≪最終一番勝負 第48譜 指始図≫ 9七玉まで
[影との戦い]
ゲドはひょいとうしろをふり返った。同じ舟の中にあの影が立っていた。
もしも、その一瞬を逃していたら、ゲドはやられていただろう。が、彼には心構えができたいた。彼は目の前でたじろぎ、震えている影にとびかかっていった。魔法などあってもどうにもならなかった。命を持たないものに向かって、彼は今、その肉を、命そのものをかけてぶつかっていった。ものを言う必要はなかった。彼はただやみくもに攻撃にでた。激しいからだの動きに、舟は大揺れに揺れた。鋭い痛みが腕を這いのぼって胸をしめつけ、息をつまらせた。からだは氷のように冷えていって、やがて目が見えなくなった。だが、影をつかんだその手には、なのも残ってはいなかった。闇と空気以外には……。
ゲドは前につんのめりそうになって、あわててマストにつかまった。目に光がもどってきた。折しも、影はじりじりと後退していくところだった。
(『ゲド戦記Ⅰ 影との戦い』アーシュラ・K・ル・グイン著 清水真砂子訳より)
「アースシー」という架空の世界に住むハイタカ(真の名をゲドという)という男の若い時の、「影との戦い」を描いたのがこの物語である。これは初めは、『ゲド戦記三部作』として始まったが、その後さらに続編が追加されて描かれた。
「アースシー」の中央部は無数の島で構成されており、そこに住む人々の生活圏を「アーキぺラゴ(多島海)」という。その世界では、魔法の才能を持った者が時々生まれてくる。しかし世の中が殺伐していると、魔法によって他者を力で支配するというようなことになる。魔法をもって生まれた子供を、より強い魔法使いが支配するなど、陰惨なことが多かった。そして魔法の使えない大多数の人々は、そうした魔法使いを忌み嫌い、魔法の才を持った子供が生まれてくると、それを秘密にしていた。そうした子供は、魔法の力をコントロールする知恵をもたず、結局は他の魔法使いに見つかって、未熟なままに魔法の戦いに巻きこまれ、結局抹殺されてしまうのだった。
そうした魔法の能力をもっとよきことに利用できるように、魔法の才を持った子供を正しく育てようと、ローク島に数百年前に作られたのが「ローク学院」という魔法使いのための学校である。この学院の中には十人の魔法使いの“長(おさ)”がおり、その中で代表者となるのが「大賢人」である。
ゲド(ハイタカ)はやがて「大賢人」となり、この「アーキペラゴ」の世界の平和を維持するための大きな貢献をする男となり、この世界の歴史に名を残すほどの英雄になる。
そのゲドの若い未熟な青年期を描いたのが「三部作」の第一部『影との戦い』である。
若かったハイタカは、人の挑発に乗り、力自慢で、やってはいけない魔法(死んだ世界から霊を呼ぶ)を使ってしまう。するとそこに「名もなき何か」がゲドに襲いかかってきた。これが“影”である。
ゲドは、西の海で暴れていた若い竜を魔法で退治し、知恵のある竜と交渉を結ぶ。この世界で竜と対話したのは、ゲドより前にさかのぼると千年以上も前のことになる。それほどの魔法の能力を持つゲドだったが、この男にとっては、“影”と戦うことに比べたら、竜と向き合うほうが小さな戦いであった。それほどに、“影”は強力な敵なのだった。
ここに現れた“影”とは何者であろうか。映画『スターウォーズ』の“暗黒面に落ちたアナキン・スカイウォーカー”みたいなことであろうか。いや、ゲドの前に現われた“影”は、人の中にある心の陰の部分というような、誰にでもあるわかりやすいものとは違うものに思われる。
この『ゲド戦記』の“影”は、ゲドの一部ではない。別の、死の世界からやってきた“名もなき何か”、なのである。
戦って勝てる見込みのなかったゲドは、どうやってこの“影”から身を守るか、どうやって“影”から避けるかを考えて行動していたが、それも無理だとわかった。“影”の計略がしつこいのである。
師であるオジオンに相談してみたところ、「逆に追うしかない」ということになった。
そうして、覚悟を決めて、“影”を追い、戦うことにした。勝つ見込みはまったくないが、逃げることができないなら、戦うしかないのである。
そうして、ゲドはまた“影”と相まみえる。3度目の戦いだった。それが上に切り取ったこのシーンである。
今度は、“影”が逃げ始めた。東南へと。
ゲドはそれを追う。舟(はてみ丸)に帆を張って、東へ東へと進む。
ついに島影もなくなり、ただ海原が広がっている。つまりここは“世界のはて”なのである。
“世界のはて”で、ゲドは“影”と、4度目の、最後の戦いをする。
そして、彼はその“影”に名前をつける。「ゲド」という名を。
これがどういう意味なのかを理解するのは容易ではない。きっと作者ル・グインは、そういう“理解の容易ではない何か”を描いているのだろう。
<第48譜 21番目の候補手>
≪最終一番勝負 第46譜 指始図≫ 9七玉まで
この図を一手戻した図、「6七と図」を、我々は目下、研究調査中である。
次の21番目の研究手が、「最後の手」になる。
6七と図
〔松〕3三歩成 → 先手良し
〔竹〕5二角成 → 先手良し
〔梅〕2五香 → 互角
〔栗〕8九香 → 先手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 先手良し
〔柏〕2六飛 → 先手良し
〔橘〕3三香 → 先手良し
〔桃〕2六香 → 先手良し
〔楓〕2五飛 → 先手良し
〔柊〕3七桂 → 先手良し
〔椿〕8一飛 → 後手良し
〔柳〕7八歩 → 先手良し
〔桐〕9八玉 → 先手良し
〔椎〕1五歩 → 後手良し
〔檜〕3八香 → 後手良し
〔梨〕6五歩 → 後手良し
〔椿〕6八歩 → 後手良し
〔桑〕3七飛 → 先手良し
〔桜〕9七玉 = 実戦の進行(先手良しの見込み)
「先手の勝ち筋」は13.5通り になった(内容未発表の〔桜〕9七玉 を含む。また結論を「互角」としている〔梅〕2五香 を 0.5とする)
21個目の調査対象の手は、〔楢〕7六歩 である。
前回の20個目〔桑〕3七飛 の調査でこの図の調査研究を終える予定でいたが、その調査中に〔楢〕7六歩 もあることに気づいて調べ始めたのだが、やがてこれは本格的な調査が必要な手だと認識することとなった。
この手は、最新ソフトの候補手(10個)の中にもほとんど出現しないのだが、前回の〔桑〕3七飛 の調査で「dolphin1/illqha4」を使ってこの「6七と図」を評価させたとき、瞬間、7番目くらいの位置に候補手としてしばらく出現していたのを見たのだった。
(こうしたソフトを使った候補手と評価値の調査は、同じソフト同じパソコンを使っても毎回調べるたびになぜか違う結果が出てくる。ある同じ手がいつも示されるとは限らない)
[調査研究:〔楢〕7六歩]
〔楢〕7六歩 は21個目の候補手で、これが「6七と図」の最後の調査対象手になる。
7六歩基本図
〔楢〕7六歩 は、後手の7五桂の有効手を打たせない、それによって、後手の攻め手を遅らせる意味がある。
これに対して、後手は6六銀。7七銀成~7六成銀~7七と~7五桂という攻めが後手の狙いになる。
そこまでいくと先手の受けは難しくなるので、その前に後手陣への攻めを成功させたい。
6六銀に、9七玉。後手の次の手を決めさせる。
後手は7七銀成(7七ともあるがそれは2六飛で先手良しになる)として、次の図。
研究7六歩図01(7七銀成図)
ここで何を指すか。
ソフトは、2六飛 を示している(次の図)
研究7六歩図02
2六飛(図)と打って、次に2五香の攻めを見せる。
これに対して、6二金(次に3一玉からの角取りを狙う)には、この場合は3三香がある。3一銀では5一竜があるので、3三同桂、同歩成、同玉と進むが、3四歩と打ち(2二玉なら3三桂がある)、4四玉に、8四馬、同銀に、5五金、同玉、4七桂以下詰み。 ということで、2六飛に、後手6二金の手はない。
ここは「3一銀」と受けるのが後手の最善の受けになるようである(次の図)
研究7六歩図03
「3一銀」と銀を引いたので、3三歩成としてみたくなるが、同玉と取られ、次に4二玉という手も生じるので先手が困る。
(A)2五香 と打ってみよう。後手は、1一桂。
そこで2三香成、同桂、2四金と行くのは、2五歩、同飛、1一玉と対応され、2三金、2二歩となって、後手良し。この1一玉~2二歩という受けが、3一銀の意味だった。
2三香成から攻めていけないので、先手は3七桂と力を溜める(次の図)
研究7六歩図04
後手は7六成銀。
次に7七ととされ“詰めろ”を掛けられると、金を受けに使うことになり先手の攻めの力が弱くなるので、先手はその前にここでスパークする。2三香成、同桂、5二角成。これが3七桂と力を溜めた先手の狙い筋で、5二同歩なら、3三歩成(同歩なら2三飛成、同玉、1五桂以下後手玉詰み)、同桂に、7六飛と成銀を取った手が、1一銀から後手玉への“詰めろ”になっている(この変化は互角)
なので後手は5二角成を同歩とはせず、7七と。先手玉についに“詰めろ”が掛かった。
そこで2三飛成。同玉なら、3五桂(1五桂)から後手玉詰み。
しかし、1一玉なら詰まない(次の図)
研究7六歩図05
先手は9八金と自玉を受けることになるが、後手も2二歩と受ける。
対して2六竜なら、後手9五歩が有効になる。以下、同歩、同金、9六角成、9四歩が予想されるが、後手良し。
したがって、先手は2五竜とする。これなら9五歩には、5三馬で先手がやれる。
しかし後手はここで5二歩と角(馬)を取って、勝負に出る。これには3一竜があるが‥
8六成銀が用意の一手である(次の図)
研究7六歩図06
8六同玉、7六と、9七玉、8六角、8八玉、7七角成、8九玉、8六香、8八歩、6七と(次の図)
研究7六歩図07
先手の3一竜の瞬間は"受けなし"に見えた後手玉に、7七の馬の利きがあって後手に詰みはなく、先手玉には“詰めろ”が掛かっている、7九歩と受けても7八歩があり受からない。2二竜行、同馬、同竜と行くしかないだろうが、そう進んでも後手勝勢である。
研究7六歩図08
後手「3一銀」に、(A)2五香 と打つのをやめて、(B)3七桂(図)としてみる。
ここで「7六成銀」なら、3三歩成、同桂、3四歩、7七と、3三歩成、同玉、3五香、3四桂、同香、同玉、3六飛、3五香、2五金が予想され、そうなると、先手勝ち(香を2五に打つ手を温存したので、この3五香の攻め筋ができたのである)
「4二銀引」と受ける手には、2五香、1一桂、8四馬、同銀に、2三香成、同桂、同飛成、1一玉(同玉は3五桂以下詰み)、2二金、同銀、1二竜、同玉、2四桂以下、後手玉が詰んでしまう。
「4二金」には、6三角成だが、7六成銀に、4五馬、1一桂、2五香が “詰めろ”で、先手良し。
後手の最善手は、「4四銀」である(次の図)
研究7六歩図09
「4四銀」と銀を上に上がって受けることで、先手からの2五香、1一桂、8四馬、同銀、2三香成、同桂、同飛成、同玉の強襲が、詰まないようになっている。「4二」~「5三」と逃げるスペースがあるからである。
先手は、5三歩。
4二金なら、6三角成で、先手ペース。
しかし―――
研究7六歩図10
先手5三歩に、3五銀(図)がある。
以下5二歩成は、2六銀、8九香、7六成銀で、後手良し。
なので2五飛と逃げるが、7六桂、8九香、7八と、5二歩成、8八と(次の図)
研究7六歩図11
これで、後手良しになる。
なお、最後の8八とに代えて、後手が8八桂成とすると、同香、同とに、3三歩成以下後手玉が詰む(桂馬が先手に入ったため)
また香車をとる8九とも、これが詰めろにはなっていないので、3三金、1一玉、3二角成で、先手勝ちとなる。
図の、8八とが正着で、これなら後手が良い。
以上、2六飛 では、先手の勝ち筋は見つからなかった。
研究7六歩図01(再掲 7七銀成図)
他に手はないだろうか。
ここで2六香は、7六成銀または7六桂で、後手良し。
2五香は有望だが、1一桂と受けられ、以下2六飛には6二金で攻めが続かず3一玉からの角取りも見せられて、先手悪い。
そうすると、「〔楢〕7六歩 は後手良し」という結論になるかと思ったが、それは早計だった。
3七桂 があった。これが有力な手のようなのである。
研究7六歩図12(3七桂図)
3七桂(図)は、飛車と香車をどちらも手に持ったままにすることで、攻め筋を多様にする意味がある。もちろん、はねた3七桂自体も、後手陣攻略に有効な手である。
後手の候補手は次の通り。
〈い〉9五歩、〈ろ〉4四銀、〈は〉7六成銀、〈に〉7六桂、〈ほ〉3一銀
研究7六歩図13
〈い〉9五歩 には、5二角成(図)で、先手優勢になる。
これを同歩は、3三金と打ちこみ、同歩、同歩成、同玉、3一飛(次の図)
研究7六歩図14
後手玉は“詰み”。
5二角成の手自体は詰めろにはなっていないが、先手玉にも詰めろがかからないし、5二同歩と取れないようでは、この攻め合いは後手に希望がない。
研究7六歩図15
〈ろ〉4四銀(図)なら、3三に利いているので、5二角成は、同歩と取れる。
ここは先手は5三歩と打つのが良い。同銀引と戻るなら、5二角成だ。
研究7六歩図16
5三歩(図)。
6二金 なら、3三香と打ちこみ、同桂(3一銀には5一竜がある)に、5二歩成と金を呼び戻して、先手良し。
よって、5三歩は、同金 とするが、そこで7二飛という手がある(次の図)
研究7六歩図17
“両銀取り”になっている。6二歩、7三飛成の展開は、先手良し。
なので後手は3一玉(角取り)で勝負するが、それには5二香がある(次の図)
研究7六歩図18
歩があれば5二歩でよいのだが、ないので、5二香(図)と打った。4一玉なら、5一香成以下後手玉は詰んでしまう。
なので、7一歩、同竜、9五歩のような展開が予想されるが、5一香成で、先手勝勢である。
研究7六歩図19
5三歩を手抜きして、7六桂(図)と攻め合うのも考えられるが…
しかし、5二歩成が、実は後手玉への“詰めろ”になっている(これが詰めろでなければ8八桂成で先手玉の受けが難しいところだったが)
8八桂成に、3二角成、同玉、3三香、同桂、4二と、同玉、4一金(次の図)
研究7六歩図20
「3三香、同桂」を入れて、4二と~4一金が巧みな手順。
4一同玉には、3一飛から。5三玉には、5一竜、5二歩、同竜、同玉、5一飛以下、“詰み”
以上のように、〈ろ〉4四銀は、先手良しになる。
研究7六歩図21
〈は〉7六成銀(図)は、後手の指したい手。
5二角成には、7七と、8九香、7五桂、9八金と、先手に金を使わせてから、5二歩と手を戻せば、これは後手の勝ち。
よって、先手は別の攻め筋を見つけなければいけないが―――(次の図)
研究7六歩図22
3三香(図)がある。同桂、同歩成、同銀なら、5二角成で、この瞬間、後手玉は2一金以下“詰めろ”になっているので、7七との攻めの余裕が得られない。
だから3三香に、後手は3一銀と受けるが、それには8四馬の用意がある。金を入手して、3二香成以下の“詰めろ”になっている。
だから後手は8四馬を取れないが、すると“4二金”とするか“4二銀引”とするかである。
研究7六歩図23
“4二金”なら、3二香成、同銀、5一竜(図)とする。
ここで後手は角を取りたいが、しかし4一金でも4一銀でも、3三金から後手玉は詰んでしまう。このままでも3三金以下の詰みがあり、3一香と受けても3二角成以下詰む。
つまりこの図は、先手勝ちである。
研究7六歩図24
ということで、“4二銀引”(図)と受ける。
以下、7三馬に、7七と。後手期待の7七とだが―――
しかし、先手3二香成、同銀、同角成、同金、3三銀と攻めて―――(次の図)
研究7六歩図25
これで後手玉は詰んでいるのである!
以下、その“詰み”の確認をする。
まず3三同桂と取るのは、同歩成、同銀、4一銀、同玉、5三桂(次の図)
研究7六歩図26
以下4二玉は、4一飛、5三玉、6三金から。
3二玉には、3一金と打って、4二玉、3二飛(今度は4一飛では詰まない)、5三玉、5二飛成、同歩、6三金以下、“詰み”
3七にはねた桂馬が後手玉の上部脱走を押さえている。
研究7六歩図27
次に3三同銀(図)の変化。
同歩成、同桂(同玉なら3四歩以下詰み)、2一銀(次の図)
研究7六歩図28
2一同玉、4一飛、3一香(銀合でも同じ攻めで詰む)、1一金、3二玉、4二金(次の図)
研究7六歩図29
4二同金に、2一銀以下の“詰み”
つまり、〈は〉7六成銀には、3三香の攻めで、先手良し。
〈に〉7六桂に対しても、同じように、3三香で先手が勝てる。
研究7六歩図30
以上のことをふまえて、3七桂には、〈ほ〉3一銀(図)がおそらくは最善手ではないかと思われる。
これは3三香の攻めに一手早く備えた意味があって、3三香なら4二金で、後手優勢になる(先手は8四馬とまだ金を入手していないのため、3二香成、同銀、5一竜、4一金のときに、後手玉がまだ詰まない)
3一銀に、先手はどう指すか。
2六飛だと4四銀とされ、これは上で研究した「研究7六歩図09」に合流してしまい、それは「後手良し」が確定している。なので2六飛はない。
【一】2五桂、および、【二】2六香、【三】2五香 が期待される手である。
研究7六歩図31
【一】2五桂には、4二金と受ける。3一銀と引いたので、この手が指せる。4一の角を取れば7九角と打って後手勝ちになる。
だから6三角成とするが、以下6二銀右、4五馬(次の図)
研究7六歩図32
4五馬(図)。このまま後手7六桂のように攻めると、2四香、1一桂、2三香成、同桂、2四飛で、いっぺんに先手勝ちになる。
なので、4五馬に、後手は4四銀で馬を追う。以下、5四馬、5三銀上、6五馬、7三桂、4七馬、そこで7六桂。
以下8九香に、7八と(次の図)
研究7六歩図33
後手の攻めのほうが早い。そして、受けも難しい。
後手勝勢。
なお、【一】2五桂と跳ぶ手に代えて、“4五桂”とこちらに跳ぶのも、同じように4二金で、受け止められて後手良しである。4五桂、4二金に、5三桂成と取る手は、4一金で角を取られて、後手からの7九角があるので先手悪い。
研究7六歩図34
【二】2六香(図)が有力な手である。しかし、4二銀引または4四銀のときに難しい。
それよりも、【三】2五香のほうがより優れているので、そちらで調べていくことにする。
研究7六歩図35(2五香図)
【三】2五香(図)と香を打ったところ。「2五」に打つことで、2六飛の手も見せている。ただ、「2五」に打つと、3三歩成、同桂のような攻めのときに、3三桂が香取りになるという欠点もある。
また、2五に打つと、後手からの2四歩の香取りにくる手も気になるところではある。
しかし(1)2四歩は、同香、2三歩、同香成、同玉に、8四馬がある(次の図)
研究7六歩図36
8四馬(図)と金を取って、後手玉が2四金以下の“詰めろ”になっている。先手勝ち。
つまり、【三】2五香と打った手には、後手が放っておけば、2三香成から8四馬の寄せがあるということだ。
研究7六歩図37
(2)4二金(図)と受ける手を調べよう。
先の【一】2五桂の場合は、4二金の受けがあって、先手が悪くなった。
しかし、2筋に香車を打つ【三】2五香は、後手のこの3一銀~4二金という受けを上回る手になっている。
(2)4二金には、角を渡すわけにはいかないので、6三角成とする(次の図)
研究7六歩図38
こうなって、先手には、5一竜と、4五馬と、7三馬の、3つのねらいが残っている。
6二銀右なら、2三香成、同玉、4五馬だ(次の図)
研究7六歩図39
これで後手に受けがなく、いっきに先手勝ちとなった。この2三香成~4五馬があるのが、2筋に香車を打った効果である。
こうなっては後手に勝ち目がないので、6三角成(前の図)に、4四銀や1一玉のような手を後手は指すことになるが、5一竜と竜を攻めに使えるので、それも先手優勢である。
研究7六歩図40
(3)7六成銀、または(4)7六桂 と攻めて勝てるのなら、後手はそうしたいところである。
しかしこの手はいずれも、8四馬~2三香成で、先手良しになる。(3)7六成銀(図)以下を調べて、その変化を確認しておこう。
(3)7六成銀、8四馬、同銀、2三香成(次の図)
研究7六歩図41
2三同玉、2四金、2二玉、3三歩成、1一玉、2二金、同銀、同と、同玉、2三飛、3一玉、3二角成(次の図)
研究7六歩図42
3二同玉に、3三銀以下の“詰み”
研究7六歩図43
2三香成に、1一玉の変化。これには、2二金以下詰みがある。
2二金、同銀、同金、同玉に、2四飛が気づきにくい手。
2三歩合なら、3三歩成、同桂(同玉は3四金以下)、2一金以下の詰み。
なので2三金合と抵抗する(3三歩成は同玉で詰まない)
しかし2三金合には、3三銀と打つ(次の図)
研究7六歩図44
やはりこれで、詰んでいる。3三同桂に、2一金、同玉、2三飛成以下。
研究7六歩図45
(5)1一桂(図)と受けた場合。
ここで2六飛は、上で調べた図(研究7六歩図04)に合流する。それは「後手良し」だったので、ここでは2六飛以外の手を探す必要がある。
2三香成、同桂、2四金という攻めがあるが、1一玉で、後手良し。
ここは、3三歩成が正着。同歩なら、そこで2六飛と打って先手が勝てる(以下3二銀は、同角成、同玉、2三香成、同桂、同飛成、同玉、1五桂以下、後手玉詰み)
また、3三同玉には4五桂で先手良し(4四玉なら4六金。4二玉には5三桂成、同金、6一飛。2二玉には3四金)
よって、後手は3三同桂と取るが、そこで2三香成(次の図)
研究7六歩図46
2三同桂(同玉は2一飛がある)、5二角成(同歩なら2一金、同玉、1一飛以下詰み)、4二銀引、4一飛(次の図)
研究7六歩図47
次に4二馬が先手の攻めになる。それを受ける2一歩には、3四歩(5二歩なら3三歩成、同玉、3四歩以下後手玉詰み)で、先手が勝てる。
後手は香車を持っていることを生かし、9五歩から攻めてくる。“詰めろ”だ。
9五同歩、9六歩、同玉、9四歩に、8五金と受ける。どうやらこれで先手良しになっている。
ここで9二香が後手の勝負手(次の図)
研究7六歩図48
9二香(図)は、先手がこれを同竜と取れば、5二歩で、後手が勝ちになるという勝負手。
しかし、これには、8四金と応じて、先手良し。9三香なら、7三金として先手勝勢。また9五歩なら8五玉と指す。
よって、8四金、同銀、同馬、同歩、9四歩の進行が、予想される手順。以下、9四同香、同竜、5二歩、2四香(次の図)
研究7六歩図49
手が広いので、実戦的にはまだまだたいへんではあるが、評価値的には、はっきり先手が良い(+1600くらい)
以下、変化の一例を示しておく。
5六角、2三香成、同玉、1五桂、2二玉、3四歩、2三歩、2四金、1四角(次の図)
研究7六歩図50
2三桂成、同角、同金、同玉、3三歩成、同歩、3五桂(次の図)
研究7六歩図51
以下、3二玉に、6一飛成で、先手勝勢。
これで、(5)1一桂 には、3三歩成、同桂、2三香成、同桂、5二角成の攻めがあって、先手が良くなるとわかった。
研究7六歩図35(2五香図)
【三】2五香と打ったこの図に関するこれまでの調査結果は、こうなっている。
(1)2四歩 → 先手良し
(2)4二金 → 先手良し
(3)7六成銀 → 先手良し
(4)7六桂 → 先手良し
(5)1一桂 → 先手良し
他に考えられる手は、(6)4二銀引、および、(7)4四銀 である(この2つををやっつければこの図はコンプリートして、「先手良し」ということに決まる)
研究7六歩図52
(6)4二銀引(図)には、香車を「2六」ではなく、「2五」に打ったことが生きる。すなわち、2六飛と打つ手が有効になる。
2六飛、1一桂に、8四馬、同銀、2三香成、同桂、同飛成(次の図)
研究7六歩図53
もしも先手の2筋が「2六香+2五飛」の場合には、後手2四桂という受けが生じていたので、この攻めは成立していなかった。「2五香+2六飛」型だから成立した攻めなのである。
2三同竜(図)で、後手玉は詰んでいる。2三同玉は、3五桂以下簡単。なので、後手は1一玉と逃げるが、それでも詰む(角を渡した以上、詰まさなければ負けになる)
2二金、同銀、1二竜、同玉、2四桂(次の図)
研究7六歩図54
「金香」の持駒で、ぴったり詰んでいる。
研究7六歩図55
残るは、(7)4四銀。 しかしこれは “強敵” である。
今度は、2六飛は、1一桂に、有効手がなく、うまくいかない。「4二」に玉が逃げる空間があるので、さっきのような詰み筋がつくれないのだ。
3三歩成、同銀、2六飛と工夫する手はあるが、(1一桂なら5二角成で先手有望だが)3四銀と受けられて、先手が悪い。
(7)4四銀には、「5三歩」と打ってどうか。
同金なら5一竜で先手良し。
「5三歩」を放置して7六桂と攻めるのは、5二歩成が、2三香成以下後手玉への“詰めろ”になっているので、先手勝ち。
「5三歩」に、1一玉は、5二歩成、7六桂に、2三香成(次の図)
研究7六歩図56
この2三香成(図)が詰めろになっている。2二歩には3二成香がまた2一成香以下の詰めろ。先手勝ち。
よって、「5三歩」には、後手「4二金」の一手になる。先手は「6三角成」(次の図)
研究7六歩図57(6三角成図)
6三角成(図)とした、この図がどちらが良いのか、それが重要である。 (「dolphin1/Kristallweizen」評価値は-135 となっている)
ここで考えられる後手の手は、次の3つの手。
「7六成銀」、「7六桂」、そして「7八と」。
研究7六歩図58
6三角成に、「7六成銀」 なら、先手は5一竜とする。以下7七とに、9八金(図)と受ける。
後手玉はまだ詰めろではないが、7五桂や7四桂と桂馬を手放すと、その瞬間に、3一竜から後手玉が詰む。まずその詰み筋を見ておこう。
7五桂、3一竜、同玉、5一飛(このとき桂があれば4一桂合で不詰)、2二玉、2三香成、同玉、2一飛成、2二歩、1五桂、3四玉、2五銀(次の図)
研究7六歩図59
6三の馬が後方に利いている。2五銀(図)に、3三玉、2四銀、3四玉、3五歩以下、“詰み”
研究7六歩図60
後手は7五桂では勝てないので、代えて7五金(図)とした場合。
これには、同馬、同成銀、2三香成、同玉、3一竜(次の図)
研究7六歩図61
こう進んでみると、先手勝勢。
7九角なら8八銀だし、8六成銀、同玉、8四香は、7七玉で、先手玉は捕まらない。
研究7六歩図62
6三角成に、「7六桂」(図)の場合。
ここは「2六飛、1一桂、5一竜」が正しい手順で、単に5一竜では先手不利になる。まずそのことを確認する。
5一竜、8八桂成とされると先手玉に“詰めろ”が掛かり、この受けが難しい。
5四馬には―――
研究7六歩図63
7六歩(図)で、後手勝勢。
研究7六歩図64
ところが、「7六桂」に、「2六飛(図)、1一桂、5一竜」とすれば、逆の結果になる。
以下8八桂成に、5四馬で次の図。
研究7六歩図65
5四馬は、"詰めろ逃れの詰めろ"になっている。すなわち、後手玉には、4四馬、同歩、2三香成、同桂、同飛成(これを同玉は3五桂以下簡単)、1一玉、2二銀、同銀、同竜、同玉、3一銀、2三玉、3五桂、3四玉、2五金、3三玉、4二竜までの詰みがある。
なので、今度は、後手7六歩のような手が利かない。
だから後手は8七成桂とする。以下、同馬、同成銀、同玉で、馬が消えたので今示した後手玉への“詰めろ”も消えた。しかし先手の持駒が増えたので、2三香成から清算して1五桂と打つ、別の詰み筋が生まれている。
後手は6九角と打って、王手をしつつその詰み筋を受ける。
以下7六玉、3五銀に、5四桂(次の図)
研究7六歩図66
5四桂(図)と打って、こんどは側面から“詰めろ”(3一竜、同玉、4二桂成以下)を掛けた。
受けがなく、先手勝勢。
「6三角成図」(研究7六歩図57)から、「7六成銀」と「7六桂」は、先手良しになるとわかった。
研究7六歩図67
残るは、「7八と」(図)である。
しかし、「7六桂」のときと同じように、2六飛、1一桂、5一竜と進めると―――
研究7六歩図68
8八と(図)で、これはすでに後手勝勢になっている(7六歩が残っているので5四馬が受けに利かない)
どうやら、「2六飛、1一桂」を決めると、このケースでは先手不利になるようである。
(2六飛、1一桂に、3三歩成はあるが、同桂と応じられて後手良し)
研究7六歩図69
この場合は、3三歩成(図)が正着となるようだ。
これを同桂なら、5一竜が、次に2一金、同玉、1一飛以下の“詰めろ”になって、先手良し(この変化のために飛車を手に持っておくほうがよいというわけ)
3三同玉も、5一竜が、4二竜以下の詰めろになっている。5一竜が先手で入ったら、もう後手はどうしようもない。
また3三同歩も、5一竜が、4二竜、同玉、2三香成、同玉、2四金以下の“詰めろ”になっているのだ。
というわけで、3三歩成には、同銀引と応じることになる。
そこで、4五馬(次の図)
研究7六歩図70
4五馬で、“詰めろ”をかけた。これを1一桂と受けるのは、8四馬で金を補充した手が、2三馬以下の“詰めろ”になるので、先手が勝つ。
よって後手は、3四桂と受け、それでも先手は2三香成。
これを同玉なら、3五歩、8八と、2四飛(次の図)
研究7六歩図71
先手勝ち。2四飛(図)で、後手玉は詰んでいる。
研究7六歩図72
2三香成を、同玉と取ると上のような結果になってしまうので、後手は 1一玉と逃げるのが正しい手。
そこで5五馬(図)とする。この馬は後手の攻めの8八とを指させないという手である。
この5五馬が手順に指せて、どうやら先手ペースの将棋になってきた。
後手は次に先手に5一竜とされると受けが厳しくなるので、2二歩と打って、成香を消しにいく。
以下、1二成香、同玉と進む。
そこで先手1五歩(次の図)
研究7六歩図73
薄くなった1筋の攻めを狙う1五歩(図)が好着想になる。次に1四歩、同歩、1三歩が厳しい。
後手4四銀(先手の馬の筋をずらせて8八とを狙う)が考えられる手であるが、6六馬、6五歩に、そこで1四歩(詰めろ)と攻めて、先手が勝てる。
2四銀と受けても、1四歩、同歩、1三歩、同銀、2五桂、2四銀、1三香で、先手の攻めが炸裂する。
ということで、後手は9五歩と攻めに賭ける。香車をもっているので、正確に応じないとやられてしまう。
これは同歩と応じ、9六歩、同玉、9四歩、8五金(次の図)と進む。
研究7六歩図74
こう進んでみると、先手良しの形勢のようだ。やはり次の1四歩が厳しい。
後手はここで、4四銀と出る。先手に金を8五に使わせたので、ここで1四歩では詰めろになっておらず、5五銀と馬を取られて逆転する。なので、先手は、6五馬と逃げておく。
先手の1四歩がくると後手に勝ち目がなくなるので、ここで後手はあやを求めて9五歩と勝負。同金、9四歩、8四金、同銀、同馬、同歩、9四竜(次の図)
研究7六歩図75
先手の優位がはっきりした。
9三歩、同竜、8二金という手はあり、同竜なら9四香以下先手玉詰みだが、1四歩(詰めろ)、同歩、1三歩、同桂、1四香(詰めろ)で、先手が勝つ。
「7八と」の変化も、先手良しと決まった。
以上の調査により、3七桂 に、〈ほ〉3一銀 → 【三】2五香 → (7)4四銀 → 5三歩、4二金、6三角成 という変化は、「先手良し」が確定した。
研究7六歩図12(再掲 3七桂図)
つまり、この「3七桂図」から、〈い〉9五歩、〈ろ〉4四銀、〈は〉7六成銀、〈に〉7六桂、〈ほ〉3一銀 を調べて、いずれも「先手良し」の結論が出ている。
この図で、他に手がなければ、「先手良し」で確定できるが……どうだろうか。
研究7六歩図76
もう一つ、〈へ〉7一歩(図)がある。(これを先手が打ち破れば先手良しで確定としよう)
この手は、同竜に、6二銀左と指し、以下6一竜に、7六成銀となれば、後手ペースになる(6二銀左の一手が後手にプラスに働いた変化になる)
これが後手〈へ〉7一歩の狙いである。
〈へ〉7一歩には、「2五桂」が良い。
研究7六歩図77
2五桂(図)とはねて、「3三」を狙う。対して2四歩なら、3三香、同桂、同歩成、同銀、同桂成、同玉、3五銀で先手勝ち。
つまり、ここで7六成銀の手も、3三香で先手が勝つ。
だから、後手は9五歩と攻め味を作っておく。9五同歩、9六歩、同玉、9四歩、9七玉に、9五歩と進んで、これで先手は香車を渡せない形になった。3三香と打ちこむと先手不利になる。
それならと先手は、3八香と下から打つ(次の図)
研究7六歩図78
3八香(図)と打って、「3三」への利きを一枚増やした。8四馬で金を取って「3三金」とすれば、後手玉は詰む。後手は〈へ〉7一歩を打つのに「一手」を使ったので、その分だけ攻めが遅れており、7六成銀~7七とを指す手番がまわって来ない。
後手は、4四銀と「3三」への利きを増やす。
以下、5三歩、、6二金に、3三歩成で攻めを開始。以下、同桂、同桂成、同銀に、3四歩(次の図)
研究7六歩図79
3四歩(図)に、2四銀や4四銀なら、3三桂と打ちこんで先手が良い(後手受けなし)
なので3四同銀だが、同香、3三桂に、3五桂で、これも先手勝勢である。
研究7六歩図12(再掲 3七桂図)
以上の調査によって、3七桂 と右桂をはねたこの図は、「先手良し」と確定。
7六歩基本図(再掲)
さて、7六歩基本図まで戻って、ここで「6六銀」以下を解説してきたが、「6六銀以外の手」は考えられるだろうか。
7五歩 という手がある。同歩なら、7六歩で先手がはっきり悪くなる。
しかし、これには、「3三歩成、同銀、5二角成」の攻めが成立する。角を渡しても先手玉は大丈夫なので、この攻めが有効となるのだ。
5二同歩に、3一飛(次の図)
研究7六歩図79
7六歩が打ってあるので、ここで後手5四角~8一桂の手がなく、この攻めがピッタリした攻めとなる。
このように、6六銀以外の手だと、3三歩成~5二角成が成立しやすい。
(6六銀に「3三歩成、同銀、5二角成」は、以下同歩、3一飛なら先手が良いが、5二角成に、7七銀成、9八玉に、7八とで、後手が勝ちになる)
研究7六歩図80
では、3一銀(図)にはどうするか。
これには3三歩成(同歩に2五飛と打つ)もあるところだが、2六香が明快なのでそれを紹介する(次の図)
研究7六歩図81
2六香(図)に、後手1一桂と受ければ、3三歩成、同歩、5二角成、同歩、3二歩、同銀、3一金で攻略できる。3三歩成を同桂なら、5二角成、同歩、4一飛で良い。
5五の銀が先手玉に迫ってきていないので、この展開は先手勝ちやすい。
よって2六香には、6六銀とする。
先手はそこでやはり、3三歩成。
同桂なら、5二角成、同歩に、2一金、同玉、1一飛以下、後手玉詰み。
したがって、後手は3三同玉と取る。
そこで、5二角成、同歩、3五飛。これで後手玉は寄っている(手順前後して先に3五飛と打つと、4二玉、5二角成に、同玉の変化があって、それは後手勝ち)
3四桂合は4五金があるので、2二玉と逃げるが、3四金が“詰めろ”
以下、7七銀成には、9八玉と逃げる(次の図)
研究7六歩図82
後手は「角桂」を持っているが、9八玉と逃げれば、先手玉に詰みはない。
後手1一桂と受けても、2三香成、同桂、同金、同玉、1五桂、2二玉、2五飛以下、“詰み”
つまりこの図は、先手勝ち。
3一銀 には、2六香で先手が勝てる。
7六歩基本図(再掲)
以上の調査の結果、〔楢〕7六歩 は 6六銀、9七玉、7七銀成、3七桂以下、先手良しになる が結論となる。
研究7六歩図83
なお、蛇足ながら、付け加えておくことがある。
本編の解説では、〔楢〕7六歩、 6六銀、9七玉、7七銀成、3七桂を調べ、「先手良し」となったが、「9七玉」のところで、代えて「3七桂」(図)としたのがこの図。
これでも、「先手良し」ではないかと思われる。そのことを最後に付け加えて書いておく。
「9七玉」と指すことで、後手の迫る手を「7七銀成に限定させた」という意味があったのだが(「9七玉」にすぐに7七とでは6六銀が浮いており2六飛で先手良しになる)、ここで「3七桂」とする手は、後で後手によいタイミングで“7七と”を選ぶ余地を与える。
しかし、後手が“7七と”とする変化で具体的に有効な指し方が見当たらないので、ここで「3七桂」でも先手悪くないようだ(たとえばすぐに7七と、9七玉、7六とは、3三香で、先手良しになる)
ただし、本編の「9七玉、7七銀成」を決める指し方のほうが、相手の攻め手が狭くなる分、先手としてはわかりやすい。そういうわけで、本編では「9七玉」を本筋とみて解説した。
6七と図
〔松〕3三歩成 → 先手良し
〔竹〕5二角成 → 先手良し
〔梅〕2五香 → 互角
〔栗〕8九香 → 先手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 先手良し
〔柏〕2六飛 → 先手良し
〔橘〕3三香 → 先手良し
〔桃〕2六香 → 先手良し
〔楓〕2五飛 → 先手良し
〔柊〕3七桂 → 先手良し
〔椿〕8一飛 → 後手良し
〔柳〕7八歩 → 先手良し
〔桐〕9八玉 → 先手良し
〔椎〕1五歩 → 後手良し
〔檜〕3八香 → 後手良し
〔梨〕6五歩 → 後手良し
〔椿〕6八歩 → 後手良し
〔桑〕3七飛 → 先手良し
〔楢〕7六歩 → 先手良し
〔桜〕9七玉 = 実戦の進行(先手良しの見込み)
これで、「先手の勝ち筋」は14.5通りになった(内容未発表の〔桜〕9七玉を含む)
驚いた。まさか、まだ「先手が勝てる手」が残されているとは思わなかった。
〔楢〕7六歩 が「先手良し」の結論になったのは、調査する我々にとっても、全く意外なことであった。
これは「先入観」の影響が大きい。最新コンピューター・ソフト群が、ほとんどこの手を「10個の候補手」の中に示していなかったので、「〔楢〕7六歩では結局後手良しになるのだろう」という先入観があって、それに引っ張られて、最初は深く調べないでいた。
それを、よく調べてみると―――「先手良し」になるとわかったのだった。
「3七桂」の発見が、カギだった。
第49譜につづく
[影との戦い]
ゲドはひょいとうしろをふり返った。同じ舟の中にあの影が立っていた。
もしも、その一瞬を逃していたら、ゲドはやられていただろう。が、彼には心構えができたいた。彼は目の前でたじろぎ、震えている影にとびかかっていった。魔法などあってもどうにもならなかった。命を持たないものに向かって、彼は今、その肉を、命そのものをかけてぶつかっていった。ものを言う必要はなかった。彼はただやみくもに攻撃にでた。激しいからだの動きに、舟は大揺れに揺れた。鋭い痛みが腕を這いのぼって胸をしめつけ、息をつまらせた。からだは氷のように冷えていって、やがて目が見えなくなった。だが、影をつかんだその手には、なのも残ってはいなかった。闇と空気以外には……。
ゲドは前につんのめりそうになって、あわててマストにつかまった。目に光がもどってきた。折しも、影はじりじりと後退していくところだった。
(『ゲド戦記Ⅰ 影との戦い』アーシュラ・K・ル・グイン著 清水真砂子訳より)
「アースシー」という架空の世界に住むハイタカ(真の名をゲドという)という男の若い時の、「影との戦い」を描いたのがこの物語である。これは初めは、『ゲド戦記三部作』として始まったが、その後さらに続編が追加されて描かれた。
「アースシー」の中央部は無数の島で構成されており、そこに住む人々の生活圏を「アーキぺラゴ(多島海)」という。その世界では、魔法の才能を持った者が時々生まれてくる。しかし世の中が殺伐していると、魔法によって他者を力で支配するというようなことになる。魔法をもって生まれた子供を、より強い魔法使いが支配するなど、陰惨なことが多かった。そして魔法の使えない大多数の人々は、そうした魔法使いを忌み嫌い、魔法の才を持った子供が生まれてくると、それを秘密にしていた。そうした子供は、魔法の力をコントロールする知恵をもたず、結局は他の魔法使いに見つかって、未熟なままに魔法の戦いに巻きこまれ、結局抹殺されてしまうのだった。
そうした魔法の能力をもっとよきことに利用できるように、魔法の才を持った子供を正しく育てようと、ローク島に数百年前に作られたのが「ローク学院」という魔法使いのための学校である。この学院の中には十人の魔法使いの“長(おさ)”がおり、その中で代表者となるのが「大賢人」である。
ゲド(ハイタカ)はやがて「大賢人」となり、この「アーキペラゴ」の世界の平和を維持するための大きな貢献をする男となり、この世界の歴史に名を残すほどの英雄になる。
そのゲドの若い未熟な青年期を描いたのが「三部作」の第一部『影との戦い』である。
若かったハイタカは、人の挑発に乗り、力自慢で、やってはいけない魔法(死んだ世界から霊を呼ぶ)を使ってしまう。するとそこに「名もなき何か」がゲドに襲いかかってきた。これが“影”である。
ゲドは、西の海で暴れていた若い竜を魔法で退治し、知恵のある竜と交渉を結ぶ。この世界で竜と対話したのは、ゲドより前にさかのぼると千年以上も前のことになる。それほどの魔法の能力を持つゲドだったが、この男にとっては、“影”と戦うことに比べたら、竜と向き合うほうが小さな戦いであった。それほどに、“影”は強力な敵なのだった。
ここに現れた“影”とは何者であろうか。映画『スターウォーズ』の“暗黒面に落ちたアナキン・スカイウォーカー”みたいなことであろうか。いや、ゲドの前に現われた“影”は、人の中にある心の陰の部分というような、誰にでもあるわかりやすいものとは違うものに思われる。
この『ゲド戦記』の“影”は、ゲドの一部ではない。別の、死の世界からやってきた“名もなき何か”、なのである。
戦って勝てる見込みのなかったゲドは、どうやってこの“影”から身を守るか、どうやって“影”から避けるかを考えて行動していたが、それも無理だとわかった。“影”の計略がしつこいのである。
師であるオジオンに相談してみたところ、「逆に追うしかない」ということになった。
そうして、覚悟を決めて、“影”を追い、戦うことにした。勝つ見込みはまったくないが、逃げることができないなら、戦うしかないのである。
そうして、ゲドはまた“影”と相まみえる。3度目の戦いだった。それが上に切り取ったこのシーンである。
今度は、“影”が逃げ始めた。東南へと。
ゲドはそれを追う。舟(はてみ丸)に帆を張って、東へ東へと進む。
ついに島影もなくなり、ただ海原が広がっている。つまりここは“世界のはて”なのである。
“世界のはて”で、ゲドは“影”と、4度目の、最後の戦いをする。
そして、彼はその“影”に名前をつける。「ゲド」という名を。
これがどういう意味なのかを理解するのは容易ではない。きっと作者ル・グインは、そういう“理解の容易ではない何か”を描いているのだろう。
<第48譜 21番目の候補手>
≪最終一番勝負 第46譜 指始図≫ 9七玉まで
この図を一手戻した図、「6七と図」を、我々は目下、研究調査中である。
次の21番目の研究手が、「最後の手」になる。
6七と図
〔松〕3三歩成 → 先手良し
〔竹〕5二角成 → 先手良し
〔梅〕2五香 → 互角
〔栗〕8九香 → 先手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 先手良し
〔柏〕2六飛 → 先手良し
〔橘〕3三香 → 先手良し
〔桃〕2六香 → 先手良し
〔楓〕2五飛 → 先手良し
〔柊〕3七桂 → 先手良し
〔椿〕8一飛 → 後手良し
〔柳〕7八歩 → 先手良し
〔桐〕9八玉 → 先手良し
〔椎〕1五歩 → 後手良し
〔檜〕3八香 → 後手良し
〔梨〕6五歩 → 後手良し
〔椿〕6八歩 → 後手良し
〔桑〕3七飛 → 先手良し
〔桜〕9七玉 = 実戦の進行(先手良しの見込み)
「先手の勝ち筋」は13.5通り になった(内容未発表の〔桜〕9七玉 を含む。また結論を「互角」としている〔梅〕2五香 を 0.5とする)
21個目の調査対象の手は、〔楢〕7六歩 である。
前回の20個目〔桑〕3七飛 の調査でこの図の調査研究を終える予定でいたが、その調査中に〔楢〕7六歩 もあることに気づいて調べ始めたのだが、やがてこれは本格的な調査が必要な手だと認識することとなった。
この手は、最新ソフトの候補手(10個)の中にもほとんど出現しないのだが、前回の〔桑〕3七飛 の調査で「dolphin1/illqha4」を使ってこの「6七と図」を評価させたとき、瞬間、7番目くらいの位置に候補手としてしばらく出現していたのを見たのだった。
(こうしたソフトを使った候補手と評価値の調査は、同じソフト同じパソコンを使っても毎回調べるたびになぜか違う結果が出てくる。ある同じ手がいつも示されるとは限らない)
[調査研究:〔楢〕7六歩]
〔楢〕7六歩 は21個目の候補手で、これが「6七と図」の最後の調査対象手になる。
7六歩基本図
〔楢〕7六歩 は、後手の7五桂の有効手を打たせない、それによって、後手の攻め手を遅らせる意味がある。
これに対して、後手は6六銀。7七銀成~7六成銀~7七と~7五桂という攻めが後手の狙いになる。
そこまでいくと先手の受けは難しくなるので、その前に後手陣への攻めを成功させたい。
6六銀に、9七玉。後手の次の手を決めさせる。
後手は7七銀成(7七ともあるがそれは2六飛で先手良しになる)として、次の図。
研究7六歩図01(7七銀成図)
ここで何を指すか。
ソフトは、2六飛 を示している(次の図)
研究7六歩図02
2六飛(図)と打って、次に2五香の攻めを見せる。
これに対して、6二金(次に3一玉からの角取りを狙う)には、この場合は3三香がある。3一銀では5一竜があるので、3三同桂、同歩成、同玉と進むが、3四歩と打ち(2二玉なら3三桂がある)、4四玉に、8四馬、同銀に、5五金、同玉、4七桂以下詰み。 ということで、2六飛に、後手6二金の手はない。
ここは「3一銀」と受けるのが後手の最善の受けになるようである(次の図)
研究7六歩図03
「3一銀」と銀を引いたので、3三歩成としてみたくなるが、同玉と取られ、次に4二玉という手も生じるので先手が困る。
(A)2五香 と打ってみよう。後手は、1一桂。
そこで2三香成、同桂、2四金と行くのは、2五歩、同飛、1一玉と対応され、2三金、2二歩となって、後手良し。この1一玉~2二歩という受けが、3一銀の意味だった。
2三香成から攻めていけないので、先手は3七桂と力を溜める(次の図)
研究7六歩図04
後手は7六成銀。
次に7七ととされ“詰めろ”を掛けられると、金を受けに使うことになり先手の攻めの力が弱くなるので、先手はその前にここでスパークする。2三香成、同桂、5二角成。これが3七桂と力を溜めた先手の狙い筋で、5二同歩なら、3三歩成(同歩なら2三飛成、同玉、1五桂以下後手玉詰み)、同桂に、7六飛と成銀を取った手が、1一銀から後手玉への“詰めろ”になっている(この変化は互角)
なので後手は5二角成を同歩とはせず、7七と。先手玉についに“詰めろ”が掛かった。
そこで2三飛成。同玉なら、3五桂(1五桂)から後手玉詰み。
しかし、1一玉なら詰まない(次の図)
研究7六歩図05
先手は9八金と自玉を受けることになるが、後手も2二歩と受ける。
対して2六竜なら、後手9五歩が有効になる。以下、同歩、同金、9六角成、9四歩が予想されるが、後手良し。
したがって、先手は2五竜とする。これなら9五歩には、5三馬で先手がやれる。
しかし後手はここで5二歩と角(馬)を取って、勝負に出る。これには3一竜があるが‥
8六成銀が用意の一手である(次の図)
研究7六歩図06
8六同玉、7六と、9七玉、8六角、8八玉、7七角成、8九玉、8六香、8八歩、6七と(次の図)
研究7六歩図07
先手の3一竜の瞬間は"受けなし"に見えた後手玉に、7七の馬の利きがあって後手に詰みはなく、先手玉には“詰めろ”が掛かっている、7九歩と受けても7八歩があり受からない。2二竜行、同馬、同竜と行くしかないだろうが、そう進んでも後手勝勢である。
研究7六歩図08
後手「3一銀」に、(A)2五香 と打つのをやめて、(B)3七桂(図)としてみる。
ここで「7六成銀」なら、3三歩成、同桂、3四歩、7七と、3三歩成、同玉、3五香、3四桂、同香、同玉、3六飛、3五香、2五金が予想され、そうなると、先手勝ち(香を2五に打つ手を温存したので、この3五香の攻め筋ができたのである)
「4二銀引」と受ける手には、2五香、1一桂、8四馬、同銀に、2三香成、同桂、同飛成、1一玉(同玉は3五桂以下詰み)、2二金、同銀、1二竜、同玉、2四桂以下、後手玉が詰んでしまう。
「4二金」には、6三角成だが、7六成銀に、4五馬、1一桂、2五香が “詰めろ”で、先手良し。
後手の最善手は、「4四銀」である(次の図)
研究7六歩図09
「4四銀」と銀を上に上がって受けることで、先手からの2五香、1一桂、8四馬、同銀、2三香成、同桂、同飛成、同玉の強襲が、詰まないようになっている。「4二」~「5三」と逃げるスペースがあるからである。
先手は、5三歩。
4二金なら、6三角成で、先手ペース。
しかし―――
研究7六歩図10
先手5三歩に、3五銀(図)がある。
以下5二歩成は、2六銀、8九香、7六成銀で、後手良し。
なので2五飛と逃げるが、7六桂、8九香、7八と、5二歩成、8八と(次の図)
研究7六歩図11
これで、後手良しになる。
なお、最後の8八とに代えて、後手が8八桂成とすると、同香、同とに、3三歩成以下後手玉が詰む(桂馬が先手に入ったため)
また香車をとる8九とも、これが詰めろにはなっていないので、3三金、1一玉、3二角成で、先手勝ちとなる。
図の、8八とが正着で、これなら後手が良い。
以上、2六飛 では、先手の勝ち筋は見つからなかった。
研究7六歩図01(再掲 7七銀成図)
他に手はないだろうか。
ここで2六香は、7六成銀または7六桂で、後手良し。
2五香は有望だが、1一桂と受けられ、以下2六飛には6二金で攻めが続かず3一玉からの角取りも見せられて、先手悪い。
そうすると、「〔楢〕7六歩 は後手良し」という結論になるかと思ったが、それは早計だった。
3七桂 があった。これが有力な手のようなのである。
研究7六歩図12(3七桂図)
3七桂(図)は、飛車と香車をどちらも手に持ったままにすることで、攻め筋を多様にする意味がある。もちろん、はねた3七桂自体も、後手陣攻略に有効な手である。
後手の候補手は次の通り。
〈い〉9五歩、〈ろ〉4四銀、〈は〉7六成銀、〈に〉7六桂、〈ほ〉3一銀
研究7六歩図13
〈い〉9五歩 には、5二角成(図)で、先手優勢になる。
これを同歩は、3三金と打ちこみ、同歩、同歩成、同玉、3一飛(次の図)
研究7六歩図14
後手玉は“詰み”。
5二角成の手自体は詰めろにはなっていないが、先手玉にも詰めろがかからないし、5二同歩と取れないようでは、この攻め合いは後手に希望がない。
研究7六歩図15
〈ろ〉4四銀(図)なら、3三に利いているので、5二角成は、同歩と取れる。
ここは先手は5三歩と打つのが良い。同銀引と戻るなら、5二角成だ。
研究7六歩図16
5三歩(図)。
6二金 なら、3三香と打ちこみ、同桂(3一銀には5一竜がある)に、5二歩成と金を呼び戻して、先手良し。
よって、5三歩は、同金 とするが、そこで7二飛という手がある(次の図)
研究7六歩図17
“両銀取り”になっている。6二歩、7三飛成の展開は、先手良し。
なので後手は3一玉(角取り)で勝負するが、それには5二香がある(次の図)
研究7六歩図18
歩があれば5二歩でよいのだが、ないので、5二香(図)と打った。4一玉なら、5一香成以下後手玉は詰んでしまう。
なので、7一歩、同竜、9五歩のような展開が予想されるが、5一香成で、先手勝勢である。
研究7六歩図19
5三歩を手抜きして、7六桂(図)と攻め合うのも考えられるが…
しかし、5二歩成が、実は後手玉への“詰めろ”になっている(これが詰めろでなければ8八桂成で先手玉の受けが難しいところだったが)
8八桂成に、3二角成、同玉、3三香、同桂、4二と、同玉、4一金(次の図)
研究7六歩図20
「3三香、同桂」を入れて、4二と~4一金が巧みな手順。
4一同玉には、3一飛から。5三玉には、5一竜、5二歩、同竜、同玉、5一飛以下、“詰み”
以上のように、〈ろ〉4四銀は、先手良しになる。
研究7六歩図21
〈は〉7六成銀(図)は、後手の指したい手。
5二角成には、7七と、8九香、7五桂、9八金と、先手に金を使わせてから、5二歩と手を戻せば、これは後手の勝ち。
よって、先手は別の攻め筋を見つけなければいけないが―――(次の図)
研究7六歩図22
3三香(図)がある。同桂、同歩成、同銀なら、5二角成で、この瞬間、後手玉は2一金以下“詰めろ”になっているので、7七との攻めの余裕が得られない。
だから3三香に、後手は3一銀と受けるが、それには8四馬の用意がある。金を入手して、3二香成以下の“詰めろ”になっている。
だから後手は8四馬を取れないが、すると“4二金”とするか“4二銀引”とするかである。
研究7六歩図23
“4二金”なら、3二香成、同銀、5一竜(図)とする。
ここで後手は角を取りたいが、しかし4一金でも4一銀でも、3三金から後手玉は詰んでしまう。このままでも3三金以下の詰みがあり、3一香と受けても3二角成以下詰む。
つまりこの図は、先手勝ちである。
研究7六歩図24
ということで、“4二銀引”(図)と受ける。
以下、7三馬に、7七と。後手期待の7七とだが―――
しかし、先手3二香成、同銀、同角成、同金、3三銀と攻めて―――(次の図)
研究7六歩図25
これで後手玉は詰んでいるのである!
以下、その“詰み”の確認をする。
まず3三同桂と取るのは、同歩成、同銀、4一銀、同玉、5三桂(次の図)
研究7六歩図26
以下4二玉は、4一飛、5三玉、6三金から。
3二玉には、3一金と打って、4二玉、3二飛(今度は4一飛では詰まない)、5三玉、5二飛成、同歩、6三金以下、“詰み”
3七にはねた桂馬が後手玉の上部脱走を押さえている。
研究7六歩図27
次に3三同銀(図)の変化。
同歩成、同桂(同玉なら3四歩以下詰み)、2一銀(次の図)
研究7六歩図28
2一同玉、4一飛、3一香(銀合でも同じ攻めで詰む)、1一金、3二玉、4二金(次の図)
研究7六歩図29
4二同金に、2一銀以下の“詰み”
つまり、〈は〉7六成銀には、3三香の攻めで、先手良し。
〈に〉7六桂に対しても、同じように、3三香で先手が勝てる。
研究7六歩図30
以上のことをふまえて、3七桂には、〈ほ〉3一銀(図)がおそらくは最善手ではないかと思われる。
これは3三香の攻めに一手早く備えた意味があって、3三香なら4二金で、後手優勢になる(先手は8四馬とまだ金を入手していないのため、3二香成、同銀、5一竜、4一金のときに、後手玉がまだ詰まない)
3一銀に、先手はどう指すか。
2六飛だと4四銀とされ、これは上で研究した「研究7六歩図09」に合流してしまい、それは「後手良し」が確定している。なので2六飛はない。
【一】2五桂、および、【二】2六香、【三】2五香 が期待される手である。
研究7六歩図31
【一】2五桂には、4二金と受ける。3一銀と引いたので、この手が指せる。4一の角を取れば7九角と打って後手勝ちになる。
だから6三角成とするが、以下6二銀右、4五馬(次の図)
研究7六歩図32
4五馬(図)。このまま後手7六桂のように攻めると、2四香、1一桂、2三香成、同桂、2四飛で、いっぺんに先手勝ちになる。
なので、4五馬に、後手は4四銀で馬を追う。以下、5四馬、5三銀上、6五馬、7三桂、4七馬、そこで7六桂。
以下8九香に、7八と(次の図)
研究7六歩図33
後手の攻めのほうが早い。そして、受けも難しい。
後手勝勢。
なお、【一】2五桂と跳ぶ手に代えて、“4五桂”とこちらに跳ぶのも、同じように4二金で、受け止められて後手良しである。4五桂、4二金に、5三桂成と取る手は、4一金で角を取られて、後手からの7九角があるので先手悪い。
研究7六歩図34
【二】2六香(図)が有力な手である。しかし、4二銀引または4四銀のときに難しい。
それよりも、【三】2五香のほうがより優れているので、そちらで調べていくことにする。
研究7六歩図35(2五香図)
【三】2五香(図)と香を打ったところ。「2五」に打つことで、2六飛の手も見せている。ただ、「2五」に打つと、3三歩成、同桂のような攻めのときに、3三桂が香取りになるという欠点もある。
また、2五に打つと、後手からの2四歩の香取りにくる手も気になるところではある。
しかし(1)2四歩は、同香、2三歩、同香成、同玉に、8四馬がある(次の図)
研究7六歩図36
8四馬(図)と金を取って、後手玉が2四金以下の“詰めろ”になっている。先手勝ち。
つまり、【三】2五香と打った手には、後手が放っておけば、2三香成から8四馬の寄せがあるということだ。
研究7六歩図37
(2)4二金(図)と受ける手を調べよう。
先の【一】2五桂の場合は、4二金の受けがあって、先手が悪くなった。
しかし、2筋に香車を打つ【三】2五香は、後手のこの3一銀~4二金という受けを上回る手になっている。
(2)4二金には、角を渡すわけにはいかないので、6三角成とする(次の図)
研究7六歩図38
こうなって、先手には、5一竜と、4五馬と、7三馬の、3つのねらいが残っている。
6二銀右なら、2三香成、同玉、4五馬だ(次の図)
研究7六歩図39
これで後手に受けがなく、いっきに先手勝ちとなった。この2三香成~4五馬があるのが、2筋に香車を打った効果である。
こうなっては後手に勝ち目がないので、6三角成(前の図)に、4四銀や1一玉のような手を後手は指すことになるが、5一竜と竜を攻めに使えるので、それも先手優勢である。
研究7六歩図40
(3)7六成銀、または(4)7六桂 と攻めて勝てるのなら、後手はそうしたいところである。
しかしこの手はいずれも、8四馬~2三香成で、先手良しになる。(3)7六成銀(図)以下を調べて、その変化を確認しておこう。
(3)7六成銀、8四馬、同銀、2三香成(次の図)
研究7六歩図41
2三同玉、2四金、2二玉、3三歩成、1一玉、2二金、同銀、同と、同玉、2三飛、3一玉、3二角成(次の図)
研究7六歩図42
3二同玉に、3三銀以下の“詰み”
研究7六歩図43
2三香成に、1一玉の変化。これには、2二金以下詰みがある。
2二金、同銀、同金、同玉に、2四飛が気づきにくい手。
2三歩合なら、3三歩成、同桂(同玉は3四金以下)、2一金以下の詰み。
なので2三金合と抵抗する(3三歩成は同玉で詰まない)
しかし2三金合には、3三銀と打つ(次の図)
研究7六歩図44
やはりこれで、詰んでいる。3三同桂に、2一金、同玉、2三飛成以下。
研究7六歩図45
(5)1一桂(図)と受けた場合。
ここで2六飛は、上で調べた図(研究7六歩図04)に合流する。それは「後手良し」だったので、ここでは2六飛以外の手を探す必要がある。
2三香成、同桂、2四金という攻めがあるが、1一玉で、後手良し。
ここは、3三歩成が正着。同歩なら、そこで2六飛と打って先手が勝てる(以下3二銀は、同角成、同玉、2三香成、同桂、同飛成、同玉、1五桂以下、後手玉詰み)
また、3三同玉には4五桂で先手良し(4四玉なら4六金。4二玉には5三桂成、同金、6一飛。2二玉には3四金)
よって、後手は3三同桂と取るが、そこで2三香成(次の図)
研究7六歩図46
2三同桂(同玉は2一飛がある)、5二角成(同歩なら2一金、同玉、1一飛以下詰み)、4二銀引、4一飛(次の図)
研究7六歩図47
次に4二馬が先手の攻めになる。それを受ける2一歩には、3四歩(5二歩なら3三歩成、同玉、3四歩以下後手玉詰み)で、先手が勝てる。
後手は香車を持っていることを生かし、9五歩から攻めてくる。“詰めろ”だ。
9五同歩、9六歩、同玉、9四歩に、8五金と受ける。どうやらこれで先手良しになっている。
ここで9二香が後手の勝負手(次の図)
研究7六歩図48
9二香(図)は、先手がこれを同竜と取れば、5二歩で、後手が勝ちになるという勝負手。
しかし、これには、8四金と応じて、先手良し。9三香なら、7三金として先手勝勢。また9五歩なら8五玉と指す。
よって、8四金、同銀、同馬、同歩、9四歩の進行が、予想される手順。以下、9四同香、同竜、5二歩、2四香(次の図)
研究7六歩図49
手が広いので、実戦的にはまだまだたいへんではあるが、評価値的には、はっきり先手が良い(+1600くらい)
以下、変化の一例を示しておく。
5六角、2三香成、同玉、1五桂、2二玉、3四歩、2三歩、2四金、1四角(次の図)
研究7六歩図50
2三桂成、同角、同金、同玉、3三歩成、同歩、3五桂(次の図)
研究7六歩図51
以下、3二玉に、6一飛成で、先手勝勢。
これで、(5)1一桂 には、3三歩成、同桂、2三香成、同桂、5二角成の攻めがあって、先手が良くなるとわかった。
研究7六歩図35(2五香図)
【三】2五香と打ったこの図に関するこれまでの調査結果は、こうなっている。
(1)2四歩 → 先手良し
(2)4二金 → 先手良し
(3)7六成銀 → 先手良し
(4)7六桂 → 先手良し
(5)1一桂 → 先手良し
他に考えられる手は、(6)4二銀引、および、(7)4四銀 である(この2つををやっつければこの図はコンプリートして、「先手良し」ということに決まる)
研究7六歩図52
(6)4二銀引(図)には、香車を「2六」ではなく、「2五」に打ったことが生きる。すなわち、2六飛と打つ手が有効になる。
2六飛、1一桂に、8四馬、同銀、2三香成、同桂、同飛成(次の図)
研究7六歩図53
もしも先手の2筋が「2六香+2五飛」の場合には、後手2四桂という受けが生じていたので、この攻めは成立していなかった。「2五香+2六飛」型だから成立した攻めなのである。
2三同竜(図)で、後手玉は詰んでいる。2三同玉は、3五桂以下簡単。なので、後手は1一玉と逃げるが、それでも詰む(角を渡した以上、詰まさなければ負けになる)
2二金、同銀、1二竜、同玉、2四桂(次の図)
研究7六歩図54
「金香」の持駒で、ぴったり詰んでいる。
研究7六歩図55
残るは、(7)4四銀。 しかしこれは “強敵” である。
今度は、2六飛は、1一桂に、有効手がなく、うまくいかない。「4二」に玉が逃げる空間があるので、さっきのような詰み筋がつくれないのだ。
3三歩成、同銀、2六飛と工夫する手はあるが、(1一桂なら5二角成で先手有望だが)3四銀と受けられて、先手が悪い。
(7)4四銀には、「5三歩」と打ってどうか。
同金なら5一竜で先手良し。
「5三歩」を放置して7六桂と攻めるのは、5二歩成が、2三香成以下後手玉への“詰めろ”になっているので、先手勝ち。
「5三歩」に、1一玉は、5二歩成、7六桂に、2三香成(次の図)
研究7六歩図56
この2三香成(図)が詰めろになっている。2二歩には3二成香がまた2一成香以下の詰めろ。先手勝ち。
よって、「5三歩」には、後手「4二金」の一手になる。先手は「6三角成」(次の図)
研究7六歩図57(6三角成図)
6三角成(図)とした、この図がどちらが良いのか、それが重要である。 (「dolphin1/Kristallweizen」評価値は-135 となっている)
ここで考えられる後手の手は、次の3つの手。
「7六成銀」、「7六桂」、そして「7八と」。
研究7六歩図58
6三角成に、「7六成銀」 なら、先手は5一竜とする。以下7七とに、9八金(図)と受ける。
後手玉はまだ詰めろではないが、7五桂や7四桂と桂馬を手放すと、その瞬間に、3一竜から後手玉が詰む。まずその詰み筋を見ておこう。
7五桂、3一竜、同玉、5一飛(このとき桂があれば4一桂合で不詰)、2二玉、2三香成、同玉、2一飛成、2二歩、1五桂、3四玉、2五銀(次の図)
研究7六歩図59
6三の馬が後方に利いている。2五銀(図)に、3三玉、2四銀、3四玉、3五歩以下、“詰み”
研究7六歩図60
後手は7五桂では勝てないので、代えて7五金(図)とした場合。
これには、同馬、同成銀、2三香成、同玉、3一竜(次の図)
研究7六歩図61
こう進んでみると、先手勝勢。
7九角なら8八銀だし、8六成銀、同玉、8四香は、7七玉で、先手玉は捕まらない。
研究7六歩図62
6三角成に、「7六桂」(図)の場合。
ここは「2六飛、1一桂、5一竜」が正しい手順で、単に5一竜では先手不利になる。まずそのことを確認する。
5一竜、8八桂成とされると先手玉に“詰めろ”が掛かり、この受けが難しい。
5四馬には―――
研究7六歩図63
7六歩(図)で、後手勝勢。
研究7六歩図64
ところが、「7六桂」に、「2六飛(図)、1一桂、5一竜」とすれば、逆の結果になる。
以下8八桂成に、5四馬で次の図。
研究7六歩図65
5四馬は、"詰めろ逃れの詰めろ"になっている。すなわち、後手玉には、4四馬、同歩、2三香成、同桂、同飛成(これを同玉は3五桂以下簡単)、1一玉、2二銀、同銀、同竜、同玉、3一銀、2三玉、3五桂、3四玉、2五金、3三玉、4二竜までの詰みがある。
なので、今度は、後手7六歩のような手が利かない。
だから後手は8七成桂とする。以下、同馬、同成銀、同玉で、馬が消えたので今示した後手玉への“詰めろ”も消えた。しかし先手の持駒が増えたので、2三香成から清算して1五桂と打つ、別の詰み筋が生まれている。
後手は6九角と打って、王手をしつつその詰み筋を受ける。
以下7六玉、3五銀に、5四桂(次の図)
研究7六歩図66
5四桂(図)と打って、こんどは側面から“詰めろ”(3一竜、同玉、4二桂成以下)を掛けた。
受けがなく、先手勝勢。
「6三角成図」(研究7六歩図57)から、「7六成銀」と「7六桂」は、先手良しになるとわかった。
研究7六歩図67
残るは、「7八と」(図)である。
しかし、「7六桂」のときと同じように、2六飛、1一桂、5一竜と進めると―――
研究7六歩図68
8八と(図)で、これはすでに後手勝勢になっている(7六歩が残っているので5四馬が受けに利かない)
どうやら、「2六飛、1一桂」を決めると、このケースでは先手不利になるようである。
(2六飛、1一桂に、3三歩成はあるが、同桂と応じられて後手良し)
研究7六歩図69
この場合は、3三歩成(図)が正着となるようだ。
これを同桂なら、5一竜が、次に2一金、同玉、1一飛以下の“詰めろ”になって、先手良し(この変化のために飛車を手に持っておくほうがよいというわけ)
3三同玉も、5一竜が、4二竜以下の詰めろになっている。5一竜が先手で入ったら、もう後手はどうしようもない。
また3三同歩も、5一竜が、4二竜、同玉、2三香成、同玉、2四金以下の“詰めろ”になっているのだ。
というわけで、3三歩成には、同銀引と応じることになる。
そこで、4五馬(次の図)
研究7六歩図70
4五馬で、“詰めろ”をかけた。これを1一桂と受けるのは、8四馬で金を補充した手が、2三馬以下の“詰めろ”になるので、先手が勝つ。
よって後手は、3四桂と受け、それでも先手は2三香成。
これを同玉なら、3五歩、8八と、2四飛(次の図)
研究7六歩図71
先手勝ち。2四飛(図)で、後手玉は詰んでいる。
研究7六歩図72
2三香成を、同玉と取ると上のような結果になってしまうので、後手は 1一玉と逃げるのが正しい手。
そこで5五馬(図)とする。この馬は後手の攻めの8八とを指させないという手である。
この5五馬が手順に指せて、どうやら先手ペースの将棋になってきた。
後手は次に先手に5一竜とされると受けが厳しくなるので、2二歩と打って、成香を消しにいく。
以下、1二成香、同玉と進む。
そこで先手1五歩(次の図)
研究7六歩図73
薄くなった1筋の攻めを狙う1五歩(図)が好着想になる。次に1四歩、同歩、1三歩が厳しい。
後手4四銀(先手の馬の筋をずらせて8八とを狙う)が考えられる手であるが、6六馬、6五歩に、そこで1四歩(詰めろ)と攻めて、先手が勝てる。
2四銀と受けても、1四歩、同歩、1三歩、同銀、2五桂、2四銀、1三香で、先手の攻めが炸裂する。
ということで、後手は9五歩と攻めに賭ける。香車をもっているので、正確に応じないとやられてしまう。
これは同歩と応じ、9六歩、同玉、9四歩、8五金(次の図)と進む。
研究7六歩図74
こう進んでみると、先手良しの形勢のようだ。やはり次の1四歩が厳しい。
後手はここで、4四銀と出る。先手に金を8五に使わせたので、ここで1四歩では詰めろになっておらず、5五銀と馬を取られて逆転する。なので、先手は、6五馬と逃げておく。
先手の1四歩がくると後手に勝ち目がなくなるので、ここで後手はあやを求めて9五歩と勝負。同金、9四歩、8四金、同銀、同馬、同歩、9四竜(次の図)
研究7六歩図75
先手の優位がはっきりした。
9三歩、同竜、8二金という手はあり、同竜なら9四香以下先手玉詰みだが、1四歩(詰めろ)、同歩、1三歩、同桂、1四香(詰めろ)で、先手が勝つ。
「7八と」の変化も、先手良しと決まった。
以上の調査により、3七桂 に、〈ほ〉3一銀 → 【三】2五香 → (7)4四銀 → 5三歩、4二金、6三角成 という変化は、「先手良し」が確定した。
研究7六歩図12(再掲 3七桂図)
つまり、この「3七桂図」から、〈い〉9五歩、〈ろ〉4四銀、〈は〉7六成銀、〈に〉7六桂、〈ほ〉3一銀 を調べて、いずれも「先手良し」の結論が出ている。
この図で、他に手がなければ、「先手良し」で確定できるが……どうだろうか。
研究7六歩図76
もう一つ、〈へ〉7一歩(図)がある。(これを先手が打ち破れば先手良しで確定としよう)
この手は、同竜に、6二銀左と指し、以下6一竜に、7六成銀となれば、後手ペースになる(6二銀左の一手が後手にプラスに働いた変化になる)
これが後手〈へ〉7一歩の狙いである。
〈へ〉7一歩には、「2五桂」が良い。
研究7六歩図77
2五桂(図)とはねて、「3三」を狙う。対して2四歩なら、3三香、同桂、同歩成、同銀、同桂成、同玉、3五銀で先手勝ち。
つまり、ここで7六成銀の手も、3三香で先手が勝つ。
だから、後手は9五歩と攻め味を作っておく。9五同歩、9六歩、同玉、9四歩、9七玉に、9五歩と進んで、これで先手は香車を渡せない形になった。3三香と打ちこむと先手不利になる。
それならと先手は、3八香と下から打つ(次の図)
研究7六歩図78
3八香(図)と打って、「3三」への利きを一枚増やした。8四馬で金を取って「3三金」とすれば、後手玉は詰む。後手は〈へ〉7一歩を打つのに「一手」を使ったので、その分だけ攻めが遅れており、7六成銀~7七とを指す手番がまわって来ない。
後手は、4四銀と「3三」への利きを増やす。
以下、5三歩、、6二金に、3三歩成で攻めを開始。以下、同桂、同桂成、同銀に、3四歩(次の図)
研究7六歩図79
3四歩(図)に、2四銀や4四銀なら、3三桂と打ちこんで先手が良い(後手受けなし)
なので3四同銀だが、同香、3三桂に、3五桂で、これも先手勝勢である。
研究7六歩図12(再掲 3七桂図)
以上の調査によって、3七桂 と右桂をはねたこの図は、「先手良し」と確定。
7六歩基本図(再掲)
さて、7六歩基本図まで戻って、ここで「6六銀」以下を解説してきたが、「6六銀以外の手」は考えられるだろうか。
7五歩 という手がある。同歩なら、7六歩で先手がはっきり悪くなる。
しかし、これには、「3三歩成、同銀、5二角成」の攻めが成立する。角を渡しても先手玉は大丈夫なので、この攻めが有効となるのだ。
5二同歩に、3一飛(次の図)
研究7六歩図79
7六歩が打ってあるので、ここで後手5四角~8一桂の手がなく、この攻めがピッタリした攻めとなる。
このように、6六銀以外の手だと、3三歩成~5二角成が成立しやすい。
(6六銀に「3三歩成、同銀、5二角成」は、以下同歩、3一飛なら先手が良いが、5二角成に、7七銀成、9八玉に、7八とで、後手が勝ちになる)
研究7六歩図80
では、3一銀(図)にはどうするか。
これには3三歩成(同歩に2五飛と打つ)もあるところだが、2六香が明快なのでそれを紹介する(次の図)
研究7六歩図81
2六香(図)に、後手1一桂と受ければ、3三歩成、同歩、5二角成、同歩、3二歩、同銀、3一金で攻略できる。3三歩成を同桂なら、5二角成、同歩、4一飛で良い。
5五の銀が先手玉に迫ってきていないので、この展開は先手勝ちやすい。
よって2六香には、6六銀とする。
先手はそこでやはり、3三歩成。
同桂なら、5二角成、同歩に、2一金、同玉、1一飛以下、後手玉詰み。
したがって、後手は3三同玉と取る。
そこで、5二角成、同歩、3五飛。これで後手玉は寄っている(手順前後して先に3五飛と打つと、4二玉、5二角成に、同玉の変化があって、それは後手勝ち)
3四桂合は4五金があるので、2二玉と逃げるが、3四金が“詰めろ”
以下、7七銀成には、9八玉と逃げる(次の図)
研究7六歩図82
後手は「角桂」を持っているが、9八玉と逃げれば、先手玉に詰みはない。
後手1一桂と受けても、2三香成、同桂、同金、同玉、1五桂、2二玉、2五飛以下、“詰み”
つまりこの図は、先手勝ち。
3一銀 には、2六香で先手が勝てる。
7六歩基本図(再掲)
以上の調査の結果、〔楢〕7六歩 は 6六銀、9七玉、7七銀成、3七桂以下、先手良しになる が結論となる。
研究7六歩図83
なお、蛇足ながら、付け加えておくことがある。
本編の解説では、〔楢〕7六歩、 6六銀、9七玉、7七銀成、3七桂を調べ、「先手良し」となったが、「9七玉」のところで、代えて「3七桂」(図)としたのがこの図。
これでも、「先手良し」ではないかと思われる。そのことを最後に付け加えて書いておく。
「9七玉」と指すことで、後手の迫る手を「7七銀成に限定させた」という意味があったのだが(「9七玉」にすぐに7七とでは6六銀が浮いており2六飛で先手良しになる)、ここで「3七桂」とする手は、後で後手によいタイミングで“7七と”を選ぶ余地を与える。
しかし、後手が“7七と”とする変化で具体的に有効な指し方が見当たらないので、ここで「3七桂」でも先手悪くないようだ(たとえばすぐに7七と、9七玉、7六とは、3三香で、先手良しになる)
ただし、本編の「9七玉、7七銀成」を決める指し方のほうが、相手の攻め手が狭くなる分、先手としてはわかりやすい。そういうわけで、本編では「9七玉」を本筋とみて解説した。
6七と図
〔松〕3三歩成 → 先手良し
〔竹〕5二角成 → 先手良し
〔梅〕2五香 → 互角
〔栗〕8九香 → 先手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 先手良し
〔柏〕2六飛 → 先手良し
〔橘〕3三香 → 先手良し
〔桃〕2六香 → 先手良し
〔楓〕2五飛 → 先手良し
〔柊〕3七桂 → 先手良し
〔椿〕8一飛 → 後手良し
〔柳〕7八歩 → 先手良し
〔桐〕9八玉 → 先手良し
〔椎〕1五歩 → 後手良し
〔檜〕3八香 → 後手良し
〔梨〕6五歩 → 後手良し
〔椿〕6八歩 → 後手良し
〔桑〕3七飛 → 先手良し
〔楢〕7六歩 → 先手良し
〔桜〕9七玉 = 実戦の進行(先手良しの見込み)
これで、「先手の勝ち筋」は14.5通りになった(内容未発表の〔桜〕9七玉を含む)
驚いた。まさか、まだ「先手が勝てる手」が残されているとは思わなかった。
〔楢〕7六歩 が「先手良し」の結論になったのは、調査する我々にとっても、全く意外なことであった。
これは「先入観」の影響が大きい。最新コンピューター・ソフト群が、ほとんどこの手を「10個の候補手」の中に示していなかったので、「〔楢〕7六歩では結局後手良しになるのだろう」という先入観があって、それに引っ張られて、最初は深く調べないでいた。
それを、よく調べてみると―――「先手良し」になるとわかったのだった。
「3七桂」の発見が、カギだった。
第49譜につづく
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