死をどれだけ悲しんでいるか、あやつら、分かっとらん。
信長が何を訴えて、あの様な格好しているのか…全く気付いておらん。
なんと淋しいことか…。
葬儀を終えたその日の夜、寝所で、
帰蝶「殿ッ、そこに座りなさいッ」
平手様から預かった救急箱を、ドンッと置いて、
信長「な、なんじゃ?」
帰蝶「御手を出し成され」
信長「…」無言で差し出した彼の掌は、火傷をしていた。


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