矢野(五味)晴美の感染症ワールド・ブログ

五味晴美の感染症ワールドのブログ版
医学生、研修医、医療従事者を中心に感染症診療と教育に関する情報還元をしています。

感染対策 振り返りとスキルアップ

2016-05-12 06:32:41 | 感染症関連
新年度も2ヶ月目。

感染対策の習慣を新人さん、ベテランさんに振り返っていただきたい時期です。

レクチャで聞いて、「知識として知っている」レベルと、「現場で実行する」レベルには大きなギャップがあり、そこを現場でトレーニング
Hands-On-Training(現場で手ほどき)することが必要です。

全国のどこの病院でも見られる課題(感染対策上、アウトブレイクの大きな原因となりうる行為)を列挙してみます。


1. 患者さんの病室に入るときに、「手洗い・手指消毒」をまったくしていない
  「いわゆるスルーして入室」、その後、手洗い・手指消毒なしで「スルーして退室」が続く。

   "Gel in, Gel out" 入室時、退室時には、アルコールジェルGelで、手指消毒。

2. 患者さんご本人、患者のベッド柵やテーブルなどの「環境表面」を触れた後、手洗い・手指消毒しない
  患者のベット柵、テーブル、カーテンはもっとも「汚染=細菌がいっぱい」されている状況です。
  触れたあとは、すかさず、手指消毒。

3. 同じ病室で、患者Aに触れた後、手指消毒しないで、患者Bを触れる

4. 手袋をしたまま、病棟内を移動し、物品をとったり、コンピュータ(キーボード)に触れる 
 (手袋が触れた部分は、すべて汚染されます=交差汚染 cross contaminationで、アウトブレイク発生の温床となります)

5. 素手で、手指消毒しないまま、点滴のコネクター、チューブ、カテーテルに触れる、付け替える

6. 病棟内を、「常に」マスクして歩く=> 自分に症状がない場合、感染対策上、不適切。
 マスクは汚染物、汚染されたマスクを触り(ずれてくるので常に手が触れます)、その手で、手洗いせず、患者を診察する。

マスク着用を適正に行わず、「あごマスク」「ひじマスク」と呼ばれる不適切使用。
 これらは、汚染物を自身の身にまとい、動き回る(ひじにつけると、白衣やひじが汚染されており、自分が"微生物媒介者"になります)

など多数あります。

感染対策は、

「自分の身を守る」 Personal safety

「患者の身を守る」 Patient safety

の2つの大きな目的があります。

仮に、感染対策の実行が、0-100のスケールで、常に50を維持することが必要な状況と仮定します。

自分たちの病院が、例えば、いま30ぐらい(50必要な状況したで)であるところに、

例えば、2007年以降、毎年 鳥インフルエンザや新型インフルエンザ、2014年度は、エボラ出血熱、MARSなどのリスクがかかる状況でした。

そのような状況では、

感染対策の実行状況を、0-100のスケールで、「80-90」かそれ以上に維持することが必要でした。

日頃50できていても、70-80のレベルを数ヶ月にわたり維持することは極めて困難です。

それが日頃も30ぐらいで、いきなり、80-90程度が必要になれば、ハードルが高すぎるので、頻繁に現場でパニックになります。

感染対策は、どの微生物であっても、適用する原則はまったく同じ。

標準予防策



感染経路別対策(空気、飛沫、接触感染対策)

にすぎません。

致死率や発症後の重症度などで、使用する個人防護具の厳重さが変わる、と考えるのがよいと思います。

頭で考えてもできるようになりません。

「体で習慣つける」ことが大切です。

現場で、適正に感染対策をしている人から、

See one, Do one, Teach oneとなれば、もっともよいです。

「よいお手本がいない」状況が一番、困難ですが、みんなで声をかけあって、よりよい診療システムをつくることが大切です。