≪最終一番勝負 第56譜 指始図≫ 7七同歩成まで
[鏡の国のケーキの扱いかた]
アリスは小川の土手にすわりこんで、大きな皿を膝にのせ、ナイフでせっせと切りわけているところだったけれど、ライオンにこたえるかわりに、「ああ、じれったい!」とひとこと(怪物よばわりされるのはもう慣れっこだ)、「切ることは切ったんだけど、すぐまたくっついちゃうの」
「鏡の国のケーキの扱いかたを知らないからさ」とユイニコーン、「はじめに配ってまわって、あとから切るんだ」
ばかばかしい、とは思ったものの、アリスに素直に立ちあがって、お皿をもってまわったんだね。するとケーキはそのひまにちゃんと三切れにわかれてくれた。「さあ、こんどは切るんだ」空のお皿をもって席にもどると、ライオンがそういうんだ。
(『鏡の国のアリス』 ルイス・キャロル著 矢川澄子訳 新潮文庫 より)
鏡の国では、何かが一部、逆向きだ。ケーキを切るときも、「初めに配って、あとから切る」のが正しいやりかたになる。
<第56譜 吉祥A図を攻略せよ2>
「吉祥A図」について徹底調査をしている。
吉祥A図
【1】3三歩成 → 後手良し
【2】3三香 → 後手良し
【3】8九香 → 先手良し
【4】2五香 → 互角(形勢不明)
【5】5四歩 → 先手良し
【6】2六香 → 先手良し
【7】2六飛 → 先手良し
【8】2五飛 → 先手良し
【9】3七桂
【10】3八香
今回の研究調査は、【9】3七桂、そして【10】3八香の手について。
[研究調査 【9】3七桂]
3七桂図
【9】3七桂 はどうだろうか。
この桂跳ねは先手の有効手なのは間違いないが、速度的に間に合うかどうか。この手の良いところは、「香」と「飛」の使う場所を保留しているので、相手の次の手を見てその使い方を選択できるということ。
後手の指す手が問題である。候補手は次の通り。
(い)7五桂、(ろ)6六銀、(は)7六歩、(に)5六銀、(ほ)9五歩、(へ)3一銀、(と)4四銀引、(ち)4四銀上
研究3七桂図01
(い)7五桂(図)と打つ手は、後手有力な手段。しかしこの図は、2手前の「6七と図」からの7五桂からの変化と合流しており、すでに調査結果が出ている。「先手良し」である。(第42譜)
(い)7五桂 には9八金と受ける。
そこで後手が何を指すか。
7六桂なら8九香と受けて、次に8五歩をねらう。
6六銀には2六飛と打ち、以下6二金、3三香、同桂、同歩成、同銀、6六飛以下、先手やや良し。
4六銀も有力だが、4五桂以下、これも先手良しと結論が出た。
どの変化もきわどいが、いずれも先手良しになるのである。
ここでは9五歩の変化を追っておく。9五歩、7八歩、9六歩、同玉、9五歩、9七玉、7六歩、2六香(次の図)
研究3七桂図02
後手は桂馬を使ってしまったので、次の先手2五飛に対する受けを工夫しなければいけない。6二金も考えられるところだが、それは3三歩成、同桂、3四歩、3一玉、1一飛、2二玉、8四馬で、先手良し(この変化も後手に桂があれば、1一飛に2一桂と受けられた)
もう一つの受けがこの図で3一銀だ。以下、2五飛に、1一玉と逃げる(2三飛成なら2二歩で後手良し)
そこで先手は、3三歩成、同桂、5五飛とする。以下、4二金、6三角成、6二銀右、8五歩(次の図)
研究3七桂図03
こう進んで、これは先手優勢。先手は桂馬があれば3五桂(1五桂)と打って、それで後手の受けが難しい。よってここで8五歩(図)として、6三銀、8四歩となれば、桂馬が手に入りそうだ。
以下8七桂成、同金、同と、同玉と進み後手の手番だが、5一竜もあるし、3五桂をねらって先手勝勢である。
研究3七桂図04
(ろ)6六銀(図)には、3三香が炸裂する(次の図)
研究3七桂図05
同桂と取るのは、同歩成、同玉(同銀は5二角成)、2五桂打で、先手勝ち。
よって、3一銀と受けるが、それには8四馬がある(次の図)
研究3七桂図06
金を取って、同銀(同歩)なら、3二香成以下、後手玉詰み。
よって、4二金とするが、そこで6六馬と銀を取ることができるので、この図は「先手勝ち」がはっきりしている図である。後手の6六銀の一手を逆用する変化になっている。
研究3七桂図07
(は)7六歩(図)は、次に7五桂、9八金、6六銀とすれば、先手玉に詰めろが掛かるというねらいだ。
先手は、ここでも、3三香と打ってどうか(次の図)
研究3七桂図08
以下3一銀に、8四馬。取れば3二香成以下後手玉詰みだが、4二金と受けてどうなるのか(次の図)
研究3七桂図09
先ほどは6六銀と出ていたのでここで6六馬がピッタリだったが、この場合はその手がないので、取るなら7三馬だが、それだと4一金で、これは先手おもしろくない変化になる。角を渡すと7九角があるので8九金のように受けることになるが、そうなると後手ペースの将棋である。
そうするとこの図は先手がまずいように一見思われるが、そうではなかった。
ここで3二香成、同銀、5一竜が好手順だ(次の図)
研究3七桂図10
これで後手の指す手がないのである。というのは、4一金でも4一銀でも、3三金以下、後手玉が詰んでしまうからだ(たとえば4一銀なら、3三金、同金、同歩成、同玉、3四歩以下)
もちろん放置しても3二角成から詰んでしまうし、4四歩(4五の地点を受け4三のスペースをつくった)としても、3二角成、同玉、2二飛、同玉、3一銀以下、詰みがある。
この図は、先手勝ち。
研究3七桂図11
そこで、(に)5六銀(図)が工夫した手となる。この手は「4五」に利かせたのがポイントで、先手のねらいの3三香に対応した手なのである。これまでと同じように3三香なら、3一銀と引いて、この場合は後手有望の図になる(8四馬と金を取っても後手玉が詰めろになっていないからだ)
5六銀は、6七銀不成~7八銀不成という使い方で攻めに使う狙い筋もある。
さて、この (に)5六銀 に、先手はどうしたらよいだろう?
研究3七桂図12
7八歩(図)と打つ。後手は「7七」がこのと金のベストポジションなので7六歩と受ける。
そこで3三歩成、同銀、2五桂と桂馬を活用して攻める。銀を逃げると3九香で先手勝勢になる。
なので後手は7五桂とし、先手は8九香と受けて次の図となる(この場合は9八金は4二金で後手良しになる)
研究3七桂図13
持駒に「金」を残す方が後手玉に迫りやすいので香で受けた。
後手は6七銀不成。次に7八銀不成が詰めろになる。
以下、3三桂成、同玉、3八飛、3四桂、4五銀、4二玉、5二角成、同玉、7七歩(次の図)
研究3七桂図14
7七歩(図)が正確な対応。
攻めるなら5四歩だが、ここでそれを指すと、8七桂成、同香、7九角で先手玉が詰まされてしまう。
ここで7七同歩成なら、先手の3八の飛車の“横利き”があるので、先手の玉が詰めろになっていないという仕組みだ。なので今度は5四歩で先手が勝てる。
ここで6二銀右のように受けにまわっても、5四歩、4二銀、7二金で、先手勝ち。
研究3七桂図15
(ほ)9五歩(図)は、「端玉には端歩を突け」のセオリー通りの手で、有力手である。この手は先手の3三香を防いでもいる。3三香なら、9六歩、9八玉、3三桂、同歩成、同銀で、次に9七香が“詰めろ”になっており、後手勝ちになる。
それなら、9五同歩はどうか。しかしそれは、9五同金、9六歩に、8四銀がある。以下8二馬は、8六金、同玉、7六と、9七玉、8五桂以下、先手玉が寄ってしまう。
では、どうするか。
ここは2六香と打っておく。6六銀のような手なら、5二角成(同歩は3三金以下詰み)で先手優勢。6二金は3三歩成(同銀に8五歩)で、これも先手優勢。
ここでまず 7五桂 が後手の有力手。
7五桂、9八金、9六歩、同玉、9五歩、9七玉、3一銀、2五飛(次の図)
研究3七桂図16
1一玉、3三歩成、同桂、5五飛、4二金、8五角成(次の図)
研究3七桂図17
これで、先手優勢。
以下6二銀左(5一竜を防いだ)に、7五飛がある。同金、同馬左、8四銀、3五桂(次の図)
研究3七桂図18
3五桂は“詰めろ”だが、8五銀でその詰めろは消える。
8五銀に、2三桂不成、2二玉、1一銀、2一玉、3一桂成、同玉、2二香成、4一玉、8五馬、6三歩、6一竜、5二金、5三銀(次の図)
研究3七桂図19
これで後手玉は“必至”になった。7九角には、8八銀の受けがある。
先手勝ち。
研究3七桂図20
戻って、2六香に、3一桂 とした場合。桂馬を7五桂 と打って後手に勝ちがないなら、3一桂 と受けてどうか、という手。
これには1五歩として、1筋の攻めを狙うのが着実な攻め方。後手が桂馬を受けに投入したので先手玉を攻める速い攻めがない。
以下6六銀に、1四歩、同歩、1三歩(同香なら1二歩)、同桂、1四香。
ここで7五銀のような手なら、8四馬と金を取って、後手玉は3三金以下の“詰めろ”になる。
なので後手は4四銀とその筋を消すが、先手は1三香成と決めにいく(次の図)
研究3七桂図21
1三同玉なら、3二角成で先手勝ち(9六歩には9八玉で先手玉に詰みなし)
したがって1三同香とする。
その手には8四馬がやはりここでも決め手になる。同銀に、2三香成、同玉、3二角成、同玉、2四桂(次の図)
研究3七桂図22
後手玉は“詰み”。 2三玉に、2二金、同玉、2一飛、同玉、1二金まで。
研究3七桂図23
(へ)3一銀(図)。
攻める手に勝てる手がないのであれば、3一銀と受けてどうか。次に6二銀右と引いて4二金とすれば、角が捕獲できる。
これには、2五香と打つのが良さそうだ。
ここで後手は7五桂と打つ。先手は9八金(次の図)
研究3七桂図24
9八金と受けさせて、そこで 9五歩 という手がある。
しかしそれには2六飛が先手の予定。以下9六歩、同玉、9五歩、9七玉、1一玉に、3三歩成、同桂、2三香成といく(成でいくのが正着)
以下2二歩に、8四馬(次の図)
研究3七桂図25
2一金以下の“詰めろ”。
先手勝ち(この攻めを成立させるために、香車を「2五」に打ったわけだ)
研究3七桂図26
というわけで、後手は 9五歩 ではなく、4二金(図)とする。
以下6三角成、6二銀右、4五馬、4四銀上(4四銀引なら4六馬として2三香成を狙う)、8九馬、7八歩、7二飛(次の図)
研究3七桂図27
6九金、8四馬、7九金、同馬、同歩成、7五馬、7八と引、1五桂(次の図)
研究3七桂図28
桂馬を取って1五桂と打つのが有効手になる。これで先手勝勢。
研究3七桂図29
(と)4四銀引(図)と銀を引いて守った場合。
これには、2五香と打つ(次の図)
研究3七桂図30
2六香と打つと、後手3五銀のような手も生じるので、この場合は「2五」に打つ方が後手は困る。
このままなら、5二角成、同歩、2三香成で先手の攻めが決まるので、後手はそれに対応しなければならない。しかし5五の銀を受けに使ったので、持駒の桂馬は攻めに使いたい。
候補手は〈A〉6二金。
それには、5二歩(次の図)
研究3七桂図31
5二歩(図)に、6一歩と受けるのは、この場合は、5一歩成、同銀、2三香成、同玉、3一飛があり、こうなれば先手勝ちが決まる。
ということで、後手はもう非常手段に出るしかない。7五桂、9八金と金を受けさせて、2四歩と突く。同香なら2三歩で強引に香車を入手して9五歩から攻めようという狙いである。
2四歩に、先手は5一歩成。
対して後手はそこで9五歩(次の図)
研究3七桂図32
対して、先手は8五歩(9五同歩でも先手良し)
以下、2五歩、8四歩、同銀、同馬、同歩、8六玉、7三金、8二竜(詰めろ)、7二歩、2四飛、2三香、3二角成、同玉、4一銀、2二玉、3二金、1一玉、7三竜(次の図)
研究3七桂図33
先手勝ち。
研究3七桂図34
戻って、2五香に、〈B〉3一銀の場合。
この場合は、2六飛と打って、先手が良い。1一玉は2三香不成、2二歩、3二角成で先手勝ちだし、2四桂と受けるのも、同香、同歩、1五桂で先手勝ち。
なので後手は1一桂しかない。
そこで3三歩成、同銀(同桂もあるが2三香成、同桂、3四金、2五歩、同桂以下やはり先手良し)に、5二角成が決め手(次の図)
研究3七桂図35
5二同歩、2三香成、同桂、同飛成、1一玉、1二竜、同玉、2三金、同玉、3五桂(次の図)
研究3七桂図36
後手玉“詰み”
研究3七桂図37
8つ目の候補手は、(ち)4四銀上(図)
(と)4四銀引と違って、5五の銀を攻撃に使える形。その分、敵陣は弱体化している。
この手には4五歩が合理的(次の図)
研究3七桂図38
対して後手の応手は3通りある。[x]3五銀、[y]5三銀引、[z]7五桂の3つ。
まず[x]3五銀は、7八歩、7六歩、5四香がピッタリの攻めになる(ただし「7八歩、7六歩」を入れずに5四香は7五桂、9八金、7六桂で後手ペースになる)
研究3七桂図39
以下7五桂、9八金、6二金、5一香成とする。
以下7八となら次に5二成香で先手が勝てる。また9五歩には8五歩として金を追う。先手良し。
研究3七桂図40
[y]5三銀引(図)の場合。後手は5三に銀を戻って、先手は4五歩のために一歩を使ったが、“手得”をした。
ここで3三歩成とするのが早い攻め。同銀に、2五桂と跳ねる。以下7五桂、3三桂成、同玉、8九香(図)
研究3七桂図41
この場合、「香」で受けるほうが良い。「飛金銀」と手に持っているほうが後手玉を寄せやすいからだ。
7六桂なら、3七飛と打って、3四桂、7七飛で、後手は対応に困っている。
またここで9五歩なら、3一銀と打つ。これで後手玉は寄せられる。次に3八飛と打って、3四桂に2五銀で受けがなくなる。なので3一銀には4二銀が最善と思われる応手だが、4二銀に、3八飛、3四桂、8四馬がある。同銀なら、3二角成、同玉、3四飛以下“詰み”。なので8四馬に3一銀とすることになるが、7五馬で、先手玉は安全になり、先手勝勢である。
研究3七桂図42
4五歩に、[z]7五桂(図)
この手は、先手が何で受けるかをみて、それから3五銀とするか5三銀とするかを決めようという意味である。
ここは9八金と、金で受ける。
そこで 3五銀 は、7八歩、7六歩、5四香で上の変化に合流して先手良し。
なので 5三銀引 とする。
「金」を手持ちにしていた上の変化では3三歩成、同銀、2五桂と攻めて行ったが、この場合はその攻めはうまくいかない。
ここでは2六香と打つのがよい(次の図)
研究3七桂図43
次に5二角成の寄せがあるので、6二金とするが、5二歩で先手良し。
そこで〈1〉6六銀は5一歩成、7六歩が先手玉への“詰めろ”になっているが、7八歩と受けておいて大丈夫。同となら2五飛で先手勝ちだし、3一銀(2五飛に1一玉、2三飛成、2二歩の受けを用意した)は、3三歩成、同桂、5二とで先手の攻めのほうが早い(次の5三とが詰めろになる)
5二歩に〈2〉6一歩なら、5一歩成、同銀、2三香成、同玉に―――(次の図)
研究3七桂図44
3一飛(図)があって、先手勝勢になる。
8七と、同金、同桂成、同玉、2二金は、1五桂、2四玉、8四馬で。
2四玉は、2一飛成、2三歩、4七桂で“寄り”
3七桂図(再掲)
これで結論が出た。 【9】3七桂 は、先手良し。
[研究調査 【10】3八香]
3八香図
【10】3八香 と打つ手は考えてみたい手だ。しかし―――
ここで後手が7五桂と打てば、この2手前の「6七と図」で3八香と打った変化に合流している。つまりすでに研究済みで、その結果は「後手良し」と出ているのである。
以下、その主な変化を記しておく。
7五桂、3三歩成、同銀(次の図)
3三同銀(図)と取るのが良い手で、これで後手良しになる。
対して9八金では、4二金、6三角成、6二銀右、4五馬、4四銀引、4六馬、7六桂で、後手良し。
なので、3三同香成、同玉、3七飛という順に進む。以下、3四香、7七飛、7六歩(次の図)
5七飛は6六銀以下後手良し。
よって、7九飛。
そこで5八金なら3五歩の好手があって、先手良し(3五同香、5二角成、同歩、4五金となれば先手勝ち)
6七歩とする変化も、調査の結果は、きわどく先手良しになった。
しかし、6九金があった(次の図)
6九金(図)が妙手。同飛に、7七歩成、9八金。
そこで6二銀左がまた好手。次に4二金(角取り)を狙いにする。5九飛なら4二金で後手が良い(6二銀左に代えて4二玉とするのは2二金、4一玉、8四馬できわどく先手良しになる)
6二銀左に対しても、3五歩がある(次の図)
3五同香なら、3一銀と打って、先手良し(3五歩、同香を入れずに3一銀は4二金で後手良し)
よって、先手3五歩に、4二玉とするのが最善手。以下、5二角成、同玉、5九飛、5六銀(次の図)
こう進んでみると、これは「後手良し」の図になっている。
次に7六角と打たれると先手玉に受けがない。なのでこの図では6六金が考えられるが、それも8七角と打たれると先手勝てない。
だからこの図では、7八歩が最善と思われるが、それも、8七と、同金、同桂成、同玉、7六角以下、やはり先手玉は寄せられてしまう。
以上、【10】3八香 は後手良し、 を確認した。
「吉祥A図」の研究結果は以下の通り。
吉祥A図
【1】3三歩成 → 後手良し
【2】3三香 → 後手良し
【3】8九香 → 先手良し
【4】2五香 → 互角(形勢不明)
【5】5四歩 → 先手良し
【6】2六香 → 先手良し
【7】2六飛 → 先手良し
【8】2五飛 → 先手良し
【9】3七桂 → 先手良し
【10】3八香 → 後手良し
先手の有望手は、まだある。
[鏡の国のケーキの扱いかた]
アリスは小川の土手にすわりこんで、大きな皿を膝にのせ、ナイフでせっせと切りわけているところだったけれど、ライオンにこたえるかわりに、「ああ、じれったい!」とひとこと(怪物よばわりされるのはもう慣れっこだ)、「切ることは切ったんだけど、すぐまたくっついちゃうの」
「鏡の国のケーキの扱いかたを知らないからさ」とユイニコーン、「はじめに配ってまわって、あとから切るんだ」
ばかばかしい、とは思ったものの、アリスに素直に立ちあがって、お皿をもってまわったんだね。するとケーキはそのひまにちゃんと三切れにわかれてくれた。「さあ、こんどは切るんだ」空のお皿をもって席にもどると、ライオンがそういうんだ。
(『鏡の国のアリス』 ルイス・キャロル著 矢川澄子訳 新潮文庫 より)
鏡の国では、何かが一部、逆向きだ。ケーキを切るときも、「初めに配って、あとから切る」のが正しいやりかたになる。
<第56譜 吉祥A図を攻略せよ2>
「吉祥A図」について徹底調査をしている。
吉祥A図
【1】3三歩成 → 後手良し
【2】3三香 → 後手良し
【3】8九香 → 先手良し
【4】2五香 → 互角(形勢不明)
【5】5四歩 → 先手良し
【6】2六香 → 先手良し
【7】2六飛 → 先手良し
【8】2五飛 → 先手良し
【9】3七桂
【10】3八香
今回の研究調査は、【9】3七桂、そして【10】3八香の手について。
[研究調査 【9】3七桂]
3七桂図
【9】3七桂 はどうだろうか。
この桂跳ねは先手の有効手なのは間違いないが、速度的に間に合うかどうか。この手の良いところは、「香」と「飛」の使う場所を保留しているので、相手の次の手を見てその使い方を選択できるということ。
後手の指す手が問題である。候補手は次の通り。
(い)7五桂、(ろ)6六銀、(は)7六歩、(に)5六銀、(ほ)9五歩、(へ)3一銀、(と)4四銀引、(ち)4四銀上
研究3七桂図01
(い)7五桂(図)と打つ手は、後手有力な手段。しかしこの図は、2手前の「6七と図」からの7五桂からの変化と合流しており、すでに調査結果が出ている。「先手良し」である。(第42譜)
(い)7五桂 には9八金と受ける。
そこで後手が何を指すか。
7六桂なら8九香と受けて、次に8五歩をねらう。
6六銀には2六飛と打ち、以下6二金、3三香、同桂、同歩成、同銀、6六飛以下、先手やや良し。
4六銀も有力だが、4五桂以下、これも先手良しと結論が出た。
どの変化もきわどいが、いずれも先手良しになるのである。
ここでは9五歩の変化を追っておく。9五歩、7八歩、9六歩、同玉、9五歩、9七玉、7六歩、2六香(次の図)
研究3七桂図02
後手は桂馬を使ってしまったので、次の先手2五飛に対する受けを工夫しなければいけない。6二金も考えられるところだが、それは3三歩成、同桂、3四歩、3一玉、1一飛、2二玉、8四馬で、先手良し(この変化も後手に桂があれば、1一飛に2一桂と受けられた)
もう一つの受けがこの図で3一銀だ。以下、2五飛に、1一玉と逃げる(2三飛成なら2二歩で後手良し)
そこで先手は、3三歩成、同桂、5五飛とする。以下、4二金、6三角成、6二銀右、8五歩(次の図)
研究3七桂図03
こう進んで、これは先手優勢。先手は桂馬があれば3五桂(1五桂)と打って、それで後手の受けが難しい。よってここで8五歩(図)として、6三銀、8四歩となれば、桂馬が手に入りそうだ。
以下8七桂成、同金、同と、同玉と進み後手の手番だが、5一竜もあるし、3五桂をねらって先手勝勢である。
研究3七桂図04
(ろ)6六銀(図)には、3三香が炸裂する(次の図)
研究3七桂図05
同桂と取るのは、同歩成、同玉(同銀は5二角成)、2五桂打で、先手勝ち。
よって、3一銀と受けるが、それには8四馬がある(次の図)
研究3七桂図06
金を取って、同銀(同歩)なら、3二香成以下、後手玉詰み。
よって、4二金とするが、そこで6六馬と銀を取ることができるので、この図は「先手勝ち」がはっきりしている図である。後手の6六銀の一手を逆用する変化になっている。
研究3七桂図07
(は)7六歩(図)は、次に7五桂、9八金、6六銀とすれば、先手玉に詰めろが掛かるというねらいだ。
先手は、ここでも、3三香と打ってどうか(次の図)
研究3七桂図08
以下3一銀に、8四馬。取れば3二香成以下後手玉詰みだが、4二金と受けてどうなるのか(次の図)
研究3七桂図09
先ほどは6六銀と出ていたのでここで6六馬がピッタリだったが、この場合はその手がないので、取るなら7三馬だが、それだと4一金で、これは先手おもしろくない変化になる。角を渡すと7九角があるので8九金のように受けることになるが、そうなると後手ペースの将棋である。
そうするとこの図は先手がまずいように一見思われるが、そうではなかった。
ここで3二香成、同銀、5一竜が好手順だ(次の図)
研究3七桂図10
これで後手の指す手がないのである。というのは、4一金でも4一銀でも、3三金以下、後手玉が詰んでしまうからだ(たとえば4一銀なら、3三金、同金、同歩成、同玉、3四歩以下)
もちろん放置しても3二角成から詰んでしまうし、4四歩(4五の地点を受け4三のスペースをつくった)としても、3二角成、同玉、2二飛、同玉、3一銀以下、詰みがある。
この図は、先手勝ち。
研究3七桂図11
そこで、(に)5六銀(図)が工夫した手となる。この手は「4五」に利かせたのがポイントで、先手のねらいの3三香に対応した手なのである。これまでと同じように3三香なら、3一銀と引いて、この場合は後手有望の図になる(8四馬と金を取っても後手玉が詰めろになっていないからだ)
5六銀は、6七銀不成~7八銀不成という使い方で攻めに使う狙い筋もある。
さて、この (に)5六銀 に、先手はどうしたらよいだろう?
研究3七桂図12
7八歩(図)と打つ。後手は「7七」がこのと金のベストポジションなので7六歩と受ける。
そこで3三歩成、同銀、2五桂と桂馬を活用して攻める。銀を逃げると3九香で先手勝勢になる。
なので後手は7五桂とし、先手は8九香と受けて次の図となる(この場合は9八金は4二金で後手良しになる)
研究3七桂図13
持駒に「金」を残す方が後手玉に迫りやすいので香で受けた。
後手は6七銀不成。次に7八銀不成が詰めろになる。
以下、3三桂成、同玉、3八飛、3四桂、4五銀、4二玉、5二角成、同玉、7七歩(次の図)
研究3七桂図14
7七歩(図)が正確な対応。
攻めるなら5四歩だが、ここでそれを指すと、8七桂成、同香、7九角で先手玉が詰まされてしまう。
ここで7七同歩成なら、先手の3八の飛車の“横利き”があるので、先手の玉が詰めろになっていないという仕組みだ。なので今度は5四歩で先手が勝てる。
ここで6二銀右のように受けにまわっても、5四歩、4二銀、7二金で、先手勝ち。
研究3七桂図15
(ほ)9五歩(図)は、「端玉には端歩を突け」のセオリー通りの手で、有力手である。この手は先手の3三香を防いでもいる。3三香なら、9六歩、9八玉、3三桂、同歩成、同銀で、次に9七香が“詰めろ”になっており、後手勝ちになる。
それなら、9五同歩はどうか。しかしそれは、9五同金、9六歩に、8四銀がある。以下8二馬は、8六金、同玉、7六と、9七玉、8五桂以下、先手玉が寄ってしまう。
では、どうするか。
ここは2六香と打っておく。6六銀のような手なら、5二角成(同歩は3三金以下詰み)で先手優勢。6二金は3三歩成(同銀に8五歩)で、これも先手優勢。
ここでまず 7五桂 が後手の有力手。
7五桂、9八金、9六歩、同玉、9五歩、9七玉、3一銀、2五飛(次の図)
研究3七桂図16
1一玉、3三歩成、同桂、5五飛、4二金、8五角成(次の図)
研究3七桂図17
これで、先手優勢。
以下6二銀左(5一竜を防いだ)に、7五飛がある。同金、同馬左、8四銀、3五桂(次の図)
研究3七桂図18
3五桂は“詰めろ”だが、8五銀でその詰めろは消える。
8五銀に、2三桂不成、2二玉、1一銀、2一玉、3一桂成、同玉、2二香成、4一玉、8五馬、6三歩、6一竜、5二金、5三銀(次の図)
研究3七桂図19
これで後手玉は“必至”になった。7九角には、8八銀の受けがある。
先手勝ち。
研究3七桂図20
戻って、2六香に、3一桂 とした場合。桂馬を7五桂 と打って後手に勝ちがないなら、3一桂 と受けてどうか、という手。
これには1五歩として、1筋の攻めを狙うのが着実な攻め方。後手が桂馬を受けに投入したので先手玉を攻める速い攻めがない。
以下6六銀に、1四歩、同歩、1三歩(同香なら1二歩)、同桂、1四香。
ここで7五銀のような手なら、8四馬と金を取って、後手玉は3三金以下の“詰めろ”になる。
なので後手は4四銀とその筋を消すが、先手は1三香成と決めにいく(次の図)
研究3七桂図21
1三同玉なら、3二角成で先手勝ち(9六歩には9八玉で先手玉に詰みなし)
したがって1三同香とする。
その手には8四馬がやはりここでも決め手になる。同銀に、2三香成、同玉、3二角成、同玉、2四桂(次の図)
研究3七桂図22
後手玉は“詰み”。 2三玉に、2二金、同玉、2一飛、同玉、1二金まで。
研究3七桂図23
(へ)3一銀(図)。
攻める手に勝てる手がないのであれば、3一銀と受けてどうか。次に6二銀右と引いて4二金とすれば、角が捕獲できる。
これには、2五香と打つのが良さそうだ。
ここで後手は7五桂と打つ。先手は9八金(次の図)
研究3七桂図24
9八金と受けさせて、そこで 9五歩 という手がある。
しかしそれには2六飛が先手の予定。以下9六歩、同玉、9五歩、9七玉、1一玉に、3三歩成、同桂、2三香成といく(成でいくのが正着)
以下2二歩に、8四馬(次の図)
研究3七桂図25
2一金以下の“詰めろ”。
先手勝ち(この攻めを成立させるために、香車を「2五」に打ったわけだ)
研究3七桂図26
というわけで、後手は 9五歩 ではなく、4二金(図)とする。
以下6三角成、6二銀右、4五馬、4四銀上(4四銀引なら4六馬として2三香成を狙う)、8九馬、7八歩、7二飛(次の図)
研究3七桂図27
6九金、8四馬、7九金、同馬、同歩成、7五馬、7八と引、1五桂(次の図)
研究3七桂図28
桂馬を取って1五桂と打つのが有効手になる。これで先手勝勢。
研究3七桂図29
(と)4四銀引(図)と銀を引いて守った場合。
これには、2五香と打つ(次の図)
研究3七桂図30
2六香と打つと、後手3五銀のような手も生じるので、この場合は「2五」に打つ方が後手は困る。
このままなら、5二角成、同歩、2三香成で先手の攻めが決まるので、後手はそれに対応しなければならない。しかし5五の銀を受けに使ったので、持駒の桂馬は攻めに使いたい。
候補手は〈A〉6二金。
それには、5二歩(次の図)
研究3七桂図31
5二歩(図)に、6一歩と受けるのは、この場合は、5一歩成、同銀、2三香成、同玉、3一飛があり、こうなれば先手勝ちが決まる。
ということで、後手はもう非常手段に出るしかない。7五桂、9八金と金を受けさせて、2四歩と突く。同香なら2三歩で強引に香車を入手して9五歩から攻めようという狙いである。
2四歩に、先手は5一歩成。
対して後手はそこで9五歩(次の図)
研究3七桂図32
対して、先手は8五歩(9五同歩でも先手良し)
以下、2五歩、8四歩、同銀、同馬、同歩、8六玉、7三金、8二竜(詰めろ)、7二歩、2四飛、2三香、3二角成、同玉、4一銀、2二玉、3二金、1一玉、7三竜(次の図)
研究3七桂図33
先手勝ち。
研究3七桂図34
戻って、2五香に、〈B〉3一銀の場合。
この場合は、2六飛と打って、先手が良い。1一玉は2三香不成、2二歩、3二角成で先手勝ちだし、2四桂と受けるのも、同香、同歩、1五桂で先手勝ち。
なので後手は1一桂しかない。
そこで3三歩成、同銀(同桂もあるが2三香成、同桂、3四金、2五歩、同桂以下やはり先手良し)に、5二角成が決め手(次の図)
研究3七桂図35
5二同歩、2三香成、同桂、同飛成、1一玉、1二竜、同玉、2三金、同玉、3五桂(次の図)
研究3七桂図36
後手玉“詰み”
研究3七桂図37
8つ目の候補手は、(ち)4四銀上(図)
(と)4四銀引と違って、5五の銀を攻撃に使える形。その分、敵陣は弱体化している。
この手には4五歩が合理的(次の図)
研究3七桂図38
対して後手の応手は3通りある。[x]3五銀、[y]5三銀引、[z]7五桂の3つ。
まず[x]3五銀は、7八歩、7六歩、5四香がピッタリの攻めになる(ただし「7八歩、7六歩」を入れずに5四香は7五桂、9八金、7六桂で後手ペースになる)
研究3七桂図39
以下7五桂、9八金、6二金、5一香成とする。
以下7八となら次に5二成香で先手が勝てる。また9五歩には8五歩として金を追う。先手良し。
研究3七桂図40
[y]5三銀引(図)の場合。後手は5三に銀を戻って、先手は4五歩のために一歩を使ったが、“手得”をした。
ここで3三歩成とするのが早い攻め。同銀に、2五桂と跳ねる。以下7五桂、3三桂成、同玉、8九香(図)
研究3七桂図41
この場合、「香」で受けるほうが良い。「飛金銀」と手に持っているほうが後手玉を寄せやすいからだ。
7六桂なら、3七飛と打って、3四桂、7七飛で、後手は対応に困っている。
またここで9五歩なら、3一銀と打つ。これで後手玉は寄せられる。次に3八飛と打って、3四桂に2五銀で受けがなくなる。なので3一銀には4二銀が最善と思われる応手だが、4二銀に、3八飛、3四桂、8四馬がある。同銀なら、3二角成、同玉、3四飛以下“詰み”。なので8四馬に3一銀とすることになるが、7五馬で、先手玉は安全になり、先手勝勢である。
研究3七桂図42
4五歩に、[z]7五桂(図)
この手は、先手が何で受けるかをみて、それから3五銀とするか5三銀とするかを決めようという意味である。
ここは9八金と、金で受ける。
そこで 3五銀 は、7八歩、7六歩、5四香で上の変化に合流して先手良し。
なので 5三銀引 とする。
「金」を手持ちにしていた上の変化では3三歩成、同銀、2五桂と攻めて行ったが、この場合はその攻めはうまくいかない。
ここでは2六香と打つのがよい(次の図)
研究3七桂図43
次に5二角成の寄せがあるので、6二金とするが、5二歩で先手良し。
そこで〈1〉6六銀は5一歩成、7六歩が先手玉への“詰めろ”になっているが、7八歩と受けておいて大丈夫。同となら2五飛で先手勝ちだし、3一銀(2五飛に1一玉、2三飛成、2二歩の受けを用意した)は、3三歩成、同桂、5二とで先手の攻めのほうが早い(次の5三とが詰めろになる)
5二歩に〈2〉6一歩なら、5一歩成、同銀、2三香成、同玉に―――(次の図)
研究3七桂図44
3一飛(図)があって、先手勝勢になる。
8七と、同金、同桂成、同玉、2二金は、1五桂、2四玉、8四馬で。
2四玉は、2一飛成、2三歩、4七桂で“寄り”
3七桂図(再掲)
これで結論が出た。 【9】3七桂 は、先手良し。
[研究調査 【10】3八香]
3八香図
【10】3八香 と打つ手は考えてみたい手だ。しかし―――
ここで後手が7五桂と打てば、この2手前の「6七と図」で3八香と打った変化に合流している。つまりすでに研究済みで、その結果は「後手良し」と出ているのである。
以下、その主な変化を記しておく。
7五桂、3三歩成、同銀(次の図)
3三同銀(図)と取るのが良い手で、これで後手良しになる。
対して9八金では、4二金、6三角成、6二銀右、4五馬、4四銀引、4六馬、7六桂で、後手良し。
なので、3三同香成、同玉、3七飛という順に進む。以下、3四香、7七飛、7六歩(次の図)
5七飛は6六銀以下後手良し。
よって、7九飛。
そこで5八金なら3五歩の好手があって、先手良し(3五同香、5二角成、同歩、4五金となれば先手勝ち)
6七歩とする変化も、調査の結果は、きわどく先手良しになった。
しかし、6九金があった(次の図)
6九金(図)が妙手。同飛に、7七歩成、9八金。
そこで6二銀左がまた好手。次に4二金(角取り)を狙いにする。5九飛なら4二金で後手が良い(6二銀左に代えて4二玉とするのは2二金、4一玉、8四馬できわどく先手良しになる)
6二銀左に対しても、3五歩がある(次の図)
3五同香なら、3一銀と打って、先手良し(3五歩、同香を入れずに3一銀は4二金で後手良し)
よって、先手3五歩に、4二玉とするのが最善手。以下、5二角成、同玉、5九飛、5六銀(次の図)
こう進んでみると、これは「後手良し」の図になっている。
次に7六角と打たれると先手玉に受けがない。なのでこの図では6六金が考えられるが、それも8七角と打たれると先手勝てない。
だからこの図では、7八歩が最善と思われるが、それも、8七と、同金、同桂成、同玉、7六角以下、やはり先手玉は寄せられてしまう。
以上、【10】3八香 は後手良し、 を確認した。
「吉祥A図」の研究結果は以下の通り。
吉祥A図
【1】3三歩成 → 後手良し
【2】3三香 → 後手良し
【3】8九香 → 先手良し
【4】2五香 → 互角(形勢不明)
【5】5四歩 → 先手良し
【6】2六香 → 先手良し
【7】2六飛 → 先手良し
【8】2五飛 → 先手良し
【9】3七桂 → 先手良し
【10】3八香 → 後手良し
先手の有望手は、まだある。
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