矢野(五味)晴美の感染症ワールド・ブログ

五味晴美の感染症ワールドのブログ版
医学生、研修医、医療従事者を中心に感染症診療と教育に関する情報還元をしています。

症例提示のお作法「疑い」「否定」「指摘」からの脱却

2016-05-05 19:49:46 | 医学教育
学生、若手の方に、full history and physical examinationsをしていただき、oral presentationとchart writingをしていただきながら現場教育しています。

5月から筑波大学はもとより、全国の大学から医学部の学生さんが当院に来られます。
感染症科もご希望される方が多くいらっしゃり、楽しみにしています。

学生、若手、ベテラン(生涯教育としても重要)の方、みなさんに、患者さんをより正確に捉え、正確にプレゼンテーションできるようになっていただければ、と願いつつ、フィードバックしております(厳しいかもしれません。。反省しつつ)

日本の現場で共通する改善点・課題が下記です。
リスクアセスメントにも通じます。
可能性の評価 likelihoodと申しますが、その概念の習得と理解、実践が多くの方の課題となっています。

カルテは公開前提の公文書のため、なるべくわかりやすく、起こった出来事はすかさず記録する。

かつ、「診断名」は、その可能性も含めて明記する、何度もアセスメントしなおす、ことが重要です。
入院後10日以上たっても、まだ「ABC疾患疑い」というようなアセスメントが延々とコピー & ペーストされる状況は改善が必要です。

口頭およびカルテ記載で、診断名に関して、「疑い」「否定」「指摘」を使用せずに、表記することをお願いしています。

日本語の「疑い」診断は、きわめて広い意味であり、「きわめてあいまい」です。
すなわち、意思決定に役立たないのです。

暫定診断(80-90%近い可能性)としても、「疑い」を使い、5%以下の可能性の診断にも「疑い」を使い、
結局、アクションを起こしている(対応している)診断名は、「暫定診断」(working diagnosis)であります。

一方で、最後まで鑑別診断として「捨てない」場合も、「疑い」と使用されますが、must rule outなど、
「きわめて可能性は低いが可能性がある」という意味なら、そのように明記することをお勧めしています。

科学で、仮説を「否定する」とは言いますが、診断の場合、rule in, rule out に該当する日本語は、おそらく診断を確定する、診断を除外する
ということでないでしょうか。除外できたなら、そのように明記することをお勧めします。除外rule outできたら、その疾患はプロブレムから
消去できます。

さらに、日本的あいまい用語の「指摘」する。


"この患者は5年前に高血圧と指摘され” という一見よくあるカルテ文言ですが、意味があいまいです。

5年前に、医師が高血圧の確定診断をつけたのか、

そもそも確定診断がついているのかどうか(上記の文面では不明)

高血圧の可能性がある、と検診などで言われたのか、

本人が、高血圧、と言っているのか(患者報告のみ)


英文で症例報告を書くと、「指摘」というのがいかにあいまいな用語かが浮かび上がります。

アセスメントも、一番最初は、プロブレムリストでよいのですが、確定診断がついた症例でもずっとプロブレムリストのままでは、
”プログレスノート Progress note"になりません。

仲間同士で、フィードバックしてみてください。

カルテ記載が精緻になることは、それを元に臨床研究を始める「はじめの一歩」であるからです。

当科では、口頭でのプレゼンテーションとカルテ記載を精緻にするトレーニングをしていただいております。

ご興味のある方は、ぜひ、見学にいらしてくださいませ。臨床能力の核をトレーニングしていただけます。


臨床見学の申し込みサイト