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横歩取り小堀流4二玉戦法の誕生

2013年01月04日 | 横歩取りスタディ
 あけましておめでとうございます。
 
 本年も宜しくお願いします。



 今年、2013年は「式年遷宮(しきねんせんぐう)」というものがあるらしい。
 20年ごとに伊勢神宮で行われる社殿の遷宮のことで、社殿のみならず神宝、装束などすべての調度品も一新される神事、遷宮祭が執り行なわれます。持統天皇の時代690年から1300年続いて行われてきたようです。 20年に一度、蛇の脱皮のように、新しく生まれ変わるための儀式です。「常若(とこわか)」と言うんですって。
 僕が感心したのは、新しい社殿を造るための木材、「御用材」のこと。江戸中期からは長野県木曽山の森林の檜(ひのき)が使われているのですが、なくなってしまっては困るから、植林も計画的に行われている。200年以上の年齢を重ねた檜を使用するので、200年後のこの式年遷宮のために植林するということです。



 そういうことがしっかり受け継がれ行われているという事実は、素晴らしいことだと思いました。日本の政治も、このようであってほしいですね。

 ちなみに僕は一度だけ伊勢神宮に参拝したことがあります。


         伊勢神宮式年遷宮広報サイト



 今日の記事は、“横歩取り小堀流”について見ていきます。


松浦卓造‐小堀清一 1951年

初手より、2六歩、8四歩、2五歩、3二金、7六歩、3四歩、7八金、8五歩、2四歩、同歩、同飛、4二玉でこの図。
 4二玉、これが小堀清一草案の“横歩取り小堀流”です。
 1951年、松浦卓造‐小堀清一戦。僕の棋譜調べは「将棋棋譜でーたべーす」を大いに利用させていただいていますが、その中で“小堀流”の最も古い棋譜はこれのようです。
 ということで、「小堀流は1951年に誕生した」とさせていただきます。

 この図から、3四飛、8八角成、同銀、2二銀というのが後手の小堀清一の意図。
 しかし先手の松浦卓造は、‘横歩’を取りませんでした。‘横歩’を取らず――



 松浦さんの指し手は図の「7七金」。
 
 この「7七金」は変わった手に映ると思いますが、この頃はわりとよく見た手なのです。
 「横歩取り」というのは乱戦になりやすい。それはいつでも「角交換」があるからで、「7七金」の一手は角交換を拒否し、同時に8六歩からの後手の飛先歩交換もさせないというわけです。
 この手、横歩取り系の相掛りの将棋で「7七金」をプロ棋士で最初に指したのは、おそらくは升田幸三です。

升田幸三‐松下力 1936年

 しかしでは、これは升田幸三の発案かというと、そうではなく、関西では昔はよく指されていた手だったそうです。
 この図は、「2四歩、同歩、同飛、2三歩、3四飛、4一玉」という展開に、先手が「7七金」としたところ。
 今では、先手が横歩を取った時、8八角成~2五角が定跡になっていますので、「2三歩、3四飛」に、「4一玉」と指す人はまずいません。ただしこの形での「4一玉」には古い歴史があり、どうやら18世紀(1700年代)から指されているようです。
 それで、升田さんの「7七金」は、その「2三歩~4一玉」型に対しての指手でした。 東京の棋士たちはそれを初めて見たので珍しがったということです。
 上の松浦‐小堀戦での「7七金」とかなり違う点は、升田‐松下戦の場合はすでに‘横歩’を取ってしまっていますから、この「一歩得」を生かすためにも、局面を穏やかに収めたい、それで「7七金」というのは一理ある指し方と思えます。


 升田‐松下戦はこのようになりました。先手升田は「ひねり飛車」にして、「美濃」に囲いました。これが升田幸三のオリジナルの構想。「ひねり飛車」そのものは、江戸時代にも指されていますが、大体が「中住まい」で、この図のように「美濃囲いにして玉を右に囲う」というのが升田幸三考案の新しい構想でした。これは1936年(昭和11年)の将棋でしたが、プロ棋士の間で「ひねり飛車」が流行ったのは1950年代。そして、この升田さんのように、「美濃囲いで玉を右に」というのはその50年代、“角田流”と呼ばれるようになりました。角田三男(かくたみつお、木見門下、升田さんの兄弟子)がよく指していたからですが、本当の創始者は升田幸三なのでした。

 さて、“小堀流”の将棋に戻りましょう。


 “小堀流”での「7七金」が、上の升田‐松下戦の「7七金」と違うのは、“先手はまだ横歩を取っていない”ということです。「一歩得」をしてそれを主張するための「7七金」が升田‐松下戦だったのですが、この場合はそうではない。先手はまだ横歩を取っていない。その違いがあります。
 角交換を避けておいて次に‘横歩’を取るぞと松浦卓造。
 後手の応手は、「8四飛」。 飛車を浮いて、じゃあ横歩は取らせないよ、と。


 松浦卓造(まつうらたくぞう)は、升田幸三と同じ広島県の田舎の出身で、なかなかの豪傑だったようです。そして将棋は「棒銀」を得意としていました。この将棋も「棒銀」です。


 先手もいつまでも「7七金型」では、角が使えません。松浦さんは、3五歩から攻め始め、7八金として角交換になりました。小堀さん、9五角と打って反撃開始。
 9五角、6八銀、8五桂、8六歩、同角、7六歩、同飛、8七金、7七桂成。


 7六金、同成桂、5六歩(5五桂の防ぎ)、4一金、8一飛、6七金、7七歩、6八金、同玉、7七角成…(略)

投了図
 小堀清一の勝ち。



板谷四郎‐小堀清一
 “小堀流4二玉戦法”の2号局。先手の板谷四郎、「3四飛」と、‘横歩’を取りました。
 板谷四郎は、板谷進のお父さん。板谷進の弟子が小林健二と杉本昌隆。


 上の図から、8八角成、同銀、2二銀でこの図。これが“横歩取り小堀流”の基本形。これを<基本図>とします。
 ここで先手はどうするか。
 板谷さんは、「7七銀」と指した。
 以下、2五角、3六飛、同角、同歩、2七飛、3八銀、2八飛成、3七角、2五竜。


 これは「横歩取り2三歩型定跡」の「3六飛」からのコースと似ていますが、決定的に違うことは、後手の2筋の歩が切れている、ということ。なので、後手が満足な展開という気がします。
 2六歩~2七銀と進め、板谷、1筋から端を攻めました。1五歩、同歩、1二歩、同香、5六角。


 2三銀打に、後手は3一竜とかわします。以下、2五角、1三香、1二銀不成、2二銀、1四香、5一玉、1三香成、同桂、1四角。 


 ここで小堀、4五香で反撃に出る。


 先手は後手の竜を捕えた。1四竜、同銀不成、2九角成、2一飛、6二玉、6一金、5三玉、2二飛成、3八馬から寄せ合いに突入。

投了図
 小堀が勝った。



 そして3号局、2か月後の丸田祐三戦では、先手丸田が1号局の松浦戦と同じ「7七金」の対策で、丸田は「ひねり飛車」に。(棋譜は省略します。)
 勝負は小堀清一の勝ち。 “小堀流”、3連勝!!!



塚田正夫‐小堀清一 1953年
 次は“元名人”の塚田正夫が相手です。これは1953年2月に行われたA級順位戦の対局。
 塚田は、<基本図>から、「3六飛」と飛車を引きました。
 小堀清一の手は、「2七角」。以下、6六飛、5四角成、3六角。


 3六同馬、同飛、2七角、6六飛。 ここでまた5四角成なら、3六角となって、これは千日手。


 小堀は「6二銀」と手を変えた。
 すると塚田は「3六歩」。これで後手の角は捕獲された。
 しかし、4九角成、同玉、5五金。


 今度は後手小堀が先手の飛車を捕獲。
 以下、7七角、3三銀、3八銀、8四飛、3七角、6六金、同角、3四飛、3五金、7四飛、7五歩、8四飛、1六歩、8六歩、同歩、8七歩、7九銀、8六飛、3九玉、2七歩。


 かなり面白い戦いになりました。以下、6八金、7六飛、6九金、7一金、2七銀、6六飛、同歩、6七角、3八銀、8九角成、8二歩…(略)


 小堀、2四銀として逃げ道を開いた。
 5一飛成、3三玉、2一飛成、3九角、2七玉、2六歩、同玉、4四馬…(略)

投了図
 小堀玉、捕まった。 熱戦だったが、塚田正夫勝ち。
 さすがに名人経験者の終盤力は違う。



 これは1952年度のA級順位戦ですが、小堀清一はこの年度にA級デビューしました。そこで塚田正夫を相手に、敗れはしましたが熱戦を演じて、“横歩取り小堀流”を堂々と披露したのでした。
 時の名人は大山康晴でした。1952年度の初頭に、大山が木村義雄を破って名人位の座に就きました。木村義雄はそれをもって現役棋士を引退。
 その大山康晴新名人への挑戦権を争う戦いがA級順位戦リーグです。
 そこで、小堀と戦った1953年2月、その同じ月の28日に、塚田正夫と升田幸三が対戦しました。この年、二人とも好調で白星を重ねていました。 

塚田正夫‐升田幸三 1953年
 なんと、升田幸三、「4二玉」。 “小堀流”です!!!
 そして、塚田正夫の対策は「7七金」。


 この続きは、次回に。




 小堀流4二玉戦法の記事
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  『横歩取り小堀流4二玉戦法の誕生
  『小堀流、名人戦に登場!
  『「将棋の虫」と呼ばれた男
  『その後の“小堀流”と、それから村山聖伝説
 中川流4二玉戦法の記事
  『横歩を取らない男、羽生善治 4
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2 コメント

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いつも楽しく拝見してます! (新宿の殺し屋)
2013-01-07 04:45:00
森流中飛車、もしかしたらこれからブームが来るのかも( ゜∀゜)ο
返信する
ありがとうございます! (handoroya)
2013-01-07 23:42:52
新年から気持ちの良いコメントをいただきました。

将棋の流行ってふしぎです。10年前にはあれほど四間飛車が流行っていたのに!
返信する

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