熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

新英国王チャールズ3世の思い出

2022年09月09日 | 学問・文化・芸術
   エリザベス女王が、偉大な業績を残して崩御された。
   私も、イギリスで5年間生活してきたので、激動のイギリスで素晴しい公務を遂行されていたのを身近に感じていた。
   ご冥福を心からお祈り申し上げたい。

   チャールズ皇太子が、チャールズ3世として新英国国王になられた。
   実は、随分前のことになるが、私は、皇太子時代のチャールズ国王に、2回、お目通りを頂いているのである。

   記録を残していないので、その後にこのブログに書いた文章を多少修正して、転載し、思い出に浸りたいと思う。

   1988年のことだと思うのだが、ロンドンのシティで、私が、大きな都市開発プロジェクトを立ち上げた丁度その時、金融ビッグバンでシティが急開発に沸きに沸いた頃で、シティ・コーポレーションが、晩餐会を開催し、チャールズ皇太子をゲスト・スピーカーとして招待した。
   その時、私は、シティのお歴々と会場のエントランスで、4人の一人として並んで皇太子をお出迎えした。
   シティでの開発プロジェクトについて少しご説明申し上げたが、「アーキテクトですか。」と聞かれた事だけは覚えているが、何を説明したのか何を言われたのか全く何も覚えていない。
   この時の握手した手の感触と、少し後に、別なレセプションで同じ様にダイアナ妃をお迎えした時の彼女の柔らかい手の感触だけはかすかに残っている。

   問題は、この時のチャールズ皇太子のスピーチの内容で、激しい口調で、当時ビックバンに湧くシティの乱開発について批判し、当時のシティの都市景観は、ナチスの空爆によって破壊された戦後のシティのスカイラインよりも遥かに酷いもので、「Rape of Britain」 だと糾弾したのである。
   チャールズ皇太子のシティのイメージは、丁度セント・ポール寺院が軍艦のように洋上に浮かんでいるシティなのだが、既に周りの色々な高層ビルが寺院を威圧してしまっていた。
   それに、悪いことに、イギリスの開発許可は、個々のプロジェクト毎に認可されるので、そのデザインについては統一性がなく、各個区々なので都市景観の統一性がないために、パリのように都市そのものの纏まりがなくて美観に欠ける。

   その後、BBCが、チャールズ皇太子のこの見解に沿った特別番組を放映し、チャールズ皇太子がテームズ川を行く船上から、「あの建物はパソコンみたいで景観を害する・・・」等々問題の建築物を一つ一つ批判したのである。

   同時に、「A VISION OF BRITAIN A Personal View of Architecture」1989.9.8が出版されたので、チャールズ皇太子の一石が、英国建築界とシティ開発などに大きな波紋を投げかけて大論争になった。
   (注記、この当たりの一連のチャールズ論争については、2006年の私のブログ記事を、そのまま、2018年に、天地はるなの「おしゃれ手帳」に無断で転載されている。)
   この時、私の友人のアーキテクトが推進していたセント・ポール寺院に隣接するパターノスター・スクウェアー開発プロジェクトも、この煽りを受けて頓挫してしまって、三菱地所による開発が完了したのは随分後になってからである。
   我がプロジェクトのファイナンシャル・タイムズ本社ビルも、買収直後に重要文化財に指定され、重度の保存建造物となったので、より以上に素晴らしい価値あるビルを再開発する以外に道はないと腹を括って、英国のトップ・アーキテクトを総てインタヴューしてまわってプランを固め、シティや政府関係当局、環境保護団体や学者、ジャーナリスト等の説得など大変な日々を過ごし、皇太子の了解も取得した。代表者として誰も経験したことのないプロジェクトを仕掛けたのであるから、最初から最後まで、殆ど前例のない異国での孤軍奮闘の戦いであったが、完成した時には我ながら感激した。セントポール寺院と目と鼻の先、王立建築家協会などの賞を総なめにして、その銘板がエントランスの壁面に並んでいる。
   この時のBBC番組のビデオ・テープと本は持って帰った心算だが、紛失してしまって今はない。
   
   その後、もう一度、景観保護団体の集会があり、チャールズ皇太子を先頭にシティの古い街並みを歩きながら勉強する会があったので参加した。
   この時は、後のレセプションで、お付きの人が呼びに来たので、チャールズ皇太子と5分ぐらいお話しすることが出来た。
   丁度、日本への訪日前だったので、興味を持たれて色々聞かれたが、日本の経済や会社の経営については非常に評価しているので勉強したいと言われていた。

   さて、チャールズ皇太子は、ご自分のコーンウォール公領で、環境に負荷をかけずに長く続けられる”持続可能な(Sustainable)”農業を様々な形で試みていることは有名な話で、現代の都市の乱開発を嫌い、古き良き時代の心地よい田園生活をこよなく愛している。道楽ではなく、徹頭徹尾の環境保護主義者であり古き良き英国を再現したいと思っていることは間違いない。
   高度な識見と高邁な思想を持った傑出した君主であることは折り紙付きであり、これからのイギリスの将来が楽しみである。
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