Afternoon Avenue 25 (by hide_boo)

Perfumeと乃木坂46、IZ*ONEなどのアイドルやクルマやバイク、好きなものついて、だらだら綴ります。

湾岸MIDNIGHT / 楠みちはる

2014-07-28 23:06:16 | Weblog

湾岸ミッドナイト、1990年頃から連載された改造(チューニング)及びカーバトル漫画で単行本は42巻まで刊行されている。先にネガというか、気になる部分を言ってしまうと登場人物の年齢などは連載当時からほとんど変わらないサザエさん状態なのに、クルマの情報や業界背景はエピソードごとにアップデートされている点。

 

例えば、はじめは主人公アサクラアキオが乗る初期型フェアレディZ(S30Z)の対抗馬としてスカイラインGT-RはBNR32という形式だったのに、エピソードを経るごとにR33、R34、ついにはGT-Rの一端生産終了までライバルカーとして登場しながら、その間アキオはダブリの高3のままなのだ。R32からR34まで軽く10年以上経過しているのに、だ。

 

しかし、各エピソードにハマってしまうとそんな矛盾も気にならなくなる。当初は誰が速いのか、どうしたら速くなるのか、というテーマだったのが、チューニング(改造)車を走らせることの違法性、又、首都高最速でありつづける意味、といった哲学や、アキオのZやブラックバードのポルシェ(Zの最大のライバルである島 達也の駆るポルシェ964ターボ)と走り合うライバルの人生がバトルをきっかけに自分自身を見つめ直していくドラマへと成長・成熟していき、すべてを犠牲にして走り続けるアキオの姿に感動さえ覚えていく。

 

セリフは作者得意のちょい古なチャラさがベースなのに、語られる内容はすごく重たくて、それこそ生きていくヒントみたいなものに溢れている。

 

主人公たちは、月並みな幸せを捨てて(というより顧みずに)走り続ける環境を維持していく。人と同じでなくていい、自分が望む走りを追求することに生活の全てを賭けている。自分は結婚して子供が出来たのを機にバイクから降りた。子供が育ったらまた乗れるだろうとタカをくくっていたがそんなに甘くない。サラリーマンにはバイクを購入して維持するだけの費用は小遣いでは無理だ。つまり家庭の幸せなんてものをアキオたちは求めていない。Zやポルシェを愛し、走り続けること、首都高最速であることを幸せとしている。世間に理解されようとは思っていない。ただ同じ世界にいる人間にだけわかってもらえればいい。そんな達観がある。

 

コミックスという虚構の世界だからそんなことができる、とは思わない。やはり自分の夢を追い求め続け、いわゆる小市民的な幸福など顧みずに生き続けている人々が存在する。それをただの世間知らずと揶揄するのか、その覚悟をリスペクトするのか、自分自身やっかみと尊敬の念とが混在してしまうのだが、価値観としてそういう生き方があってもよい、と認められる器が自分にあるのか、を問われているような気がするのだ。

 

今、スカイラインの名がとれたNISSAN GT-Rはコミックスの世界のチューンドカーと同じレベルのパワーを市販車で実現してみせた。しかし、そんなGT-Rとは違ってファエアレディZは日産が北米での販路を切り開くために、安い部品でスポーツカーの形をしたものとして作られたモデルらしい。そんなクルマを愛し、チューンナップしてそれこそポルシェやフェラーリと同等に走らせようとする、クルマ好きの熱さとずっとその熱さで走り続けることの深さ、尊さを教えてくれる作品だ。