ノーベル賞の今年の受賞者の発表が、始まった。
「ノーベル・ウィーク」の始まりが、医学生理学賞の受賞者の発表になる。
そして、今年の受賞者は京都大学の本庶佑教授ともう一人の方になった。
朝日新聞:ノーベル医学生理学賞に本庶佑・京都大学特別教授
この受賞の報をきいて喜んでいるのは、本庶先生および京都大学関係者ばかりではないだろう。
本庶先生の研究を基に開発をされた、がんの治療薬「オプジーボ」を投与されている多くの患者さんたちにとっても、嬉しいニュースなのでは?と、思っている(もちろん、「オプジーボ」を研究・開発をした小野薬品工業の関係者も、喜ばれていることだろう)。
「オプジーボ」というがんの治療薬で話題になったのは、「1年間の治療費が家1軒分」という高額な治療費だった。
確かに、保険適用とはなってはいたが最初の薬価は、3500万円だったと記憶している。
そのような高額な治療薬を保険適用にすると、国の保険制度そのものが危うくなる、という指摘もされた。
その後、薬価は1/10程度にまで下がったはずだが、高額な治療薬であることには変わりない。
薬価が下がった理由は、治療適用される範囲が広がったからだ。
なぜそれほど、薬価が高かったのか?と言えば、一つは適用される範囲が日本では患者数が少なかった、皮膚がんの一種「悪性黒色腫」だったからだ。
それから、日本でも患者数の多い「非小細胞肺がん」にまで適用が広がったことで、一気に薬価が下がったのだった。
そして、今後適用されるがん種が増えると言われている(そうすれば、薬価はもっと下がるはずだ)。
しかし、それが本庶先生がノーベル賞の受賞対象となったのではないと思う。
本庶先生が「PD-1」という分子が、がんの増殖を抑える免疫を阻害している、ということを発見したからだ。
この「がんの増殖を抑える免疫を阻害している分子の発見」が、その後のがん治療薬の研究に大きな影響を与えた。
おそらく今のがん治療薬の研究・開発の主流となっているのは「免疫」に関連するモノだと、言われている。
実際、がんの治験情報サイトなどには「免疫チェックポイント阻害剤」のニュースが、数多く更新されている。
これまでの「抗がん剤」とは、発想もがんに対する考え方も大きく変え、がん治療薬の流れを変えた、と言っても過言ではないと思う。
もちろんこれまでも「分子標的薬」という、がんの増殖を促す分子を標的とした「がん治療薬」はあった。
重篤な副作用で裁判になった「イレッサ」だ。今では「イレッサ」の次世代・3世代と呼ばれる新薬まで登場している。
これまでの「がんの増殖を止める」のではなく、「がんの増殖をやめさせる免疫」に注目した、というのが大きな違いだと理解している。
それだけではなく「がんゲノム医療」への道を切り開いた、一つのエポックメイキングのような研究だからだと思っている。
今やがんの治療は「ゲノム(=遺伝子情報)」を活用した、個別治療へと向かいつつある。
今回、米国の情報会社などが最有力候補者として名前が挙がりながら、受賞を逃してしまった(?)同じく京大の金久実教授は、そのゲノムベース開発者だ。
気が早いのは重々承知だが、来年のノーベル賞への期待をしたい。