『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 1308

　建造の場に戻ったドックスは、木板に描いた構図と首っ引きで、作業の者らを叱咤して組み立てていく。
　９月からの船舶の建造を遂行していくうえで何としても作業をやりやすくしなければならないのである。そのことに配慮して、作業を的確にやりやすい建造の場つくりの船台の構築なのである。
　新艇の５艇同時建造態勢で体験した不手際を再現してはならないといったスタンスでの対処もある船台作りなのである。
　ドックスのものづくりの思考の芯は、『確かな母体が、確かなものを生む』これでもって船舶の建造結果を確かなものにしたいと強く考えている。
　ドックスの研ぎ澄まされた感覚が船台を構築していく、程なく造作が終わる、船台が完成した。
　作業中、仮の位置に据え置いていた完成戦闘艇を船台上の正しい位置に据える。
　ドックスが正位置に据え置いた戦闘艇の右舷側に適当な距離をとって立つ、じいっと見つめる、目を閉じる、作業の進捗に合わせて、まぶた裏に自分を含めた作業員らが立ち働く風景を想起する。
　船底部の造作を終え、艇首部の造作、舷側の造作、艇尾部の造作へと作業が進んでいく、帆柱も建てる、艇尾部の造作も難なくクリアする、戦闘艇の完成作業をイメージの中で終えた。
　ドックスの口をひらく、叫ぶ。
　『おう、出来あがった！戦闘艇が完成した！』
　ドックスが目をあける。周りにいる者がドックスに声をかける。
　『ドックス棟梁、今、出来あがった！戦闘艇が完成した！と言われましたが？』
　『何っ！？そんなことを俺が言ったか？そうかそうか、これについては、語る日が来るかもだな』
　ドックスは、微笑みを浮かべて、周りの者らと目を合わせた。
　『おう、誰か、ひとっ走り、オキテス隊長のところへ走ってくれ！』
　『はい！私が行きます』
　『行って、伝えてくれ！試作船台が出来あがりました。見てください。と伝えてくれ』
　『解りました』
　作業員の一人が伝言を持って、オキテスの席へと走る。ドックスは、オキテスらの姿を見せるを待つ、待つ間もドックスは出来あがった船台を見て回る。
　オキテスがパリヌルスを伴い、話ながら建造の場に足を運んでくる。
　『おう、ドックス棟梁、試作船台が出来あがったか、どれどれ！』
　完成戦闘艇が正しく据え置かれている試作船台にパリヌルスとオキテスが見入る。
　オキテスが口を開く。
　『おう、ドックス棟梁、この船台、いい具合に出来ているではないか。艇尾部の作業がしやすくできている。重畳重畳！』
　二人は、据え置かれている戦闘艇と船台のありかたに注視して、造作された船台を見つめる。
　『おう、これだったら、これまでしずらかった作業もやりやすいと考えられる。オキテス、造りあげる船の品質も向上するな』
　パリヌルスは、出来あがった船台を誉めあげる。
　『ドックス、明後日、ギアスの持ってくるキドニス方の新艇の舵の取り付け、この船台を使用してやってみたらどうだ』
　『そうですね、早速、やってみます』
　二人は、言葉を交わしてうなずき合った。