熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ロンドンタクシー運転手の頭脳カーナビ

2022年09月07日 | 生活随想・趣味
   President onlineの、和田秀樹氏の、「実は若者と老人の記憶力には差はない…「年をとるほど忘れやすくなる」という誤解が広がる本当の理由」という記事が興味深い。
   私が面白いと思ったのは、ロンドンタクシー運転手の記憶力の良さに関するコメントである。
   5年間、ロンドに住んでいたので、これは、身に染みて経験している。


   まず、和田先生の説明を引用すると、
   ロンドン大学の認知神経学の研究者、エレノア・マグワイアー博士が、「脳の神経細胞は、大人になっても増えることがある」と報告したからです。これは、それまでの脳科学の常識をくつがえす大発見でした。
   マグワイアー博士は日頃、ロンドン市中を走るタクシー運転手の「記憶力」に関心をもっていました。「彼らは、なぜロンドン市街の複雑な裏道、路地を記憶できるのか?」と不思議に思っていたのです。そこで博士は、タクシー運転手と一般人の脳の比較研究を始めました。すると、タクシー運転手の脳の「海馬」が、一般人よりも大きく発達していることがわかったのです。
   海馬は、大脳辺縁系にあって、記憶の入力を司る部位です。ベテラン運転手ほど、その発達の度合いは大きく、タクシー運転歴30年を超える大ベテランは、海馬の体積が3%も増えていることがわかったのです。
   ベテラン運転手は、頭の中に道路地図を詳細にインプットしたうえで、乗客から行き先を告げられると、瞬時にルートを思い浮かべ、時間帯による道路の混み具合や工事の有無なども勘案しながら、スムーズに走れるルートを導き出します。
   そうした、記憶し、記憶を引き出すという作業を日々、繰り返すうちに、ベテラン運転手の海馬の神経細胞は増え、大きく発達することになったのです。つまり、「成人になってからでも、脳の神経細胞は鍛え方しだいで増える」ことがわかったのです。

   さて、私の記憶は、カーナビなどロンドンで普及以前のことで、もう随分前のことであり、現状は分からないが、その時の経験を記す。
   ロンドンのシティで、込み入った所で行ったこともない場所であったので、タクシーに乗ったのだが、この時、何故か、タクシーの運転手が道を違えて遠回りをしてしまった。
   私には、目的地に着けばどうでも良いことで気にしなかったのだが、運転手は自分のミスであるから、料金は受け取れないという。
   5年間、ロンドに住んでいて、タクシーでトラブったのは、この1件だけで、それ以外は、交通渋滞や事故などがない限り、悉く、最短距離最短時間で、ピッタリと目的地に着いた。
   ロンドンのシティが、IRAに爆破された当日、イタリアのミラノから、ロンドンのヒースローについて、厳戒態勢のロンドンを、投宿先であるピカデリー直近のGクラブRACに向かったときにも、全く問題はなかった。
   
   何故、それ程までにロンドンの地理に詳しいのか、タクシーの運転手に聞いてみると、運転手になる試験が難しいことが分かった。
   出題された出発地から目的地まで、最短距離最短時間で行くには、どのルートが良いのか、途中に、事故や障害があったら、どのように迂回するのかなど、交通法規など十分に把握して回答しなければならない。それを憶えるために、ロンドンの地図を全部頭に入れて、単車にのってロンドンの街をくまなく回って、交通標識は勿論、道路の様子や状態など交通環境等を十分に理解して、試験に臨むのだという。
   100年も以上前から、ロンドンのタクシー運転手には、頭脳カーナビがインプットされていたのである。
   東京のタクシーのように、「昨日、丹波から出て来たとこで、道、よう分かりませんねん、教えてくなはれ」とは違うのである。

   ここで、注目すべきは、地図の成り立ちの違いである。
   面で住所表示をする日本と違って、欧米は、まず、道路ありきで、どの道路にも名前が付いている。シティホールに近い方から、道路沿いに、何通りの何番地と番地が打たれていて、片側の通りは奇数、向こう側は偶数であり、ブロックが移る毎に、100番ずつ加わってゆくので、道路名さえ抑えておけば、比較的住所は探しやすい。日本のように3丁目の隣に10丁目が来たり、全く違った町名がアトランダムに列んでいると言った不合理はないのである。
   それでも、ローマ時代の遺跡が残っていて中世の街並みがそのまま混在している迷路や路地の多いロンドンでは、一筋縄では行かず、ロンドンを知り尽くしている英国人の友人が、サントリーレストランを容易に見つけられなかったと言うから、ロンドンタクシー運転手の努力は並大抵のことではない。

   ついでながら、和田先生は、記憶力が衰えるのは「覚えようとする意欲」が低下するからで、
「80代になると、認知症の有病率が60代の12倍になる」ということが知られていますが、脳の健康寿命を延ばすには、60代から70代にかけて、とにかく「脳」を使い続けることが必要です。と言う。
    傘寿を越えた我が友人知人の多くは、認知症になったり本を読めなくなったというのだが、まだ、クルーグマンやスティグリッツなどの経済学書を楽しみながら読めるというのは、60代以降も手を抜かずに専門書に勤しんできたお陰だと喜んでいる。
   健康寿命の延長維持は、案外、知的生活の充実かも知れないと思っている。
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