≪最終一番勝負 第46譜 指始図≫ 9七玉まで
[伝説上の怪物]
このとき、ユニコーンが両手をポケットにつっこんだまま、ぶらぶらこっちにやってきてね。
「いまのはおれが優勢だったろ?」通りすぎがてら、王さまにちらと目をくれていうんだ。
「ちょっと――ほんのちょっとな」といささか不安そうな王さまのこたえだ、「きみ、角でつきさすのはまずいぞ」
「怪我(けが)させやしませんぜ」ユニコーンはそういいすてて通りすぎながら、ふとアリスに目をとめたんだね。とたんにまわれ右すると、ユニコーンはしばらくつったったまま、よっぽど汚(けが)らわしいものでも見るようにアリスをまじまじと見つめるんだ。そして、しまいに、
「なんだ――え――こいつは?」
「子供じゃないか」ウサキチはまってましたとばかり、アリスを紹介しようと正面に立ちはだかって、れいのアングロ・サクソン流儀で両手をアリスの方にさしだしながら、「今日みつけたばかりなんだ。等身大で、二倍も実物そっくり!」
「子供なんて伝説上の怪物かと思いこんでたが」とユニコーン、「生きてるのか?」
「口がきけます」とウサキチ。
ユニコーンは夢でもみてるみたいな目つきでアリスをみつめて、それから「何かいってごらん」
アリスは話すよりさきに口もとがほころびてきちゃってね。「どうでしょう、あたしだってユニコーンさんのこと、伝説上の怪物とばかり思いこんでたの。生きてるユニコーンに会ったなんて、はじめて!」
「なるほど、おたがいにいまこそ相見(あいまみ)えたってわけだ」とユニコーン。「あんたがおれを信じるんなら、おれもあんたを信じる。ということで、どうかな?」
「ええ、けっこうですけど」
(『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル著 矢川澄子訳 新潮文庫 より)
「7マス目」の森で、アリスが「白の王さま」と話していると、ユニコーンが近づいてきた。
「このとき、ユニコーンが両手をポケットにつっこんだまま、ぶらぶらこっちにやってきてね。」とあるが、いったいどういう歩き方なのだろう? 想像を絶する描写である。
ユニコーンはいままでライオンと決闘をしていたが、「白の王さま」が「おやつのために十分間の休憩!」と宣言したので、決闘を中断しておやつをいただきにやってきたのだ。
アリスに目が止まり、“What―is―this?” と、ユニコーン。
“This is a child!” と、そこにいたウサキチ(三月ウサギ)が答える。
ユニコーンは、“I always thought they were fabuious monsters!”
「子供(child)」なんて、「伝説上の怪物(fabuious monsters)」だと思っていたというのだ。つまり、「実在しない架空の生きものだと思っていたのだ。その生きものが、目の前にいる。
人間の私たちからすれば、「ユニコーン(unicorn)」こそ、「伝説上の怪物(fabuious monsters)」なのだが、この「鏡の国」ではそれが逆になるのである。
ユニコーンに続いて、こんどはライオンがやってきて、やっぱりアリスを見て驚いてこう言った。
“What is this!”
ユニコーンとライオンは、王さまの王冠をどちらが取るかで決闘していたのであった。
しかしいまは休憩タイムなのでとりあえず「おやつ」の時間だ。王さまが用意した「おやつ」はプラムケーキである。
アリスが、そのケーキを切り分ける役目になった。
<第46譜 さらに、調べ尽くす>
≪最終一番勝負 第47譜 指始図≫ 9七玉まで
この図を一手戻した図、「6七と図」を、研究調査してきた。
そして、「調べ尽くす」と決めたこの調査も、やっと終わりに近づいてきた。
6七と図
〔松〕3三歩成 → 先手良し
〔竹〕5二角成 → 先手良し
〔梅〕2五香 → 互角
〔栗〕8九香 → 先手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 先手良し
〔柏〕2六飛 → 先手良し
〔橘〕3三香 → 先手良し
〔桃〕2六香 → 先手良し
〔楓〕2五飛 → 先手良し
〔柊〕3七桂 → 先手良し
〔栃〕8一飛 → 後手良し
〔柳〕7八歩 → 先手良し
〔椎〕1五歩 → 後手良し
〔檜〕3八香 → 後手良し
〔桐〕9八玉 → 先手良し
〔桜〕9七玉 = 実戦の進行(先手良しの見込み)
今回は、〔梨〕6五歩 、〔椿〕6八歩 についての研究調査の内容と結果を報告する。
[調査研究:〔梨〕6五歩]
6五歩基本図
〔梨〕6五歩(図)は、ちょっと打ってみたくなる歩だが‥‥。
結果を先に言うと、これは、「後手良し」になる。
ここからの後手の指し方は、基本的には2通りある。
<あ>7五桂 と打って、9七玉に、7七ととすぐに“詰めろ”掛けて先手に持駒を使わせる指し方が一つ。これは“スピード重視の指し方”になる。
もう一つの指し方は、<い>7六歩 と歩を打って、「と金」を二枚つくって“攻めを厚くする”指し方である。
実はどちらを採用しても、この場合は「後手良し」の結果となった。
しかし、(後手が)「勝ちやすい」のは、<い>7六歩 のほうである。
少しだけ、<あ>7五桂 に触れておく。
<あ>7五桂、9七玉、7七と、9八金、7六桂、8九香、3七桂と進んで、次の図である。
研究6五歩図01
後手は手順に6四の桂を逃げて攻めに活用できて、調子が良さそうだ。しかし案外、ここからがむずかしい。
この図、最新ソフトの評価値は-500くらいで、後手が良いという。
しかし調べたところ、ここからのほとんどの変化が先手良しになった。
唯一、ここで(1)9五歩だけが、後手良しとなった。これもギリギリの変化で、つまり、この図の後手の「勝ち筋」はたいへんに細いということだ。
残りの手について軽く触れておくと、(2)7八とは、5二角成、8九と、3三歩成、同銀、5一馬で、先手良し。
(3)7八歩は、4五桂、7九歩成、3三歩成、同桂、8四馬、同銀、3三桂成、同銀、5二角成で、先手良し。
(4)6八桂成は、3三歩成、同銀、5二角成で、先手良し。
(5)6七銀不成には、7九歩がある。そこからの後手の勝ち筋が発見できなかった。
このように、後手良しではあるものの、「勝ち筋が細い」。
だから、後手の立場から見れば、もっと勝ちやすい順があれば、そちらを選びたいところ。
研究6五歩図02
ということで、<い>7六歩(図)である。
この場合は、このコースを選んだほうが、後手勝ちやすい。「と金を二枚つくる」のは、7五桂~7七とに較べると一手遅くなるが、分厚い攻めになるので、これが間に合ってくると、先手の受けが困難になるのだ。
<い>7六歩、6四歩、7七歩成、9七玉、7五桂。
さて、後手の7五桂に、どう受けるか。8九香は7八と左があるし、7九桂には7八歩がある。
よって、9八金と受ける。
後手は6六銀(次の図)
研究6五歩図03
先手としては、6三歩成の手が有効手になると理想的な展開となる。
後手は6六銀(図)と銀を出てきた(代えて7六歩もあるところ)
もう先手には有効な受けはない。しかし6六銀は、"8七と以下の詰めろ"になっているので、8九香と受け、手をかせぐ。
後手は7八と左だが、この瞬間に3三桂と攻める。6四で得た桂をここに使う。
これを取ってくれれば手になるが、後手は取らない。8九と。まだ詰めろではない。
それならと、5二角成(次の図)
研究6五歩図04(5二角成図)
〔ア〕9九と が先手玉への“詰めろ”だが‥‥
2一桂成、同玉、5一竜と攻めて―――(次の図)
研究6五歩図05
5一同銀 に、3三桂、同歩、4三馬(次の図)
研究6五歩図06
3二香合に、2二飛、同玉、3三歩成、同香、2一金までの“詰み”。 先手が勝ちになった。
途中まで戻って、5一竜に、3一香 と受けるのはどうなるか。
それにも鮮やかな攻め手順があって、3三桂、同歩、3二金がそれである(次の図)
研究6五歩図07
3二金(図)で、後手玉は詰んでいる。3二同玉、4二馬、同銀、2二飛、同玉、4二竜以下。
これはたいへん先手にとって、気持ちの良い勝ち方であった。先手が5二角成と指したとき、後手玉はつまり、“詰めろ”の状態になっていたというわけだ。
しかし、これは後手が“ポカ(失着)”を指したからである。 〔M〕9九とと攻めたのが“敗着”になったのだ。
研究6五歩図04(再掲 5二角成図)
「5二角成図」に戻って、ここで後手の正着手は、〔N〕3三歩である(次の図)
研究6五歩図08
ここでは後手は「桂馬を入手する」というのが大事なことなのである。桂馬があれば、8七と、同金、同桂成、同玉に、もう一度7五桂と打てるという意味だ。
〔N〕3三歩、4一馬(詰めろ)、8七と、同金、同桂成、同玉、7五桂、7六玉、6七銀不成(次の図)
研究6五歩図09
以下、先手玉は“詰み”。
後手〔N〕3三歩 は、"詰めろ逃れの詰めろ"なのだった。
研究6五歩図10
〔N〕3三歩 に対し、5三馬(図)ならどうなるか。
5三にいた銀を取ったので、今と同じ8七と以下の先手玉への詰み筋はこの瞬間、消えている。
5三同銀には、5二飛が用意の一手―――(次の図)
研究6五歩図12
3二香合なら、3一銀、同玉、5一飛成で、詰む。
3二角なら詰まないが、8四馬がある。同歩に、3一銀、同玉、5一竜、4一合、4二金以下、後手玉が“詰み”、これも先手勝ちとなる。
しかし、まだ、4二角の受けが残されている(次の図)
研究6五歩図13
5一竜なら、8七と以下、先ほどの筋で、先手玉が詰まされてしまう。
だから、8四馬、同歩、3一銀で詰ましにいくが―――、3一同玉、5一飛成、同角、同竜、4一香(次の図)
研究6五歩図14
詰みはない。 後手勝ち。
6五歩基本図(再掲)
〔梨〕6五歩 は、7六歩以下、後手良し
[調査研究:〔椿〕6八歩]
〔椿〕6八歩は、先手にとってさえない手という感じがするが、進めてみると、案外そうでもない。
6八歩基本図
〔椿〕6八歩(図)には、7五桂 が本筋だが、それ以外の手となると、6六と が考えられる。
研究6八歩図01
〔椿〕6八歩 に、6六と なら、2五飛(図)と打って、先手がはっきり優勢になる。次に2六香と打つのが狙いだが、先手「金香」と持っているため受けが難しい。
6二金として3一玉の角取りをねらうのは、3三香、同桂、同歩成、同銀、5一竜で先手良し。
なので後手は7六と、9八玉、6六銀が考えられる攻め(7六とに代えて7六歩には7八歩と受ける。以下7七歩、同歩、7六歩、同歩、同ととなると結局単に7六との場合と同じ図になる)
しかしこの攻めには、2六香と打って先手優勢になる。以下1一桂に―――(次の図)
研究6八歩図02
2三飛成(図)で良い。同桂に、2四金だ。
飛車を渡しても先手玉に詰みがなく、そして後手玉に受けがないので、先手勝勢となる。
なお、2六香に2四桂と受ける手には、同飛、同歩、1五桂で、これも先手勝ち。
研究6八歩図03
本筋の 7五桂(図)
以下9七玉、7七ととなって、こうなると先手の打った「6八歩」は一手パスのような手になっている(〔椿〕6八歩は先手にとってさえない手と評したのはこれが理由だ)
ということで、おそらくこうなっては先手勝てないだろうというのが正常な感覚だ。
ところが、案外、そうでもないのである。進めてみよう。
7七とに、9八金と受ける(次の図)
研究6八歩図04(9八金図)
“一手パスのような手”を先手が指したにもかかわらず、ここから後手の攻めも簡単ではなく、この図はほぼ互角の形勢である。
最新ソフトの評価値は、-172(「dolphin1/illqha4」)である。つまり最新ソフトでもはっきりした決め手はわからないと言っている。
どうしてそうなるのか。
〔椿〕6八歩 の手は、受けにはそれほど役立ってはいないのだが、“後手に「7五桂~7七と」の攻めを限定させた”という意味があって、まったくの一手パスではないのである。
(たとえば〔椎〕1五歩に対しては、「7五桂~7七と」では難しい勝負となり、「7六歩」の攻めで後手良しになるという例が参考になる→第45譜)
さて、ここからの後手の候補手は、次の通り。
【A】6六銀、【B】7六歩、【C】7六桂、【D】9五歩、【E】4四銀引、【F】3一銀、【G】7一歩、【H】6一歩、【I】1四歩の、8つ。
どれも「互角」に近い闘いになる。この中で、後手が「攻める」手は、【A】~【D】だが、このうち【B】7六歩、【C】7六桂、【D】9五歩の3つは、「先手良し」になることを先に述べ、ここでは以下、【A】6六銀 を見ていく。
研究6八歩図05(6六銀図)
【A】6六銀(図)と銀を出たところ。6八に打った歩が一応後手の次の6七銀不成のような手を消している。
後手の次の狙いとしては、“7六と~7七銀成”、“7六桂”、“7六歩”、“9五歩”などがある。さらに速い攻めとして、“8七と以下清算して7六金と打つ”ような順もある。
先手の有力手は、第一は[あ]2六飛である。
研究6八歩図06
【A】6六銀に、[あ]2六飛(図)
このまま次に2五香と打たれると後手がいっぺんに負けになるので、後手は6二金の一手になる(次の図)
研究6八歩図07(6二金図)
さあ、ここで先手が何を指すか。次に後手3一玉(角取り)があるのでそれに対抗できる手を指す必要がある。
本命は(1)3三香であるが、まず(2)6六飛から調べていこう。
(2)6六飛と銀を取って勝てればよいが‥‥後手は予定の3一玉。
以下8五角成、同金、同歩、8七角(次の図)
研究6八歩図08
後手勝ち。
研究6八歩図09
「6二金図」に戻って、(3)3三歩成(図)の変化。
3三同桂に、3四歩と打つ。
しかしここでも、3一玉がある。以下3三歩成、4一玉、7九桂、7八角(次の図)
研究6八歩図10
後手勝ち(次の後手9五歩の攻めが受からない)
研究6八歩図11
(4)5二歩(図)の変化。
以下、6一歩、5一歩成、同銀で、後手陣の形を乱し、そこで3三香でどうか(次の図)
研究6八歩図12
3三同桂、同歩成、同玉、3六飛、3四香、6六飛、4二玉(次の図)
研究6八歩図13
これも後手が角を入手できるので、後手良し。
研究6八歩図14
ということで、先手の期待は、(1)3三香(図)である。
3三香と打ちこんだこの瞬間、「dolphin1/illqha4」の評価値はわずかに先手に振れている(+218)
3一銀では5一竜があるので、この3三香は取ることになるが、取り方は「3三同桂、同歩成、同玉」、「3三同桂、同歩成、同銀」、「3三銀、同歩成、同玉」、「3三銀、同歩成、同桂」の4通りになる。
このうち、「3三同桂、同歩成、同銀」が本筋となる(他の変化は先手良し)
研究6八歩図15(3三同銀図)
ここで 6六飛 と銀を取るのは―――(次の図)
研究6八歩図16
6一歩(図)で先手が勝てない(あと一歩があれば2五桂、4四銀右、3四歩、同銀、3三歩、同銀、2一銀のような攻めがあるのだが)
研究6八歩図17
ということで、5一竜(図)と指すことになる。
そこで7六香が、後手の最善手となる(次の図)
研究6八歩図18
7六香(図)が、後手の好手である(この手がなければ「先手良し」で決まりになるところだった)
しかし7六香と打ったこの図は、「dolphin1/illqha4」評価値はわずかながらプラス(先手寄り+130)になっている。実際はどうだろうか。
この香打ちで、先手玉には、8七と以下の“詰めろ”が掛かっている。ただしこの“詰めろ”を掛けるだけなら7六歩でよい。それを7六香と打つ意味はなんだろう?(それは後でわかる)
ここで先手の有力手は、6六飛 と 7九桂の2つ。
研究6八歩図19
6六飛 で、先手玉の詰めろを解除した。銀を取りながらの詰めろ解除なので効率が良い。
そこで後手4二銀右(図)。 7一竜に、6一歩と打って、後手玉を安全にする意味である。
しかし4二銀右には、3四桂という手がある。同銀に、4二竜で、後手陣は崩壊だ。ところがその瞬間、8七と、同金、同桂成、同玉、7五桂以下、先手玉が先に詰まされてしまうのだ! これが先ほど後手が7六香と歩ではなく「香」を設置した意味である。歩だったらこの詰みはないので、4二銀右に3四桂で先手が勝ちになるところだった。
だからこの場合、3四桂は利かず、7一竜、6一歩と進むことになる。
手番は先手だが、どうするか。 3四歩と打ちたい(同銀なら3三歩、同銀、8五歩のように指す)ところなのだが、3四歩には、手抜きで3一玉、3三歩成、4一玉と進むと、これは後手優勢。
ここはどうやら7九桂(8七を強化しておく)が最善手のようだが、しかし、3一玉、8五歩、4一玉、8四歩、同銀と進んでーーー(次の図)
研究6八歩図20
後手良しの形勢。 6四飛には5三角(間接的な王手飛車)がある。
6六飛の変化は、後手良しとなった。7六香と打って、6六飛 に4二銀右と受けるのが絶妙な手順であった。
研究6八歩図21
7六香に、7九桂(図)
これはどういう狙いだろうか。もちろん先手玉の詰めろを受けるのが第一の意味だが、それ以外に、飛車を2六に置いたまま2筋の攻め味を残そうとする意味もある。
これには後手は7八歩と打ちたくなるが、それは8四馬で、先手のねらいにハマる。金を持てば、3二角成以下、後手玉に“詰めろ”がかかる。
だから7九桂には、後手は4二銀右と受けてその狙いを消す(代えて4二銀左は3六飛で先手勝ち)
その手には、5九竜と金を取る。以下、5八歩、同竜、5七歩。
以下4九竜には、3一玉が後手の狙いで、これは後手良しになる。
だから5七歩の瞬間に、8四馬で勝負だ(次の図)
研究6八歩図22
2筋に飛車を置いている効果で、「金二枚」の持駒をもって、ここで2一金以下、後手玉が“詰めろ”になっている。
したがって、後手は3一玉とする。
以下8五馬、7四歩、4九竜、4一玉、6六飛、8九角(次の図)
研究6八歩図23
後手は「角」を取り、先手は「金金銀」と取ったのだが。それでもこうなってみると、先手の受けが難しい。8八金打と受けるしかないが、同と、同金、7八金と絡んで、後手の攻めが切れない。
後手良しの形勢である。
7九桂でも、後手良しの結果となった。
[あ]2六飛では、先手勝ち筋が出てこない。
研究6八歩図05(再掲 6六銀図)
そうなると、先手は、【A】6六銀(図)に、[あ]2六飛以外の手を探さなければいけない。
[い]2六香、[う]7八歩、[え]8九香 が考えられる。
研究6八歩図24
まず、[い]2六香(図)を考えてみよう。
このまま後手が何もしないと2五飛で先手勝ちが決まる。やはりここでも後手は6二金の一手。
そこで3三歩成でどうか、同桂に、3四歩、3一玉、1一飛(次の図)
研究6八歩図25
2六に香を打って「飛車を手に持っている」ことを生かし、3一玉に、1一飛(図)で勝負する。
これには2二玉しかないが、その瞬間に8四馬とする。以下1一玉、7五馬、同銀、3三歩成、8七飛、同金、同と、同玉、6九角(次の図)
研究6八歩図26
先手玉が詰まされてしまった。7八合に、7六銀以下。
[い]2六香も、先手勝てないとわかった。
研究6八歩図27
【A】6六銀 に、[う]7八歩(図)ならどうか。
これに対し、応手は4通りある。相手がどう応じるかを見て、攻め方を決めようというのが7八歩の意味である。
7八同と なら、2六飛と打って6二金に、3三香と攻めて、先手良し。
7六となら、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛で、これも先手良しになる。
残る後手の応手は、7六歩 と 8七と である。
この2つの応手について、以下、見ていく。
研究6八歩図28
7六歩 には、2六飛(図)と打つ。以下、6二金に、3三香、同桂、同歩成、同銀。
これは上で解説した形で「7八歩、7六歩」と歩を打ち合っただけだが、7六歩と打たせているために、後手7六香の手がないのだ。しかしだからといって、5一竜では、4二銀右で先手悪い。この形でも3四桂、同銀、4二竜では、8七と以下先手玉が詰むからだ。またここで6六飛は、やはり6一歩で先手がわるい。
しかし、この場合は、ここで1五桂と打つ手がある(次の図)
研究6八歩図29
後手は 3四銀 と受ける。そこで先手5一竜。ここで先手は「一歩」を得た。
後手からは9五歩の攻めが厳しい。しかし、3五歩と打って、9六歩、同角成、9五香に、8四馬で後手玉に“詰めろ”がかかり、先手勝ち。
よって後手は、9五歩ではなく、1四歩で桂を消しにかかる。
その手には、7七歩(次の図)
研究6八歩図30
7七歩で、「歩」を補充する。同歩成に、3五歩と打って、先手良し。
以下、7六香が先手玉への“詰めろ”になっているが、6六飛として、1五歩、8四馬で―――(次の図)
研究6八歩図31
後手玉に、3二角成、同玉、2一銀、2二玉、3一竜以下の“詰めろ”が掛かった。先手勝ち。
研究6八歩図32
今の手順を途中まで戻って、先手の1五桂に、2四香(図)と打つほうが後手にとって良いようである。
以下、6六飛、6一歩、2三桂成(後手の3一玉を防いだ意味がある)、同玉、4六飛、4四銀、8五歩、7四金が予想されるが、形勢不明である。
つまり、7六歩 以下は「形勢不明(互角)」が結論となる。
研究6八歩図33
[う]7八歩 に、8七と(図)の変化。この応手が最も手強い。
以下、同金、同桂成、同玉に、「7七歩、同歩、7五金」が後手の好手順となる(次の図)
研究6八歩図34
次に後手からの7六歩が厳しい。かといって受けも難しい。7九香には8四銀とし、8三馬には8五銀があって後手の攻めが止まらない。
6七歩と受けて、以下8四銀、6六歩、9三銀、そこで3三香と攻めてどうか。
しかし、3一金としっかり受ける手がまた後手の受けの好手となる(次の図)
研究6八歩図35
3二香成、同金、3三桂、3一歩、2一桂成、同玉、3三桂、同銀、同歩成、同金、3五飛、8四香(次の図)
研究6八歩図36
頑張って攻めてみたが、8四香と“詰めろ”を掛けられて、この図は、後手優勢である。
7五飛に、6三桂、7二飛成、7五桂打がぴったりの攻めになっている。この攻めはほどけない。
これで、[う]7八歩 には 8七とと応じられて「後手良し」、と結論が出た。
研究6八歩図37
【A】6六銀に、[え]8九香(図)と受ける手はどうか。
手を渡されて、ここは後手の指し手も広く、何を指すか難しいところ。
ここは7六とで見ていくことにする。この手は、次に7七銀成(または不成)という手がねらいだ。
先手の攻め筋としては、チャンスをとらえて5二角成を決行することだが、ここでのそれはまずい。
なので先手は7八歩といったん受ける。
そこで6二金が落ち着いた手(次の図)
研究6八歩図38
6二金(図)で、先手の5二角成の攻め筋がなくなり、次に3一玉からの角取りが生じている。
だから先手は何か攻める必要がある。けれど先手は7八と6八に歩を使っているために「歩切れ」になっている。
3三歩成、同桂として、8五歩が唯一の攻め筋かと思われる。
以下、3一玉、8四歩、4一玉、9四馬、8四歩(次の図)
研究6八歩図39
この図は、後手良し。 次に後手からの7七歩の“合わせの歩”が厳しい攻めになる。
1一飛、5二玉、1二飛成、7七歩、7九金、5六角のような手順が予想されるが、後手はっきり優勢である。
研究6八歩図04(9八金図)
以上、この「9八金図」から、【A】6六銀の手について調べてきたが、後手良しとなった。
そして、それ以外の後手の手について調べた結果は次のようなものである。
【A】6六銀 → 後手良し
【B】7六歩 → 先手良し
【C】7六桂 → 先手良し
【D】9五歩 → 先手良し
【E】4四銀引 → 先手良し
【F】3一銀 → 先手良し
【G】7一歩 → 先手良し
【H】6一歩 → 後手良し
【I】1四歩 → 先手良し
これらの手は、どの手もきわどい勝負になる。 そしてほとんどの手は、先手良しになる順が発見された(これらの手についての解説は省く)
つまりこの図は、“先手も結構やれる図”なのである。
しかし、【A】6六銀 と 【H】6一歩 が、「後手良し」となったので、この図の結論は「後手良し」 で決まりである。
仮に【A】6六銀 がさらに(研究上の)新手が見つかって先手良しに覆ったとしても、【G】6一歩 もあるので、この結論は揺るがないだろう。
以下、【H】6一歩 についての調査内容を記しておく。
研究6八歩図40(6一歩図)
【H】6一歩(図)に、〔や〕6一同竜、〔ゆ〕3三歩成、〔よ〕7八歩 を解説していく。
まず、〔や〕6一同竜 と取るとどうなるか。
それには6二金とするのが、後手の6一歩の意味である。以下、3三歩成、同桂、7一竜に、3一玉(次の図)
研究6八歩図41
ここで1一飛は、2二玉、8四馬、8七桂成、同金、同と、同玉、1一玉、3二角成、8九飛、8八香、2一金で後手良しとなる。
なので、先手は5二歩と攻める。 6一歩なら、5一歩成、同銀、1一飛、4二玉(2二玉には6二竜)、7四歩で、今度は先手良しになる。
したがって後手は4一玉が必然の一手。以下、5一歩成、同銀、1一飛、5二玉、5一飛成、6三玉、6五銀、7四角(次の図)
研究6八歩図42
8四馬、同歩、7四銀、同玉、9二角、6三玉、6五角成、7九角、8八香、8七桂成(次の図)
研究6八歩図43
ずっとお互いに「この手しかない」という必然の手の応酬になっている。この先もしばらくそういう手順が続く。
8七同金、同と、同馬、7六銀、7八馬、8七金、同馬、同銀成、同玉、6五角、7八玉、6九金、同玉、8八角成(次の図)
研究6八歩図44
8八角成(図)となったこの図は、後手やや良し(最新ソフト評価値は-355)
ただし、ここからは変化が多く、実戦的には互角に近い。
以下の予想手順は、7四歩、同角、7五金、2九角成、6五桂があるが、これは同馬、同金、8七馬があるので、後手が良い。
〔や〕6一同竜 は決定的ではないが、一応、後手良しとする。
研究6八歩図45
〔ゆ〕3三歩成(図)の場合。
これを同桂と取るのは、5二角成、同歩、6一竜で先手が良くなる(以下2五桂に3四金が好手となる)
よって、後手は3三同銀と取るが、そこで6一竜としてどうか。これなら、銀の5一への利きがなくなったので、6二金の手はないというわけである。
手番を得た後手は9五歩。先手の竜が9一から6一へ移動したので、9筋を攻めるのは理にかなっている。
9五同歩に、9六歩、同玉、9四歩(次の図)
研究6八歩図46
9七玉、9五歩。そこで先手に手番が来た。ここで鋭い攻め筋があればというところ。
というか、先手が攻めなければ、後手6二銀右から4二金ではっきり後手優勢となる。
先手3四歩。
4二銀なら7八歩、同と、2六香、6二金、3三歩成、同桂、7一竜で、それは形勢不明。
後手は3四同銀と応じて、攻めなければいけない先手は、3三歩、同玉、7八歩、同と、3八香と工夫して攻めてみる。
しかし、4二玉が後手の好手(次の図)
研究6八歩図47
4二玉(図)と、先手の攻め手に乗って、後手は角の入手を計る。
以下、5二角成、同歩、2一竜。後手玉には、4一金、3三玉、3二竜以下の“詰めろ”が掛かっている。
後手は7九角、8八桂、5四銀と応じる(次の図)
研究6八歩図48
5四銀(図)で、5三への脱出口を開けて、こう進んでみると、後手勝勢。
次に8八とで先手玉は"受けなし"になる(先手7一馬には6二歩と受ける)
〔ゆ〕3三歩成の変化は、後手良し。
研究6八歩図49
【H】6一歩 に、〔よ〕7八歩(図)と打つのはどうか。
これには後手いくつかの応手があって手が分かれるが、ここでは7六とを選ぶ。
そこで2六香は、6二金、2三香成、同玉、2五飛、2四歩、5五飛、2二玉と進むと、後手良し。
なので、先手は3三歩成、同銀、6一竜と進め、9五歩(同歩は同金で後手良し)に、そこで5二角成と勝負する。
5二同歩に、3一飛(次の図)
研究6八歩図50
「7八歩、7六と」の手交換が入っているので、角を渡してもここで後手7九角打ちがやや甘いということで、この5二角成以下の攻めに希望を見出そうという手順である(そこで9六歩なら、8八玉とする。9六同玉は8七角でとん死)
ここで4二銀左なら、2一飛成、3三玉、4五金で先手勝ちになる(7九角には、8八桂合)
1四歩も、2一飛成、1三玉、2六香で先手が勝てる。
しかし、7九角、8八香と香を使わせてから4二銀左が後手最善の手順で、2一飛成、3三玉と進み―――
そこで 4五金 は、今度は香がないので詰めろにならず、先手勝てない。
では 3五金 は? これがダメな理由は後の手順を追えばわかる。
先手は、3七桂 とはねる。これは、3四歩、同玉、3二竜以下の詰めろになっている。
以下、9六歩、同玉、9五歩、9七玉。そこで8六と、同玉、6八角成が後手の好手順になる(次の図)
研究6八歩図51
この8六と~6八角成の順があるので、先手は 3五金 とは打てないのだった。そしてこの手順は3七桂 に対しても有効というわけなのだ。
図以下、9七玉(または7七歩)に、7八馬がある。この手が受けにも利いて、"詰めろ逃れの詰めろ"で、後手勝勢になっている。
つまり、【H】6一歩は 後手良し、である。
6八歩基本図(再掲)
結論はこうである。
〔椿〕6八歩 は、7五桂以下後手良し
6七と図
〔松〕3三歩成 → 先手良し
〔竹〕5二角成 → 先手良し
〔梅〕2五香 → 互角
〔栗〕8九香 → 先手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 先手良し
〔柏〕2六飛 → 先手良し
〔橘〕3三香 → 先手良し
〔桃〕2六香 → 先手良し
〔楓〕2五飛 → 先手良し
〔柊〕3七桂 → 先手良し
〔栃〕8一飛 → 後手良し
〔柳〕7八歩 → 先手良し
〔椎〕1五歩 → 後手良し
〔檜〕3八香 → 後手良し
〔桐〕9八玉 → 先手良し
〔桜〕9七玉 = 実戦の進行(先手良しの見込み)
〔梨〕6五歩 → 後手良し
〔椿〕6八歩 → 後手良し
これで調査した「手」の数は、19になる。
次の20コ目で、最後としたい。その20コ目の手は何だろうか。予想してみてほしい。
第47譜につづく
[伝説上の怪物]
このとき、ユニコーンが両手をポケットにつっこんだまま、ぶらぶらこっちにやってきてね。
「いまのはおれが優勢だったろ?」通りすぎがてら、王さまにちらと目をくれていうんだ。
「ちょっと――ほんのちょっとな」といささか不安そうな王さまのこたえだ、「きみ、角でつきさすのはまずいぞ」
「怪我(けが)させやしませんぜ」ユニコーンはそういいすてて通りすぎながら、ふとアリスに目をとめたんだね。とたんにまわれ右すると、ユニコーンはしばらくつったったまま、よっぽど汚(けが)らわしいものでも見るようにアリスをまじまじと見つめるんだ。そして、しまいに、
「なんだ――え――こいつは?」
「子供じゃないか」ウサキチはまってましたとばかり、アリスを紹介しようと正面に立ちはだかって、れいのアングロ・サクソン流儀で両手をアリスの方にさしだしながら、「今日みつけたばかりなんだ。等身大で、二倍も実物そっくり!」
「子供なんて伝説上の怪物かと思いこんでたが」とユニコーン、「生きてるのか?」
「口がきけます」とウサキチ。
ユニコーンは夢でもみてるみたいな目つきでアリスをみつめて、それから「何かいってごらん」
アリスは話すよりさきに口もとがほころびてきちゃってね。「どうでしょう、あたしだってユニコーンさんのこと、伝説上の怪物とばかり思いこんでたの。生きてるユニコーンに会ったなんて、はじめて!」
「なるほど、おたがいにいまこそ相見(あいまみ)えたってわけだ」とユニコーン。「あんたがおれを信じるんなら、おれもあんたを信じる。ということで、どうかな?」
「ええ、けっこうですけど」
(『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル著 矢川澄子訳 新潮文庫 より)
「7マス目」の森で、アリスが「白の王さま」と話していると、ユニコーンが近づいてきた。
「このとき、ユニコーンが両手をポケットにつっこんだまま、ぶらぶらこっちにやってきてね。」とあるが、いったいどういう歩き方なのだろう? 想像を絶する描写である。
ユニコーンはいままでライオンと決闘をしていたが、「白の王さま」が「おやつのために十分間の休憩!」と宣言したので、決闘を中断しておやつをいただきにやってきたのだ。
アリスに目が止まり、“What―is―this?” と、ユニコーン。
“This is a child!” と、そこにいたウサキチ(三月ウサギ)が答える。
ユニコーンは、“I always thought they were fabuious monsters!”
「子供(child)」なんて、「伝説上の怪物(fabuious monsters)」だと思っていたというのだ。つまり、「実在しない架空の生きものだと思っていたのだ。その生きものが、目の前にいる。
人間の私たちからすれば、「ユニコーン(unicorn)」こそ、「伝説上の怪物(fabuious monsters)」なのだが、この「鏡の国」ではそれが逆になるのである。
ユニコーンに続いて、こんどはライオンがやってきて、やっぱりアリスを見て驚いてこう言った。
“What is this!”
ユニコーンとライオンは、王さまの王冠をどちらが取るかで決闘していたのであった。
しかしいまは休憩タイムなのでとりあえず「おやつ」の時間だ。王さまが用意した「おやつ」はプラムケーキである。
アリスが、そのケーキを切り分ける役目になった。
<第46譜 さらに、調べ尽くす>
≪最終一番勝負 第47譜 指始図≫ 9七玉まで
この図を一手戻した図、「6七と図」を、研究調査してきた。
そして、「調べ尽くす」と決めたこの調査も、やっと終わりに近づいてきた。
6七と図
〔松〕3三歩成 → 先手良し
〔竹〕5二角成 → 先手良し
〔梅〕2五香 → 互角
〔栗〕8九香 → 先手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 先手良し
〔柏〕2六飛 → 先手良し
〔橘〕3三香 → 先手良し
〔桃〕2六香 → 先手良し
〔楓〕2五飛 → 先手良し
〔柊〕3七桂 → 先手良し
〔栃〕8一飛 → 後手良し
〔柳〕7八歩 → 先手良し
〔椎〕1五歩 → 後手良し
〔檜〕3八香 → 後手良し
〔桐〕9八玉 → 先手良し
〔桜〕9七玉 = 実戦の進行(先手良しの見込み)
今回は、〔梨〕6五歩 、〔椿〕6八歩 についての研究調査の内容と結果を報告する。
[調査研究:〔梨〕6五歩]
6五歩基本図
〔梨〕6五歩(図)は、ちょっと打ってみたくなる歩だが‥‥。
結果を先に言うと、これは、「後手良し」になる。
ここからの後手の指し方は、基本的には2通りある。
<あ>7五桂 と打って、9七玉に、7七ととすぐに“詰めろ”掛けて先手に持駒を使わせる指し方が一つ。これは“スピード重視の指し方”になる。
もう一つの指し方は、<い>7六歩 と歩を打って、「と金」を二枚つくって“攻めを厚くする”指し方である。
実はどちらを採用しても、この場合は「後手良し」の結果となった。
しかし、(後手が)「勝ちやすい」のは、<い>7六歩 のほうである。
少しだけ、<あ>7五桂 に触れておく。
<あ>7五桂、9七玉、7七と、9八金、7六桂、8九香、3七桂と進んで、次の図である。
研究6五歩図01
後手は手順に6四の桂を逃げて攻めに活用できて、調子が良さそうだ。しかし案外、ここからがむずかしい。
この図、最新ソフトの評価値は-500くらいで、後手が良いという。
しかし調べたところ、ここからのほとんどの変化が先手良しになった。
唯一、ここで(1)9五歩だけが、後手良しとなった。これもギリギリの変化で、つまり、この図の後手の「勝ち筋」はたいへんに細いということだ。
残りの手について軽く触れておくと、(2)7八とは、5二角成、8九と、3三歩成、同銀、5一馬で、先手良し。
(3)7八歩は、4五桂、7九歩成、3三歩成、同桂、8四馬、同銀、3三桂成、同銀、5二角成で、先手良し。
(4)6八桂成は、3三歩成、同銀、5二角成で、先手良し。
(5)6七銀不成には、7九歩がある。そこからの後手の勝ち筋が発見できなかった。
このように、後手良しではあるものの、「勝ち筋が細い」。
だから、後手の立場から見れば、もっと勝ちやすい順があれば、そちらを選びたいところ。
研究6五歩図02
ということで、<い>7六歩(図)である。
この場合は、このコースを選んだほうが、後手勝ちやすい。「と金を二枚つくる」のは、7五桂~7七とに較べると一手遅くなるが、分厚い攻めになるので、これが間に合ってくると、先手の受けが困難になるのだ。
<い>7六歩、6四歩、7七歩成、9七玉、7五桂。
さて、後手の7五桂に、どう受けるか。8九香は7八と左があるし、7九桂には7八歩がある。
よって、9八金と受ける。
後手は6六銀(次の図)
研究6五歩図03
先手としては、6三歩成の手が有効手になると理想的な展開となる。
後手は6六銀(図)と銀を出てきた(代えて7六歩もあるところ)
もう先手には有効な受けはない。しかし6六銀は、"8七と以下の詰めろ"になっているので、8九香と受け、手をかせぐ。
後手は7八と左だが、この瞬間に3三桂と攻める。6四で得た桂をここに使う。
これを取ってくれれば手になるが、後手は取らない。8九と。まだ詰めろではない。
それならと、5二角成(次の図)
研究6五歩図04(5二角成図)
〔ア〕9九と が先手玉への“詰めろ”だが‥‥
2一桂成、同玉、5一竜と攻めて―――(次の図)
研究6五歩図05
5一同銀 に、3三桂、同歩、4三馬(次の図)
研究6五歩図06
3二香合に、2二飛、同玉、3三歩成、同香、2一金までの“詰み”。 先手が勝ちになった。
途中まで戻って、5一竜に、3一香 と受けるのはどうなるか。
それにも鮮やかな攻め手順があって、3三桂、同歩、3二金がそれである(次の図)
研究6五歩図07
3二金(図)で、後手玉は詰んでいる。3二同玉、4二馬、同銀、2二飛、同玉、4二竜以下。
これはたいへん先手にとって、気持ちの良い勝ち方であった。先手が5二角成と指したとき、後手玉はつまり、“詰めろ”の状態になっていたというわけだ。
しかし、これは後手が“ポカ(失着)”を指したからである。 〔M〕9九とと攻めたのが“敗着”になったのだ。
研究6五歩図04(再掲 5二角成図)
「5二角成図」に戻って、ここで後手の正着手は、〔N〕3三歩である(次の図)
研究6五歩図08
ここでは後手は「桂馬を入手する」というのが大事なことなのである。桂馬があれば、8七と、同金、同桂成、同玉に、もう一度7五桂と打てるという意味だ。
〔N〕3三歩、4一馬(詰めろ)、8七と、同金、同桂成、同玉、7五桂、7六玉、6七銀不成(次の図)
研究6五歩図09
以下、先手玉は“詰み”。
後手〔N〕3三歩 は、"詰めろ逃れの詰めろ"なのだった。
研究6五歩図10
〔N〕3三歩 に対し、5三馬(図)ならどうなるか。
5三にいた銀を取ったので、今と同じ8七と以下の先手玉への詰み筋はこの瞬間、消えている。
5三同銀には、5二飛が用意の一手―――(次の図)
研究6五歩図12
3二香合なら、3一銀、同玉、5一飛成で、詰む。
3二角なら詰まないが、8四馬がある。同歩に、3一銀、同玉、5一竜、4一合、4二金以下、後手玉が“詰み”、これも先手勝ちとなる。
しかし、まだ、4二角の受けが残されている(次の図)
研究6五歩図13
5一竜なら、8七と以下、先ほどの筋で、先手玉が詰まされてしまう。
だから、8四馬、同歩、3一銀で詰ましにいくが―――、3一同玉、5一飛成、同角、同竜、4一香(次の図)
研究6五歩図14
詰みはない。 後手勝ち。
6五歩基本図(再掲)
〔梨〕6五歩 は、7六歩以下、後手良し
[調査研究:〔椿〕6八歩]
〔椿〕6八歩は、先手にとってさえない手という感じがするが、進めてみると、案外そうでもない。
6八歩基本図
〔椿〕6八歩(図)には、7五桂 が本筋だが、それ以外の手となると、6六と が考えられる。
研究6八歩図01
〔椿〕6八歩 に、6六と なら、2五飛(図)と打って、先手がはっきり優勢になる。次に2六香と打つのが狙いだが、先手「金香」と持っているため受けが難しい。
6二金として3一玉の角取りをねらうのは、3三香、同桂、同歩成、同銀、5一竜で先手良し。
なので後手は7六と、9八玉、6六銀が考えられる攻め(7六とに代えて7六歩には7八歩と受ける。以下7七歩、同歩、7六歩、同歩、同ととなると結局単に7六との場合と同じ図になる)
しかしこの攻めには、2六香と打って先手優勢になる。以下1一桂に―――(次の図)
研究6八歩図02
2三飛成(図)で良い。同桂に、2四金だ。
飛車を渡しても先手玉に詰みがなく、そして後手玉に受けがないので、先手勝勢となる。
なお、2六香に2四桂と受ける手には、同飛、同歩、1五桂で、これも先手勝ち。
研究6八歩図03
本筋の 7五桂(図)
以下9七玉、7七ととなって、こうなると先手の打った「6八歩」は一手パスのような手になっている(〔椿〕6八歩は先手にとってさえない手と評したのはこれが理由だ)
ということで、おそらくこうなっては先手勝てないだろうというのが正常な感覚だ。
ところが、案外、そうでもないのである。進めてみよう。
7七とに、9八金と受ける(次の図)
研究6八歩図04(9八金図)
“一手パスのような手”を先手が指したにもかかわらず、ここから後手の攻めも簡単ではなく、この図はほぼ互角の形勢である。
最新ソフトの評価値は、-172(「dolphin1/illqha4」)である。つまり最新ソフトでもはっきりした決め手はわからないと言っている。
どうしてそうなるのか。
〔椿〕6八歩 の手は、受けにはそれほど役立ってはいないのだが、“後手に「7五桂~7七と」の攻めを限定させた”という意味があって、まったくの一手パスではないのである。
(たとえば〔椎〕1五歩に対しては、「7五桂~7七と」では難しい勝負となり、「7六歩」の攻めで後手良しになるという例が参考になる→第45譜)
さて、ここからの後手の候補手は、次の通り。
【A】6六銀、【B】7六歩、【C】7六桂、【D】9五歩、【E】4四銀引、【F】3一銀、【G】7一歩、【H】6一歩、【I】1四歩の、8つ。
どれも「互角」に近い闘いになる。この中で、後手が「攻める」手は、【A】~【D】だが、このうち【B】7六歩、【C】7六桂、【D】9五歩の3つは、「先手良し」になることを先に述べ、ここでは以下、【A】6六銀 を見ていく。
研究6八歩図05(6六銀図)
【A】6六銀(図)と銀を出たところ。6八に打った歩が一応後手の次の6七銀不成のような手を消している。
後手の次の狙いとしては、“7六と~7七銀成”、“7六桂”、“7六歩”、“9五歩”などがある。さらに速い攻めとして、“8七と以下清算して7六金と打つ”ような順もある。
先手の有力手は、第一は[あ]2六飛である。
研究6八歩図06
【A】6六銀に、[あ]2六飛(図)
このまま次に2五香と打たれると後手がいっぺんに負けになるので、後手は6二金の一手になる(次の図)
研究6八歩図07(6二金図)
さあ、ここで先手が何を指すか。次に後手3一玉(角取り)があるのでそれに対抗できる手を指す必要がある。
本命は(1)3三香であるが、まず(2)6六飛から調べていこう。
(2)6六飛と銀を取って勝てればよいが‥‥後手は予定の3一玉。
以下8五角成、同金、同歩、8七角(次の図)
研究6八歩図08
後手勝ち。
研究6八歩図09
「6二金図」に戻って、(3)3三歩成(図)の変化。
3三同桂に、3四歩と打つ。
しかしここでも、3一玉がある。以下3三歩成、4一玉、7九桂、7八角(次の図)
研究6八歩図10
後手勝ち(次の後手9五歩の攻めが受からない)
研究6八歩図11
(4)5二歩(図)の変化。
以下、6一歩、5一歩成、同銀で、後手陣の形を乱し、そこで3三香でどうか(次の図)
研究6八歩図12
3三同桂、同歩成、同玉、3六飛、3四香、6六飛、4二玉(次の図)
研究6八歩図13
これも後手が角を入手できるので、後手良し。
研究6八歩図14
ということで、先手の期待は、(1)3三香(図)である。
3三香と打ちこんだこの瞬間、「dolphin1/illqha4」の評価値はわずかに先手に振れている(+218)
3一銀では5一竜があるので、この3三香は取ることになるが、取り方は「3三同桂、同歩成、同玉」、「3三同桂、同歩成、同銀」、「3三銀、同歩成、同玉」、「3三銀、同歩成、同桂」の4通りになる。
このうち、「3三同桂、同歩成、同銀」が本筋となる(他の変化は先手良し)
研究6八歩図15(3三同銀図)
ここで 6六飛 と銀を取るのは―――(次の図)
研究6八歩図16
6一歩(図)で先手が勝てない(あと一歩があれば2五桂、4四銀右、3四歩、同銀、3三歩、同銀、2一銀のような攻めがあるのだが)
研究6八歩図17
ということで、5一竜(図)と指すことになる。
そこで7六香が、後手の最善手となる(次の図)
研究6八歩図18
7六香(図)が、後手の好手である(この手がなければ「先手良し」で決まりになるところだった)
しかし7六香と打ったこの図は、「dolphin1/illqha4」評価値はわずかながらプラス(先手寄り+130)になっている。実際はどうだろうか。
この香打ちで、先手玉には、8七と以下の“詰めろ”が掛かっている。ただしこの“詰めろ”を掛けるだけなら7六歩でよい。それを7六香と打つ意味はなんだろう?(それは後でわかる)
ここで先手の有力手は、6六飛 と 7九桂の2つ。
研究6八歩図19
6六飛 で、先手玉の詰めろを解除した。銀を取りながらの詰めろ解除なので効率が良い。
そこで後手4二銀右(図)。 7一竜に、6一歩と打って、後手玉を安全にする意味である。
しかし4二銀右には、3四桂という手がある。同銀に、4二竜で、後手陣は崩壊だ。ところがその瞬間、8七と、同金、同桂成、同玉、7五桂以下、先手玉が先に詰まされてしまうのだ! これが先ほど後手が7六香と歩ではなく「香」を設置した意味である。歩だったらこの詰みはないので、4二銀右に3四桂で先手が勝ちになるところだった。
だからこの場合、3四桂は利かず、7一竜、6一歩と進むことになる。
手番は先手だが、どうするか。 3四歩と打ちたい(同銀なら3三歩、同銀、8五歩のように指す)ところなのだが、3四歩には、手抜きで3一玉、3三歩成、4一玉と進むと、これは後手優勢。
ここはどうやら7九桂(8七を強化しておく)が最善手のようだが、しかし、3一玉、8五歩、4一玉、8四歩、同銀と進んでーーー(次の図)
研究6八歩図20
後手良しの形勢。 6四飛には5三角(間接的な王手飛車)がある。
6六飛の変化は、後手良しとなった。7六香と打って、6六飛 に4二銀右と受けるのが絶妙な手順であった。
研究6八歩図21
7六香に、7九桂(図)
これはどういう狙いだろうか。もちろん先手玉の詰めろを受けるのが第一の意味だが、それ以外に、飛車を2六に置いたまま2筋の攻め味を残そうとする意味もある。
これには後手は7八歩と打ちたくなるが、それは8四馬で、先手のねらいにハマる。金を持てば、3二角成以下、後手玉に“詰めろ”がかかる。
だから7九桂には、後手は4二銀右と受けてその狙いを消す(代えて4二銀左は3六飛で先手勝ち)
その手には、5九竜と金を取る。以下、5八歩、同竜、5七歩。
以下4九竜には、3一玉が後手の狙いで、これは後手良しになる。
だから5七歩の瞬間に、8四馬で勝負だ(次の図)
研究6八歩図22
2筋に飛車を置いている効果で、「金二枚」の持駒をもって、ここで2一金以下、後手玉が“詰めろ”になっている。
したがって、後手は3一玉とする。
以下8五馬、7四歩、4九竜、4一玉、6六飛、8九角(次の図)
研究6八歩図23
後手は「角」を取り、先手は「金金銀」と取ったのだが。それでもこうなってみると、先手の受けが難しい。8八金打と受けるしかないが、同と、同金、7八金と絡んで、後手の攻めが切れない。
後手良しの形勢である。
7九桂でも、後手良しの結果となった。
[あ]2六飛では、先手勝ち筋が出てこない。
研究6八歩図05(再掲 6六銀図)
そうなると、先手は、【A】6六銀(図)に、[あ]2六飛以外の手を探さなければいけない。
[い]2六香、[う]7八歩、[え]8九香 が考えられる。
研究6八歩図24
まず、[い]2六香(図)を考えてみよう。
このまま後手が何もしないと2五飛で先手勝ちが決まる。やはりここでも後手は6二金の一手。
そこで3三歩成でどうか、同桂に、3四歩、3一玉、1一飛(次の図)
研究6八歩図25
2六に香を打って「飛車を手に持っている」ことを生かし、3一玉に、1一飛(図)で勝負する。
これには2二玉しかないが、その瞬間に8四馬とする。以下1一玉、7五馬、同銀、3三歩成、8七飛、同金、同と、同玉、6九角(次の図)
研究6八歩図26
先手玉が詰まされてしまった。7八合に、7六銀以下。
[い]2六香も、先手勝てないとわかった。
研究6八歩図27
【A】6六銀 に、[う]7八歩(図)ならどうか。
これに対し、応手は4通りある。相手がどう応じるかを見て、攻め方を決めようというのが7八歩の意味である。
7八同と なら、2六飛と打って6二金に、3三香と攻めて、先手良し。
7六となら、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛で、これも先手良しになる。
残る後手の応手は、7六歩 と 8七と である。
この2つの応手について、以下、見ていく。
研究6八歩図28
7六歩 には、2六飛(図)と打つ。以下、6二金に、3三香、同桂、同歩成、同銀。
これは上で解説した形で「7八歩、7六歩」と歩を打ち合っただけだが、7六歩と打たせているために、後手7六香の手がないのだ。しかしだからといって、5一竜では、4二銀右で先手悪い。この形でも3四桂、同銀、4二竜では、8七と以下先手玉が詰むからだ。またここで6六飛は、やはり6一歩で先手がわるい。
しかし、この場合は、ここで1五桂と打つ手がある(次の図)
研究6八歩図29
後手は 3四銀 と受ける。そこで先手5一竜。ここで先手は「一歩」を得た。
後手からは9五歩の攻めが厳しい。しかし、3五歩と打って、9六歩、同角成、9五香に、8四馬で後手玉に“詰めろ”がかかり、先手勝ち。
よって後手は、9五歩ではなく、1四歩で桂を消しにかかる。
その手には、7七歩(次の図)
研究6八歩図30
7七歩で、「歩」を補充する。同歩成に、3五歩と打って、先手良し。
以下、7六香が先手玉への“詰めろ”になっているが、6六飛として、1五歩、8四馬で―――(次の図)
研究6八歩図31
後手玉に、3二角成、同玉、2一銀、2二玉、3一竜以下の“詰めろ”が掛かった。先手勝ち。
研究6八歩図32
今の手順を途中まで戻って、先手の1五桂に、2四香(図)と打つほうが後手にとって良いようである。
以下、6六飛、6一歩、2三桂成(後手の3一玉を防いだ意味がある)、同玉、4六飛、4四銀、8五歩、7四金が予想されるが、形勢不明である。
つまり、7六歩 以下は「形勢不明(互角)」が結論となる。
研究6八歩図33
[う]7八歩 に、8七と(図)の変化。この応手が最も手強い。
以下、同金、同桂成、同玉に、「7七歩、同歩、7五金」が後手の好手順となる(次の図)
研究6八歩図34
次に後手からの7六歩が厳しい。かといって受けも難しい。7九香には8四銀とし、8三馬には8五銀があって後手の攻めが止まらない。
6七歩と受けて、以下8四銀、6六歩、9三銀、そこで3三香と攻めてどうか。
しかし、3一金としっかり受ける手がまた後手の受けの好手となる(次の図)
研究6八歩図35
3二香成、同金、3三桂、3一歩、2一桂成、同玉、3三桂、同銀、同歩成、同金、3五飛、8四香(次の図)
研究6八歩図36
頑張って攻めてみたが、8四香と“詰めろ”を掛けられて、この図は、後手優勢である。
7五飛に、6三桂、7二飛成、7五桂打がぴったりの攻めになっている。この攻めはほどけない。
これで、[う]7八歩 には 8七とと応じられて「後手良し」、と結論が出た。
研究6八歩図37
【A】6六銀に、[え]8九香(図)と受ける手はどうか。
手を渡されて、ここは後手の指し手も広く、何を指すか難しいところ。
ここは7六とで見ていくことにする。この手は、次に7七銀成(または不成)という手がねらいだ。
先手の攻め筋としては、チャンスをとらえて5二角成を決行することだが、ここでのそれはまずい。
なので先手は7八歩といったん受ける。
そこで6二金が落ち着いた手(次の図)
研究6八歩図38
6二金(図)で、先手の5二角成の攻め筋がなくなり、次に3一玉からの角取りが生じている。
だから先手は何か攻める必要がある。けれど先手は7八と6八に歩を使っているために「歩切れ」になっている。
3三歩成、同桂として、8五歩が唯一の攻め筋かと思われる。
以下、3一玉、8四歩、4一玉、9四馬、8四歩(次の図)
研究6八歩図39
この図は、後手良し。 次に後手からの7七歩の“合わせの歩”が厳しい攻めになる。
1一飛、5二玉、1二飛成、7七歩、7九金、5六角のような手順が予想されるが、後手はっきり優勢である。
研究6八歩図04(9八金図)
以上、この「9八金図」から、【A】6六銀の手について調べてきたが、後手良しとなった。
そして、それ以外の後手の手について調べた結果は次のようなものである。
【A】6六銀 → 後手良し
【B】7六歩 → 先手良し
【C】7六桂 → 先手良し
【D】9五歩 → 先手良し
【E】4四銀引 → 先手良し
【F】3一銀 → 先手良し
【G】7一歩 → 先手良し
【H】6一歩 → 後手良し
【I】1四歩 → 先手良し
これらの手は、どの手もきわどい勝負になる。 そしてほとんどの手は、先手良しになる順が発見された(これらの手についての解説は省く)
つまりこの図は、“先手も結構やれる図”なのである。
しかし、【A】6六銀 と 【H】6一歩 が、「後手良し」となったので、この図の結論は「後手良し」 で決まりである。
仮に【A】6六銀 がさらに(研究上の)新手が見つかって先手良しに覆ったとしても、【G】6一歩 もあるので、この結論は揺るがないだろう。
以下、【H】6一歩 についての調査内容を記しておく。
研究6八歩図40(6一歩図)
【H】6一歩(図)に、〔や〕6一同竜、〔ゆ〕3三歩成、〔よ〕7八歩 を解説していく。
まず、〔や〕6一同竜 と取るとどうなるか。
それには6二金とするのが、後手の6一歩の意味である。以下、3三歩成、同桂、7一竜に、3一玉(次の図)
研究6八歩図41
ここで1一飛は、2二玉、8四馬、8七桂成、同金、同と、同玉、1一玉、3二角成、8九飛、8八香、2一金で後手良しとなる。
なので、先手は5二歩と攻める。 6一歩なら、5一歩成、同銀、1一飛、4二玉(2二玉には6二竜)、7四歩で、今度は先手良しになる。
したがって後手は4一玉が必然の一手。以下、5一歩成、同銀、1一飛、5二玉、5一飛成、6三玉、6五銀、7四角(次の図)
研究6八歩図42
8四馬、同歩、7四銀、同玉、9二角、6三玉、6五角成、7九角、8八香、8七桂成(次の図)
研究6八歩図43
ずっとお互いに「この手しかない」という必然の手の応酬になっている。この先もしばらくそういう手順が続く。
8七同金、同と、同馬、7六銀、7八馬、8七金、同馬、同銀成、同玉、6五角、7八玉、6九金、同玉、8八角成(次の図)
研究6八歩図44
8八角成(図)となったこの図は、後手やや良し(最新ソフト評価値は-355)
ただし、ここからは変化が多く、実戦的には互角に近い。
以下の予想手順は、7四歩、同角、7五金、2九角成、6五桂があるが、これは同馬、同金、8七馬があるので、後手が良い。
〔や〕6一同竜 は決定的ではないが、一応、後手良しとする。
研究6八歩図45
〔ゆ〕3三歩成(図)の場合。
これを同桂と取るのは、5二角成、同歩、6一竜で先手が良くなる(以下2五桂に3四金が好手となる)
よって、後手は3三同銀と取るが、そこで6一竜としてどうか。これなら、銀の5一への利きがなくなったので、6二金の手はないというわけである。
手番を得た後手は9五歩。先手の竜が9一から6一へ移動したので、9筋を攻めるのは理にかなっている。
9五同歩に、9六歩、同玉、9四歩(次の図)
研究6八歩図46
9七玉、9五歩。そこで先手に手番が来た。ここで鋭い攻め筋があればというところ。
というか、先手が攻めなければ、後手6二銀右から4二金ではっきり後手優勢となる。
先手3四歩。
4二銀なら7八歩、同と、2六香、6二金、3三歩成、同桂、7一竜で、それは形勢不明。
後手は3四同銀と応じて、攻めなければいけない先手は、3三歩、同玉、7八歩、同と、3八香と工夫して攻めてみる。
しかし、4二玉が後手の好手(次の図)
研究6八歩図47
4二玉(図)と、先手の攻め手に乗って、後手は角の入手を計る。
以下、5二角成、同歩、2一竜。後手玉には、4一金、3三玉、3二竜以下の“詰めろ”が掛かっている。
後手は7九角、8八桂、5四銀と応じる(次の図)
研究6八歩図48
5四銀(図)で、5三への脱出口を開けて、こう進んでみると、後手勝勢。
次に8八とで先手玉は"受けなし"になる(先手7一馬には6二歩と受ける)
〔ゆ〕3三歩成の変化は、後手良し。
研究6八歩図49
【H】6一歩 に、〔よ〕7八歩(図)と打つのはどうか。
これには後手いくつかの応手があって手が分かれるが、ここでは7六とを選ぶ。
そこで2六香は、6二金、2三香成、同玉、2五飛、2四歩、5五飛、2二玉と進むと、後手良し。
なので、先手は3三歩成、同銀、6一竜と進め、9五歩(同歩は同金で後手良し)に、そこで5二角成と勝負する。
5二同歩に、3一飛(次の図)
研究6八歩図50
「7八歩、7六と」の手交換が入っているので、角を渡してもここで後手7九角打ちがやや甘いということで、この5二角成以下の攻めに希望を見出そうという手順である(そこで9六歩なら、8八玉とする。9六同玉は8七角でとん死)
ここで4二銀左なら、2一飛成、3三玉、4五金で先手勝ちになる(7九角には、8八桂合)
1四歩も、2一飛成、1三玉、2六香で先手が勝てる。
しかし、7九角、8八香と香を使わせてから4二銀左が後手最善の手順で、2一飛成、3三玉と進み―――
そこで 4五金 は、今度は香がないので詰めろにならず、先手勝てない。
では 3五金 は? これがダメな理由は後の手順を追えばわかる。
先手は、3七桂 とはねる。これは、3四歩、同玉、3二竜以下の詰めろになっている。
以下、9六歩、同玉、9五歩、9七玉。そこで8六と、同玉、6八角成が後手の好手順になる(次の図)
研究6八歩図51
この8六と~6八角成の順があるので、先手は 3五金 とは打てないのだった。そしてこの手順は3七桂 に対しても有効というわけなのだ。
図以下、9七玉(または7七歩)に、7八馬がある。この手が受けにも利いて、"詰めろ逃れの詰めろ"で、後手勝勢になっている。
つまり、【H】6一歩は 後手良し、である。
6八歩基本図(再掲)
結論はこうである。
〔椿〕6八歩 は、7五桂以下後手良し
6七と図
〔松〕3三歩成 → 先手良し
〔竹〕5二角成 → 先手良し
〔梅〕2五香 → 互角
〔栗〕8九香 → 先手良し
〔柿〕7九香 → 後手良し
〔杉〕5四歩 → 先手良し
〔柏〕2六飛 → 先手良し
〔橘〕3三香 → 先手良し
〔桃〕2六香 → 先手良し
〔楓〕2五飛 → 先手良し
〔柊〕3七桂 → 先手良し
〔栃〕8一飛 → 後手良し
〔柳〕7八歩 → 先手良し
〔椎〕1五歩 → 後手良し
〔檜〕3八香 → 後手良し
〔桐〕9八玉 → 先手良し
〔桜〕9七玉 = 実戦の進行(先手良しの見込み)
〔梨〕6五歩 → 後手良し
〔椿〕6八歩 → 後手良し
これで調査した「手」の数は、19になる。
次の20コ目で、最後としたい。その20コ目の手は何だろうか。予想してみてほしい。
第47譜につづく
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