乃木坂46は今まで箱推しのつもりでいたが、やはり齋藤飛鳥の卒業は惜別の感が大きい。
彼女の卒業については後述させていただくとして、31stシングルの「ここにはないもの」のMVの感想から書かせていただく。
MVの構成は齋藤飛鳥をアパレル企業のデザイナーを目指すOLとして描いたストーリー仕立てになっていて、あまり込み入った設定とせず、シンプルに目標に向かって旅立っていく姿を見せている。
エンディングは、橋本奈々未の卒業シングル「サヨナラの意味」で橋本奈々未が旅立っていくときに紙ヒコーキを残していったように、山下美月・遠藤さくらが演じる同僚に充てて、引っ越したあとの部屋に「いってきます」とメモを残すというオマージュのような演出になっていて、スタッフの齋藤飛鳥と橋本奈々未の関係性をしっかりわかっていることがにじみ出ていた。
また、自分がデザインしたドレスを同僚たちが形にして披露されたときの齋藤飛鳥の表情は、嬉しさと泣きまいとする強がりが交錯した素晴らしい演技で、女優としての可能性を感じさせてくれる。
加えて、このMVの中で一番好きなのが、銀座線渋谷駅の無人のホームでの齋藤飛鳥のソロダンス。その優美さやキレのよさは、パフォーマーとしてのポテンシャルを見せつけている。
短い時間の中で、よくもこれだけ切り取ったなあ、と齋藤飛鳥の様々な表情で彩られているのが「ここにないもの」のMVだった。
正直なところ、曲自体は秋元流の言葉を詰め込んだ早口ポエトリーリーディングがAメロになっていて、「サヨナラの意味」ほどの没入感が得られていないのだが、歌詞をみると彼女が活躍したシングルのキーワードがずらっと並んでいて、さすが秋元先生という作品になっている。
さて、齋藤飛鳥、彼女自身の卒業について。
まだ24歳という若さでありながら、乃木坂歴11年である。グループに対する貢献度は今年卒業した1~2期生の中で随一だろう。彼女が慕っていた橋本奈々未は6年余の活動期間であったが、3期生加入とすれちがいのようなタイミングでグループを去っている。これに対して齋藤飛鳥は、3期生の山下美月、梅澤美波、4期生の遠藤さくらをそれこそグループの中核メンバーに導き、できる限りの中で万全な体制を作り上げたと言っていい。
だからこそ、彼女の卒業は生駒里奈のときと同様に「納得」してしまっている自分がいる。
現時点ではまだ活動中であり、卒業後のことはまだ明かされていないが、今回のMVで魅せた素晴らしさは、できれば音楽、演技、舞台、モデル、ファッション、どんな形でもいいから、芸能活動を続けていってほしい。
齋藤飛鳥は、乃木坂46の中だけではおさまらないポテンシャルの塊なのだから。