≪最終一番勝負 第47譜 指始図≫ 9七玉まで
[あなたこそわたしのかげよ!]
鏡の女「あたしよ絵美さん あなたのかげよ」
鏡の女「そうね あなたが絵美という名前ならあたしも絵美よ」
「きャ―――っ」
鏡の女「ほほ…だめよ逃げようとしても」
(ぐらり)
「あっ!」
(ガタン)
鏡の女「ほほほほほ」
鏡の女「あなたは 鏡に写っているわたしが あなたのかげだと信じているのね だけど わたしはあなたのかげではない!」
鏡の女「あなたは 認識をあらためなければいけないわ わたしからみれば あなたのほうが かげよ!」
鏡の女「あなたこそ 鏡に写っているわたしのかげよ! あなたたちは 自分が本体だと思っているけど ちがうのよ」
「うそよ!」
鏡の女「べつに 信じなくていいの おろかな者ほど 常識のわくから はみ出ることを きらうのよ」
鏡の女「でも ごらん」
「あっ」
「きゃっ」
鏡の女「これで わかったでしょう」
「はあ はあ」
鏡の女「あなたは この鏡の前に立ち いつも美しい自分の姿に 見とれていたつもりだけど……」
鏡の女「ほんとうは まだ一度だって 自分の姿を見たことがない! あなたは わたしの姿を見つめて ためいきをついていただけよ!」
鏡の女「美しいのは わたしなの」
鏡の女「そして きょうこそ このかべをこえる……」
「あっ」
「ああっ」
「きゃ――っ」
(ピカッ ガラガラ ダーン)
(『鏡』 楳図かずお作より)
楳図かずお作『鏡』は、初出は1968年少女向け雑誌『ティーンルック』(主婦と生活社)に掲載された連載漫画。どうやら当時のタイトルは『映像(かげ)』だったようで、その後、1996年発行の朝日ソノラマ社『楳図かずお恐怖文庫1 影』には、『鏡』というタイトルになって収められている。
楳図かずおは1936年生まれで、1955年に漫画家デビュー。奈良県の出身で、幼少期から「怖い話」をいろいろと聞いて育った。
楳図かずおの代表作の一つに『へび少女』(1966年『週刊少女フレンド』連載)があるが、奈良県南部には大台ヶ原山(おおだいがはらやま)という(昔においては)秘境のような場所があり、ここには『大蛇嵓の怪女』という伝説がある。「大蛇嵓(だいじゃぐら)」というのは、大台ヶ原山の蛇の頭の形にみえるという大岩で形をなす場所に名付けられた名称で、ここに住むおそらくは大蛇の化身であろう「怪女」は、人間を食べてしまおうとするおそろしい妖怪だという。
さて、この『鏡』の話では、鏡の中の「像(かげ)」が、いつも鏡の中の自分の美しさに見とれてそればかり見てきた少女(絵美)に話しかけ、鏡の中から抜け出て、少女の立場を奪ってしまおうとする話である。「かげ」は先手を打って次々とわなをめぐらし、周囲の人間を味方につけて絵美をほんろうする。少女絵美は孤立するが、やがて「かげ」のほくろの位置が左右逆だということを周囲の人々に気づかせることで、それをきっかけに形勢が逆転していく。
そうして、絵美は、ついに「かげ」を追い詰め、「かげ」は家の大きな鏡とともに砕け散る。
こうして、少女に平和な日常が戻った。しかしすると、今、あたらしく入れ替えた鏡に映る自分のこの姿は何なのか、と絵美は考えてしまうのだった。
これに似た漫画作品に大友克洋作『鏡』がある。鏡の中から「もう一人の男」が見ている視点からの映像で、この話は始まり、そこで殺人事件が起こるのだが、最後にはこの「鏡の中の男」が手を伸ばし、鏡の前の男にとって代わろうとする。
これは大友克洋の初期の作品で、初出は1976年『漫画アクション増刊』、そして単行本『BOOGIE WOOGIE WALTZ』に収録されている。
<第47譜 20番目の大物、3七飛>
≪最終一番勝負 第47譜 指始図≫ 9七玉まで
この図を一手戻した図、「6七と図」を、我々は目下、研究調査中である。
6七と図
〔松〕3三歩成 → 先手良し
〔竹〕5二角成 → 先手良し
〔梅〕2五香 → 互角
〔栗〕8九香 → 先手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 先手良し
〔柏〕2六飛 → 先手良し
〔橘〕3三香 → 先手良し
〔桃〕2六香 → 先手良し
〔楓〕2五飛 → 先手良し
〔柊〕3七桂 → 先手良し
〔栃〕8一飛 → 後手良し
〔柳〕7八歩 → 先手良し
〔椎〕1五歩 → 後手良し
〔檜〕3八香 → 後手良し
〔梨〕6五歩 → 後手良し
〔椿〕6八歩 → 後手良し
〔桐〕9八玉 → 先手良し
〔桜〕9七玉 = 実戦の進行(先手良しの見込み)
「先手の勝ち筋」は12通りになっている(内容未発表の〔桜〕9七玉を含む)
結論を「互角」としている〔梅〕2五香を 0.5 とすれば、「先手の勝ち筋」は 12.5通り になる。
20番目の調査対象の手は、〔桑〕3七飛 である。 この手が残されていた。
[調査研究:〔桑〕3七飛]
3七飛基本図
〔桑〕3七飛 に、考えられる後手の手は、次の7通り。
[日]7五桂 、[月]6六銀、[火]7六歩、[水]4六銀、[木]4四銀引、[金]4四銀上、[土]3一銀
[日]7五桂については、最後に解説する。
そして、[月]6六銀と、[火]7六歩は、3三香で先手良しになる。 [火]7六歩でそれをまず確認しておこう(次の図)
研究3七飛図01
後手[火]7六歩に、3三香(図)。 以下、7七歩成、9七玉となる。
そこで後手3一銀は、この場合は、3二香成、同銀、同角成、同玉、3三銀以下、後手玉が詰んでしまう。3七飛の効果である。
だから、3三桂、同歩成、同銀と進む。
そこで、先手5二角成がある(次の図)
研究3七飛図02
以下、7五桂、7九桂、6二銀右、3四歩、4二銀左、4一馬(次の図)
研究3七飛図03
この4一馬(図)は、3三金、同歩、同歩成、同銀、3一馬以下の、“詰めろ”。
なので、後手は4四銀引とその詰めろを受ける。 しかし、8四馬がまた“詰めろ”。
以下、3五香(図)
研究3七飛図04
3五同飛、同銀、7五馬(次の図)
研究3七飛図05
後手玉は、2一金、同玉、3三桂以下の“詰めろ”になっている。
先手玉は飛車だけでは詰まず、この図は、先手勝勢である。
研究3七飛図06
それでは、[水]4六銀(図)にはどうするか。
3六飛では7五桂以下形勢不明。
[水]4六銀に対しても、すぐに3三香と打ちこむのが、明快。 以下、同桂、同歩成、同銀に、3四桂の手がある(次の図)
研究3七飛図07
3四桂(図)という手があった。3四同銀、同飛となって、手順に飛車を逃げることができる。
しかしそこで、3三香がある。 それには、1一銀が、“用意の一手”である(次の図)
研究3七飛図08
1一同玉に、3二角成で、先手勝ちになる。
研究3七飛図09
したがって、3四同飛に、後手は3一香(図)と受けることになる。
これには、3三歩、同歩、2四銀が、ピッタリの寄せだ(次の図)
研究3七飛図10
後手は"受けなし"で、先手勝ち。
3七飛基本図(再掲)
ここまでの研究成果をまとめておくと、[火]7六歩は、3三香で先手良しになる。 [月]6六銀も同じ。
そして、[水]4六銀も、やはり3三香で先手が勝てるとわかった。
あとは、[木]4四銀引、[金]4四銀上、[土]3一銀、[日]7五桂 が残っている。
研究3七飛図11
〔桑〕3七飛 に、後手[木]4四銀引(図)。
先手3三香と打ちこむ手が厳しいので、それを受けるこの銀引きは当然考えられるところ。
それでも3三香と打ちこんでいくのもあるが、それは、3一銀と応じられ、以下8四馬に4二金で難しい勝負になる。
また、6七飛と と金を取るのは、7五桂(王手飛車取り)があっていけない。
ここは、9七玉が正着になる(次の図)
研究3七飛図12
後手としては、「駒が入ると先手玉が詰む」という状態にしておきたい。そのためには、7七とと指したいところだが、この場合は、同飛と取られてしまう。
そしてこのままでも6七飛とと金を消されてしまうので、後手は7五桂と打つことになる。
「7五桂を打たせる」のが、実は、先手の9七玉のねらいだった。
7五桂に、3三香をここで実行する。3三同桂、同歩成、同銀引、3四歩、4四銀左、3三桂となると、先手良し。
なので後手は3一銀と受けるが、先手は8四馬(次の図)
研究3七飛図13
この8四馬を同銀(同歩)なら、3二香成以下後手玉詰み。
しかし、ここで4二金がしぶとい勝負手になる。以下、3二香成、同銀、同角成、同金(次の図)
研究3七飛図14
ここで7五馬(図) (代えて7三馬と銀を取るのは先手不利)
先に、後手に「7五桂と打たせた」意味が、ここでわかる。 この7五馬が指したいために、「7五桂と打たせた」というわけ。
とはいえ、まだ勝負は決していない。
後手はここで4二銀引としたいが、それは6七飛と、と金を消されて先手が良い。
だから後手は7八とで、先手玉に7九角以下の詰めろをかける。
そこで次の手が、勝ちを引き寄せる好手になる(次の図)
研究3七飛図15
7九金(図)と打つのが、返し技。 “犠打”である。 同とと取らせて、後手の攻めを遅らせる。
以下、5一竜。 そこで7八とは、3三金、1一玉、6六馬(詰めろ逃れの詰めろ)で、先手良し。
だから3一香と受けるが、それでも、3三金(次の図)
研究3七飛図16
先手の盤上の三枚の大駒が働いて、後手玉はこれで攻略できる。
3三同桂、同歩成、同銀に、3四歩と打つ。 同銀なら2六桂、4二銀なら6六馬、4四歩、3三銀で寄せることができる。
[木]4四銀引は、9七玉に7五桂と打たせてから3三香で、先手良し(9七玉に7五桂と打つ以外の有効手はないようだ)
研究3七飛図17
後手[金]4四銀上(図)。
この手にも、やはり9七玉とする。 以下7五桂に、どうするか。
そこで3三香と行くのは、今度はうまくいかない。5三の地点が“空いた”ことによって、後手玉の逃げる場所が広くなり、寄せにくくなっているためだ。
では、どうするか(次の図)
研究3七飛図18
ここは5三歩(図)と攻めるのが良い。 5三同金 に、そこで、3三香だ(次の図)
研究3七飛図19
「5三金、同金」を利かすことで、4二銀が動くと5一竜とできるようになっている。
3一銀は、3二香成以下、後手玉詰み。
よって、後手は3三同桂、同歩成、同銀引と応じる。 そこで3四歩(次の図)
研究3七飛図20
3四同銀(代えて4四銀上は3三桂)、同飛、3三香に、2四桂(次の図)
研究3七飛図21
2四同歩、同飛、3一玉(2三歩は2一金以下詰み)、3二角成、同玉、2一銀、4一玉、6一竜(次の図)
研究3七飛図22
先手勝ち。
研究3七飛図23
5三歩に、4六銀(図)の変化。 対して5二歩成では3七銀不成と飛車を取られて、これは後手が勝つ。
4六銀には、6七飛が正解手。同桂成なら、今度は5二歩成~4二との先手のほうが攻めが早い。
よって、5三金とここで後手は歩を払う。
そこで3三歩成。同銀引に、6六飛。
以下、7六歩、7八歩、3一玉(次の図)
研究3七飛図24
5四歩、4一玉、5三歩成、同銀、6一竜、6二銀左、8八香(次の図)
研究3七飛図25
8八香と受けて、これで(後手7九角打ちの両取りがなくなり)次に4六飛と銀を取れる状況になった。
5五銀に、2六飛。
以下、6七角に、2二金の寄せがある(次の図)
研究3七飛図26
2二金と放りこんで、これを同銀なら、8四馬が5二金以下の“詰めろ”になっていて、先手良し。
4二玉なら、2一金、5三玉、6五桂以下、やはり先手良し。
以上、[金]4四銀上は、5三歩以下先手良しとわかった。
研究3七飛図27
[土]3一銀(図)。 これがこの場合の好手で、難しい形勢になる。
ここで3三香は7五桂、9七玉、4二金で、後手良しになる。
1七桂は、7六歩、7八歩、7五桂、9七玉、7八とで、後手の速度勝ち。 先手はもっと速い攻めが必要だ。
(ア)2六香 が有力手で、最新ソフトも推奨の手なのだが、結果は後手良しになる。まずそのことを解説する。
(ア)2六香 と打って、もし後手が7六歩なら、3三歩成、同桂、3四歩で、先手優勢になる。
しかし(ア)2六香 には、「7五桂、9七玉」を決めてから4六銀とするのが最善の対応となる(単に4六銀は3三金、同歩、同歩成、1一玉に、8四馬で先手良しになる)
「7五桂、9七玉、4六銀」で、次の図。
研究3七飛図28
今度は3三金は同歩で、“藪蛇”となってしまう。
よって、先手は3六飛だが、そこで後手4四銀と受ける手が味わい深い好手である(次の図)
研究3七飛図29
どうもここで良い手がない。 4六飛には、(7七とではなく)7六歩がベストの手である―――(次の図)
研究3七飛図30
後手からの7七歩成以上の先手の速い攻めがなく、この図は、後手良し。
(7六歩ではなく、7七と、9八金の展開なら先手有望なのだが)
(ア)2六香 で勝てないとなると、先手は困った。
研究3七飛図31
ところが、代えて(イ)2五香(図)があった!!!
一見、(ア)2六香 と違いがないように思われるが、実ははっきりした“違い”があるのだ。
(イ)2五香 に7六歩なら、3三歩成、同桂、2三香成、同玉、3四歩で、先手勝勢になる。
よって、後手は「7五桂」を選び、以下9七玉と進む。
そこで4六銀とし、3六飛と進む。これは、先ほどの((ア)2六香の)変化と同じ展開だが―――(次の図)
研究3七飛図32
先の場合と較べて、“違い”は2筋の「香」の位置だけ。これが“大違い”で、「2五香型」なので、今度は4四銀には、2六飛(詰めろ)があり、はっきり「先手良し」になっているというわけだ。
後手は先手の2六飛を許してはいけないが、1一玉と早逃げしても3三歩成、同桂、5二角成で、先手優勢。香車を消しにいく2四歩には、同香、2三歩、同香成、同玉、3三金、2四玉に、8四馬があって、先手勝ち。
だから後手は7七とで“詰めろ”をかけて、9八金と金を使わせ、 4二金と受ける。対して2六飛には、1一玉、2三香不成、2四歩、同飛、2二歩と受けて、これは後手勝勢になっている。
よって、4二金には、先手は6三角成とする。以下、7六桂、4五馬(次の図)
研究3七飛図33
4五馬と活用する手があって、この図は先手良しである。
ここから1一玉、2三香成、4四銀、8九馬が予想されるが、先手が勝勢に近い。以下2二歩には、5一竜でよい。
研究3七飛図34
ということで、(イ)2五香 に、後手が 「4二銀引」(図)と手を代えた変化。
これには9七玉とする。
そこで後手の手は、〈1〉6六銀と〈2〉7五桂が考えられる。
〈1〉6六銀には、2三香成、同玉、3三歩成という攻め筋がある(次の図)
研究3七飛図35
3三同桂 なら、3四歩、2五桂、3六飛、2二玉(放っておくと先手3三金があるのでそれを避けた)、5二角成(次の図)
研究3七飛図36
先手優勢。この瞬間は詰めろではないが、次に5一馬とした手が“詰めろ”になる。
研究3七飛図37
3三同銀(図)には、すぐに5二角成。これを同歩なら、3一竜がある。
後手は9五歩と攻める。香車を持っているので端攻めが有効となる。
以下4三馬、9六歩、9八玉(次の図)
研究3七飛図38
後手玉には、2四金、同玉、3四金以下の、“詰めろ”が掛かっている。
4二桂でそれを受けるが、5一竜、9五香、2四金と進んで―――(次の図)
研究3七飛図39
2四同玉なら、2五金、2三玉、3三飛成以下詰み。2四同銀には、2二金以下、やはり詰みがある。
先手勝ち。
研究3七飛図40
9七玉に、〈2〉7五桂(図)の場合。
ここで先手の指し手が難しい。後手の7六歩~7七歩成が間に合うようではまずい。
先ほどと同じ攻め――2三香成、同玉、3三歩成――は、同銀、5二角成に、この場合は4六銀という手があって、後手良しになる。
5三歩(同金なら8五歩で先手良し)が有力に見えるのだが、7六歩、5二歩成、7七歩成、9八金、6六銀、7八歩、7六歩と進むと―――(次の図)
研究3七飛図41
以下7七歩、同歩成、7八歩、7六歩は、千日手。
5三歩 では、先手勝ちまでたどり着けない。
研究3七飛図42
研究の結果、〈2〉7五桂には、どうやら、7一竜(図)がベストの手のようだ。
7六歩 なら、7三竜、7七歩成に、7五竜(2三香成、同玉、3五桂以下後手玉詰めろ)で先手良し。
6二銀 も、7五竜、同金、1五桂として、先手良し。
7四銀 は、8四馬、同歩、7四竜で、これも先手良し。
6二金は、8五歩、7四金、7五馬、同金、1五桂で、先手良し。
ということで、後手は 7二歩 と指す。 これを同竜なら、6二金、7一竜、7六歩で、これは後手良しになる。
しかし 7二歩 なら、後手7六歩の攻めがなくなったので、5三歩で、先手が勝てる。
以下、5三同金に、8五歩、7四金、7五馬(次の図)
研究3七飛図43
この桂を取るのが急所になる。同金に、1五桂。
以下、7九角、9八玉、2四歩と抵抗するが、2三金、1一玉、3二角成、同銀、同金(次の図)
研究3七飛図44
先手勝ちになった。
研究3七飛図45
最後に、[日]7五桂について述べておく。 [日]7五桂には、9七玉(図)の後、後手に継続手が限られる。 3七飛が打ってあるため7七とは(同飛があるので)指せない。
結局ここで、7六歩や6六銀や4四銀引などを選ぶことになり、これまで見てきた他の変化に合流することになる。これまで示した通り、それらはすべて「先手良し」となる。
3七飛基本図(再掲)
これで、〔桑〕3七飛 に対する後手の7つの候補手[日]7五桂 、[月]6六銀、[火]7六歩、[水]4六銀、[木]4四軍引、[金]4四銀上、[土]3一銀について、“すべて先手良しになる”ことがわかった。
すなわち、〔桑〕3七飛 は先手良し、である。
6七と図
〔松〕3三歩成 → 先手良し
〔竹〕5二角成 → 先手良し
〔梅〕2五香 → 互角
〔栗〕8九香 → 先手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 先手良し
〔柏〕2六飛 → 先手良し
〔橘〕3三香 → 先手良し
〔桃〕2六香 → 先手良し
〔楓〕2五飛 → 先手良し
〔柊〕3七桂 → 先手良し
〔栃〕8一飛 → 後手良し
〔柳〕7八歩 → 先手良し
〔桐〕9八玉 → 先手良し
〔椎〕1五歩 → 後手良し
〔檜〕3八香 → 後手良し
〔梨〕6五歩 → 後手良し
〔椿〕6八歩 → 後手良し
〔桑〕3七飛 → 先手良し
〔桜〕9七玉 = 実戦の進行(先手良しの見込み)
これで20個の候補手を調べ終わり、そしてついに、〔桑〕3七飛 の一手を加え、「先手の勝ち筋」は13.5通りになった(内容未発表の〔桜〕9七玉を含む)
これでこの「6七と図」の調査は終える予定だったが、もう一つ、調べなければいけない手があることに、我々はこの稿を書いている途中で気づいたのであった。
21個目の候補手がある。これも有力な手で、もしかすると「先手勝ち筋」になるかもしれない。
それが何か、ということの答えは、次の譜で明かされることになる。
第49譜につづく
[あなたこそわたしのかげよ!]
鏡の女「あたしよ絵美さん あなたのかげよ」
鏡の女「そうね あなたが絵美という名前ならあたしも絵美よ」
「きャ―――っ」
鏡の女「ほほ…だめよ逃げようとしても」
(ぐらり)
「あっ!」
(ガタン)
鏡の女「ほほほほほ」
鏡の女「あなたは 鏡に写っているわたしが あなたのかげだと信じているのね だけど わたしはあなたのかげではない!」
鏡の女「あなたは 認識をあらためなければいけないわ わたしからみれば あなたのほうが かげよ!」
鏡の女「あなたこそ 鏡に写っているわたしのかげよ! あなたたちは 自分が本体だと思っているけど ちがうのよ」
「うそよ!」
鏡の女「べつに 信じなくていいの おろかな者ほど 常識のわくから はみ出ることを きらうのよ」
鏡の女「でも ごらん」
「あっ」
「きゃっ」
鏡の女「これで わかったでしょう」
「はあ はあ」
鏡の女「あなたは この鏡の前に立ち いつも美しい自分の姿に 見とれていたつもりだけど……」
鏡の女「ほんとうは まだ一度だって 自分の姿を見たことがない! あなたは わたしの姿を見つめて ためいきをついていただけよ!」
鏡の女「美しいのは わたしなの」
鏡の女「そして きょうこそ このかべをこえる……」
「あっ」
「ああっ」
「きゃ――っ」
(ピカッ ガラガラ ダーン)
(『鏡』 楳図かずお作より)
楳図かずお作『鏡』は、初出は1968年少女向け雑誌『ティーンルック』(主婦と生活社)に掲載された連載漫画。どうやら当時のタイトルは『映像(かげ)』だったようで、その後、1996年発行の朝日ソノラマ社『楳図かずお恐怖文庫1 影』には、『鏡』というタイトルになって収められている。
楳図かずおは1936年生まれで、1955年に漫画家デビュー。奈良県の出身で、幼少期から「怖い話」をいろいろと聞いて育った。
楳図かずおの代表作の一つに『へび少女』(1966年『週刊少女フレンド』連載)があるが、奈良県南部には大台ヶ原山(おおだいがはらやま)という(昔においては)秘境のような場所があり、ここには『大蛇嵓の怪女』という伝説がある。「大蛇嵓(だいじゃぐら)」というのは、大台ヶ原山の蛇の頭の形にみえるという大岩で形をなす場所に名付けられた名称で、ここに住むおそらくは大蛇の化身であろう「怪女」は、人間を食べてしまおうとするおそろしい妖怪だという。
さて、この『鏡』の話では、鏡の中の「像(かげ)」が、いつも鏡の中の自分の美しさに見とれてそればかり見てきた少女(絵美)に話しかけ、鏡の中から抜け出て、少女の立場を奪ってしまおうとする話である。「かげ」は先手を打って次々とわなをめぐらし、周囲の人間を味方につけて絵美をほんろうする。少女絵美は孤立するが、やがて「かげ」のほくろの位置が左右逆だということを周囲の人々に気づかせることで、それをきっかけに形勢が逆転していく。
そうして、絵美は、ついに「かげ」を追い詰め、「かげ」は家の大きな鏡とともに砕け散る。
こうして、少女に平和な日常が戻った。しかしすると、今、あたらしく入れ替えた鏡に映る自分のこの姿は何なのか、と絵美は考えてしまうのだった。
これに似た漫画作品に大友克洋作『鏡』がある。鏡の中から「もう一人の男」が見ている視点からの映像で、この話は始まり、そこで殺人事件が起こるのだが、最後にはこの「鏡の中の男」が手を伸ばし、鏡の前の男にとって代わろうとする。
これは大友克洋の初期の作品で、初出は1976年『漫画アクション増刊』、そして単行本『BOOGIE WOOGIE WALTZ』に収録されている。
<第47譜 20番目の大物、3七飛>
≪最終一番勝負 第47譜 指始図≫ 9七玉まで
この図を一手戻した図、「6七と図」を、我々は目下、研究調査中である。
6七と図
〔松〕3三歩成 → 先手良し
〔竹〕5二角成 → 先手良し
〔梅〕2五香 → 互角
〔栗〕8九香 → 先手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 先手良し
〔柏〕2六飛 → 先手良し
〔橘〕3三香 → 先手良し
〔桃〕2六香 → 先手良し
〔楓〕2五飛 → 先手良し
〔柊〕3七桂 → 先手良し
〔栃〕8一飛 → 後手良し
〔柳〕7八歩 → 先手良し
〔椎〕1五歩 → 後手良し
〔檜〕3八香 → 後手良し
〔梨〕6五歩 → 後手良し
〔椿〕6八歩 → 後手良し
〔桐〕9八玉 → 先手良し
〔桜〕9七玉 = 実戦の進行(先手良しの見込み)
「先手の勝ち筋」は12通りになっている(内容未発表の〔桜〕9七玉を含む)
結論を「互角」としている〔梅〕2五香を 0.5 とすれば、「先手の勝ち筋」は 12.5通り になる。
20番目の調査対象の手は、〔桑〕3七飛 である。 この手が残されていた。
[調査研究:〔桑〕3七飛]
3七飛基本図
〔桑〕3七飛 に、考えられる後手の手は、次の7通り。
[日]7五桂 、[月]6六銀、[火]7六歩、[水]4六銀、[木]4四銀引、[金]4四銀上、[土]3一銀
[日]7五桂については、最後に解説する。
そして、[月]6六銀と、[火]7六歩は、3三香で先手良しになる。 [火]7六歩でそれをまず確認しておこう(次の図)
研究3七飛図01
後手[火]7六歩に、3三香(図)。 以下、7七歩成、9七玉となる。
そこで後手3一銀は、この場合は、3二香成、同銀、同角成、同玉、3三銀以下、後手玉が詰んでしまう。3七飛の効果である。
だから、3三桂、同歩成、同銀と進む。
そこで、先手5二角成がある(次の図)
研究3七飛図02
以下、7五桂、7九桂、6二銀右、3四歩、4二銀左、4一馬(次の図)
研究3七飛図03
この4一馬(図)は、3三金、同歩、同歩成、同銀、3一馬以下の、“詰めろ”。
なので、後手は4四銀引とその詰めろを受ける。 しかし、8四馬がまた“詰めろ”。
以下、3五香(図)
研究3七飛図04
3五同飛、同銀、7五馬(次の図)
研究3七飛図05
後手玉は、2一金、同玉、3三桂以下の“詰めろ”になっている。
先手玉は飛車だけでは詰まず、この図は、先手勝勢である。
研究3七飛図06
それでは、[水]4六銀(図)にはどうするか。
3六飛では7五桂以下形勢不明。
[水]4六銀に対しても、すぐに3三香と打ちこむのが、明快。 以下、同桂、同歩成、同銀に、3四桂の手がある(次の図)
研究3七飛図07
3四桂(図)という手があった。3四同銀、同飛となって、手順に飛車を逃げることができる。
しかしそこで、3三香がある。 それには、1一銀が、“用意の一手”である(次の図)
研究3七飛図08
1一同玉に、3二角成で、先手勝ちになる。
研究3七飛図09
したがって、3四同飛に、後手は3一香(図)と受けることになる。
これには、3三歩、同歩、2四銀が、ピッタリの寄せだ(次の図)
研究3七飛図10
後手は"受けなし"で、先手勝ち。
3七飛基本図(再掲)
ここまでの研究成果をまとめておくと、[火]7六歩は、3三香で先手良しになる。 [月]6六銀も同じ。
そして、[水]4六銀も、やはり3三香で先手が勝てるとわかった。
あとは、[木]4四銀引、[金]4四銀上、[土]3一銀、[日]7五桂 が残っている。
研究3七飛図11
〔桑〕3七飛 に、後手[木]4四銀引(図)。
先手3三香と打ちこむ手が厳しいので、それを受けるこの銀引きは当然考えられるところ。
それでも3三香と打ちこんでいくのもあるが、それは、3一銀と応じられ、以下8四馬に4二金で難しい勝負になる。
また、6七飛と と金を取るのは、7五桂(王手飛車取り)があっていけない。
ここは、9七玉が正着になる(次の図)
研究3七飛図12
後手としては、「駒が入ると先手玉が詰む」という状態にしておきたい。そのためには、7七とと指したいところだが、この場合は、同飛と取られてしまう。
そしてこのままでも6七飛とと金を消されてしまうので、後手は7五桂と打つことになる。
「7五桂を打たせる」のが、実は、先手の9七玉のねらいだった。
7五桂に、3三香をここで実行する。3三同桂、同歩成、同銀引、3四歩、4四銀左、3三桂となると、先手良し。
なので後手は3一銀と受けるが、先手は8四馬(次の図)
研究3七飛図13
この8四馬を同銀(同歩)なら、3二香成以下後手玉詰み。
しかし、ここで4二金がしぶとい勝負手になる。以下、3二香成、同銀、同角成、同金(次の図)
研究3七飛図14
ここで7五馬(図) (代えて7三馬と銀を取るのは先手不利)
先に、後手に「7五桂と打たせた」意味が、ここでわかる。 この7五馬が指したいために、「7五桂と打たせた」というわけ。
とはいえ、まだ勝負は決していない。
後手はここで4二銀引としたいが、それは6七飛と、と金を消されて先手が良い。
だから後手は7八とで、先手玉に7九角以下の詰めろをかける。
そこで次の手が、勝ちを引き寄せる好手になる(次の図)
研究3七飛図15
7九金(図)と打つのが、返し技。 “犠打”である。 同とと取らせて、後手の攻めを遅らせる。
以下、5一竜。 そこで7八とは、3三金、1一玉、6六馬(詰めろ逃れの詰めろ)で、先手良し。
だから3一香と受けるが、それでも、3三金(次の図)
研究3七飛図16
先手の盤上の三枚の大駒が働いて、後手玉はこれで攻略できる。
3三同桂、同歩成、同銀に、3四歩と打つ。 同銀なら2六桂、4二銀なら6六馬、4四歩、3三銀で寄せることができる。
[木]4四銀引は、9七玉に7五桂と打たせてから3三香で、先手良し(9七玉に7五桂と打つ以外の有効手はないようだ)
研究3七飛図17
後手[金]4四銀上(図)。
この手にも、やはり9七玉とする。 以下7五桂に、どうするか。
そこで3三香と行くのは、今度はうまくいかない。5三の地点が“空いた”ことによって、後手玉の逃げる場所が広くなり、寄せにくくなっているためだ。
では、どうするか(次の図)
研究3七飛図18
ここは5三歩(図)と攻めるのが良い。 5三同金 に、そこで、3三香だ(次の図)
研究3七飛図19
「5三金、同金」を利かすことで、4二銀が動くと5一竜とできるようになっている。
3一銀は、3二香成以下、後手玉詰み。
よって、後手は3三同桂、同歩成、同銀引と応じる。 そこで3四歩(次の図)
研究3七飛図20
3四同銀(代えて4四銀上は3三桂)、同飛、3三香に、2四桂(次の図)
研究3七飛図21
2四同歩、同飛、3一玉(2三歩は2一金以下詰み)、3二角成、同玉、2一銀、4一玉、6一竜(次の図)
研究3七飛図22
先手勝ち。
研究3七飛図23
5三歩に、4六銀(図)の変化。 対して5二歩成では3七銀不成と飛車を取られて、これは後手が勝つ。
4六銀には、6七飛が正解手。同桂成なら、今度は5二歩成~4二との先手のほうが攻めが早い。
よって、5三金とここで後手は歩を払う。
そこで3三歩成。同銀引に、6六飛。
以下、7六歩、7八歩、3一玉(次の図)
研究3七飛図24
5四歩、4一玉、5三歩成、同銀、6一竜、6二銀左、8八香(次の図)
研究3七飛図25
8八香と受けて、これで(後手7九角打ちの両取りがなくなり)次に4六飛と銀を取れる状況になった。
5五銀に、2六飛。
以下、6七角に、2二金の寄せがある(次の図)
研究3七飛図26
2二金と放りこんで、これを同銀なら、8四馬が5二金以下の“詰めろ”になっていて、先手良し。
4二玉なら、2一金、5三玉、6五桂以下、やはり先手良し。
以上、[金]4四銀上は、5三歩以下先手良しとわかった。
研究3七飛図27
[土]3一銀(図)。 これがこの場合の好手で、難しい形勢になる。
ここで3三香は7五桂、9七玉、4二金で、後手良しになる。
1七桂は、7六歩、7八歩、7五桂、9七玉、7八とで、後手の速度勝ち。 先手はもっと速い攻めが必要だ。
(ア)2六香 が有力手で、最新ソフトも推奨の手なのだが、結果は後手良しになる。まずそのことを解説する。
(ア)2六香 と打って、もし後手が7六歩なら、3三歩成、同桂、3四歩で、先手優勢になる。
しかし(ア)2六香 には、「7五桂、9七玉」を決めてから4六銀とするのが最善の対応となる(単に4六銀は3三金、同歩、同歩成、1一玉に、8四馬で先手良しになる)
「7五桂、9七玉、4六銀」で、次の図。
研究3七飛図28
今度は3三金は同歩で、“藪蛇”となってしまう。
よって、先手は3六飛だが、そこで後手4四銀と受ける手が味わい深い好手である(次の図)
研究3七飛図29
どうもここで良い手がない。 4六飛には、(7七とではなく)7六歩がベストの手である―――(次の図)
研究3七飛図30
後手からの7七歩成以上の先手の速い攻めがなく、この図は、後手良し。
(7六歩ではなく、7七と、9八金の展開なら先手有望なのだが)
(ア)2六香 で勝てないとなると、先手は困った。
研究3七飛図31
ところが、代えて(イ)2五香(図)があった!!!
一見、(ア)2六香 と違いがないように思われるが、実ははっきりした“違い”があるのだ。
(イ)2五香 に7六歩なら、3三歩成、同桂、2三香成、同玉、3四歩で、先手勝勢になる。
よって、後手は「7五桂」を選び、以下9七玉と進む。
そこで4六銀とし、3六飛と進む。これは、先ほどの((ア)2六香の)変化と同じ展開だが―――(次の図)
研究3七飛図32
先の場合と較べて、“違い”は2筋の「香」の位置だけ。これが“大違い”で、「2五香型」なので、今度は4四銀には、2六飛(詰めろ)があり、はっきり「先手良し」になっているというわけだ。
後手は先手の2六飛を許してはいけないが、1一玉と早逃げしても3三歩成、同桂、5二角成で、先手優勢。香車を消しにいく2四歩には、同香、2三歩、同香成、同玉、3三金、2四玉に、8四馬があって、先手勝ち。
だから後手は7七とで“詰めろ”をかけて、9八金と金を使わせ、 4二金と受ける。対して2六飛には、1一玉、2三香不成、2四歩、同飛、2二歩と受けて、これは後手勝勢になっている。
よって、4二金には、先手は6三角成とする。以下、7六桂、4五馬(次の図)
研究3七飛図33
4五馬と活用する手があって、この図は先手良しである。
ここから1一玉、2三香成、4四銀、8九馬が予想されるが、先手が勝勢に近い。以下2二歩には、5一竜でよい。
研究3七飛図34
ということで、(イ)2五香 に、後手が 「4二銀引」(図)と手を代えた変化。
これには9七玉とする。
そこで後手の手は、〈1〉6六銀と〈2〉7五桂が考えられる。
〈1〉6六銀には、2三香成、同玉、3三歩成という攻め筋がある(次の図)
研究3七飛図35
3三同桂 なら、3四歩、2五桂、3六飛、2二玉(放っておくと先手3三金があるのでそれを避けた)、5二角成(次の図)
研究3七飛図36
先手優勢。この瞬間は詰めろではないが、次に5一馬とした手が“詰めろ”になる。
研究3七飛図37
3三同銀(図)には、すぐに5二角成。これを同歩なら、3一竜がある。
後手は9五歩と攻める。香車を持っているので端攻めが有効となる。
以下4三馬、9六歩、9八玉(次の図)
研究3七飛図38
後手玉には、2四金、同玉、3四金以下の、“詰めろ”が掛かっている。
4二桂でそれを受けるが、5一竜、9五香、2四金と進んで―――(次の図)
研究3七飛図39
2四同玉なら、2五金、2三玉、3三飛成以下詰み。2四同銀には、2二金以下、やはり詰みがある。
先手勝ち。
研究3七飛図40
9七玉に、〈2〉7五桂(図)の場合。
ここで先手の指し手が難しい。後手の7六歩~7七歩成が間に合うようではまずい。
先ほどと同じ攻め――2三香成、同玉、3三歩成――は、同銀、5二角成に、この場合は4六銀という手があって、後手良しになる。
5三歩(同金なら8五歩で先手良し)が有力に見えるのだが、7六歩、5二歩成、7七歩成、9八金、6六銀、7八歩、7六歩と進むと―――(次の図)
研究3七飛図41
以下7七歩、同歩成、7八歩、7六歩は、千日手。
5三歩 では、先手勝ちまでたどり着けない。
研究3七飛図42
研究の結果、〈2〉7五桂には、どうやら、7一竜(図)がベストの手のようだ。
7六歩 なら、7三竜、7七歩成に、7五竜(2三香成、同玉、3五桂以下後手玉詰めろ)で先手良し。
6二銀 も、7五竜、同金、1五桂として、先手良し。
7四銀 は、8四馬、同歩、7四竜で、これも先手良し。
6二金は、8五歩、7四金、7五馬、同金、1五桂で、先手良し。
ということで、後手は 7二歩 と指す。 これを同竜なら、6二金、7一竜、7六歩で、これは後手良しになる。
しかし 7二歩 なら、後手7六歩の攻めがなくなったので、5三歩で、先手が勝てる。
以下、5三同金に、8五歩、7四金、7五馬(次の図)
研究3七飛図43
この桂を取るのが急所になる。同金に、1五桂。
以下、7九角、9八玉、2四歩と抵抗するが、2三金、1一玉、3二角成、同銀、同金(次の図)
研究3七飛図44
先手勝ちになった。
研究3七飛図45
最後に、[日]7五桂について述べておく。 [日]7五桂には、9七玉(図)の後、後手に継続手が限られる。 3七飛が打ってあるため7七とは(同飛があるので)指せない。
結局ここで、7六歩や6六銀や4四銀引などを選ぶことになり、これまで見てきた他の変化に合流することになる。これまで示した通り、それらはすべて「先手良し」となる。
3七飛基本図(再掲)
これで、〔桑〕3七飛 に対する後手の7つの候補手[日]7五桂 、[月]6六銀、[火]7六歩、[水]4六銀、[木]4四軍引、[金]4四銀上、[土]3一銀について、“すべて先手良しになる”ことがわかった。
すなわち、〔桑〕3七飛 は先手良し、である。
6七と図
〔松〕3三歩成 → 先手良し
〔竹〕5二角成 → 先手良し
〔梅〕2五香 → 互角
〔栗〕8九香 → 先手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 先手良し
〔柏〕2六飛 → 先手良し
〔橘〕3三香 → 先手良し
〔桃〕2六香 → 先手良し
〔楓〕2五飛 → 先手良し
〔柊〕3七桂 → 先手良し
〔栃〕8一飛 → 後手良し
〔柳〕7八歩 → 先手良し
〔桐〕9八玉 → 先手良し
〔椎〕1五歩 → 後手良し
〔檜〕3八香 → 後手良し
〔梨〕6五歩 → 後手良し
〔椿〕6八歩 → 後手良し
〔桑〕3七飛 → 先手良し
〔桜〕9七玉 = 実戦の進行(先手良しの見込み)
これで20個の候補手を調べ終わり、そしてついに、〔桑〕3七飛 の一手を加え、「先手の勝ち筋」は13.5通りになった(内容未発表の〔桜〕9七玉を含む)
これでこの「6七と図」の調査は終える予定だったが、もう一つ、調べなければいけない手があることに、我々はこの稿を書いている途中で気づいたのであった。
21個目の候補手がある。これも有力な手で、もしかすると「先手勝ち筋」になるかもしれない。
それが何か、ということの答えは、次の譜で明かされることになる。
第49譜につづく