はんどろやノート

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終盤探検隊 part85 ≪亜空間 最終戦争…の前≫

2016年12月13日 | しょうぎ
 今、終盤探検隊はこの将棋を、「先手番」をもって闘っている。
 最初我々はこの闘い――≪亜空間戦争≫――の観戦者にすぎなかったが、いつの間にか「先手番」の座席に坐ることになってしまっている。(これは何者かによる仕組まれた罠なのか、それとも単に偶然なのか…)

 それにしてもいったい我々は「何」と闘っているのであろう。「後手番」をもつ正体の見えない敵は、誰なのだ。


    [主]
知の海にあって視る者がいた。主(かれ)は今、無数の小さな生命がひとつの渦の中へ吸い込まれて行くのを見ていた。その生命たちは時間をかけて手際よくより分けられ、遠くから渦に向かって漂って来たものたちであった。
主(かれ)は今、その微小な生命がひとつに練り固まって行くのを待っているのであった。
                                  (半村良『妖星伝』(五)天道の巻より)


 これはこの小説中、「黄金城」と「鬼道衆」(人間の霊魂)とが混ざり合わさり、宇宙へ飛び立つ霊船「黄金丸」へと変身するところの描写である。


≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   →
  【お】6五歩   → 後手良し

 この≪夏への扉図≫が、今、我々の最大テーマとなっている。
 この図からの“先手の勝ち筋”を見つけることができれば、この勝負――≪亜空間戦争≫――は我々の勝利で終わる。逆に見つけられなければ、負けだ。

 いま、【え】9一竜を探査中である。 
 9一竜、5九金、6六角、5五銀引、9三角成、9四歩で、次の図となる。

≪9四歩図≫
 9一竜~9三角成で9筋を“開拓”し、“入玉”をねらうのが、前回試みた『草薙作戦』であった。残念ながらそれは失敗に終わった。
 この図の「9四歩」が好手で、その“入玉作戦”は完全に抑えられてしまった。
 ここで9六歩には、後手は8四金と打つ。

 そこで「8六歩」。 これが今回の作戦である。


〈ハロー作戦〉

≪8六歩図≫
 今、先手は「8六歩」と突いたところ。
 8四金と後手に打たれて、もう入玉は無理――。それなら、“攻め合い”に活路を見い出そう、そして攻め合う前にまず「8六歩」。
 これによって玉の“ふところ”を広げ、次の手番で、3三歩から勝負の形をつくる…。後手の8四金は打たれたのではなく、打たせた、と考えよう。

 これを我々終盤探検隊は、『ハロー作戦』と呼ぶことにした。

 「8六歩」で、次は後手の手番になるが、どう指してくるだろうか。
 見ればこの図、先手は四枚の大駒(飛車と角行)をすべて持ち、後手は金銀七枚を盤上に置いている。
 ここで[R]7五桂と打つのは後手まずい。それは8五歩、7四金、8六玉で、次に9四馬~9五玉…、これは先手良し。


5六と図1
 [S]5六とはこの局面で「激指13」が示す後手の最善手である。
 ところが、我々の調査研究では、ここから進めていくと、どうも“先手勝ち”の結果に行き着くのである。その手順をこれから示す。
 図から、8八玉、6六と、7八香、6五桂、8八金、6七歩、3三歩(次の図)

5六と図2
 3三同銀、4一角、3一歩、3二歩(次の図)

5六と図3
 4一角と打ち込むこの攻めは、4二金とされると5一竜、4一金、同竜と進んで「角金交換」になることを承知の攻め。相手に「角」を渡してその「角」でこちらの玉が詰まされてしまっては意味がないが、この場合は大丈夫なのだ。
 図の3二歩は、同歩と取らせて5二角成、同歩、6一飛で寄せようという意味だが、後手はだから同歩ではなく、4二銀右と頑張る。(4二銀左は3八飛がある)
 以下、5二角成、同歩、6一飛と、それでもこの攻めを決行する。6一飛はまだ詰めろではないのでここで後手は反撃してくる。
 後手7六桂と打つ。以下、8九金(次の図)

5六と図4
 7七桂成、同香、6九角、7八桂、7七と、同玉、6八歩成、8四馬(次の図)

5六と図5
 図の「8四馬」が先手のねらっていた手で、金を取って、持駒が「金二枚」となったので、後手玉に3一竜、同銀、同竜、1一玉、2一竜、同玉、3一金、2二玉、2一金打までの“詰めろ”がかかった。
 なお、代えて3一歩成も後手玉への詰めろだが、それだと7八と、7六玉、7五香以下、先手玉が先に詰まされてしまう。 しかし「8四馬」のこの図なら、この攻めには後手の7五香は同馬と取れるのである。 つまり「8四馬」は、“詰めろ逃れの詰めろ”だったのである。

 もう少し続けてみよう。後手が5一香と打って頑張ると…
 5一香、3一歩成、同銀、5一飛成、4二銀引、5二竜、1一玉、3三歩(次の図)

5六と図6
 後手は先手の“詰めろ”の追撃から逃れようとしたが、結局できなかった。 
 この図の3三歩も“詰めろ”。 2二金、同銀、2一竜以下。
 「先手勝ち」。


≪8六歩図≫(再掲)
 [S]5六とは、「激指」が推しているように、(後手にとって)良い手に思えた。しかし結果は先手に幸いした。
 ということで、後手は別の手を考え出す必要がある。

5四銀図1
 [T]5四銀。 この手は、“厚い攻め”を目指した手で、中央の三枚の銀で先手玉に迫ろうというもの。(しかしその分自陣はうすくなるが)
 8七玉、6五銀左、9七玉、6七と、3八香(次の図)

5四銀図2
 先手は3八香と、持駒の香車を攻めに使った。この将棋は受けに香車を使うのも有効だし、香車をどう使うか悩みどころだ。 この場合、後手の5四銀~6五銀の攻めは少し遅い攻めなので、攻めに香車が使えるという判断で打った。
 3三歩の受けに、7二飛と打つ(次の図)

5四銀図3
 これで後手受けがない。次に5二飛成がある。
 6二桂は7三歩成で、以下、7六銀、6二と、7七と、7九桂、7五桂、9八金で、後手の攻めはそれ以上続かないので、先手勝ち。
 今の手順は、6二で取られた桂馬を7九桂と受けに使われた。
 それなら―――3一桂と受けてみよう。
 図から、3一桂、3三香成、同玉、1一角、3四玉、3六金(次の図)
 (3三香成を同桂は、5二飛成、同歩に、1一角から詰み。3三香成を同銀は、5一竜がある)

5四銀図4
 3三香成からの寄せがあった。先手勝ち。
 『ハロー作戦』大成功。

5四銀図5
 3八香と打った手に、「3三歩」が後手にとってまずい手だったようだ。
 その手に代えて、「7七と」としたのがこの図。次に7六銀とすれば、先手玉に詰めろがかかる。
 7七とでなく、“先に7六銀”なら、1一角、同玉、3二香成で、先手勝ちが決まっていた。 この図の場合は角を渡すと、後手7九角以下の詰みがあるので、その手段は使えない。
 「7七と」、次は7六銀、さらに7五桂と後手は攻めてくるつもりだ。

 先手はここでどう指すか。
 3二香成、同玉、1一角(詰めろ)、4二玉、5四歩(詰めろ)、同銀、6一竜(詰めろ)、6二歩、3七飛(次の図)

5四銀図7
 先手は後手玉に詰めろの連続で迫り、3七飛(図)。
 この飛車打ちは詰めろにはないっていないが、後手はどうするか。飛車のタテの利きを3三歩や3六歩で止めると、7七飛とと金を払われる。その展開は、勝負は長引くが、はっきり先手が良い。
 なのでここは「と金」を守る。7六香。(7六に打ったのは7五桂と打つスペースを開けておくため)
 以下、2二角成、5三玉、3一馬、4二桂、3二飛成(次の図)

5四銀図8
 この3二飛成(図)は、5二竜~4二馬の手順で“詰めろ”になっている。
 進行の例は、6三玉、5三歩、7五桂、9八銀、5三銀、7三歩成、同玉、5六歩、同銀、6六金(次の図)
 (手順中5六歩に6六銀は、8二馬、7四玉、7二竜、6五玉、3五竜以下詰みがある)

5四銀図9
 先手勝ち。

 この図を見れば、この8六歩として闘う『ハロー作戦』の特徴(良さ)がよく出ている。9七に玉を逃げ込む、そして、四枚の大駒をいかにうまく使うかが勝利のカギとなる。


≪8六歩図≫(再掲)
 以上、[S]5六とと[T]5四銀、2つのケースを見てきたが、この『ハロー作戦』の優秀さがわかる例だったと思う。
 8六歩と先手が指したこの図、「激指13」の評価値は[-462]。 にもかかわらず、ほとんどの順は、結局先手が勝つ流れになる。後手の玉は3三歩と叩くと意外にもろく、かといって後手が3三歩と打てば玉が狭くなりまた寄せやすくなるので補強をしようがない。また後手は持駒の桂馬で早く攻めたいがあまり早く桂を使うと、その桂を取られて3四桂と逆用されてしまうので、使いどころが難しい。そういう関係で、どうも(意外にも)先手の勝ちやすい将棋になっている。
 我々(終盤探検隊)にとっての重大な問題は、ではこの図からすべての後手の手段に対して、先手が勝てるのかどうか、ということだ。(そうであれば嬉しいのだが)
 この図からの、後手の最善の指し方は何だろう?
 この将棋、どうやら結局後手は「7七」に駒の利きを増やす攻めになりそう。それなら、5七の「と金」は6七とと使いたい。5六とと引いて6六と使うのが最初のケースだったが、それだと「7七」に利かすまで2手かかっているし、6六にと金がいると5五の銀が使えない。5五の「銀」を6六銀と使い、5七の「と金」は6七とと使いたい。そして「6五桂」と打つ。―――その形を実現させるように手を進める手順を考えてみる。
 (先手をもつ我々としては、その後手最善手順を粉砕すれば「先手勝ち」が確定できる)

7五銀図1
 どうやら[U]7五銀(図)が最善手ではないかと思う。(「激指13」はこの手を5番目の候補手として評価している)
 上の≪8六歩図≫から7五銀として、以下、8七玉、6六銀左、3三歩、同銀、7九香、6七と(次の図)と進む。
 今の手順で、6六銀左の手で、6七とを先にすると、先手6八歩の手があって、これを同とでは後手は面白くない。

7五銀図2
 ここで「4一角」と打って勝つのが先手の狙い目なのだが―――。
 4一角、4二金、5一竜、4一金、同竜、8六銀、同玉、6八角(次の図)

7五銀図3
 なんとこれで先手玉は詰んでしまうのである。角を渡すとこの「8六銀~6八角」の攻め筋があるということだ。

7五銀図4
 そこで先手は「4一角を打つ前に、6八歩、同とを利かせておけばよいのでは」という考えになる。
 「7五銀図2」まで戻って、先手6八歩(図)。
 ところが6八歩を同と取らず、“7七と”があるのだ。
 この図より、7七と、同香、6五桂(次の図)

7五銀図5
 7五香、7七桂成、9七玉、7五金(次の図)

7五銀図6
 ここで4一角と打つのは、やはり4二金以下角を後手に渡すと、7九角と打たれて負けてしまうので先手まずい。
 それならと、この図から、3四歩、同銀と銀をつり上げ、3三歩、3一歩、4一飛と飛車を打ち込む攻めを試みてみる。次に3一飛成、同玉、3二金までの“詰めろ”。
 これには後手4二銀と受ける(次の図)

7五銀図7 
 この4二銀には先手5三歩が手筋。後手はこれを取れない。そして次の5二歩成が詰めろになる。
 ところがこの場合は5三歩~5二歩成よりも、後手の8四香の先手玉への“詰めろ”が先だ。しかもこの“詰めろ”は受けようがない。(図で6四角には7六金で後手良し)
 この図は「後手勝ち」で確定である。

7五銀図2(再掲)
 もう一度「7五銀図2」に戻る。どうもここから先手の勝ち筋が発見できない。
 この図で4一角では先手勝てないとすでに書いた。
 では、この図から3四歩、同銀、3三歩、3一歩、4一飛(次の図)はどうだろうか。

7五銀図8
 実はこの図は、上のケースと違って「先手大成功の図」で、先手優位が見込める図になっている。
 後手4二銀の受けには5三歩で、この場合は後手からの“詰めろ”の攻めがないので、先手の次の5二歩成が間に合うのである。
 そしてこの図では、後手の受けは4二銀以外では3三玉か3二桂しかなさそうだが、いずれも我々の調査では先手良しになった。(その解説は省略する)
 どうやらこの図になれば、「先手良し」。

7五銀図9 
 ところが、今の手順の途中で、先手の3四歩に、この図のように4二銀左と銀を引く手がある。
 ここからこの後手陣を攻略するのがむずかしい。いや、手段はあるのだが…
 やはりこの場合は4一角と打つのが攻略手段。ただ問題は、先手と後手との“攻めの速度”の問題である。この場合、角を後手に渡すと先手玉が8六銀、同玉、6八角で詰まされてしまうことは上で述べた。その時は4一角に対し、4二金から角金交換になった。しかしこの場合は4二の場所に銀があるので4二金がない。だからすぐに角金交換にならない。
 4一角に、3二歩。
 そこで5二角成、同歩、6一飛としたいところだが、角を渡せないので、5二角成は保留して飛車を1段目に打つ(次の図)

7五銀図10
 6一飛と打つと6二金があるので7一飛(図)と打った。次に5二角成とし、同歩なら、2一飛成で後手玉は詰み。これなら後手は角を使う余裕がない。ただしこの攻めは先に5二角成として飛車を打つ攻めより一手遅い攻めになるのだが…
 先手と後手と、どちらの攻めが早いか、という問題になる。
 図から、6五桂、5二角成、7七と、9七玉、7六銀、9八金、7五桂(次の図)

7五銀図11
 後手の攻めのほうが勝った。受けるなら8八金打しかないが、それでも8七と以下、先手玉は詰んでしまう。

 こうして、[U]7五銀以下、どうも先手に勝ちがないと、我々は判断するに至った。


≪8六歩図≫(再掲)
 結論。 この≪8六歩図≫は、後手7五銀以下、「後手優勢」になる。


 先手『ハロー作戦』は不発に終わった。 (あとひと押しという感じではあったが…)


≪夏への扉図≫
  【あ】5八同金  → 形勢不明
  【い】3三歩   
  【う】7三歩成  → 後手良し
  【え】9一竜   → 後手良し
  【お】6五歩   → 後手良し

 そして今回の探査で、この図から【え】9一竜の結論も「後手良し」に確定した。


 しかしまだ、【い】3三歩がある。


                       『終盤探検隊 part86』につづく
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