はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part89 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2016年12月24日 | しょうぎ
 我々終盤探検隊は、今、『黒雲(くろくも)作戦』を実行中である。
 “4一飛”と打ちこんで、局面を妖しくしていくというこの作戦、今のところ、うまくいっている。
 その4一飛に、後手が4二銀と応じたらどうなるのか―――それが今回のテーマである。
 それには、図のように、8二竜とする。これはこのまま次に4二飛成となれば、先手が勝つが―――


    [イスカンダルのスターシャ]
〈……とうとうやってきましたね……〉
 ススムたちは、あわててあたりを見わたしたが、人影はおろか、風ひとつ吹いていない。
「あなたは、あなたはいったいどなたですか……?」
〈……わたしはスターシャ。イスカンダルのスターシャはわたしです……〉
「おお、スターシャ! どこにいるのです! どうか姿を見せてください!」
〈地球人よ……。わたしには、あなた方がいう意味での姿というものはありません。ですから、そのように捜してもむだなことです。〉
「……それはいったい、どういう意味ですか……?」
 スターシャのことばは、たしかに不可解なものだった。ススムは、困惑したように雪の顔を見た。
〈……わたしは、こおイスカンダル星の地下深くにはりめぐらされている、コンピュータなのです……〉
「そ、そんな馬鹿な……!」
                                (小説『宇宙戦艦ヤマト』石津嵐著 豊田有恒原案 より)



 この豊田有恒原案の『宇宙戦艦ヤマト』のストーリーは、本筋であるアニメ版と結末がかなり異なっていてショッキングな内容である。
 美女スターシャは、イスカンダル星人によってその星の地下につくられたコンピューターであり、そのスターシャが「自分を守れ」という最優先至上命令に従って、デスラーをつくり、部下たちをつくった。つまり「ガミラス星人」の軍団をつくりだしたのはスターシャであった。
 そうしたコンピューター・スターシャの行動を危険と感じたイスカンダル人たちは、そのプログラミングをカットしようとした。それを見て、「スターシャを守る」ために存在しているデスラーたちは、イスカンダル人に襲いかかり、とうとうイスカンダル人を全滅させてしまったのだった。それが地球年で100年ほどまえのこと。
 それをきっかけにコンピューター・スターシャは不調に陥り、デスラーたちはつぎつぎと侵略の歴史を重ねて、ついに人間の住む地球へ……、ということなのだった。
 だから彼女(スターシャ)は、地球人を呼んで、自分を破壊してもらおうと考えたのだった。そうすれば、デスラーたちの「スターシャを守る」という存在理由もなくなり、彼らの侵略も止まるというのである…
 しかも冷酷にも、放射能(反陽子爆弾による汚染)で苦しむ地球を元の姿には戻せないから、あなたたち(人間)自身を改造して生きる、それしか道はない、という。

 このストーリーは、結局ボツになったわけだが、「SF小説」的には、こちらのほうがより面白い。しかし、お茶の間のTVとしては、後味の悪すぎる結末と言える。採用されなかったのも無理はない。「美女」が自分を殺してくれという結末では……。

 この話の設定は西暦2199年。すでに人類は「亜光速エンジン」を開発済みで、冥王星まで7時間で航行可能だ。(すごい速さだ)
 そんなとき、ガミラス・デスラー軍団の攻撃が始まった。これが地球人類と異星人のファースト・コンタクトになる。
 スターシャの助けによって、人類は「ワープエンジン」を手に入れ、イスカンダル・ガミラスの二重連星のある(大マゼラン星雲の方向)、往復29万6千光年の距離を、1年かけて行ってこようというのが、「宇宙戦艦ヤマト」の計画であった。
 (このあたりの設定はTVアニメも小説版も松本零士の漫画版もすべて同じ)
 それにしても、“美女”の言葉をこうも簡単に信用してホイホイ近づいていくこの作戦、いかがなものか。デスラーの仕掛けたハニー・トラップだと主張する人間が一人もいないのは、解せないことである。 もっとも、ガミラスの圧倒的攻撃力を受けて、他になにも手段もないとすれば、結局、「やるしかない」のであるが。

 この小説版では、地球上は、ガミラス軍の「反陽子爆弾」で攻撃を受けて壊滅状態、となっている。(TVアニメ版は「遊星爆弾」)
 「反陽子」とは何か。
 そう不思議なものではなく、1955年にカルフォルニアの加速器(実験用の設備)によって、実験的には確認されている。
 この世界の物質の「原子」は、「陽子」と「電子」から成っているが、「陽子」のほうが「電子」よりも1850倍大きい(質量的に)。ところが、ふしぎなことに、「陽子」と「電子」は、まったく逆向きのしかし同じ強さの電荷(プラスとマイナス)をもっていて、それで安定してくっついている。
 1932年に「陽電子」が発見された。「電子」と同じ大きさ(質量)で、電荷がプラスのもの、それが「陽電子」。 それは今となっては簡単に見つけられるもので、ただ、この世界(われわれの住むこの宇宙)にはなぜか「電子」のほうが数が多く、したがって「陽電子」は生まれた瞬間に「電子」と反応して“対消滅”して消えてしまう。だからそれまで見つからなかったのである。
 それなら、「反陽子」も存在するのではないか―――物理学者がそう考えるのは、当然のことであった。「反陽子」、すなわち、「陽子」と同じ質量で電荷がマイナスの粒子である…。
 この宇宙は、なぜか「陽子」と「電子」が多く残って、それが「物質」を形勢している。この世(宇宙)は、なぜか“非対称”だったのである。(つまり「反陽子」よりも「陽子」の数が多く、「陽電子」よりも「電子」の数が多かった。宇宙がゼロからはじまったというなら、なぜ“同数”ではないのかという疑問が残る)



≪黒雲の図≫
 4一飛―――『黒雲作戦』―――。 (この図の「激指」評価値は[-289])
 前回、これに対する後手の応手 〔砂〕3三玉、〔土〕4二金打、〔石〕3三桂、を調べた。 その結果は先手にとって悪くなかった(後でまとめる)

 今回は、「後手〔岩〕4二銀」との勝負である。
 



≪8二竜図≫
 〔岩〕4二銀には、「8二竜」(図)が最善手で、ここでは、“これしかない”ところだ。
 「8二竜」は、次に4二飛成、同金、同竜となれば、先手勝ちだ。

 後手の応手は、次の4つ。
   〔ラ〕6二歩
   〔リ〕3三銀
   〔ル〕3三玉
   〔レ〕3三桂

 我々(終盤探検隊は先手を持っている)は、これら4つの応手をすべて粉砕しなければならない。

6二歩図1
 〔ラ〕6二歩(図)と打つ手には、8三竜とする。そして後手3三銀に、8五玉(次の図)

6二歩図2
 “入玉”ねらいである。 入玉はほぼ確実だが、形勢はどのようになるか。
 図から、予想される進行は、3二玉、4二歩、同銀、同飛成、同金、9四玉、7九飛、8一竜(次の図)

6二歩図3
 もう少し進めてみよう。 ここで7四飛成は8四金があって、後手の攻めは止まる。よって9九飛成とする。 
 9九飛成、8三玉、9七竜、9四歩、5二金、9二玉、4四銀、6五歩(次の図)

6二歩図4
 以下、5三銀、7三歩成、5六と、7一金のような進行が予想されるが、これは玉が“入玉”して安全になり、飛角三枚を有している先手が勝勢であろう。


3三銀図1
 〔リ〕3三銀。 この手には、5一飛成が利くかどうかが重要な分かれになる。(ここでの8三竜はうまくいかない)
 5一飛成、8四桂、8六玉、7五金、7七玉、4二金、4一金、6二歩(次の図)

3三銀図2
 図の6二歩は、同竜に、5三銀と受けようという意味。
 先手は3一金。後手は1四歩と端から脱出を図る。以下、2一金、1三玉、3六桂。
 3六桂は(2二角までの)“詰めろ”なので、それを後手は3二金と受ける。そこで先手は6二飛成。
 そこで後手は攻めに転じる。 6六銀、8八玉、7六桂、9八玉、7七銀成、8九香、9五桂、7九角(次の図)

3三銀図3
 これで後手の先手玉への“詰めろ攻撃”は止まった。先手勝ちの図である。


 並べた順序から言えば、次は〔ル〕3三玉だが、〔レ〕3三桂のほうが結論が簡明なので、まずそちらから。

3三桂図1
 先手8二竜に、〔レ〕3三桂(図)としたところ。
 先手狙いの4二飛成は、同金、同竜、3二金で、弾き返されてしまう。
 しかし、我々の調査結果では、どうやらそれでもそれを決行するのが最善と出た。(ソフト「激指」はそれで先手が不利と見ていたのだが)
 4二飛成は、同金、同竜、3二金、5一竜、7八飛、8六玉(次の図)

3三桂図2
 飛車を後手に渡したが、持駒の金を受けに使わせたので、後手の攻めも厚くない。
 どうやらこの図は、先手優勢のようである。
 6五銀、8五銀、6六銀左、4二金と進んで、次の図。

3三桂図3
 4二同金なら、1一角から詰む。よって、ここは粘るなら後手は1四歩とでもするしかないが、それも、6六馬、同銀として、3二金、同玉、4二金、2二玉、3一竜、1三玉、2二銀、2四玉、4六角以下、“詰み”である。
 〔レ〕3三桂は、4二飛成以下、先手良し。


3三玉図1
 〔ル〕3三玉。 この手が後手の最善手だろう。
 この手は先手の4二飛成の攻めを受けつつ、次に3二玉~4一玉で、飛車を取ろうという意味。

3三玉図2
 先手は7三歩成(図)。
 そこで後手の手番だが、まず<h>3二玉からやってみよう。
 後手3二玉に、先手は5三歩(これを同銀上は5一飛成がある)。 以下、同銀引、8三馬、4一玉、8五玉(次の図)

3三玉図3
 もう何度も出て来た“入玉”ねらいの8五玉。
 6四銀引、7四歩、7九飛、8四玉、9九飛成、9三玉(次の図)

3三玉図4
 8一歩、同竜、3二玉、3七香、3五桂、同香、同銀、3四桂(次の図)

3三玉図5
 これは先手優勢である。

3三玉図6
 では、先手の7三歩成に、<i>8四金(図)と応じるとどうなるか。“入玉は許さない”という手だ。
 これには6三とがある。以下、5六と、1一角、2二桂、7七玉(次の図) 

3三玉図7
 先手勝勢である。

3三玉図8
 先手7三歩成に、<j>7三同銀(図)という手があった。
 これは同銀に8一桂と打つという意味だ。さて<j>7三同銀に先手どうする?
 考慮の結果、ここは1一角、2二桂、7三竜が最善の対応ではないかと、我々は考えた。(これ以外では苦しくなるのだ。) 「1一角、2二桂」で桂馬を一枚使わせ後手の攻めを細くしている意味がある。 

3三玉図9
 当然後手は8一桂と打ってくる。これには8五玉として、7三桂に、9四玉(次の図)

3三玉図10
 しかしこの変化は、場合によっては大駒を三枚敵に渡すことになるかもしれない。盤上の4一飛と1一角は動けない。さあ、形勢はいかに。
 9二歩、同馬、3二玉、4二飛成、同金、6七飛、7四歩(次の図) 

3三玉図11
 6二飛成、8二金、6四銀、8四銀、6三金、8一馬、7九飛、9二玉(次の図)

3三玉図12
 9九飛成、3七香、9七竜、9三歩、3三桂、3四香、2一玉、2二角成、同玉、5四桂(次の図)

3三玉図13
 こうなると少し先手が良いようだが、先手は大駒が8一の馬一枚だけというのが不安ではある。
 この<j>7三同銀の変化は、「互角」としておきたい。

3三玉図1(再掲)
 ということで、今のところ、後手のこの〔ル〕3三玉に対しては、7三歩成、同銀以下、「互角」の形勢と出ている。
 しかし7三歩成のところで、8三竜はないだろうか。以下それを検討してみよう。


3三玉図14
 後手の〔ル〕3三玉に、8三竜としたところ。 “入玉”作戦だ。
 3二玉、8五玉、4一玉、9四玉、6九飛(次の図) 

3三玉図15
 先手は4一の飛車はすんなり渡し、その間に8五~9四玉。 まだ三枚の大駒が先手にはある。
 ここで7三歩成としたくなるが、それは同銀、同竜、8一桂がある。
 よってここは8二馬とする。以下、7四歩、9三玉、9九飛成、9二玉、9七竜、8一玉(次の図) 

3三玉図16
 ここで後手7三金なら、8六竜とし、9八竜に、6五歩で先手好調。
 ここでは後手6三金打からの展開を見ていく。6三金打、3九香、7三銀、7一馬、6二銀、6一馬、3三香、1一角(次の図)

3三玉図17
 先手優勢。
 
 どうやら、〔ル〕3三玉には、7三歩成より、8三竜のほうが良いようだ。

≪8二竜図≫
 以上の探査の結果、≪8二竜図≫は、「先手良し」と決まった。


 前回からのながれをまとめるとどうなるのか。

 
≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   → 調査中      
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 後手良し

 この≪夏への扉図≫から、3三歩、同銀、3四歩、同銀、5九金、6六角、5五銀引、9三角成、9四歩まで進んだ時、“3三歩”と打つ。

≪3三歩図≫
 3三歩に、3一歩。 そして―――

≪黒雲の図≫
 ここで、“4一飛”(図)と打つのが、今回の作戦――黒雲(くろくも)作戦――である。
 この“4一飛”は、3一飛成、同玉、3二金までの、“詰めろ”。
 後手はそれを受ける必要がある。候補手は次の4つ。
  〔砂〕3三玉   → 先手勝ち
  〔土〕4二金打  → 持将棋引き分け?
  〔石〕3三桂   → 先手有利
  〔岩〕4二銀   → 先手有利

 こうしてまとめてみると、〔土〕4二金打の分かれが、引っかかる。これさえなんとかすれば―――この変化を「先手有利」にすれば、この『黒雲作戦』は成功となるではないか。
 ということで、もう一度〔土〕4二金打を検証してみよう。
 ≪亜空間≫の戦争は、時を戻して、何度でもやり直しの利く特殊空間―――パラレルワールドなのだ。

≪4二金打図≫
 この後手4二金打の図から、戦争の“やり直し”である。
 〔土〕4二金打、8五玉、4一金、9四金、7七飛、8三玉、7四飛成、9二玉、4六銀、3九香、3五桂(次の図)

4二金打図a
 “前回の戦争”では、ここですぐ3五同香と桂を取り、以下、同銀直、7二歩、5五銀上、7一歩成、3三玉と進んだ。それで先手優位は確かと思えたのだが、結局は、“相入玉”となって、持将棋引き分けになりそうな図に至ったのである。

 それは、この図での3五同香がよくなかったのではないか。この手はすぐに決める必要はなく、後でも取れる。後回しにするほうが、後手はやりにくいのではないか。
 と、考えて、我々はここで7二歩をあらためて選んだ。 それで、どうなったか。

 7二歩、4二銀、7一歩成、3三銀、7二と、5八金、6二歩(次の図)

4二金図b
 7九竜、3五香、同銀引、6一歩成、2九竜、6二と寄、3二金、5二と、同歩、6二と、9九竜、5二と、1九竜、2六桂(次の図)

4二金図c
 先手優勢。これは先手が勝ちやすい将棋だ。

 先手が怖いのは、後手が“相入玉”をめざしてきた場合である。
 今度は後手が修正してくる。

 「4二金打図a」より、7二歩、5五銀上、7一歩成、6六歩、7二と、3三玉(次の図)

4二金図d
 今度は、後手が「5五銀上~6六歩」と“入玉”の下準備をしてから、3三玉としてきた。
 これに対しては、1一角、2二桂、3五香、同銀引(同銀上には4五桂)、3七桂(次の図)

4二金図e
 と、遊んでいたこの桂馬を活用する手がある。
 以下、3二金、4五桂打、4四玉、5三桂成、同金、5一竜、5二歩、4一銀(次の図)

4二金図f
 先手優勢。 こうなれば先手の三枚の大駒が働いてくるので、後手玉を捕まえられそうだ。

4二金図g
 さらに、後手は、時を戻して、手を代えてきた。先手3七桂に、4四歩(図)だ。
 以下、2六桂、同銀、同歩、3二金、2五桂、4三玉、6一竜、6四銀上(この手で6四銀引には、8三銀、7六竜、6三歩と指す)、3三歩(次の図)

4二金図h
 以下、3三同桂、同桂成、同玉、6二とが予想され、先手優勢である。
 こうした変化も、後手玉に入玉される可能性をゼロにはできないが、最善を尽くせばきっと後手玉を捕獲できると信じる。

 よって、この分かれ―――後手〔土〕4二金打―――は、「先手良し」となった。

≪黒雲の図≫
  〔砂〕3三玉   → 先手勝ち
  〔土〕4二金打  → 先手有利
  〔石〕3三桂   → 先手有利
  〔岩〕4二銀   → 先手有利

 こうして、ついに我々は見つけたのであった。 待望の、「先手の勝ち筋」を!!!


 ついに来た―――、歓喜の時が―――――――――!!!!!!!――――――?


 その時! 我々は聞いたのである。 奴の―――≪亜空間の主(ぬし)≫―――の声を。

 それは、我々をあざ笑う声だった気もするし、「ついに来たか」という呟きだった気もするが、はっきりと聞き取れたわけではない。しかし、たしかにあれは、我々と盤をはさんで対峙するこの姿の見えない“敵将”の初めて聞く「声」であった。

 だが、この≪亜空間世界≫はパラレルワールドなのだ。
 負けても負けても、時を巻き戻して、また≪戦争≫は新局面から繰り返されるのだ。
 ≪主(ぬし)≫は、またしても、時を巻き戻してきたのである。



                            『終盤探検隊 part90』につづく
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